「いやぁ〜、懐かしいね〜。」
降り立ってからの戸岐君の第一声。
「ここは・・・。」
「覚えてる?メグルさん。」
静かに頷きかえし、辺りを見回す。
ここはまだ私がRI−ONに居た頃、戸岐君とよく来た場所。
彼曰く、"経験値稼ぎ場"
野生の龍相手に実践を繰り返していた場所だ。
「デートにはぴったりの場所じゃない?」
何処か皮肉めいた口調で同意を求められる。
「一体、どうゆうつもりでここに・・・?」
「質問。」
それまで飄々としていた態度が、急に真剣なものになる。
ゆっくりと、彼が口を開いた。
「どうして・・・あんたは、そして、この前戦ったヤコウって奴も
自分を犠牲にしてまで他人を助けようとすんのだよ。そこまでして
何か利益でもあるってゆーの?」
かつて・・・同じこの場所で、同じような事を聞かれた・・・。

− あの時の私は・・・

ただ、無意識に動いていた。
仕留め損ねた野生の龍、それが戸岐君に飛び掛かろうとし、
気づけば私は、彼をかばう為に地を蹴っていた。
「・・・"利益"なんて物の為に動いた訳じゃない。
ただ、助けたい、守りたい・・・。その想いで、私はあの時動いたの・・・。」
「それが判らない。その・・・想いとやらの原動力・・・。
俺にはさっぱり判んない・・・・・。」
溜息交じりに、彼は肩を竦める。
原動力・・・。
少なくとも私は大切な人を守るのに、利益とか、理由とかは関係無い。
その人が居てくれる事が、大切だから。と、考えている。
私にとって、戸岐君は大切な人。
けど、その気持ちは"愛しい"と言う事なのかはあやふやだ。
「教えてよ。・・・その、想いの原動力。」
「・・・・・」
再び、沈黙が流れた。
しかし、彼は私の答えを待っている。
「・・・戸岐君が、大切な人・・・・・だったから・・・。」
嘘でもない。偽りでもない。本当の理由。
「・・・・・。」
彼の表情は変わらない。いや、もしかしたら心情の変化はあるのかもしれないけど・・・。
私には、そこまで判らない。
やがて、戸岐君が口を開いた。
「それは今でも同じ事?」
「えっ?」
余りにも意外な返答。同時に、その質問に私は戸惑った。
彼は確かに大切な人。
でも、それは昔だから言えた事。
今・・・彼は私の敵だ。
「・・・。」
敵でも。大切なのには変わり無い・・・・・。
言うべき答えはもう喉まで来ているのに、それを言葉にする決意が、私には足りない・・・。
「・・・迷う事なの・・・?」
不意に彼がそんな言葉を漏らす。
「何で?俺はメグルさんの敵だよ。大切なはず無いじゃんっ、
あんたが・・・あんたが一言、"嫌い"と言えば、それで済む事なのに!!」

− 嫌い、と言えば・・・・・・ −

確かに。私が一言そう言えば、こんなに迷う事も無いのかも知れない。
けど・・・そんなの、もっと言えない。
それは私の気持ちじゃ無い・・・。
今、この瞬間、確信した。

・・・この迷いが、あなたを大切に想う証・・・・・

「戸岐君っ」
敵も、味方も、そんなの関係無い。
「私は・・・今でもあなたが大切よ。それは・・・昔から変わってないっ・・・。」
答えを出した私に、突然、彼が掴み掛かる。
「どうして・・・そんな答え出すんだよ・・・っ。
何でいつもあんたはそうやって俺を苦しめるんだっ!!」
掴まれた肩に力がこもり、痛みを感じる。
「あんたがそんな事言うから・・・!俺はあんたの事、忘れられねーんじゃんっ!」
怒りと、寂しさの混じった瞳。
私には・・・どうする事も出来ないのだろうか・・・。
肩の痛みはじわじわと強くなる。
「あんたが・・・あんたが居たら・・・俺はっ・・・!!」

