魔道士の黙示録 解説

★表紙折り返しより★
「儀式で呼び出したのか? そんな術、聞いたこともねぇぞ!」叫び声とともに、無法召喚士は闇の中に消えていった。
 黙示録−−。
 かつて強大な魔力を誇った魔道士が、その秘術の数々をしたためた伝説の魔道書。その封印が解かれるとき、世界は終焉を迎えるという。
 黙示録の力を我がものにしようとする魔の眷属の襲撃に、なすすべなく捕らえられてしまった召喚術師イエル。神官戦士の修行を続けていたウェンディは、果敢にもイエル救出に向かうが?
 大人気カードゲーム『モンスター・コレクションTCG』の六門世界を舞台に、迫力の召喚バトルが繰り広げられる。パワーアップ・カードセット『魔道士の黙示録』を小説で楽しむ、モンスター・コレクション・ノベル第二弾登場!

 ・・・タイトルをパワーアップ・カードセットと揃えた、モンコレ・ノベル第二弾。書き下ろし長編は、モンコレ・ノベルではこれが初めてだ。

●登場人物(いないキャラは、前巻参照)
イエル・チェトケル
(男/28歳/召喚術師)
 本編主人公・・・しかしこの第2巻からすでに、主人公としての地位が危ぶまれ始める。
 前回の冒険で片目を失い、ますますアウトローっぽくなった。基本的に、初期状況での変化は少ない。詳しくは「戦慄の破壊神」解説参照。

ウェンディ・ディムズベル(女/17歳/神官戦士見習い)
 本編ヒロイン。
 前回足手まといでしかなかった自分を恥じ、神官戦士を目指して特訓中。イエルに借金を返しつつ、なんとなくこのアウトローな大人の男が気になるお年頃。

エルリク(男/11歳/ストリート・キッズ)
 聖エルド教会の孤児院で育つ、やんちゃな少年。
 活発でいたずら好きな少年で、ウェンディとは仲良し。都会育ちのおっとりしたウェンディに、いろいろ悪知恵を授ける一面も。
 幼いながら召喚術の才能を見せ、若干我流ながらも召喚術を扱う。

モレアス&ガース(男/32歳&37歳/司祭&神官戦士長)
 聖エルド教タージケント教会の司祭と、神官戦士長。
 ウェンディたちを見守る、物わかりのいい柔軟な大人。優秀ゆえに、地方に飛ばされたらしい。
 モレアス司祭はウェンディに神と人の道について説き、ガースは神官戦士の訓練を行う。ともに優秀なエルド教徒である。

フィリア(女/?歳/無法召喚士助手?)
 無法召喚士デルピエロの助手。
 おっとりした美女で、デルピエロを「様」付けで呼び、慕っている。行方をくらませたデルピエロを探すために、ウェンディらに協力する。

ベルフェンディータ・リュフティ(女/?歳/召喚術師)
 イエルの師匠を名乗る、妖艶な黒髪の女召喚術師。
 サザンの召喚術師組合の正式召喚術師らしいが、怪しい行動、言動が目立つ。その扱う魔物も、アンデッドを中心とした魔の生き物ばかりである。
 黙示録を求め、暗躍する。

アズライル(男/約50歳/ダークエルフ)
 黒き獣の一族を束ねる、ダークエルフの長。
 長となるための片落としの儀式により、右腕がかぎ爪の義手になっている。
 ダークエルフ一族のため、黙示録を求めてイエルたちを襲う。

●舞台
 六門世界の中でも、風のエレメントが強い東の地方、モーングロシアが舞台。
 風のエレメントの影響で、この地方は乾燥し、いつも強い風が吹いている。そのため作物は乏しく、まとまった国はなく、部族社会が中心となっている。
 ただ反面、古代帝国時代の遺跡などは数多く残っており、そこより古代の宝を探し出す遺跡荒らしたちにとっては、楽園ともいえる地だった。
 空中都市タージケントや、遺跡都市フューレンなどが、その代表であり、冒険者から行商人まで、様々な人々が自由に行き交う地方である。

●北沢の雑感(ここよりネタバレあり)

