「開放」

スタッ。
「ふぅ〜。無事着地!!」
「お、今度は顔面から着地しなかったな。」
「チッ」
「ノーサー!!その舌打ちはなんや!!!」
「ぬ。しらん。」
「っく・・・」
「まぁまぁ、ミュそんなに興奮しないで・・・」
2回目のラグオルは前と変わらず自然一杯で、綺麗で・・・
ブーマなんかが暴れてるなんて思えない。
でも、現実は総督府から認められる程のハンターズでないと調査も出来ない位、危険な場所。
「さて、昨日の続きを頑張りましょうか?」
セリカの一言で、みんな歩き出した。


「ん〜。ついちまったなぁ・・・」
「うむ、つまらん。」
目の前には転送装置。
インフェもノーサーも本当につまらなさそう。
それもそのはず。それまで全く敵に出会わなかったから。
「ここら辺の敵はもうほとんど居ないと思うよ?
 この前、掃討作戦が実施されたみたいだし・・・」
セリカが転送装置を見上げてそう言った。
「だが、このセントラルドーム周辺に繋がる転送装置は、その掃討作戦の結果見つかった物で
 これより先は調査も不十分。敵だらけって訳だ。」
「そうだね。ここから先はインフェもノーサーも思う存分暴れられるね。」
「んむ。この筋肉を思う存分発揮できるわけだ。」
「フッ。この筋肉マニアめ。また始まったか・・・」
「ノーサーうるせぇ!!この筋肉の脈動がわからんのか?ん〜〜??」
本人は筋肉をピクピクでもしているつもりなのか?
マッスルポーズでノーサーに詰め寄っていく。
「ぬ。貴様の筋肉などどうでもいい!!暑苦しいからあっち行け!!」
「んじゃー。皆さんいきましょ〜」
ウチはインフェとノーサーの間に入り先に進むことを提案した。
ウチも暑苦しいのは勘弁だからね・・・
「まぁ〜仕方ないな。俺の筋肉披露はまたの機会にするか・・・」
インフェはしぶしぶ引き下がった。


「これは・・・直接では開かないな。」
インフェが呟く。
セントラルドーム周辺地域への転送装置を出て2区画目
大きな扉が閉まっていて、ウチらは行き詰った。
「あ〜。あれあれ!!あの端末で何とかならないかな?」
セリカの指差す方向には、草やツタの緑に埋もれた機械が見えていた。
「おー。さすがセリカ!!んじゃインフェ、アクセスよろしく〜。」
ウチがそういうと
「ん?俺はそんな事できないぞ?」
なんて言ってきた・・・
「え?だってインフェはアンドロイドやん?」
するとため息混じりに
「アンドロイドと言でも出来んもんは出来ん。
 自分の内部、ミュの場合は細胞やら遺伝子やら。ミュはそんなことに詳しいか?」
首をブンブンふる。
「ま、そういうことだ。」
ん〜。なんか納得いかないけれど・・・
「んじゃー」
とセリカ、ノーサーを見ようとすると
二人とも目を逸らした。
「・・・得意じゃないけれどウチがやりますかぁ」
と端末に向かう。
するとセリカはパッと顔を上げ
「さすが〜。んじゃ、ミュ!任せたぞ〜〜」
と後ろからついてきた。

「んとー。あ〜。ん〜。うん、何とかなりそう。
 ゲートへの電力供給が止まってるから〜」
セリカがウチの肩から覗き込み、相づちをうってる。

ゾクッ

「・・・ミュ?どうしたの??」
これは・・・この嫌な感じは・・・
「みんな、敵だよ!いっぱいいるみたい!!」
扉の前にいたノーサーとインフェがそれぞれの武器、
・・・あれは、ソウルイーターとデモリッションコメット?
を構えた。
「ミュ。出来るだけ早く扉を開放しろ!
 セリカはミュのサポートだ!!」
「だな。」
「OK!二人とも暴れちゃいなさい!!」
セリカの台詞が終わると同時に敵が一斉に飛び出してくる。

