私の名前はアミィ。
アミィ=バークライト、15歳です。
・・・でも、それは私が生きていた頃の話。
アセリア暦4304年、トーティス村を黒い悪夢が襲った。
その奇襲の際、黒い鎧の人たちに
私は・・・・・殺されました。

人は、何かに未練があると、その土地から離れられないという。
昔、遠い記憶の彼方、誰かにそう聞いた。
すると、私もその未練というのがあるのかな・・・
懐かしいトーティス村。
私はいまだにこの土地から離れることが出来ない。
暖かな、この村から・・・・・


− アセリア暦4304年。被害の爪痕を残すトーティス村 −

魂だけとなった私。
いわば幽体ともいえる私。
今日も懐かしい村を巡る。
けど、今日はいつもと違っていた。
不意に目の前を横切った綺麗な金髪。
白を基調とした法衣を身に纏い、頭の上には十字の描かれた帽子。
その女性が小走りに駆けて行く。
あまりに美しい人だったので、思わず見とれてしまった。
それにしても、何をそんなに急いでいたのだろう。
お姉さんの駆けていった先には、二人のお兄さんがいた。
一人は、赤いバンダナが特徴的な優しそうな剣士さん。
もう一人は、長い青髪を結んだつり目なお兄さん。
その三人は、何かを相談しているようでした。
一体あの人たちは誰で、これから何をするのだろう。

これからお話するのは、私が最期の時を迎えるまでに起こった
一つの奇跡のお話です。


− あの人達が来てから、何も失かった村が少しずつ、動きはじめた −

お兄さん達は今日も朝早くから村の復興にいそしむ。
即席の小さな家でお姉さんは簡単な朝食を作る。
村の人口はまだ十人にも満たない。
でも・・・それでも、
人々の顔は明るい。
色々な人々が協力しながら、村の復興は進んでゆく。
不意にお姉さんが二人を呼んだ。
どうやら朝ご飯が出来上がったらしい。
今日は何を作ったのかな?
お姉さんはとても料理がうまいので、見ているだけでも
充分楽しめる。
今日のメニューは、パンにオムレツ、ポタージュスープ。
相変わらず素晴らしい腕前に、私は拍手した。
平和な朝食のひととき・・・
バンダナのお兄さんがお姉さんの料理を誉めている。
お姉さん、とっても嬉しそう・・・
そんな中、青髪のお兄さんは一人渋い顔をしていた。
何があったのか、彼の皿の上を見てみると・・・・・
玉ねぎがあった。

また、残してる・・・・・

脳裏をよぎった意見に、私は首を傾げた。
はじめてみたはずの光景。
なのに、私は"また"と感じた。
今は忘れてしまった記憶の彼方、
私はあのお兄さんと繋がりがあったのだろうか・・・
あのお兄さんは、私にとってどんな人だったのだろう・・・


− 日が経つのは早く、もう被害の爪痕は何処にもない −

すっかり村らしくなったトーティス。
最初の頃に比べれば人口もとても多くなった。
村の移り変わりはこうして見ていた私が一番知っているはず。
そして。
私はあの人、青髪のお兄さんも見てきた。
皮肉屋で、それでいて本当はとても優しい人。
たまに喧嘩してるけど、誰よりもバンダナのお兄さんを理解していて、
弓の腕前はまさに百発百中。
名前を・・・チェスター、と言う。
懐かしい響き・・・・・
けれども・・・まだわからなかった。
あと少しで思い出せそうなのに、あと少しなのに・・・・・
思い出したいのに、心の奥底ではそれを拒んでいた。
何故だろう・・・
あの人、チェスターさんは大切な人に違いないのに。
そのもどかしさは毎日私を悩ませた。
毎日、毎日・・・・・
チェスターさんを見る度に・・・・・


− そして、そのもどかしさは突然終わりを告げた −

その日は星が綺麗な夜だった。
その美しさがかえって恐くなるくらい、
夜空に散った星は輝く。
夜のトーティスは優しい雰囲気に包まれる。
込み上げる暖かな気持ちに和みながら、私は村を周る。
ふと、私はその身を止めた。
そこは、チェスターさんの家の前だった。
ここに来れば何か判るかもしれない。
淡い期待に駆られて、私はここに来る決心をした。
扉の隙間から零れる光に誘われて、そっと中に入る。

玄関先には、誰も居なかった。
けれども、部屋の造りは見覚えのある物だった。
広い居間に台所、二階へと通じる階段。
全て、すべてが懐かしい・・・・・
やっぱり私はチェスターさんと関係があるんだ。
そう思うと居ても立ってもいられず、
ほかの手がかりを探す為に、私は二階へとあがった。

そこは、どうやらチェスターさんの寝室らしかった。
無駄な物はあまり置かれていないすっきりとした部屋。
何も無いかな・・・・・
そう思い、振り返った瞬間。

私の眼に、一枚の写真が映った。

チェスターさんと、そして私が写った一枚の写真・・・・・
少し汚れてはいるものの大切そうに飾ってある。
そして・・・・・。
私は思い出したのです。
チェスターさんと私の繋がり。
彼は、
あの人は・・・・・