○気がつくと生まれた第2巻
 第1巻である「戦慄の破壊神」の販売実績は、実はそれほどいいものではなかった。当時出版バブル崩壊直後で、そうした出足の悪い作品に対する風当たりは強く、この2巻の成績如何では、シリーズ閉鎖すら危ぶまれていたらしい。
 ともかく、当時それなりに逆風を受けての執筆準備ではあった。
 しかし反対に、ドラゴンマガジン誌で連載しようという提案も編集部から出たり、モンコレという題材そのものの力はそれなりに強かったようだ。ただイラストレーターである四季童子さんが、すでに「フルメタル・パニック」の連載に起用されていたことなど(他にもいろいろ理由はあったが・・・)を原因に、連載は見送られた。
 当時のドラゴンマガジンを読んでいた方ならご存知かもしれないが、「戦慄の破壊神」連載終了の次の号から、「フルメタ」は始まっている。このあたりからも、編集部の内心として、モンコレ・ノベルは1回きりのやりきり企画だったと推察される(もちろん邪推かもしれないが)。
 そんなこんなで、北沢は結構精神的にヘコんでいた。だが角川スニーカー文庫で進めていたオリジナル企画がその直前にポシャッていたため、もはやここに賭けざるをえないというプレッシャーも、同時に感じていたのを覚えている。

○タイトル「魔道士の黙示録」
 モンコレ・プレイヤーの方なら「おや?」と思われたかもしれないが、追加パワーアップ・カードセットと名前が一致していないのは、第1巻「戦慄の破壊神」だけである。これはまだTCGという商品を把握しかねていた当時の富士見書房の代表的な感覚なのだが、「本屋で注文するとき、小説のつもりがカードが出てきたらマズイ」という判断でセット名と書名を同じにしなかったのだった。
 が、結局それではタイアップものなのになにの小説やらさっぱりわからんということで、2巻目からはセット名と書名を統一するようになったのである。
 ちなみにこれらのタイトルは、カード・セットを制作するさいに、ゲームデザイナーの加藤ヒロノリが提案、安田が決定というプロセスを踏んでいる。その際、実は小説のことはカケラも考えられていないというのが、北沢泣かせのひとつの原因であった。
 その結果、2巻目はタイトルが先に決定してから小説執筆ということになり、黙示録を話の中に落とし込まなければならなくなるわけだ。「大きい話はイカン」というシリーズ開始当初のコンセプトをあっけなく逸脱し、2巻目にして早々に、世界滅亡なるキーワードが出てきてしまった。なにかと北沢は世界滅亡に絡む巨大な話好きと思われがちだが、この際はっきり言っておこう。
 俺のせいじゃない。

○プロッティングとキャラクター
 ともあれ、話を考えなければならないわけで。
 どうするべきか、北沢はうなった。なにをうなったかって、ウェンディとイエルの関係である。
 実は第1巻執筆当初、ヒロインはゲストとして、毎回入れ替えようかと考えていたりした(それほど、シスター案がいやだったらしい)。なので、この2巻でもウェンディを出すかどうか、しばし葛藤があった。
 が、やはり1巻のおまけに付けた短編の存在が決定打となり、ウェンディの続投が北沢の中でも確定した。
 編集部的には、ヒロイン交代など、みじんも考えていなかったようだが。
 そんなわけで、ウェンディを絡めた上で、話を考えることとなった。そこで一番最初に提出した案では、(ストーリー的には変わらないが)ウェンディが敵にさらわれて、イエルが助けに行くというものだった。
 実はこれ、あっけなく会議を通過したのだが・・・イエルがウェンディを助けに行くには、いささか根拠が薄弱な気がしたし、さらわれたヒロインを主人公が助けに行く話ってのも、ありきたりでイカンだろうと、北沢は勝手に立場を逆転させ、しかもウェンディを神官戦士にしてしまったのだった。
 そもそも助けられるのを待つだけの弱いヒロインってものが、北沢は好きではない。自分で何もしないくせに、「助けて」と叫ぶキャラクターを、ヒロインには置きたくないのだ。その結果、結局ウェンディは戦うヒロインとなってしまったわけ(典型的北沢ヒロインへの転生である)。しかしこれで、北沢の中で「ウェンディって、案外かわいいじゃん」という気分が生まれたのは大きかった。
 この段階で助けを待つヒロインにしていたら、きっと北沢はウェンディを好きになることはなかったと思う。それから誤解がないように言っておくと、1巻の段階のウェンディも、もちろん好きだ。だが2巻でのウェンディは、「かなり好き」なのである。うむ。

