「始動」


大きく開放感あるドーム状の部屋に椅子の数がだいたい500席ほど
空席を出さないほどの大人数が次のそこで指示を待っていた。
ここにいるすべての者がハンターズ認定試験の第一審査を通過した人たち。
当初受験者数は2000人ほどだったので単純計算でも4分の1にしぼられたことなる。
第一審査の学科は計算や歴史などの一般教養とは程遠く
ハンターズの心得や力とはなにか?など
精神論、すべてが答えとして正解。
どれが間違えでどれが正解だったのかわからないようなもので
納得いかなそうな顔で渋々帰って行くものがほとんど。
まぁ〜あんな試験で落とされれば渋る気持ちはわかるけどね。
席に座らせられ20分ほどやっと巨大なカーテンが開き
現れたアンドロイドと転送装置に皆が瞳を向けた。
「まずは皆さん、合格おめでとうございます」
緑が基調のレイキャスト型のアンドロイド
肩にはスピーカーが内臓されており
自立神経のある一般的なアンドロイドではなく
指示通りに動く機械としてのアンドロイドのようだ。
「これから始まる第2試験ではハンターズという仕事の中で
 もっとも重要であるチームワークをここにいる者同士でペアを組んで頂き試させて頂きます」
会場でざわめきが起きる。それも仕方がない
ここにいる者は皆他人で、どのような性格でどれほどの戦闘技術があるのかわからないのだから。
「この転送装置でVR(バーチャルルーム)に
 転送していただき簡単な模擬戦をしていただきます」
体力測定も何もなくいきなり模擬戦なんだ・・・
「試験クリアの条件は、
 開始してから120分の間で1ペアにつき3ペアの戦闘不能もしくはギブアップさせれば合格です。
 自分自身もしくはパートナーが戦闘不能になった場合は別の会場に強制転送されますので
 その際速やかにご退出をよろしくおねがいします」
まわりを見渡し、はぁ〜っと長いため息
実力ある人とペア組めればいいけど・・・
「では、1列目の席の方から転送装置へ移動なさってください」
こうして第2試験の模擬戦は開始された。

転送された先は神殿をイメージしたVRの橋の上
空はオレンジ色で今にも沈みそうな大きな太陽が
神殿のシルエットをくっきりと映し出しその迫力を高めている。
視界に重なるよう赤い「スタンバイ」の文字
パートナーが転送終了するまで待機という意味らしい。
それから5分ほどたち、私の横にフォニュエールが転送された。
「はじめまして」
私が手を差し出すとフォニュエールは少し驚いたような顔で
優しく私の手を覆うように握手を交わす。
紫色の髪で大きな白いリボン。体は小柄で年齢は私より少し下くらいかな。
「始めまして、ミュです。よろしゅ〜」
「私はセリカ。よろしくね」
自己紹介が終わり私たちは神殿の中へと歩き出した。
神殿の中はスタンプの様なトラップや
ピラーとよばれる火や氷をだす柱のトラップが設置しており
二人で回避しながら進んでいく。
神殿内に入ってから、二人の間にほとんど会話はない。
なにか話した方がいいのかな?そんな事を考えてる矢先
沈黙を破るかのように
「途中経過をお知らせします。ただいま脱落ペアは27組です」
「まだ始まったばかりなのにもう戦闘が始まってるのね」
「ところでセリカさんや?」
「あ、セリカでいいよ」
にしし、っと笑顔で返す。
「何でそんなボロボロの刀を持ってるのかに?」
ミュはわたしの握っている赤茶色の刀を指差した
「これはね『大切』な物なんだ。こんな色してるけど
 フォトンの武器には引きをとらない切れ味があるから安心して」
「ほえぇ〜」
ミュはマジマジと赤茶色の刀を覗き込む。その時
パン、パン、パン
銃声と同時に突如フォトンの弾が私たちに襲いかかった。
弾丸の軌道の先には二人の人影。
ハンドガンを構えた赤い髪でツンツン頭のヒューマーと
ロッドを持つキザっぽいフォーマー。
「お嬢ちゃん達、無駄な抵抗しないで素直に負けてくれないかな?