多い。30匹はいる。
これだけの敵を2人で防ぎ切れるとは思えない。
「多すぎるよ。ウチも手伝わなくちゃ。」
「敵は扉を開けようとしたとたん攻撃を始めたのよ?
 ミュは早く開ける事に集中して!それに・・・」
「それに?」
「この位の敵の数だったら2人で十分よ。あ〜あ、私の出番無いだろうなぁ・・・」
「インフェ達とウチ達の間に敵がいるのに・・・
 敵はみんなインフェ達の方に行くっていうの?」
「あ〜ん。そうじゃなくて、敵がこっちに来るまでに全滅しちゃうでしょ。」
意味が良くわからずインフェ達の方を見る。
「シフタ!」「デバンド!」
ノーサーの声がしたと思ったら、2人は敵の中心に向かって走り出す。
行く手を阻むブーマ2匹をインフェのデモコメが襲う。
「ドン!ガン!!」
鈍く重たい音と共に、ブーマが吹き飛ぶ。
中心にたどり着くとノーサーが
「ギフォイエ!!」
ゆっくりと炎の渦が2人の周りで渦巻く。
「ジェルザルは要らないな・・・」
「んだ。じゃ、Ready Fight!!」
二人はギフォイエに紛れてそれぞれの敵に走り出す。

「うらぁぁぁ!」
炎の渦で怯んだゴブーマ達に対してイーターの鎌が舞う。
ひと凪ぎで複数の敵の急所を的確にとらえる。
「ギゾンデ!!」
瀕死だった敵は止めを刺されブスブスと燻った。

「ムン!ハッ!!」
炎の隙間からデモコメが飛び出してくる。
インフェが腕を振る方向に敵が吹き飛ぶ。
「フン!!」
右手だけでデモコメをなぎ払い、左裏拳がジゴブーマにめり込む。

「ぬ。」
「!?」
お互いの背後からバーベラスウルフが飛び掛るけれど
「フォイエ!」
「ハァァァ!」
相手の死角を補うようにフォローしあう。

ギフォイエの効果が終わるころには
30匹以上の敵の屍が横たわっていた。

「すごい・・・コンビネーションもバッチリやん・・・」
「ね。言ったとおりでしょ?二人はずいぶん前からタッグを組んでるからね。
 ほら、増援が来ないうちに扉を開けて。」
セリカの言葉にあわてて扉への電力パイプを接続する。

ゴゴゴゴゴ
扉が開きだした。


「ふぅ。いい感じだな」
「少々暴れ足りない感もあるけれどな・・・」
傷ひとつ無く、息ひとつ切らさず感想を言った。

「2人ともすごいんだねぇ〜。ウチびっくりしたよ〜。」
「ぬ。まぁ、なめんなって感じだ。」
「そうそう。昨日今日ハンターズになった様なお嬢さん方に遅れは取らんって事だ。」
「もう。私に少しくらい残してくれてもいいのに〜」
「にしし。ここからは未調査地帯みたいだし、セリカの出番もたくさんあるって」
「むぅ〜〜」
不機嫌なセリカをなだめつつ先に進んだ・・・


それから、4〜5回敵の群れに出会ったけれど、
ノーサーとインフェ、そしてセリカの技の前に蹴散られていった。


「今日はこれくらいにしましょうか?」
太陽が傾いて赤く染まった頃、セリカがそう言った。
「んだな。さすがに疲れた。」
「うむ。そうだな。」
「そだねぇ〜。じゃ〜かえ・・・」
ドクンッ
これは・・・敵じゃない・・・
また、自分を見る感覚の後、視覚から色が消えてノイズが走る・・・

『そジジ ジジ模様は…
 ジジジろうか?』
そして、しゃがみ込む・・・

フッと全てが元に戻る。
ウチが放心してるのに気づいてみんなに緊張が走る。
「あ、違うんよ。これは・・・カプセルだと思う。」
みんなの緊張が解ける。
「そうなんだー。じゃ、ここら辺に歪みがあるのよね?
 みんなで探索だー。」
みんなが下を向いて歪みを探し始める。
しばらく探したのだけれど一向に見つかる気配が無い。

