その日以来、前に比べて俺はメグルさんを信頼するようになっていた。
同年代という事もあるだろうけど。
親父やG君とは違う、もっと親しい信頼を。
けれども、時間の経過は知らない間に進む。
俺は、いつのまにか小学生から中学生になっていた。
それまでずっと春休みだったという理由もあったが、段々、
俺とメグルさん、二人揃って裏球に行く事は少なくなっていった。

− 正直・・・

隣に彼女が居ない事が、こんなに寂しいだなんて思いもしなかった。
独りで行く裏球が、いつも以上に広く思える・・・。
どれ位、そんな日が続いただろうか。
裏球へ赴く本来の目的を半ば忘れかけていた頃。
俺は"神竜石"の言葉を耳にした。
言葉の出所は意外な事にRI−ON社内・・・。
聞いた瞬間、俺はその事について話していたエージェントを捕まえ、
事の次第を詳しく聞いた。
「ねぇ、あんたらっ・・・神竜石って何っ?見つかったのっ?」
「え・・・いや、見つかった。と言うか、結局は違う物だったらしいですけど・・・」
「誰が見つけたの・・・それ・・・」
答えなんて容易に想像できたが、確認の為訊ねてみる。
「ほら、あの坊ちゃんといつも一緒に居た黒髪の女の子・・・」
「やっぱり・・・・」
不意に、口から漏れた独り言。
最近見ないと思ったら・・・。一人でそこまでイベント進めちゃってた訳・・・。
流石に少し悔しくなる。
「けど、その子しばらく裏球に行ったまま帰ってこないらしくって・・・」
「え・・・?」
「あぁ、何でも、任務の途中、大怪我したとか・・・」
その時ばかりは、自分の耳を疑った。
今確かに、メグルさんが事故ったって・・・。
「それ、ほんとの話・・・・・!?」
「え・・・えぇ・・・・・」
「・・・助けに、行かないのかよ・・・」
「・・・。社長の、判断だそうですから・・・」
その一言に、俺は社長室、親父の元へと走った。

「親父、居るっ!!?」
扉を開けるなり、親父を呼ぶ。
大きく開け放たれたドアの先に、親父は居た。
親父は、突然入ってきた俺に少し驚き、そして静かに口を開いた。
「・・・。何の用だ、航平。」
「・・・・・メグルさん、事故ったんでしょ・・・。」
乱れる呼吸を努めて落ち着け、ゆっくりと訊ねる。
「・・・何で、助けに行かないの・・・?」
その質問に対して、しばらく沈黙が続く。
が、やがて、向うが口を開いた。
「あの娘は二度も失敗を犯した。RI−ONにそんな人材は不必要だ。
ここには失敗を犯した者の居場所など無い。判るだろう。」
RI−ONの掟。
それはここに来る時に嫌という程叩き込まれた。
「そりゃ知ってるけど・・・。でも・・・俺、行くよ・・・・・!」
「航平。」
部屋を出ようとした矢先、呼び止められる。
「お前がどうしようと、別れた道は交わらない。
・・・・・それは、逆らいようの無い、決められた事だ。」
「・・・・・」
さっぱり、わかんねぇよ。
そう呟くと、俺は部屋を出ていった。

転送室のゲートの前で、俺はエージェントGを探す。
ゲートを開くには彼の許可が必要だ。
「どうしたんだ?航平・・・」
「Gさんっ!!」
探し人が見つかるのと同時に、本人に飛びつく。
「ゲート開いて、今すぐ!!」
「ど・・・どうしたんだ一体・・・そんなに慌てて・・・。」
「メグルさんの所に行く。」
その一言に、彼の表情が変わる。
「・・・何。やっぱりあんたも知ってたのかよ・・・。エージェントG・・・!」
みんなして、黙ってたって訳・・・。むかつく・・・。
「・・・私は、お前に行って欲しくない。だから・・・黙っていたんだ。」
低い声でぽそりと呟く。
「お前が行ったら・・・。きっと、お前は傷つく。
私は、そんなお前が見たくない・・・。判ってくれ、航平・・・」
そう言って悲願する彼の様子に少し戸惑う。
「・・・。Gさんの理由がどうあれ、俺は行くよ、裏球。」
「航平・・・!」
「だって・・・約束したんだ。・・・メグルさんと・・・」
次は、俺が守るって。
何かあったら、俺が守るって、約束したのに・・・。
「だから、ゲート開いて・・・。」
頑なに、意志を曲げない俺の様子に、彼は一瞬、何かを言おうと
口を開いたが、すぐにそのまま奥へと足を運んだ。
しばらくすると、ゲートが開き、Gさんも奥から出てきた。
「・・・。どうしても、行くのか?」
「くどい。それに・・・」
キッ、と彼を睨み付ける。
「俺・・・これでも怒ってるから。」
それだけ吐き捨てると、俺はゲートに飛び込んだ。