 抵抗しても痛い目見るだけだ」
そう言い二人は下品に笑う。
「俺達はもう2ペア倒したんだ。お嬢ちゃんたちでクリアってわけ
 はっきり言ってお嬢ちゃんは俺達に敵わない、自分でもわかるだろ?」
うだうだと自分たちは強い!実力が違う!なんかを聞かされ続け
私とミュはドン引き状態・・・
チラっとミュに視線を送るとミュはにしし、っと笑いう。
「俺達はゾーク・ミヤマの弟子で何度も修羅場を潜り抜・・・・」
話の途中でフォーマーが倒れこむ。
ヒューマーは突如倒れた仲間に驚き、そして後ろに移動していた私に初めて気がついた。
慌ててハンドガンを私に向け、パンっと発砲するが今更慌てても遅い。
フォトンの弾を刀で切り落とされ
首に赤茶色の刀を突きつけられたヒューマンは
呆然とハンドガンを地面に落とす。
「あなたたち喋りすぎ、どんなに自分に自信があるか知らないけど
 ここは戦場でしょ?それに私はあなた達なんか知らないわ」
「っく」
ヒューマーは悔しそうに声をもらし私に気づかれないよう小ぶりのダガーを取り出す。
がヒューマーは突如燃え上がった。
「きゃっ」
予想外の出来事に思わず声をあげてしまったが
燃え上がり倒れこんだヒューマーの後ろにいたミュの姿を見て納得した。
なぜならミュの持つインドラが発光していたからだ。
フォースの持つ武器が発光するのは武器に精神力を送りテクニックを使用した際よく見られる現象。
即ちヒューマーが突如燃え上がったのはミュがテクニックを撃ったことになる。
「弱いくせに偉そうで、最後の最後まで往生際の悪いやつなのだ」
「ほんとにね・・・。でもサンキュ、お蔭で助かったよ」
ミュは指でVサインをつくり。
「にしし。あと2ペアやね」っと笑う。
「そうだね、頑張りましょ!
 でも、その杖ってインドラでしょ。やけに煙でてるけど平気・・・?」
「にゃ?!」
ミュの右手に持つインドラが異常なまでに煙をあげ
「ぎゃー、アツー」
慌てたミュはインドラを遠くに投げ飛ばした。
「武器が壊れるほどの高出力のテクニックなんて初めてみたよ。すごいすごい」
「テヘ。でももう代わりは持って来てないのだ・・・」
ミュは軽く火傷した右手をレスタで完治させ困り顔で指をくわえる。
「多少威力下がると思うけど素手でもいいんじゃない?」
「そうなんだけど、威力出しすぎると手の皮とか剥けちゃうし・・・」
ミュの武器をどうするか悩んでいるとフォーマーとヒューマーは転送の光に包まれだした。
「あぁ!あるじゃないそこのフォーマーが持ってたロッド。急いで転送しちゃう!」
「おぉおおお、ゲッチュ!」
気絶しているフォーマーからロッド『ブレイブハンマー』を奪い取り
ミュはゲッツポーズを決めた。
「ブレイブハンマーは物理的強度はインドラよりあるけど
 テクニック強度はインドラ以下だからテクニックの出力うまく調整してね」
「おっけぇー、んぢゃセリカ」
ミュは手をだし
「ん?」
私はその手に勢いよく手を合わせた。
パーンっと大きな音があがり
「あと4人だーーーがんばろーーーー」
「そうね、がんばりましょ」

巨大モニターにセリカ、ミュの姿が写しだされおり
そこには赤髪、褐色の肌をもつハニュエールと紫色の装甲に身を包んだ冷たい目のヒューキャスト。
そして3人の技術者が見つめていた。
「ラグオルに近づいてNo.0285のD因子は順調に活性化してるようね」
「はい、しかもこちらの予測を遥かに上回るスピードです」
「クックック」
「?」
不気味に笑い出すヒューキャストに皆が視線を集めた。
「どうしたの旦那。妙に嬉しそうじゃない?」
「あの女、名は確かセリカ=ロウズだったな」
モニターの中で戦いを繰り広げる金髪のハニュエール。
モニター映像が追いつかないほどのスピードで移動し
鍛えぬかれた剣術でVRのトラップエネミーをなぎ倒していく。