− ・・・周りの空気は、突如として静まった。

先刻の事がまるで嘘みたく。
優しく抱き寄せた彼の体。
その腕に、ほんの少しだけ力を込めて、一言呟く。
「・・・ごめんね・・・戸岐君・・・。」
私には、こうする事しか出来ない。
こうして、包んであげる事しか、出来ない・・・・・。
「・・・・・・・・ちっくしょ・・・・・」
小さな、くぐもった声が聞こえた。
「ずっりぃの・・・・。メグルさんはすぐ、そーやって、俺に優しくする・・・。」
その声は、今まで聞いた事の無いくらい、素直な言葉だった。
「・・・。敵同士、な癖に・・・。」
伏せていた顔が上げられ、私を見つめる。
「だって・・・。戸岐君、言ってたじゃない。」
ふっ、と自分の顔が和らぐのを感じた。
「今日だけは敵味方関係無いんでしょ・・・?」

− それは、今日限りの約束。 −

「ん・・・・・」
照れくさそうに視線を外し、軽く頷く。
そして、彼は私の肩に頭を預けると
「あ〜あ。さっき言おうとしてた事、忘れちゃったじゃん・・・。」
すっかりいつもの様子に戻り、そう言った。
お互いにくすり、と笑みを漏らす。
・・・あの気持ちは、何時の間にか"愛しい"に変わっていて、
私はこの刹那の幸せを
ずっと。感じていたかった・・・・・。

「ほ〜い。到着したよ、メグルさん。」
エンスイ家の近くで、私はライトナイツナイトから降り立った。
空は夕日が傾き、代わりに夜の闇が空を染めはじめていた。
「ねぇ、戸岐君。本当に・・・」
「俺はRI−ONを抜けないよ♪」
言いかけた事は例の子悪魔的な笑顔によって遮られる。
「俺には・・・RI−ONでやらなきゃいけない事が有る。
例えあんたの頼みでも、俺はそれを曲げない。」
「どうしても・・・?」
諦めきれず、彼を見上げる。
「・・・どうしても。仕方無いじゃん。お互いそーゆー道を選んだんだから。」
「そう・・・。」
私は一瞬だけ肩を落とし、再び、気を取り直して言った。
「でも、諦めない。あなたが何と言おうと、私は私のやり方で、
あなたを説得して見せる。私には、その義務があるから。」
「・・・。どーぞ。お好きに〜・・・。どうせ無駄だと思うけど?」
飄々とした口調で、彼は言う。
そして、改めて私を見据える。
「今日はデート楽しかったよ。メグルさん。」
「それはどうも。」
自然と笑みがこぼれる。
そんな私の様子を見て、彼は背を向けると
「じゃ、またね。」
まるで、いつもの友達に言うかのように、右手を軽くあげた。
対して、その背中に軽く手を振り返すと、
段々と、名残惜しさが込み上げてくるのを感じた。

明日になったら私とあなたはまた、敵同士。
どんなに私が望んでも、
あなたが望まなければ縮まない距離。
遠いか、近いか。
それは私とあなた次第。
少なくとも、私は一歩、あなたに近づいた。
だから。次は戸岐君の番。
あなたはその距離を縮める?
それとも・・・遠ざかる・・・・・?

"その背を、こんな気持ちで見つめられるのは今日限り"

だから、私は手を伸ばす・・・


To be continued.

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後書です。ははは。(何)矛盾、それは私の為に有るような言葉。
この話は・・・。メグル→戸岐の気持ちのお話ですね。
彼女の方は自分の気持ちには結構早くから決着ついてたと。
んでも、公私混同は致しませんよと。(?)日本語を喋ってください、
霜庵さん。(←文系)
にしても・・・。こんだけ思われてて自説を曲げない航平はどうだろう。
頑なな意志。才蔵さんかぁ・・・。(しみじみ)