+ Cross Mind  〜Sumishiba's side〜 +



全てが終わってから既に久しい
でも、夏の日差しはまだ終わりを告げない・・・


「彼岸花・・・か」
夏の夕暮れ時、道の脇に咲く紅い花を見つけた
彼岸花、
屍人に捧ぐ為の、あまり縁起の良い花ではない
よりにもよってこんな花が目に付くなんて・・・
雲の上の神様は
過日の出来事を忘れさせてくれないらしい
まぁ、忘れろといわれて
忘れられるような問題でも無いが
「・・・・・・・」
その紅い花は、
夕焼けの中でも鮮やかな紅色だった


「こんにちは、純柴君」
「久しぶり。・・・でもないかな?メグルさん」
先日、俺は一人で裏球に行った
慌ただしいDDセンターのゲートは
偶然にも地球と裏球をつないでいた
別段、用事が有るという訳ではなかったのだが
Lさんの姉心からの願いを受けたからだ

「あの子ね・・・まだ航平君の事、
吹っ切れてないみたいなの・・・・・」

それを俺に頼むのは、正直皮肉かとは思うのだが・・・
「・・・その服、良く似合ってるよ」
エンスイの名を受け継いだ彼女
それは、この先ずっと裏球に残る決心の証
俺の言葉に、彼女は少し顔を紅らめる
それから、思い出したように口を開いた
「あ・・・姉さん、何か言ってなかった・・・?
私、勝手にこの事決めちゃったから・・・・・」
俯く彼女に明るい口調で
「Lさんは"自分で決めた事だから、何も言わない"ってさ
・・・それから・・・・・」
一瞬、躊躇したが、言葉を続ける
「・・・戸岐の事・・・」
彼女の肩が揺れる
それを見ると、どうしても続きが言い出せない
「・・・・・」
「・・・忘れられない・・・?」
彼女はただ、静かに頷く
「・・・私、謝れなかったの」
その言葉に、沈黙で応える
「沢山。沢山傷つけたのに
一言も謝れなかったの・・・・・」
「でも、メグルさんだって・・・」
沢山、傷つけられた、
あいつと同じくらい
もしかしたらそれ以上に深い傷が有った事を
俺は知っている・・・・・
「メグルさんも・・・・・戸岐も。
傷つけて、傷つけられて
それでも、もう謝れない事はお互い様なんだよ」
生けるものと死せる者では在する場所が違う
それは母を失った自分にも良く判り
また、納得出来ないもどかしさも知っている
「死んだものには・・・もう会えないんだよ」
彼女に、それを言うのは酷だった
「判っている・・・」
彼女の声音が、震えていた
「判っているはずなのに・・・・・
私は、戸岐君に会いたい・・・一緒に居たい・・・」
その意味が謝りたいという罪悪感から来るものではなく
純粋に、愛しさから来る気持ちだと
その時俺は、初めて知った
在する場所は同じだというのに、
どうしてこんなにも届く距離が違うのだろう・・・

「俺じゃ駄目かな」

その傷を癒すには俺では役不足だろうか
・・・・・そんなの、
答えは見えていたのに・・・
彼女の瞳が、俺を見つめた
「・・・なんてね、言ってみただけだよ・・・・・」
叶わぬ思いが生んだ、ただの戯言
「純柴君」
その眼は、変わらず俺を見つめていた
「私には、勿体無いくらいの言葉よ・・・」
ふわり、と微笑んだ彼女の目尻には
「私、どうして、こう、気づくのが遅いんだろう・・・
純柴君は・・・ずっと私を支えててくれたのにね・・・・・」
僅かだが、涙のようなものが見えた


俺如きが、彼女の傷を癒せるはずが無い
あの人の心は少なからずもまだ、戸岐のものだから
ほんの少しだけ
彼女の心を動かしただけでは、まだ役不足なのだ
夕焼けが傾いても
彼岸花だけは、紅く咲いていた
それは、屍人に捧げる為の華・・・

ふつりと折ると、紅い華弁が静かに揺れた

End.


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後書です。最終章、遂に完結。(違う、自己完結・痛)
この長編物を書き始めてからかれこれ一年かかりました。
戸岐とメグルと純柴の三角関係だ・・・。暗い。
性格現れてるよ霜庵さんっ!!(うるせぇ黙れ。)
何で甘いの推奨派なのに暗いの書いてんだろう私・・・
(この長編物さえも伏線だったとかいう可能性浮上。)
↑いや・・・それはさすがに・・・。
まぁ、そんな訳でして、暗く長いお話でした。
ここまで読んでくれた方がいらっしゃったのなら
その御方に多大な感謝を致します。