「激闘」 「セリカ、ノーサー、インフェ・・・無事でいて・・・」 ラグオルに来てから持つ必要の無かった武器を右手に握り締めて走り続けている。 転送装置の傍には女性が待っていた。 「ミュウさん・・・ですね?総督の指示通り、転送先の座標を変えています。 どうか、ご無事で。」 「うん、ありがとね。じゃ行って来るよ」 と、転送装置に飛び込んだ。 転送装置から飛び出すと、そこは崖のようなところだった。 「増援?!たすか・・ってハンターズ?しかも一人だけ?? あぁ〜。もうだめだぁ〜〜〜」 泣き叫ぶ通信兵にイライラして 「ウザい!黙れ!!あんた、それでも軍人なの??情けない!! ・・・とにかく、現状の報告をしなさい。」 ウチの剣幕にビクッとする衛生兵に我に返って 落ち着いて確認する。 「は・・・はい。当初、敵大群に対し三方から挟撃を行う予定でした。 ところが敵の伏兵に合い、現在はそれぞれの小隊が孤立した状態にあります。」 「それで、セリカ達・・・ラグオルに降りる寸前に合流したハンターズ達はどの小隊にいるの?」 「え・・・あ、あぁ、あの人たちはそれぞれの小隊に一人ずつ配置されました。」 「なんてこと・・・」 こんな敵が多くて乱戦になるときは、お互いのフォローが必要になのに・・・ 崖の下を見ると言うとおり、エネミーは3つの小隊を完全に包囲し、徐々にその輪を縮めているみたい。 「・・・解りました。私は残存兵の救出に向かいます。 あなたは残っている人と負傷兵を回収しつつ撤退しなさい。」 大きく一回深呼吸をして。 「無茶です。あれだ・・・」 通信兵を無視して崖から飛び降りた。 空気がウチの体を切っていく。 「ラフォイエ!!」 頃合を見て、真下にある地面にラフォイエを打つ。 地面で爆発が起こり、数匹のエネミーが吹き飛んだ。そして爆風がウチの落下速度を緩和する。 ダンッ!! 「くぅ〜・・・何とか骨は折れなかったみたいね・・・」 涙目になりながらテクニックを放つ 「ラバータ!!」 「ラゾンデ!!」 「ラフォイエ!!」 通常より遥かに高いエネルギーを込めてテクニックを使う。 大丈夫。このエビルカーストなら耐えてくれる・・・ 「ギゾンデ!!」 退路を確保したウチは崖の上を見上げ通信兵に合図し、一番近い左の小隊に向かって走り出した。 「ギバータ!!!」 左の小隊を包囲するエネミーをなぎ払い通路を作る。 「ミュ!!来てくれたの?!」 左腕を失った仲間に肩を貸し、エネミーを切り付けながらセリカが言う。 「セリカ!!大丈夫だった??」 小隊の中心に駆けつける。 「うん。ちゃんと敵を残しておいたでしょ?」 ニコリと微笑みかけるけど、すぐ不安な顔になる。 「でも・・・どうしよう・・・」 セリカの視線をたどるとウチが通った通路は既に塞がれ、エネミーがじわじわと寄って来る。 「セリカ、伏せて!!他の人も早く!!」 ウチの声にセリカは肩を貸していた仲間を寝かせ、自分も伏せた。 それにあわせて、他の人も次々に伏せだす。 それを見たウチはエビルカーストを左手に持ち替え右手を広げ天に掲げる。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ」 右手に精神を集中させる。もっと・・・もっと・・・ パシッ。パシィッ。 右腕を中心に空気が鳴り皮膚がはじけ飛ぶ。 エネミーが限界まで近づいたのを確認して 「「「ラ ゾ ン デ」」」 ウチの掲げた手のひらを中心に凄まじいエネルギーの雷が広がっていく 「っく!!!」 手のひらを振り下ろす バチバチバチバチィ!! 一瞬光で真っ白になり、辺りに焦げ付いた臭いが広がる 「ああああああああ!!!」 さらに出力を上げラゾンデの範囲を広げる。 右腕からブズブズと煙が上がりだす・・・ 「ミュ!!もう良いよ!!!」 セリカの言葉に力を抜き、エネルギーの放出をやめる。 「ぐぅ・・・」 右腕を庇ってうずくまり、酷く火傷した右腕にレスタをかける。 「すごい・・・ミュすごいよ!!」 「・・・にしし。これだけの高出力に耐えれる武器が無いから 生身を犠牲にしなきゃだめだけれどね・・・」 フラフラとする体に力を込めて立ち上がる。 