愛龍、ライトナイツナイトの上でひたすらパソコンのキーを叩く。
RI-ON特製のこのパソコンなら、多分、メグルさんも見つかるはず・・・。
「・・・。あった・・・。」
"ジゲンジョーカ"への反応。
一つしか無いから、多分これだ。
場所を確認すると、俺は一気にナイトを飛ばした。

やがて。大きな屋敷とその広場が見えてきた。
広場の噴水の所、あそこに居るのは紛れも無くメグルさんだ。
「ナイト。あそこだ。降りるよ・・・。」
静かに指示を出すと、俺の龍はゆっくりと降下しはじめた。
幸いな事に。俺が敷地内に降りるの、誰も見てなかったらしい。
見ていたといえば唯一、メグルさんくらい。
彼女は俺に気づくと、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「・・・戸岐君・・・!!?」
「久しぶり。・・・何か、事故ったんだって・・・?」
「・・・・・えぇ・・・・・。」
事故の様子を思い出してか、彼女はふっと俯いた。
「ごめん。・・・"次は俺が守る"って約束したのに・・・。」
「戸岐君の所為じゃないっ・・・あれは・・・、私の不注意だから・・・。」
違う、と言ってもらい、ほんの少しだけ気が楽になる。
・・・そして。
俺は右手を彼女の前に出した。
「帰ろ。・・・一緒に。」
いつまでもこんなトコに居たって仕方無い。
しかし、意外な事に、メグルさんはその手を取らなかった。
むしろ、半歩、後ずさりした。
「・・・どしたの?メグルさん・・・」
「・・・RI-ONに・・・帰るの・・・・・?」
その一言に、俺は首を傾げた。
「そーだよ。大丈夫だって♪俺から親父にいえば、
失敗の一つや二つ、どーって事・・・・・」
「違うの。私・・・帰りたくない・・・・・っ!!」
首を横に振り、彼女はぎゅっと眼をつむった。
「私、知ってしまったの・・・。あなたのお父さんがしようとしている事!!
自分のしてきた過ちに、気づいてしまったの・・・・・!」
今にも泣きそうな様子で、彼女は訴えた。
「だから私、帰りたくない!ここで裏球を守りたいっ!!」
「えっ・・・」
予想もしなかった一言に、俺は驚きを隠せずにいた。

帰りたくない。
裏球を守りたい。

二つの言葉が耳に残る。
その意味が・・・。
認めたくない、その言葉の意味が。
ゆっくりと・・・頭の中に浮かんだ。
「・・・・・裏切るの・・・・・。」
彼女がしようとしている事は、明らかにRI-ONとは対極だ。
「RI-ONは・・・間違っている・・・。戸岐君だってそれを知ればきっと・・・」
「あぁ、そぉっ。裏切るの!!」
言葉を続ける彼女を大声で遮る。
「メグルさんは・・・あんたはRI-ONを裏切るんだろっ!!
それだけ判れば充分っ、あとは・・・何にも聞きたくねぇよ・・・・・っ!!」
「と、戸岐君!待っ・・・・・」
彼女の言葉を最期まで聞く事もなく、俺はライトナイツナイトに飛び乗る。
「・・・・・・裏切り者っ・・・・・・・・・・!!」
下に居る彼女を見下ろしながら、最期にそう呟くと、
俺は一気に飛び去った。

メグルさんがRI-ONを裏切る事。
それはつまり、彼女が俺を裏切るのと同じ。
信じていたのに・・・・・。
彼女だけは、裏切らないでいてくれると、信じていたのに・・・。
・・・どうせ。
どうせ、裏切られる運命なら・・・・・。
もう、誰も信じない。
最期まで独りで、戦い続けてやる・・・。

"別れた道は交わらない"

メグルさんは裏球の為に、俺は親父の為に。
互いの道は、別れはじめた。
それは・・・逆らいようの無い、決められた事。
親父に言われた事を思い出し、
俺は失った物の大きさを、改めて感じていた。


To be continued.

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後書です。伏兵話が終わりました。前半、あんな良さ気だった仲が
一変、破局。(違)破局じゃないものっ!!(必至)
そんな訳でして。戸岐とメグルの間にはこんなことがあった。と。
想像ですよ。あくまでも想像。さてさて。この話、何だか戸岐の
性格丸い。とか思った方いらっしゃ・・・ってか読んでくれた方が居るか、
ってのがきわどい。(爆)性格丸いのは彼がまだ人を信頼できる子(謎)
だったから。私の予定では、この後の話の戸岐が漫画で見た戸岐・・・
あ〜・・・。訳判らんね。(笑)気になる方は続きを読んでくださいvv(殴)