今度こそ、追いつめたと思っていた
けれども
そこで俺が見たものは崩れ行く祠と
生命を持った土龍達
その龍達が今まさに祠を飲み込もうとしていた
それは、侵入者に対する攻撃
おそらく、いや・・・確実に、あいつだといえる
「・・・戸岐か・・・・・」
軽く眉間に皺を寄せた瞬間
祠から、黒い翼が現れた
「戸岐っ!!?」
彼─ 大空 レイジ ─の叫ぶ声が聞こえた
・・・先を、越された
神竜石は既に彼の手中に有る
あの祠はもう用済みだ

その時、視線の端に何かが映った

── 結晶・・・・・? ──
「大変っ、祠の中にまだ人が居るって、ゴーラオーが!!」
地を駆けていた雪野さんが俺達を見上げる
そして、俺は意外な人物を目にする事となった
「!!メグルさん・・・・・!?」
先程映った結晶、その中に彼女が居た
「くそっ・・・」
助けなきゃ
ハヤテスラッシュの翼が広がる
彼女めがけて、全速力で・・・
しかし、その動きに気づいたらしい
祠の龍はその牙を俺達に向けた
「ハヤテスラッシュっ!!」
即座に指示を出し、その攻撃をかわす
「くっ・・・近づけない・・・・・・!」
そうこうしている間にも祠はどんどん埋まってゆく
─── メグルさん・・・・・っ ───


「メグルさん」
背を向けて調べ物をする彼女に声をかける
彼女は、少し疲れた様子で振り返った
「・・・純柴君・・・」
「先刻からずっとやってるでしょ、それ・・・」
机の上に散乱する本達を指差し、俺は苦笑する
「頑張るのも良いけど、程々に・ね」
手に持っていたコップを置くと
静かに香茶の湯気が上った
「うん。でも・・・私がやらなくちゃ・・・」
再び彼女は本に向き直る
そんな姿を前にして、俺は軽く溜息を付いた
── 責任感の強い人・・・
もう少し肩の力を抜いたって良いだろうに・・・
手持ちぶさたから、その辺にあった本をぱらぱらとめくる
裏球の歴史、文化、伝統・・・・・
「裏球を守る方法、見つかった?」
「まだ・・・全然・・・・・」
調べ物の手が止まる
「戸岐航平。・・・あいつの所為で・・・」
「そんな事無いっ・・・」
不意に出された意外な言葉に
思わず彼女に視線を向ける
「・・・・・庇うの。あいつの事」
メグルさんは口をつぐんだまま、何も言わない
「敵、でしょ。戸岐は・・・」
「・・・・・・・。」
「あいつを止めないと裏球も地球も大変な事になる。
・・・そう、言ってたじゃないか。メグルさんは。」
他の誰よりも、君が一番知っているはずなのに
「そう・・・だけど。・・・彼は・・・戸岐君は・・・・・っ」
そこまで言って彼女は再び口をつぐむ
「・・・メグルさんは、戸岐の事が好き。だから君は庇うんだ」
少々皮肉がこもった言葉に、彼女は顔を紅らめた

・・・やっぱり。

そう思うのと同時に俺を襲う不快感
その理由が判るから更に気分が悪い
俺は・・・彼女に、メグルさんに・・・惚れてしまっている
最初はLさんに頼まれた "守る" 存在でしかなかったのに
彼女はいつしか、俺にとって特別な存在になっていた
一途で、懸命で、それでいて何処か時折儚い・・・
そんな彼女への想いは、日に日に色濃い物となって行く
「・・・好き・・・というか、大切・・・と言うか・・・
悪いのは、戸岐君だけじゃ無いもの・・・・・っ」
独り、何かを仕舞い込むかのように目を閉じる
「・・・俺はあいつが悪いようにしか見えないけど」
壁に寄りかかり、ぽつりと呟く
それは奴と行動を共にしていたから出てきた言葉であり、
彼女と戸岐の、見えない関係に対する醜い嫉妬
「だから、私は探すの。裏球を守る方法。そして・・・」