「ミュ・・・大丈夫なの??」 「うん。もう大丈夫。」 右手をワキワキして、ちゃんと動くことを確認すると、武器を右手に持ち変える。 「負傷者はすぐに崖の方に向かってください。そっちで退却準備をいています。 セリカ、行けるよね?」 セリカの頷きを確認して、右側の小隊のほうへ走り出した。 ザンッ 「よぉ、遅かったな・・・」 イーターの柄でエネミーを突き刺しながらノーサーが言った。 見ると小隊は全滅。ノーサー自身もボロボロだった・・・ 「ノルザ・・・大丈夫??」 「まぁ、こっちは敵が少なかったからな・・・殆どがインフェの方に行ったみたいだ。 あいつの小隊は隊長が最悪だった・・・インフェが忠告するのを聞かずに突出しすぎたんだ。」 「そか・・・じゃ、インフェ救出に行こう!!」 「うむ。」 「うん。」 大量のエネミーに囲まれたインフェのいる小隊の方へウチ達は走り出した。 「こ、これは・・・」 インフェがいる小隊は、目の前にいるエネミーの壁に遮られ完全に見えない。 「インフェを助けなくちゃ!!」 「うむ。」 走り出そうとするセリカとノーサー。だけれども、これじゃいけない・・・ 「駄目!!このまま行っても、インフェの所まで行けるかも知れないけれど 戻ってこられない!!」 「だったら、どうしようって言うの!!このまま見てても意味無いよ!!」 「少しだけ・・・時間を頂戴。」 また、エビルカーストを左に持ち替え、拳を握って腰の辺りに構える。 ウチの雰囲気にセリカとノーサーは解ってくれたみたいで、前を空けてくれた。 「ふぅぅぅぅぅぅぅ」 これだけ敵の層が厚いと、並大抵のテクニックじゃ突破は出来ない。 さっきのラゾンデとは比較にならないほどのエネルギーを集めだす。 パンッ。 乾いた音がして手首の辺りが弾けた。 「ぐぅぅぅぅ」 流れ出す血が蒸発する。これ以上は・・・右手が持たない・・・ 限界に達したのを確認して、ウチは拳を突き出した。 「「「フ ォ イ エ」」」 拳を広げ力を解放する。 掌から無数のフォイエがものすごい勢いで飛び出していく。 「うそ・・・」 「バルカンか?!」 一直線に飛び出した無数のフォイエは、敵をなぎ倒し、焼き尽くし、どんどんと道を作っていく。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 ウチはフォイエが飛び出す反動で体が吹っ飛びそうになるのを必死に耐える。 それだけじゃない。広げた掌の指先から焦げ始め、真っ黒になっていく。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 再び拳を握り手を上げると、特別大きな火の玉が上空に現れ・・・ 「がぁぁぁぁぁぁぁっ」 振り下ろす。火の玉も同じように動き ドンッ!! 敵の大群を消滅させた。 目も開けれないほどの放射熱。 そこには少しのエネミーと、その先にインフェが見えた。 「後は・・・お願い、ね・・・」 「うむ。」 「うん。後は私たちに任せて、ミュは休んでおいて!!」 セリカとノーサーが走り出すのを確認して、ウチは座り込んだ。 「・・・め、もた・い」 「こ・・でか」 ズキン 右腕の痛みに意識が無理やり覚醒される。 目を開けると前には敵の壁。 やっとの事で立ち上がると、インフェの姿が見えた。 「はぁ!!」 デモコメで敵を叩き付ける。が、敵は吹っ飛ぶ事は無く反撃してくる。 「クッ」 返す手で何とか攻撃を凌ぐ。 それもそのはず、負傷兵を背中、左肩に1人づつ、さらに2人抱え込むようにして 思うように攻撃できないでいる。 セリカ、ノーサーもそれぞれ負傷兵を庇いつつ敵の攻撃に耐えているみたい。 ウチが作った通路も寸断され、段々と敵が集まってくる。 「インフェ!トラップF!!」 叫ぶと一瞬の後、5個のトラップが射出された。 「ゾンデ」 中央のトラップに向けてゾンデを放つと 残りの4つも誘爆してあたり一面を真っ白にさせた。 「今のうちに!!早く!!」 助けに行こうとしたのだけれど、右腕の痛みにうずくまる。 