探しているみんなを見つめながら
ウチはあの色の無い世界を思い出していた。
「そう。ここじゃない・・・こっち・・・」
何かに操られるように木が覆い茂った壁に歩み寄る。
壁に手を触れると、抵抗が無くなった。
小さな扉が開いたみたい。

壁を越えた先には何大きな柱があった。
「ぬ。何だこれ?」
「ん〜。わからんな・・・」
「ミュ、何だかわかる?」
「ん〜〜。よく解らないや・・・」
そっと触れてみる。が何も起こらない。
ウチが触っても何も起こらないことを確認すると
みんなで柱を調べだした。

「ん?なにか書いてあるみたい。」
セリカが砂を払うと何かの模様らしきものが見えた。
その中央にあるマークを見た瞬間、目の前が真っ暗になり
勝手に言葉が溢れてきた・・・
「ポ ウ ム・・・」
ヴ、ヴヴヴ、
ウチの言葉に反応するように、柱が振動し始めた。
「キャッ」
「ぬ。」
「うぉ?」
柱の模様が白く、マークが赤く輝きだす。
赤い。このマークは・・・
ヴヴヴヴヴヴヴ
振動が安定してきた。

「起動したのか?」
「あ、あれ・・・」
セリカは急に走り出した。
「ほら、これこれ、例の歪みじゃない?」
指先には空間が歪んで見えた。
「よし、取ってみるよ。」
セリカが歪みの両側から手を差し伸べ
水をすくうように歪みを持ち上げる。
「あれ??どうして?」
歪みはその場に留まり、セリカの手には何も無かった。
「むぅ〜〜〜」
ムキになって何度もすくけれど歪みが消えることは無かった。
「俺がやってみる。」
ノーサーがセリカの横から同じようにすくうけれど、結果は変わらなかった。
「インフェ、やってみて」
「あ、ああ・・・」
あまり乗り気じゃないみたいだけれど、インフェも同じようにすくう。
が、歪みが消えることは無かった・・・
「え〜。ミュで無いとだめなの?なんでなんで〜〜??」
腰に手を当て、ウチに顔をズイっと寄せる。
「ウチに聞かれても・・・それに、ウチでも駄目かもしれないやん?」
「そうだね、んじゃーやってみて!!」
「うん・・・」
ゆっくりと手を伸ばし、歪みをすくう。
パシィ!!
まぶしい光と音を上げて「歪み」が消滅した。
両手に残ったのは前と同じ。でもカプセルが2個。
「やっぱり〜。なんかズルイなぁ〜」
文句を言いながら、セリカはカプセルに触れた。

『大変なことが起きた…!
 大きい地鳴りと共に 地下から
 何かが 吹き上がってきて…

 セントラルドームで大爆発が…
 あれじゃ 中は…!

 …何を言って良いか 判らない。

 この惑星に降りて 7年、
 せっかく みんなで ゼロから
 環境を 整えてきたのに…

 いったい 何があったの?
 ここんとの異変と
 何か 関係があるの?』

「この前と同じ声・・・だね。」
「ぬ。セントラルドームの爆発って言うのは
 俺たちがラグオルに到着したときの爆発か?」
「ラグオルについて7年って言っているから、時期的には合うだろ。
 おそらくそう言う事なんじゃね?」

「もうひとつは?」
言いながらセリカはもうひとつのカプセルに触れる。

『このでっかい柱は、パイオニア1の
 移住を記念して建てられたものだと
 言われてるけど…

 そんな 最近のものとは思えないなあ。
 詳しくは、調べてないけど…

 それに この模様は…
 文字だろうか?』

「ぬ。これは、文字なのか?」
「リコは言語学の博士号を持ってるでしょ?
 そのリコがそういうのならそうでしょう。」
「しかし、こんな文字見たこと無いな・・・」

3人がが話している中、ウチは考え続けていた。
どうしてウチだけが歪みからカプセルを取り出せるの?
どうしてウチだけが敵の接近が解るの?
どうしてウチだけが色の無い世界を見るの?
どうして・・・
どうして・・
どうしてウチだけ他人と違うの・・・