強引、というのは十分承知
それでもやっぱり
私の気が済まないし
・・・彼には何かが在った
無愛想だけでは片付けられない
深い、闇
「さ、突っ立って無いで座ろ」
小高い丘の頂上から
リーネ村が見えた
彼は渋々ながらも隣に座った
「・・・クッキー、食べる?」
「・・・・・。」
彼はしばらく考えていたが
やがて、観念したように
私のクッキーを手に取った
それが、ゆっくりと口に運ばれる
「・・・・・」
無言でクッキーを食べる彼
咀嚼が終わると私は声をかけた
「・・・おいしい?」
「・・・不味くは無かった・・・・・」
ボソリ、と呟く様子に思わず笑う
「素直じゃな〜いっ」
「うるさいっ・・・」
少し赤くなりながら怒る
「・・・・・」
「・・・何だ?」
眉を顰める彼を、じっと見ていた
「・・・やっと、お話出来たね」
「・・・?」
説明を必要とされ、私は肩を竦める
「だって、ずぅーっと無愛想なんだもの
笑わないし、怒りもしない。人形みたい」
暗く落とされた影
変わらない表情は、まるで人形の様だった
「今、やっと怒ってくれたじゃない」
笑いかけると彼は言った
「人が怒ったのを見て、喜ぶな」
苦笑か、もしくは嘲笑だったのか・・・
それでも確かに
彼は、笑ってくれた


僕が笑うと彼女も笑った
幾度か見せた表情より
もっと、輝いた笑顔で

暖かかった・・・・・

今まで見てきた、どんな笑顔よりも
「そうそう、ちゃんと笑えるんじゃないっ♪」
奴に言われて、ふと、自分の心に気づいた
僕は、何を張り詰めていたのだろう・・・
世界を裏切ってしまうから
目の前に居る人も、裏切ってしまうから・・・
そう考えると
一度決めた事とはいえ
僕の心は辛かった
「・・・・・僕は・・・・・」
選んではいけない答えを選んだ
一言、そんな言葉が漏れる
「僕の我侭は、いつか裁かれる・・・」
本当は、心の片隅でそれを望んでいる
「でも・・・いけない、って判っていても
選ぶ理由があったんでしょう?」
「・・・・・あぁ」
大切な人の為
僕の命さえ惜しまない
「じゃぁ、それで良いんじゃないかな?」
何も知らないから
彼女はそうして笑ってくれる
「それが自分の答えなんでしょう?
だったら・・・それは他人が否定する事なんて出来ないよ
あなたが、迷った末の、決断なんだから・・・」
「・・・・・」
どうして彼女は
こんなにも、優しく笑うのだろう・・・・・


日が傾きはじめていた
昼から夕刻へと移る瞬間
流れゆく雲を見あげていると
彼がふとこんな事を言った
「もっと早く、お前に会えていれば・・・
僕は、変われたかもしれない・・・・・」
その時の彼の顔は、何処か優しくて
何処か・・・寂しかった
「私も・・・」
不意に込み上げてきた感情
「私も・・・もっと早く、会っていたかった・・・」
初めて感じた不思議な気持ち
・・・何故
そんな事を感じたのか判らない

── でも

その時の私は、そう言わずにはいられなかった・・・


「・・・・・リリス」

初めて
彼女の名前を呼んだ
リリスは
喜びとも、困惑ともつかぬ表情で
呼び声に反応した
「・・・どうしたの?」
微笑んで、僕を見上げる
・・・ほんの少しだけ
決意が揺らぐ
それでも・・・・・

「・・・エミリオ。
それが・・・僕の名だ・・・・・」

本当の、僕の名
せめてリリスには
裏切り者としての「リオン」ではなく
彼女の隣に居た「エミリオ」の名前の方を覚えていてほしかった
─── それは・・・
罪を選んだ男の本当の気持ちを
誰かに知っていてほしかった
僕の我侭の一つかも知れない・・・


「えっ・・・・・帰っちゃうの?」
「あぁ。」
僕が帰ると言った時
彼女は心底驚いたように声を上げた
「だって・・・お礼、まだ終わってないよ!?」
「・・・クッキーを食わされたから、お礼は終わりだ」
「えぇ〜〜〜っ・・・?」
ありありと浮かぶ不満の色
溜息交じりに小さな苦笑を漏らす
「僕は暇そうなお前と違って急がしいんだ」
「何よぉ・・・その言い方」
膨れっ面に構わず
僕はノイシュタットへ向けて歩きはじめる

「ねぇっ」

その背中に、リリスの声がかかる
「また・・・会えるよね?・・・エミリオ」
歩みを止め、振り返る
風が彼女の金髪を揺らし
緋色のマントの側を行く

「・・・お前が・・・・・
その名を覚えていてくれる限り・・・な」

会う事はもう、二度と無いのに
どうしても・・・それを言いたくはなかった


金髪が風に揺れる
暖かな色 太陽の色・・・
もっと早く会えていれば
きっとそれは、僕の太陽となっていた・・・

To be continued.


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後書です。エミリリ小説・・・。すいません、何だか中途半端・・・;
とはゆうのもですね。霜庵がリオン×マリアンも捨て難い。とか
思ってるのがいけないんです。優柔不断なんです・・・・・・・。
なんとなく。リオン幼少時代、リリスみたいな子が側に居てくれたら
歴史は違う方へ行ったのではなかろうか。と。そう思い書きました。
さて、前編。なので後編に続く訳ですが・・・。おそらく、史上初、
最初で最期の"ジューダス×リリス"になるのではなかろうか、と。(爆)
でもやっぱり友達以上恋人未満=親友?です。