「ぐ・・・ぅ・・・」 そしてまた意識が遠のいた。 「ミュ!!大丈夫??ノルザお願い・・・」 セリカに声を掛けられた後に、右手の痛みが少しましになった。 「だめだ。応急手当にもならん・・・」 ノーサーの辛そうな声が聞こえる。 「ノーサー・・・ありがとう。・・・インフェは??」 「おぅ。ありがとな、助かったぜ!!」 デモコメを振り回し、敵を吹き飛ばしながらインフェが答える。 敵はほとんど・・・といっても4〜50体ほど残っていて、 何とか持ちこたえているって感じみたい・・・ 「他の仲間はみんな退却したよ、後は私たちだけ。ミュ、立てる?」 何とか立ち上がるけれど、右腕に激痛が走る。 「ぐっ・・・行こうか」 セリカが左側からウチを支えてくれて、 ノーサー、インフェが追いすがる敵を何とか撃退しながら転送装置の方に進んでいく。 「大丈夫。もう、大丈夫よ。」 自分に言い聞かせるようにセリカがウチに言う。 ゾクッ また、いつもの嫌な感じ・・・ 「まだ・・・いるの?!」 急に辺りが真っ暗になる。 「え?!」 ウチのセリフと周りの急変にセリカは声を上げる。 『グガアァァァッァァ』 地響きのような声にみんな立ち止まる。 「ぬ・・・」 「なんだ!?」 「・・・う、え・・・・」 ウチが喋るのと同時に、何か巨大なものが落ちてきて地面が崩れた。 ガガガガガガガガガ!!! その何かはウチ達だけじゃなく、他のエネミーまで巻き込んで落ちていく。 「うお?」 「なにぃ?!」 「きゃあぁぁぁ」 地面の下は、ドーム状のスペースが広がっていて 思ったより深くない。・・・数メートル先にに地面が見える。 「危ない・・・ラフォイエ!!」 崖から降りたときと同じように真下の地面にラフォイエを撃つ。 4人が爆風に巻き込まれ、地面にたたきつけられることはなかった。 ものすごい土煙が上がり、周りが全然見えない。 「ミュ・・・みんな大丈夫?」 セリカはウチの左腕を握り、引き上げながらみんなに問いかける。 「う・・・ん」 「おう。なんとか・・・な」 「んだ。だけれど今のは何なんだ??」 『グガアァァァッァァ』 またこの地響きのような声が聞こえる。かなり近い位置?! サラサラサラ・・・ 声の方向に砂煙と共に空気が流れていく? ゾクッ 嫌な感じがする・・・ 「みん・・・な集まって」 声のした方向に目を向けながら何とか声をだす。 ズキッ、ズキッ 右手が悲鳴を上げる 左手を正面に掲げ、エビルカーストに意識を集中させる。 ゴオオオオオォォォォ 砂煙をかき分け、熱気と共に巨大な炎が襲ってくる。 「くぅぅぅぅぅぅ」 魔法障壁を発生させ、全員をカバーする。 炎自体は何とか回避できるものの、熱は防御しきれない・・・ 精神が途切れそうになる瞬間、熱気が和らいだ。 ウチの後ろから、フリーズとラップとギバータでフォローしてくれてるみたい。 何とか炎をやり過ごすと、砂煙がはれ敵の姿が明らかになった。 「ど・・・ドラゴン??」 体の芯に響くような雄叫びがセリカの呟きをかき消した。 『グガアァァァッァァ』 ビリビリビリビリ 空気が痺れる、それだけで吹き飛びそうな振動が辺りの空気を凍らす。 ブン!! 音を聞いたときにはウチら4人は吹っ飛ばされていた。 壁に叩き付けられて初めてそれがドラゴンの尻尾だってわかった。 「だいじょ・・ガフッ」 みんなの無事を確認しようとしたのだけれど、吐血。 もう駄目・・・ このままじゃ、みんな殺される。 ウチはどうなっても良いから・・・ セリカ、ノーサー、インフェだけは何とかして助けないと 意識が途切れる寸前に、ウチはウチに助けを求めた。 「ふふっ、ふははっ、あ〜っはっはっは!!」 意識が朦朧とする中、私はミュの笑い声を聞いた。 それに呼応するように私の右手の剣、アギトの負の波動が 今までに無いくらい強く反応している。 「ふふふ。これがラグオルか・・・流石だのぉ、何をせずとも力が集まってくるわ。 これなら二度と乗っ取られる事もあるまいて。」 口から血を撒き散らしながら、ミュが叫んでいる。 「この様な下衆に遅れを取るとはなぁ・・・ さっさと妾に明け渡せば、こんなになる事もなかろうに・・・」 エビルカーストを投げ捨て、目を瞑る。 