コールマン山絵日記

     初秋の八ヶ岳、岳工作、小原庄助、てじやんと久々のフルメンバーでの登山を楽しみました。


9月13日 −風雨の天狗岳―
 「おい!ワシらまだ調布やでー!えらい渋滞や!」茅野駅に向かう車中、小原庄助氏の携帯が叫んでいた。声の主は岳工作その人。
今回は、関西方面から私と小原庄助氏が電車で、岳氏とてじやんが東京から車で八ヶ岳に向かい、天狗岳山頂で落ち合う趣向であった。が
その計画がもろくも崩れた一本の電話であった。一方の我々は定刻どおり茅野駅からバスで渋の湯に着いたのであった。
渋の湯ではいきなり庄助氏わき目も振らずに温泉宿に飛び込み「タバコ置いてませんか」。どうもタバコを途中で切らしたもよう。
「国定公園内は売れないんです」と奥から声。しぶしぶあきらめ、11時40分より登山開始。日本海を通る台風のせいか、空は厚い雲
が、上空は風も強そうだ。
 まずは黒百合ヒュッテ目指しての登り、樹林帯の薄暗い道をゆっくり登っていった。気温はそうでもないが湿度が高いためだろう、2人共 
すぐに大粒の汗。ところどころ大きな岩が連続して続き、以前登った蓼科の登りを思い出した。14時15分黒百合ヒュッテに到着。
ここでラーメンをすすり天狗へと向かった。進むにつれてますます雲は色濃くなり、とうとう雨が降り出す。しばらくは小雨で登高をつづけて
いたが、瞬間的に滝のような大雨に変わった。たまらず雨具に身をつつみ再度登り始める。視界も悪くなり、フードを叩く雨音が激しく
視覚と聴覚を同時に奪われてしまった。苦しみつつ16時山頂着。激しい風雨のなか庄助氏と握手。本来ここで東京組と落ち合う予定
であったが、渋滞の彼らはもちろん居ず、テント予定地の本沢向けて下山を始めた。
 下り道、しばらくは尾根伝い、風の通り道のためいよいよ強風。「おい!体飛ばされそうや!」後ろで庄助氏の叫び声。体重のある私も
しばしばよろける。尾根道をはずれ谷方向へ降りるころ、風がさえぎられうそのような静けさ。2人共安堵の表情。しかしそれもしばらくの 
間のこと。急なくだりが延々と続き、30分もすればお互い疲労の色が濃くなる。「えー!まだ30分もあるのか!」そろそろ到着と思われた
ころの非情な道標。膝が限界に来たころ本沢へ17時30分であった。「岳さんら今頃テント中で酒盛りしてるで」などと言い合いテントサイトへ
向かおうとしたころ、「おい!お前らも今着いたんか!」。前方にザックを担いだ2人。「ええ!うちらホンに今ですわ」。計ったように本沢で合流。
 テントの中でお互いの再会を祝し、まずはビールで乾杯。「今回ええ酒持ってきたで」と岳氏。それは梅酒であった。なるほど疲れた時の
気付けにもなる。今まで何で気づかなかったのだろうと思った。それを見透かしたように「俺はええとこ目ぇーつけるやろ」。次回から定番は必至である。
この夜は夕食(カレー)の後、熱燗、焼酎、ウイスキーと続き夜は更けていった。他のテントはすでに山の闇と同化していた。


9月14日  −日本最高所の野天ー
 「天気悪いみたいですよ」このメンバーの中で早起きのてじやんが、テントから顔を出し空を見上げた。他のメンバー起きる気配なし。
私も、まぁいいか!と二度寝をむさぼる。結局朝食を始めたのが7時であった。メニューは餅入りラーメン。岳氏のリクエストでニンニク
おろしをたっぷり。さてこの日の予定は横岳までの往復、出発を始めたころには天気も回復基調になっていた。9時15分登山開始。
 夏沢峠までの道はよく整備されており歩きやすく、岳氏先頭に快調に歩を進める。夏草峠から硫黄岳はガレ場の上り坂。登り坂の
左手は巨大な噴火口跡が口を開け圧倒される思いである。11時15分に硫黄岳頂上。山頂はなだらかでピークらしくなく、岳氏に
言わせると「あんたの腹のようや!」一応ごもっともである。今しがた登ってきた方向には天狗岳の2本のピーク、これから目指す方向  
には主峰赤岳が雲を従えてそびえていた。
 しばし噴火口を覗いたりして、次なる横岳を目指した。もうすでに天気は良く、眺望も良く、比較的快調に歩を進めた。眼下には
赤岳鉱泉、行者小屋、遠くは南アルプスも眺めながらの登高。ピークの最後は痩せた岩場の登りで、これをクリアして山頂へ。13時であった。 
硫黄と対照的に狭い山頂に登山者がひしめく雰囲気。ここで我々はパンと蜂蜜の昼食。ここからの赤岳はいよいよ威厳高く感じられた。
昼食後、13時50分、赤岳を背に復路に向かった。 途中、硫黄岳山荘でトイレ休憩。「ここウォシュレットですよ!」遅めのキジから 
帰ったてじやん。山小屋も変われば変わるものである。
 さて16時に本沢に帰着。そのままここの「日本最高所野天風呂」へ缶ビールとともに直行。渓流の端に、湯船だけがポツンとある
人が5人も入れば満杯のそれであるが、頭上に見える硫黄岳の迫力、冷えたビール、そしてなにより登山の後の満足感が、ここを 
温泉天国に変えていた。しかしなぜかこの温泉、長く入ると体が痒い!温泉成分が高濃度のため皮膚への刺激が強いのだろう? 
 テントに戻って夕食、メニューはすき焼き。昨夜同様、各種アルコールがちょっとした居酒屋のように連なり、我々のテントはろうそくの炎で 
山の闇にくっきり浮かんでいた。


9月15日  −秋の訪れー
 この日は下山の日。朝食の「鳥雑炊」を食べ、テントを撤収し稲子方面へつまり一昨日東京組が登った道を下山。
小型の四駆であれば通れるだけあって歩きやすい。「ここ冬、山スキー、ええでー」岳氏はすでに先に思いを馳せていた。
確かに本沢温泉は冬季入れるようで、「山スキーして温泉、最高ですね」私ももちろん大賛成。
 「だんだんタバコのある国に近づいてるで」と庄助氏を振り返り岳氏。そう、ここまで庄助氏苦労の節煙。こころなしか庄助氏
の歩みが速く感じられた。歩き始めて1時間半、11時にてじやんの車に到着。ここで車に乗り込み、登山は無事終了。
そのまま稲子温泉で一風呂。ここでようやくタバコ自販機に出会えた庄助氏、「キャスターしか売ってへんわ」と言いつつも
風呂上りの紫煙をくゆらせていた。 
 この後、松原湖で昼食をし、小淵沢駅で岳氏、てじやんと別れて庄助氏と私は電車で関西方面へと帰路についた。
塩尻から名古屋はそこそこ混んでおり、デッキで立ったまま車窓を眺めていた。田園風景はところどころ黄色がかり、
季節の変わり目を教えてくれていた。

 自宅に帰ると、今まさに星野監督の胴上げ。これでペナントレースも終焉。うれしい半面、大阪にも涼風が吹き、
歓喜に沸く黄色が季節の変わり目を教えてくれていた。


天狗岳山頂の小原庄助氏
本沢から見た硫黄岳
硫黄岳から見た赤岳
野天風呂のひととき