「セリカ=ロウズ、資料で報告した通りゾーク=ミヤマ唯一の弟子で
 呪われた妖刀アギト所持者です」
「星をも破滅させるほどの呪いがあるというアギトから発せられる負の気が
 No.0285のD因子を活性化させると考えられ
 偶然に出会うように仕組まれた。っか・・・」
赤髪のハニュエールは技術者から提出された資料を見ながら言った。
「そんな事はどうでもいい。やつが強者で俺を楽しませてくれればそれでいい
 クックック・・・3大英雄の老人たちとは手合わせする機会がなさそうだからな
 ゾーク=ミヤマの弟子か、面白い」
「ちょ、ちょっと旦那。私達の仕事は!」
慌てるハニュエールをあざ笑うような冷静な態度で
「自分の任務はわかっている。しかしその後は俺の好きなようにやらせてもらう。
 横取りするなよスゥ」
呆れ顔で「まったく旦那は・・・」スゥは呟いた。

「ラフォイエ!!」
空気の渦が集まり大爆発とともにすべてがはじけとんだ。
最初の2名を倒してからずっと他の受験者と出会わずに
VR内で仕組まれたトラップエネミーと戦う連続。
時間もすでに1時間半たつ頃やっとアンドロイド2組の受験者に出くわしてミュのテクニックで
葬り去ったのだ。
視線の上に赤い文字が表示される。
「途中経過をお知らせします。ただいま脱落ペアは215組です」
「に、215組!?じゃぁ残り40組くらいしか居ないの!!」
「いや、3組倒してクリアしちゃった人も考えると40組も居ないと・・・」
トラップエネミーやピラーとかの数も多いからそれにやられたペアも居るとしても
脱落者の数多いわね。もっと簡単な試験かと思ってた・・・。
残り30分であと1ペア倒さなきゃならないからほんと時間との勝負になってきたってわ。
「ミュ急いで見つけるわよ!」
「りょーかい!」
走りながらトラップエネミーをなぎ倒し
ミュのテクニックで一掃しながら
進んでいくが一向に受験者とは遭遇せず
時間だけが刻々と過ぎていった。

「いやー絶景かな絶景かな」
眼帯をしたハニュエールは高台の上で風に身をまかせながら言う。
「でもラミアさんそろそろ時間的にも厳しいですよ?」
大人しそうなフォマール。その姿に似つかわしくない大きなバズーカーを軽々と持っている。
「だからこうやって高台まであがって、受験者を探してるだろ?
 それもこの方法を提案したのはシルビアのほうさね」
「そうですが・・・」
ラミアの余裕の態度が余計にシルビアを慌てさせていた。
シルビアが慌てるのも無理がない、残り時間はすでに10分を切っているのだから。
目を凝らし二人で神殿を上から見つめる。
しかしVRのトラップエネミーの動きのせいもあって人影はなかなか見つけられでいた。
「残り時間5分です」
最終通告のようなアナウンスが彼女をより煽り立てる。
シルビアの焦りも頂点に達しようとしていたとき
「シルビア!」
大声で呼ばれシルビアはびっくりした顔でラミアの方へふり向く。
「一箇所のトラップエネミーの動きが活発になったぞ!」
「そのエリアに誰かが侵入した?」
ラミアは頷き
「そういう事だ!急ぐぞ!」
二人は急いでそのエリアに向かった。
その場所にはトラップエネミーの残骸と二人の人影。
一人は紫髪で小さなフォニュエール。体よりも大きなブレイブハンマーを構えて
もう一人は金髪のハニュエール。凛とした青い瞳とは対照的な錆び付いたような赤茶色の刀を構えている。
二人とも息を切らし、その姿はいままでトラップエネミーと戦い続けていた事を物語っていた。
「この方たちを倒せば合格ですね」
「そうだな。相手が疲労しているとはいえこちらにも時間がない!いくぞシルビア!!」
「はい!」
ラミアは金髪のハニュエールに襲いかかった。
右手につけたフォトンクローが敵を捕らえるが、赤茶色の刀によって阻まれる。
あの疲労度で私のスピードについてきただと!?