すると、一瞬のうちに爛れてボロボロになった右手が元に戻った。 治った右手で口元を拭うと 「さぁ、そこの蜥蜴。妾への数多の狼藉、死して償え。」 とんっ、と地面を蹴ると、十数メートル先のドラゴンの前にいた。 「ふっ、蜥蜴や・・・鈍いのぉ。」 ドラゴンの右足に手を寄せるとスッと腕を上げた。 すると右足が大きく膨らみ、爆ぜる。 『グギャァァァァァ』 殆ど骨だけになった足は、体重を支える事が出来ず倒れこむ。 ドラゴンはミュを睨みつけ、自分の体を燃やすのも構わずに炎を吐く 「なんじゃ、それは。そよ風にも感じられぬのぉ」 そう言いながらミュは炎の中を平然と歩いていく・・・ 楽しそうにドラゴンの首の辺りをソッと撫でると 撫でたドラゴンの首から氷の槍が幾つも突き出す。 『グガガガガガガァァァァ』 口から血の泡を撒き散らしてドラゴンが啼き叫ぶ ミュは不満そうな顔をして、ドラゴンの顔の方に手を向ける 「些か、煩いな・・・」 と、言い切らないうちにドラゴンの首から先が消えた。 あ、あれは・・・ハンターズ最終試験で私がミュから受けたメギド。 通常の生態活動を停止させるというものではなく、存在そのものを消し去る・・・ 「ふん。醜く吹き飛ぶがいい」 巨大なドラゴンの体のあちこちが大きく膨らみ弾ける。 さっきと同じ・・・あれは・・・体の中でラフォイエを発動させてる?? 一際大きな爆発がおき、ドラゴンの体はただの肉片になった。 「あ〜っはっはは、何と脆い!生きてる意味もないわ!!」 返り血を浴びて真っ赤に染まったミュを見てゾッとしていると ふと、目が合った。 次の瞬間、ものすごい苦しさと共に体が持ち上がった。 「ぐっ、ガハッ。」 いつの間にか目の前にいたミュが細い右手一本で私を持ち上げ、不思議そうな顔をしている。 「ほぉ。まだ生きているのかぇ・・・」 必死にもがくけれど、右手の戒めは外れそうも無い。 「まぁよい。すぐに楽にしてやるわ」 どろり、と濁った目が嬉しそうに微笑むとギリギリと首が絞まっていく。 意識が朦朧として、目の前が涙で滲む・・・ 「ミュ・・・」 やっと一言喋った瞬間、首への締め付けが止まった。 「セ・・・リカ・・・・」 ミュの目に光が戻り私の顔を見る。 「・・・ダメだ・・・ょ」 そう言うと、フッとミュの視線が私の右手に落ちた。 スッ。アギトが勝手に動きミュの体を貫いた。 戒めが解け、倒れこむ。 咳き込んでいると、ミュはフラフラと2、3歩後退る。 「こ・・・これは、何故じゃ?何故・・・力が吸い取られる??」 アギトを抜こうと柄に手を伸ばす。 バチィ。とアギトから強い光が放たれる。 「ぐあぁぁぁぁぁぁ。」 バチバチと火花を撒き散らしながら、ゆっくりと体からアギトを抜きさる。 ミュはアギトを投げ捨てながら倒れこんだ。 「ぐぅ・・・忌々しい剣め・・・妾の取り込んだ力を根こそぎ・・・」 それきり、ミュは動かなくなった。 「ミュ!!」 慌てて近寄り抱きかかえる。 「あぁ・・・大丈夫だ・・・血は止まってるし、息もある。」 そっとミュを横たえると、ノルザとインフェを探した。 「ノルザ!!インフェ!!」 2人が飛ばされた方に走り寄る。 意識は無いみたいだけれど、2人とも生きてる。 「よかった・・・」 体から力が抜け、その場にへたり込んだ。 しばらくすると、上空から低い振動音がした。これは・・・降下艇だ!! 「今頃、増援ですか・・・」 フラフラと立ち上がり、アギトの方へ向かう。 そう、これは他の人に触れさせるわけにはいかない・・・ アギトの柄を掴もうと手を伸ばすが、慌てて引っ込める。 「こ・・・これは・・・」 アギトの刀身が脈動し、凄まじいほどの負の波動があふれ出してる。 アギトに触れないように鞘に収め、呪術的な封印を施す。 「っく」 それでも負の波動があふれ出しアギトに触れる部分がビリビリする。 「疲れてる身には辛いなぁ・・・」 自嘲気味に笑うと降下艇に向かって手を振った。
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