空に、白い月が浮かんでいる
リーネ村から見る月は
僕が今まで見てきた月の中で一番大きく思えた
家の中にはカイル達が眠っている
先刻まではロニとカイルで起きていたが
今はすっかり寝入っている
「・・・・・・・・」
あの時
僕はふっ、と昔を思い出した
彼女の出してくれたクッキーは
あの日と変わらず、暖かだった
でも、今の僕は違う
彼女を裏切った僕が、
また、彼女の好意を受けていいはずが無い
それが、どんなに小さな事でも・・・
そう、思っていた

「ジューダス」

不意に背後から声がした
突然の事で驚いたが
僕は静かに後ろを振り返った
「・・・・・・。」
リリス
脳裏に浮かんだ名は口に出さず
代わりに、月を見上げる
「眠れないの?」
「・・・・・月が、見たくなったんだ」
一言答えると、彼女は僕の隣に来て
同じように、月を仰いだ
「・・・。何のつもりだ?」
「何っ、て・・・。私もお月見しようと思って」
眠れないんでね、
と、彼女は微笑みかける
「・・・何か、思い出すなぁ・・・」
再び月を見上げて
彼女は唐突に語りはじめた
「突然私の前に現れて、
そして、去っていった人の事」
僕はただ、耳を傾けていた
「今でもしっかり覚えてる
黒い髪に緋色のマント
冷たい態度に口調。でもね、
その内の心はとっても繊細で・・・
本当は、優しい人だった
例えるなら、あの月みたいな人」
そう言って、月を指差す
「何故、月の様だと?」
訊ねると彼女はしばらく思案し
こんなことを言った
「月って、闇夜に冴え冴えと浮かぶでしょう
一見しただけじゃ冷たく思えるかもしれない
でも、月の光って夜闇の中じゃ優しく思えるでしょ?
上手く言えないけど・・・そんな感じ」
「・・・その人は・・・今は・・・・・」
彼女が誰の事を言っているのか、
小さな予想が、何時の間にか大きくなっていた
リリスは月を見上げたまま
その質問に答えた

「・・・私の隣で、一緒に月を見ている」

彼女は、気づいていたんだ・・・
僕の正体
ジューダスとエミリオ、リオンの一致に
「・・・あなた、エミリオでしょう
生きてたなら・・・・・どうして・・・・・!」
「僕は・・・死んだ
18年前のあの時に・・・死んだんだ!」
刹那に訪れた沈黙の中
リリスは疑問の瞳を向けた
「ここに居るのは・・・
お前の横に居るのは、リオンでも、エミリオでもない
・・・仮面を被った、ジューダスという男だ」
語尾が微かに震えていた
リリスにこんな事を言うのが辛かったから
「・・・また理由があるんだ
あの時みたく・・・・・」
僕が自分を偽る理由
仮面を付ける訳
いっそ全てを話してしまえたらどんなに楽な事か
そう、思った
「・・・私は。ずっとあなたを信じてきた」
ふと、彼女が口を開く
「お兄ちゃんからあなたの死を聞いた時も
ずーっと、信じてきた」
「・・・?」
「あの時、エミリオ約束してくれたよね」

─ お前が、その名を覚えていてくれる限り・・・な ─

「あれは・・・」
「守れないなら・・・
あんな約束、してほしくなかった・・・」
リリスの気持ちが
痛いくらいに伝わった
嘘を付くと判っていても
僕は、それくらいしか出来なかった・・・
「・・・でも、ま。
こういう形ではあれど
一応、あなたは約束を果たしてくれた」
そう言って、彼女は苦笑する
・・・あの時から
リリスはいつも、何気ない一言で
僕を救ってくれる
「だから、今度も信じてみる
・・・今度こそ、あなたは良い答えを選んでくれる、
あの時みたく後悔しないって、信じてるから」
昔僕に見せてくれた明るい笑顔
それは今も変わらず
僕を励ましてくれる
全てを話して逃げ出せたら
そんな弱さから、僕を救ってくれる
「リリス・・・・・」
「ん?」
「・・・・・有り難う
今でも思う。・・・もっと早く、
お前と出会えてたら、と」

─── 親友・・・・・

あの幼少時代、
リリスが側に居てくれてたら・・・
「今となっては、
無い物ねだりと言うものだ・・・・・」
自嘲にも似た苦笑を浮かべると
不意にリリスが仮面を覗き込んだ
「・・・そんな笑い方しないのっ」
ふと、苦笑が止まる
「今からでも遅くないよ
あなたの用事が全部終わったら・・・
また、会いましょっ!」
親友同士の約束
そう言って、彼女は小指を出した
「・・・また、守れないかも知れないぞ・・・」
あの時の約束のように
「大丈夫よっ」
僕の心配をよそに、リリスは笑う
「私が信じ続けるんだからっ!」
その一言を聞いて
僕とリリスの小指は交わされた



リオン、ジューダス、エミリオ・・・
彼はどの名前で私と約束を交わしたのだろうか
ふっ、とそんな事を思った自分に苦笑する
別に、そんなの関係無い
どの名前も全て "彼" であり
約束を交わしたのは事実
月明かりの下で交わした約束
今度は・・・ちゃんと守ってもらわなくちゃ
その日を待ち遠しく思いながら

今日も私は月夜を迎える・・・


Fin.


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後書です。前編・後編物のエミリリ小説、如何でしたでしょうか。
個人的には問題点が色々と・・・;;
ジューダス(精神的に)弱いし、正体明かしてしまってるし・・・(大問題)
霜庵さん、あなたの中のジューダスは何か間違ってる。
と、一言二言申したい。(私から私に向かって)
TOD2ではリリスももうおばさんって言われる年かぁ・・・ってのを
改めて実感。でも気持ちはまだ17才さっ!!そんな先入観の所為で
とっても若々しいリリスが完成致しました。(爆)
やはりエミリリは私の中では「友達以上恋人未満」的関係です。
親友同士、って感じに持っていきたいんですよ。