上段中段そして蹴りなどでハニュエールに猛攻を加えるがすべてかわされ触れることもままならない。
ラミアはバックステップで後ろに飛び「フォイエ!」
左手から放たれた炎の玉は金髪のハニュエールを捕らえるが
これも赤茶色の刀によって消滅する。
一方シルビアもまた苦戦を強いられていた。
インフェルノバズーカーによる攻撃はすべて
紫髪のフォニュエールの体を覆うテクニックの磁場によって寸前で消滅し
フォイエやゾンデ、ギバータなどのあらゆるテクニックも
同テクニックによって相殺され、さらに紫髪のフォニュエールの精神力は
シルビアの上をいき、追い込まれていく。
ラミア、シルビア共に仲間の苦戦を知りながらも手助けに向かう余裕がない。
さらに二人の猛攻は気づけば守りに徹する形になっていた。
ラミアは赤茶色の刀によってその身を切られながらギリギリ致命傷だけを避けている。
この刀、ただの刀じゃない・・・。
ただのかすり傷さえ激痛を感じ、傷を受けるたびスピード自慢のラミアの動きは鈍くなっていった。
「うぉおおおお」
ラミアは相手の攻撃をフォトンクローで弾き、一気に間合いを詰める。
無謀ではあったが相手の懐に入りフォトンクローをつけた右手で腹をめがけて拳を突き出す。
そう勝利の為に。
激痛とともに地面に叩きつけられたのはラミアの方だった。
赤茶色の刀によって腹から左肩にかけて切られかなり出血しているラミアは敗北が決定的、
激痛のにより薄れる意識の中
「私が負けたのか・・・」
ラミアは転送された。
「ラミアさん!」
パートナーのリタイアを見てシルビアは戦意を失った。
「私達の負けですわね」
悔しさのあまり唇を噛み締める。
金髪のハニュエール、紫髪のフォニュエールを睨み付け
シルビアは
転送されていった・・・。

「とりあえず・・・」
「おっつー」
ミュと私はガクっと肩を落とし身を寄せ合った。
「残り時間2分切ってたし焦ったね」
「ほんと・・・最後の二人はなかなか強かったし時間間に合わないとおもったのだ・・・」
第2試験をクリアして転送された先はパイオニア2内にあるコロシアム。
普段は娯楽として力自慢のアンドロイドやヒューマンなどが戦いあったり
VRで作られたエネミーと戦ったりするパイオニア2では一般的な娯楽施設。
「説明じゃ1時間のお昼休憩もらえるみたいだし、セリカはご飯持参でもってきてるの?」
「何もないよ、ミュは持参?」
「うんにゃ〜お昼あるなんてしらなかったんよ」
「それじゃ、下に食堂あるらしいからそこにいこっかー」
「うん、GoGo〜」
今日はコロシアムを貸しきって試験会場としているらしくって
数百人を収納できる食堂には数十名の受験者しかいない
過去最低収納率かな?
