「辛いかもしれんが・・・もう一度、奴を止めに行ってはくれんか・・・?」
おババ様の言葉が脳裏をよぎった
おババ様の・・・最後の言葉・・・
「・・・・・」
辛くない
辛いなんて思っちゃいけない
彼を止めれば全てが終わる
裏球も、地球も・・・そして、戸岐君も
全部、救えるに違いないから
・・・それだけの事
だから・・・辛くない
「戸岐君・・・」
私に・・・これを使わせないで・・・・・
「四神竜の祠、到着・・・・・♪」
大きく口を開けた祠の入り口
深い暗闇を前に二匹の龍を携えて
口の端を持ち上げる
「行くぞ。ダークス、ナイト」
二匹の返事を待たず、歩を進める
暗闇の中には何の気配も無い
あるのは、俺と、その後ろの龍だけ
遠い闇に足音だけが反響した・・・
もうすぐ。俺の "ゲーム" が終わる
「ようやくここまで来たぜ〜」
目の前に現れた扉
恐らく、いや、確実にこれの向うが "神竜石" だ
扉に手をかけようとした時、
背後に・・・人の気配がした
ダークスが何か言いかけたが、それを制する
多少荒くなった呼吸に混じる聞き覚えのある声・・・
「・・・こんな所に来てまでお説教?」
呼吸が止まり、代わりに伝わる緊張感
「本当しつこいね〜、あんたもさ。
折角だから神竜石でも拝んでいけば」
首だけを後ろに向けると、彼女と目が合った
「・・・・・ね。メグルさん・・・」
「・・・・・。」
俺を睨み付ける瞳は
今まで見てきた彼女のどんな眼よりも
強く、俺を射抜いていた
神竜石への扉が開いた
零れた明かりに、少しだけ眼を細める
扉の向うは今まで通ってきた洞穴とは対照的に
広く開けた明るい部屋
その中央に、私達が目指していた神竜石が
静かに佇んでいた
─ あれが・・・神竜石・・・・・ ─
思わず見とれていると
戸岐君が、その足を進めた
彼が石に手を伸ばしたその刹那、
何かを弾く様な音と共に、微かな火花が飛ぶ
「あっ・・・ちち・・・」
彼は瞬時に手を引くと、多少は驚いていたものの
その表情はすぐ消え笑みの形に造られた
「フ・・・フフフっ・・・。ぞくぞくすんねぇ〜・・・」
「やめて戸岐君っ!!」
呼び止めると、怪訝そうな顔がこちらを向いた
「レイジ君はあなたを倒す為にシンセイバーを手に入れたわ。
・・・もう、何処にも逃げられないわよ・・・」
だから、諦めてRI-ONから手を引いて・・・
私は、あなたとなんか戦いたくない・・・
「・・・だから?」
低い声が部屋に響く
顔はまだ笑ってはいるものの、その心情は冷たい
「あなたは真竜の恐ろしさが判らないの?」
「存じないね〜。俺、実際にその場に居合わせた訳じゃ無いから」
意地悪く笑った彼に対し、眉間に皺を寄せつつも私は次の言葉を続ける
「真竜はこの裏球をも消滅させる力を持っているのよ。
そんな龍が目覚めたら、誰も止める事は出来ない・・・。
ここに居る、四神竜と呼ばれる龍でしか・・・」
部屋の四方を囲む四体の龍
幾年と、神竜石を守り続けたドラゴン達
「でも、彼等でさえ、真龍をこの石に封印するのに自らの命を引き換えにした」
ここに有る四体の石像はその龍達の今の姿
真龍の強さ、恐ろしさを物語る
「裏球の為、人の為、その勇者達が命懸けで封印した石をあなたは・・・」
「だから?」
先刻とは打って変わる強い語気に制され、思わず身を引く
「封印しか出来なくて、しかも死んじゃって。
最悪。意味ねぇじゃん」
四神竜達を嘲るかの如く、彼は吐き捨てる
「俺なら倒す。絶対倒す!・・・そんな、格好悪い死に方しない」
「違う・・・っ。格好悪いとか、そんなの関係無いっ!
この龍達は、裏球の人々の事を想って・・・」
「人の為になら・・・死んでもいい・・・?・・・はっ。冗談じゃねぇっ!!」
「・・・!!」
荒げた言葉が部屋中に響き
私は・・・彼の言葉に愕然とした
「行けっ、ライトナイツナイトっ!!その神竜石を守る結界をぶち壊せ!!」
彼が命令すると白く、大きな翼が広がった
そして、彼自身もその手に持つ石で結界を叩く
止め・・・なくちゃ・・・ ───
思考が私に言い聞かせる
でも・・・私の足は動いてくれなかった
怖かった・・・
戸岐君が、初めて真正面から私を否定した事が・・・怖かった
「どうした、ライトナイツナイト!」
何も出来無いまま、ただただ轟音だけが響き続ける
「その石は・・・その石はっ!俺が "勇者" である為の証明なんだよっ!」
彼が叫んだ刹那
ついに・・・結界が解けた・・・
「・・・やった・・・結界が解けたぜ・・・!!」
歓喜に震える・・・彼の姿が見えた・・・・・
止めなきゃ・・・止めなくちゃ・・・ ───
「・・・っ、戸岐君っ!!」
やっとの思いで絞り出した声に振り向く彼
「・・・お願い・・・やめて・・・!」
裏球も・・・何より、あなたが手後れになる前に、
その手を、伸ばさないで、
RI-ONから手を引くと言って、
今からでも・・・遅くない。
私に・・・最後の決断をさせないで・・・
「・・・メグルさん・・・」
静かで、優しい声が響いた
「あんたは、裏球を選んだんだっけ・・・?」
いつか、いつの頃か、すぐ隣で聞いていた優しい声・・・
私は一言、えぇ、と小さく頷いた
「・・・今でも、それは変わらない・・・?」
私に背を向けたまま、彼は静かに問う
「・・・私は・・・裏球を・・・・・」
守りたい ────
彼の背中が、僅かに動いた
「・・・そう、か。・・・それじゃぁ」
細められた眼が私に向けられる
「そのお願いは・・・聞けない」
ただ一言、
感情の色の見えない様子で、彼はそう呟いた
そしてまた、神竜石にその手を伸ばす・・・
「・・・戸岐君・・・。
あなたに神竜石は絶対に渡さない・・・っ!!」
床を蹴り、懐から "最後の手" を取り出す
気配を察した彼が驚きに眼を見開く
最後の・・・手
本当は、使いたくなかった・・・
でも・・・説得、できなかったから・・・
裏球とあなたと。両方を救いたかった
・・・・・もう、それも叶わぬ夢
これが私の最後の手段
私と、そして・・・あなたを
この水晶に、封印する
手から放たれた結晶が眩しく輝き
視界と思考が全て白く塗りつぶされてゆく
「・・・・・ごめんなさい・・・戸岐君・・・・・」
頬を伝う涙が、私の感じた最後の感覚だった
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中書です。戸岐メグ派の私がドラドラ史上、最も辛いと感じた
戸岐対メグルのお話。(へこんだもんねぇ・・・)
まぁた長いので二分割。微妙な所で区切りますね、毎度毎度。
原版は完結してるのですぐ続きをアップしますけど。
(本日は単なる時間切れだったり・笑)
戸岐の質問の意味とそして最後のメグルの意味深な台詞の謎が
明かされる・・・・・はずっ。(無責任な)
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