私の・・・たった一人の大切な兄

不意に、一滴のしずくが頬を伝った。
・・・涙・・・・・?
幽体となった今でも、それを感じるのは、
きっと、私の気持ちの動きの所為。
失くした記憶の欠片。それを拒んでいた理由がやっと解った。
死んでしまった私と、生きている兄。
お互いがどんなに望んでも、
・・・もう、会うことは出来ない・・・・・
こんなに悲しくなるなら、知らないままで良かった。
後悔の気持ちは止まることを知らず、
私は、ただ、響かないはずの声を響かせて泣き続けた。
たった一人の・・・大切な兄・・・・・
私がしゃくりあげた瞬間、床の軋む音がした。
その音の主は、私の兄。
思わず名を呼び、そして相手には聞こえないことに気づく。
私からお兄ちゃんは見えていても、
お兄ちゃんから私は見えない。
実際にそれを感じ、私の胸は苦しくなる。
何度呼んでも、お兄ちゃんは振り返らない。
それを頭で解っていても、私は兄を呼び続けた。

− 神様、一度だけで良い。
一度だけで良いから、もう一度、私と兄を結んでください −

そう願って、私はもう一度、兄を呼んだ。

「お兄ちゃん!!」

兄の肩が・・・・・大きく反応した。
驚いたのは私も一緒。
兄が、ゆっくりと振り返る。
「・・・アミィ・・・なのか・・・・・?」
その瞳が、今度はしっかりと私を見据えていた。
「お兄ちゃん・・・私のこと、見えてるの・・・!?」
対して兄は、静かにうなずいた。
聞こえているし・・・見えている・・・

神様は、私の願いを聞いてくれた・・・・・

「あ・・・お、お兄ちゃん、ずっと・・・見てたよ。
お兄ちゃん達がトーティスを復興させて行くの・・・」
突然過ぎて、何を言って良いのか判らず、
ただ、今までのことを話しはじめる。
「凄いよね・・・立派になったよね。すっかり、あの頃の傷も・・・」
「アミィ」
ぽつり、と兄が呟いた。
「・・・。ごめんな。お前を守れなくって。
・・・俺があの日、狩りになんか行ってなければ・・・」
そう言って、苦しそうにうつむく。
トーティスの傷は癒えても、兄の傷はまだ治っていない。
でも・・・私は・・・・・
「お兄ちゃんがそんな事言ったら、私はもっと哀しい・・・」
「アミィ・・・?」
「だって、そうでしょ?
お兄ちゃんにはまだまだ沢山の幸せが待ってるのに、私に構って、それを全部諦めちゃうの・・・?
お兄ちゃんの言ってることはそうゆう事じゃないっ」
「でも、俺には幸せになる権利なんか無い。
・・・・・お前に、申し訳なさ過ぎる・・・」
兄の言い分も判る。けど、それでも私は
「お兄ちゃんは私がそう思うと思ってるの?
お兄ちゃんは私の大切なお兄ちゃんだもの、幸せになって欲しいものっ!!
それが私の幸せだよっ!!」
はっ、と兄が顔を上げた。
「私は、お兄ちゃんを恨んでなんか無い・・・」
むしろ、その逆。私は・・・こんなにも愛されていた。
それが判って、私は嬉しい・・・
「・・・お前がそう言うなら・・・。お前の分の幸せ、横取りしちまうけど・・・
こんな兄を、許してくれるか・・・・・?」
勿論、と笑顔で頷く。
すると、兄も優しく笑った。

・・・・・そろそろ、私の時間が終わる・・・

私は未練を遂げてしまった。
もう、ここに残る理由が無い。
自分の体が光の雫へと変わり、空へと向うのを感じる。
「アミィ・・・お前・・・!」
「・・・。お別れ、だね・・・」
最期にお兄ちゃんとお話できて、嬉しかった。
他にも沢山伝えたいことはあったけど、
もう、そんなに時間が無いみたい・・・
だから、最期に。
一番伝えたかった一言を・・・・・

− 今まで、ありがとう −


遠い遠い記憶の彼方。
私には大切な兄が居ました。
大好きなお兄ちゃん。もう、二度と会う事は出来ないけど、
どんなに時が経っても、
彼は私の大切な兄で、私は彼のたった一人の妹。
それだけは、変わらないから。

− 願わくば、兄がいつまでも幸せでありますように・・・ −


Fin.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
後書です。アミィのその後。実は原版から大幅に話が変わりました。(爆)
おかげでこんなに長く・・・長っ!!(原版知る人はびっくり〜)
バークライト兄妹。私にとって印象深い兄妹です。リンゴのイベントとか(笑)
ファンダムでも泣かされましたねぇ・・・・・。
これ書いてる時、改めてこの二人の絆は強いな、と思いました。
原版誉めてくれた親友に捧ぐ。(いらね)