私とミュはB定食を頼み席につく。
「そういえば、私達ってまだちゃんと自己紹介してないよね」
「そうだよ〜、あの時は急いでたから仕方ないけれども。まだ会って2時間くらいだもんね」
「濃密な出会い方しちゃったからもう他人って気はしないけど自己紹介しよっか。
 私の名前はセリカ=ロウズ。パイオニア2のチケットに落選して
 本当はパイオニア3でラグオルに来る予定だったんだけど
 偶然にもチケットに空きが出来たとかで当選して、この船に乗る事になったの」
「ほえぇ〜。ねっね、どこで剣術を習ったの?セリカほど刀を扱える人初めてみたよー」
「そんなに褒めないでよ照れるじゃん」
にししっとミュは笑う。
「英雄って呼ばれてるゾーク=ミヤマって人に色々教えてもらってね。
 コーラルがあんな状態になる前まではずっとゾークの元で修行してたのよ。
 これでも一応免許皆伝もらってるの、すごいっしょ!」
「それってかなりすごいじゃん!」
「私から言わせれば伝説って言われるほどの性能をもつインドラを壊すほど出力のある
 テクニック見たのは初めてだったけど・・・ミュの事も教えて欲しいな」
ミュは再度にししっと笑いながらエビフライをほおばる。
「本名はミュウ=ブリュンヒルドです。小さい頃の記憶はほとんどないけど
 いまはラボの施設で生活しるんよ。
 テクニックはインドラが壊れるほど強いのを打てたの初めて。
 今さっきの試験で急に強くなった気がするのだ」
「ラボ生活って事は研修員かなにかなの?」
「うんにゃ〜詳しい事は言えないし、詳しくは私もわからないのだ」
「それもそうね。普通部外者に詳しくは言えないわよねぇ」
「セリカはどこ住まいなん?それにご飯中にも持ってる刀のことも教えて欲しいよ〜」
私が大事そうに抱える刀をミュは興味津々に見つめる。
「家は住宅区域にある教会でお世話になってるんだ。
 この刀は『アギト』って言って。大事・・・なものかな」
「教会って事はセリカ。シスターか何かなのかに?!」
「うん、休日はシスターやってるよ」
「似合わなそう・・・」
「まてまてまて!私のシスター姿を見たいが為に教会にくる人もいるくらいなのよ!!」
「えー怪しい〜、どんな人?」
「マッチョな・・・アンドロイド・・・」
「怪しさ大爆発なのだ・・・」
食事しながらお互いの事を紹介したり
最近の映画の話やどうでもいい雑談をしながらも刻々と最終試験までの時間は過ぎていく。
でも私は気になって仕方がなかった。
このミュウ=ブリュンヒルドと出会ってからアギトの負の波動が少しづつ
精神を研ぎ澄まさないと気にもならないくらいだけど
微かに、そして確実に強まっていることに・・・。
「これより最終試験を行いますので受験者の皆様は先ほどの転送先にお集まりください」
放送に食堂にいた皆が耳を傾ける。
「時間みたいだね」
先ほどまで笑っていたミュが真剣な顔をする。
「お互い頑張ろ」
「にしし」
もう一度ミュの顔に笑顔が戻る。
でもその笑顔がこの試験で最後の笑顔になることなんて、その時は想像もできなかった。


第2試験転送時に送られた部屋にすべての受験者が集まり
ピリピリとする緊張感の中、ここまで勝ち抜いた実力者たちを誰もが意識をして、合格をその胸に誓っていた。
「これより最終試験の内容をご説明します」
奥の部屋から出てきたのは第2試験の時のレイキャストではなく。自立神経をもつレイキャシール。
肩の上にはハンターズの印であるマグの姿。
「最終試験は第2試験でペアを組んだパートナーとの模擬戦をしていただきます」
第2試験の説明の時と同じように受験者の中からざわめきが起きた。
無理もない。ここに居る受験者はいまほとんどのものが二人組みで行動をしていて
その二人組みは第2試験でパートナーを勤めたもの同士なのだから。
私もまた「嘘っ」っと口走ってしまい、ミュを見つめた。
ミュもただでさえ大きな目を見開いて無言のまま私を見つめていた。
「では、私の後についてきてください」
レイキャシールに誘導されながら私達は試験会場に移動した。
受験者たちに言葉はない。
誰もがうつむいて、涙を流しそうなほどツラい顔をしている者がほとんど。
私もあれからミュとは一言も喋ってはいない。
ミュもまた何を喋ったらいいのかわからないような顔でうつむいていた。
そんな重く暗い空気や私達の心境など無視して試験は開始される。
呼ばれたもの同士が闘技場に立ち、殺しあう。
VRの中で戦い、命を失う事はなくてもその痛み、苦しみはVR内にいるかぎり本物。
そんな苦しみをミュに与える・・・?