彼の、心を開く方法 ───

沈黙の中、確かに彼女はそう言った
「・・・・・。」
メグルさんの中の戸岐の大きさを垣間見た
それはきっと、俺よりも大きい
ただ、君を守るだけの俺よりも・・・・・
「きっと。良い事は起きないよ」
疑問の視線が向けられる
「君が戸岐を追い求めても。・・・君が、苦しむだけだ・・・・・」
俺は、そんな君を見たくない・・・
俺だったら
君を苦しめる事なんか無いのに
ずっと、守り通せる自信が有るのに・・・
「純柴君は・・・優しいのね・・・・・」
優しい、か・・・
「メグルさんを守る、って決めたからね」
俺はただ単に
君の心を奪うものが憎く、そして羨ましいだけ
一人占めにしておきたいという、俺の我侭
「けど・・・まだ諦めたくないの」
彼女の顔が真剣な物となる
「私は、最後の最後まで彼を止めて見せる。
・・・例え、何が起ころうとも・・・・・」
「メグル・・・さん」
何処か影を落とした瞳に、少しだけ不安を感じ
思わず、その背に手を伸ばす・・・
「ふふっ・・・私ったら、少し疲れてるのかも・・・」
笑顔を造ってみせた彼女に俺の手は止まり、引かれる

─── 儚い、笑顔 ───

胸を締め付けられるような、そんな笑顔
込み上げてきた感情に突き動かされ
俺は彼女を抱き寄せた
「ちょ・・・っ、す・・・純柴、君・・・!?」
彼女の慌てる声が聞こえた
「・・・そんな笑顔を・・・俺に見せないで」
「え・・・」
全てを独りで背負い込んでしまうような笑顔
それは、俺に辛い物を突きつけるかのように痛々しい
「・・・俺はメグルさんを守る為に居る。
君を傷つける全ての物から。だから・・・」
俺は、君に約束する
「もう、そんな風に笑わないで・・・
君をそうさせる物からも俺は君を守って見せるから・・・・・」
そう言って、俺は彼女を放した
「・・・・・・・・・・。」
開放された彼女は顔を朱に染めながら俺を見上げた
ふと、その黒髪に触れ、俺は言った
「じゃぁ・・・俺はそろそろ行かなくちゃ。
雪野さん達助けにいかないとね・・・・・」
名残惜しいが、彼女に背を向けて扉に手をかける
「・・・純柴君」
「・・・。ん?」
呼び止められ、軽く後ろを振り返る
「・・・いってらっしゃい。気を付けて・・・ね」
「はいはい・・・。メグルさんも、適度に休憩しなよ?」
バタン、と扉の閉まる音が響いた


あの後
やっぱりメグルさんは行ってしまった
苦しむと判っていて、
傷つくと判っていて・・・
それでも。戸岐の事だけを想って・・・
・・・馬鹿な人だ・・・・・
近くに居る者より、遠くに居る者を求めて
俺の気持ちも知らずに・・・
君を大切にする人はちゃんとここに居るのに
気づいてくれない、馬鹿な人・・・

── でも

本当の愚か者は・・・
この、俺だ
君を守り通せなかった、この俺なんだ・・・
後悔だけが去来する・・・
結局、俺は何も出来ない ───


「大丈夫・・・まだ息はあるよ・・・」
救出されたメグルさんの呼吸を確認し、一同は安堵の溜息を付く
シンセイバーのおかげで彼女を助ける事が出来たけど
代わりに、シンセイバーはもう、使い物にならない
こんなに傷つく迄、彼女は戸岐を・・・
それでも。奴は止まらなかった・・・
「メグルさん・・・」
君を傷つけたあいつを、俺は許せない
握った拳に、力がこもった


君が望むとおり、俺達であいつを止めて見せるけど
君が何と言おうと、あいつは俺の敵だから
一発殴らないと気が済まない
・・・君を傷つけたあいつの事を
君が命を懸けてまで救おうとした存在
・・・それが、たまらなく憎いけど
そんな、汚い感情が嫌だけど・・・
それは、俺が君を愛しく想う、その形だから

"君を守る盾ではなく、俺は今、君の剣になりたい──"

To be continued.


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さぁついに出ました純メグ小説。レイジがシンセイバー使った時の
話です。まぁ、純柴の回想っぽい形で。(戦えよ。)
ジェラシーな純柴。略してジェラ柴。(微妙っ)ま、そんな感じが
伺えます。純柴はメグルを守る存在。だよな。メグルの方はそんな
純柴に微妙~に惹かれつつも、その心は戸岐にあり。という感じだと
思っております。難しきかな三角関係。
純メグも良いですがやはり霜庵は戸岐メグで行きたい派。