いまになっても想像ができない。
観戦席で順番をまつ私達は巨大なスクリーンに映し出される受験者に自分たちの姿を重ね合わせながら見ていた。
最初に試験を受けたフォマールとヒューキャスト。
モニター越しで会話は聞こえないが戦わず、涙を流しながらフォマールはヒューキャストに何かを訴えていた。
アナウンスが「戦闘を開始しない場合は両方失格としますが宜しいですか?」っと言った時
ヒューキャストは自分のコアを自分の腕で取り出し、握り潰した。
ヒューキャストの下にかけよるフォマール、そして。
二人は転送される。
2番目のフォニュームとレイマーは開始と同時に戦いを始めた。
傷つき、傷つけ、パートナーだった者と死闘を繰り広げる。
戦いは長期戦になり、精神が不安定になってきた隙をつかれフォニュームは弾丸で打ち抜かれ転送された。
戦闘による勝ち負けは合否に関係はないとの事だが。
あまりにこれはツラ過ぎる・・・。
自分の番はできればこないで欲しい。
そんな希望も虚しく「セリカ=ロウズ、ミュウ=ブリュンヒルドVR装置にお入りください」
私達の番はやってきた。
肩を並べて転送装置に入る間際
「お互いがんばろうね」その言葉はミュの顔を見たとたん、喉で止まった。
格闘場の中、私とミュしか居ない世界。
私はアギトを構え
ミュもブレイブハンマーを構える。
「試験を開始します」
アナウンスが始まりをつげる。
私達は、動けなかった・・・。
頭の中にさきほどのヒューキャストの姿を思い出す。
自決して、負ける。
そうしたい。
ミュに勝ちを譲ってあげたい。
何よりもあの子を傷つけたくはないから・・・。
「戦闘開始してください」
煽るようにアナウンスが流れ、刀を抜こうと手が震えたときミュが言った。
「セリカがなんでハンターズになろうとしたのか聞いてなかったよね・・・」
「私は・・・自分自身の為に・・・自由を手にするためにラグオルに降りなきゃいけないの」
「そか・・・セリカと同じだよ。ウチも自分自身の為にラグオルに降りなきゃいけないの
 だから、お互いここで立ち止まるのが一番いけないと思う」
ミュは少し泣きそうな顔で
「戦おう・・・二人のために」
っと言った。
試験に対する怒りやミュと戦う悲しみ、そのすべてが重なって頭の中が真っ白になった。
呆然とする私にむけてミュは
「フォイエ!」
ブレイブハンマーから放たれた火の弾は私の足元で破裂する。
「ミュ約束して。この試験二人で合格したらパートナーになるって。
 一緒にラグオルに降りるって約束して!」
ミュは無言で頷き、ブレイブハンマーはミュの精神力を帯びて発光した。
一気にミュとの間合いを詰め
抜刀したアギトは私のスピードが乗り高速の刃とかわる。
「ギゾンデ!」
ブレイブハンマーから放たれた雷の線はわたしの斬激を払いのけ幾度もアギトと雷が交差し続ける中
ミュの左手が赤く発光し炎に変わった。
「ギフォイエ!」
蛇のようにうねりをあげた炎が私に襲いかかる。
距離を取り後退するが炎の蛇は私に絡み付こうとうねりをあげた。
私は地面に手を突き「ラフォイエ」
地面が振動を起こし、地下で起こった爆発により吹き上げられた空気と砂が炎の蛇を吹き飛ばす。
フォースとの戦いで距離をあけてはいけない。
基本的なことである。
しかし、ミュとの距離は離されてしまった。
戦闘では基本的な事ほど難しく、それを実戦で行うという事は必勝なのである。
距離を詰めようと走り出す私を天空から光の刃が襲った。
体制を崩しながら1本、2本、3本と光の刃をかわすが
追い討ちをかけるようにフォイエが私を捉える。
私はフォイエに向かって、その先にいるミュに向かって走りだした。
ここで引いてはいけない!すぐ横でフォイエが爆散し皮膚が焼け
痛みから声がもれる。でも代償としてミュとの距離を私の間合いに戻す事ができた。
勢いの乗るアギトの斬激をミュはブレイブハンマーで受け止めるが
ブレイブハンマーは切り落とされ、ミュは倒れこむが
地面に尻をついた状態でミュは手を掲げ「ラバータ」
氷の刃と冷気が散乱し周囲を凍りつかせる。
後退すれば回避は出来る。けど!
私は氷の刃をすべてアギトで切り落とす。冷気で皮膚の一部は氷つき激痛を受けながらも
私は前に出てミュに襲いかかった。
ギリギリ体制を整えたミュに致命傷は与えられなかったもののアギトはミュの肩を貫き。
ミュは激痛のあまり叫び声をあげる。
アギトはミュに決定打を与えるべく、容赦なくミュの体を切り裂こうと唸るが
寸前でその動きを止めた。
ミュの体につい刺した時巨大化したアギトの負の力。
大きく脈を打ちそれに私は飲まれそうになった。
それで動きが止まったのも確かだが、
ミュから発せられた言葉にもできない恐怖によって体が止まったのだ。
殺られる。
私は直感的にそう感じた。
これ以上「これ」に近づいてはいけない。
私の第6感がそう告げている。
ミュは、ミュだったものは。私に手をむけ「メギド」そう呟いた。
避けなきゃ。そう体を動かしたが恐怖で体が緊張した私は黒い光の弾に左腕を飲み込まれた。
黒い光の弾は黒い羽を撒き散らしながら私の左腕を消し去り。
激痛により声をあげる私にミュは手を向け
「メギド」
黒い光は私のすべてを飲み込んだ。



目を覚ました私はコロシアム内のメディカルセンターで横になっていた。
目を開け、左手を見つめ
存在の確認。
いくらVRの中の出来事とはいえ未だに左腕を失った感覚が残っている。
「セリカ〜」
もうろうとする意識の中横に居るミュの存在に気がついた。
「ごめんねセリカ、途中から記憶がなくなっちゃって、セリカにひどい事したみたいでごめんね」
泣きながらミュは私に抱きつく。
ミュの温もりに私はほっと緊張がほぐれた。
「セリカ3時間ぐらい気を失ってたんだよ」
そっか、そんなに眠ってたんだ・・・。
「そうだ、試験はどうなったの!?」
「もうすぐ、全員の試験が終わるよ。全員の試験が終わって2時間後に合格発表だって」
「そっか、ミュ受かるといいね」
「なに言ってるの!二人で合格するんだよ!!そして一緒にラグオルに行くって約束したやん!!!」
「そうよ・・ね・・・」
私はそう言ってまた眠りに着いた。

私が目を覚ましたときには合格発表は終わっていて
ミュによって私達が合格したことを告げられた。
最優秀で合格したのはミュらしい。
私を倒したんだから当たり前だけど・・・
ミュは認定式の代表として直接認定書をもらうのを恥ずかしがってたけど。
なにはともあれ、ミュというパートナーもできたし、
やっとラグオルに降りれるし
これからもっともっと大変になるんだろうけど
でもきっと私達なら乗り越えられる。
お互いに爆弾をかかえてるようだけど、それも二人ならなんとかなるっしょ。
だから・・・
これからもよろしくね。ミュ。