○女神官戦士と斧
 どこかでコメントした気がするが、実は北沢的に、上半身甲冑、下ロングスカート、武器は斧という女戦士(神官戦士)スタイルはかなり好き。そのあたりも、新生ウェンディを好きになった要因だろう。結構衣装デザインにも、注文をつけた記憶がある。
 これ、実は学生のころにやっていた「デス・ブリンガー(日本テレネット)」というRPGに登場するシティアという女僧侶に斧を持たせたことが原因らしい。このゲームはコンピュータRPGにしては珍しく技能制を導入したゲームで、自由にキャラの成長を操作できたのである。結果この女僧侶は、最終的にパーティ最大の攻撃力を持つ主戦力として成長した(主人公よりも、圧倒的に強かったあたり、運命はイエルにも似ている・・・)。

○新キャラクター
 新しい巻に進んだこともあり、新キャラも出そうと画策。ここで北沢的には、「やはり怖いオネエサマは出さねば!」と思い、あっけなくベルフェンディータというキャラクターが完成した。
 イエルに入れ墨を施した張本人であり、〈魔〉の召喚術師であり、正規の召喚術師組合幹部。年齢不詳の妖艶な魔女。たまりまへんなぁ(笑)。しかもまだ多感な思春期真っ盛りの頃にイエルの師匠となって、あれこれ教え込んでいるんだから、ステキ。
 ちなみに結局明言しなかったけど、第1巻でデルピエロにジャッジメントを強奪するよう命じたのも、実はこの女である。2巻の冒頭でどことなく親しげな雰囲気なのは、その関係から。まあ普通、読者にはわかんないよね。ゴメン。
 それともう一人重要なキャラクターとして、エルリクの登場があげられる。
 1巻の解説でも書いたが、本来イエルの子供は娘のはずであった。が、なにがどうなったのか、やんちゃ少年に。理由は明確に思い出せないのだが・・・ウェンディ一人では冒険に対応し切れまいという発想から、お助けキャラとして考え出したような気がする(曖昧だなぁ・・・)。
 それとデルピエロ・サイドの代弁者として、隠れた人気キャラ、フィリアも登場。キリっとした理知的秘書系キャラ案と天然ボケ案の2案あり、自己主張が強くなりすぎそうだという理由から、天然ボケ案にした。結果として、これが出番のくせに人気は高いというキャラになった原因だろうと分析している。
 ちなみに北沢の過去の経験から、金髪ロングの口数が少ないボケ系キャラは、出番が少なくても人気が出ると思われる(ワンドラのアリル・エリルなどが代表。あれほど出番が少ないのに、二人合わせたときの人気は1位を上回っていた)。
 それとこれは第1巻のときに書き忘れたが、プリスは本来、死んだままのはずだった。が、デルピエロの〈レイズデッド〉を〈カウンター・リチュアル〉で跳ね返しておきながら、プリスを生き返らさないはずはあるまいという理由から、プリスは一命を取り留めたというわけ。ある意味、この2巻にはいないはずのキャラだったのだ。
 最後にダークエルフのアズライルだが・・・こいつ、もちろんカードで言うところの〈隻眼の皇太子〉である・・・が、イエルも隻眼なので、「片目が二人はイカン」とボスの鶴の一声で却下。目以外のどこかにしろ、と言われたのだが・・・。
 片耳でも片鼻でもヘンだし、どうしよう・・・と考えた結果が、隻腕であった。自分で言うのもなんだが、まあこれはこれでうまくいったのではないだろうか。片落としの儀式とか、設定的にも悪くないと思うんだけど・・・以降の他の著者の作品にまるで反映された形跡がなかったのは、寂しかった。
 それとダークエルフの設定も、「闇に染まった邪悪なエルフ像はありきたりやからやめよう」とボスが言い出し、純粋にエルフの黒人種ということになっている。エルフより少しマッシブで、肉体派ということやね。その分寿命が短くてワイルド(しかも基本的に小規模な部族社会)。アズライルなどはそのあたりうまく表現できていると思うのだが・・・やはり後発の他作品にその設定が生かされている形跡はない。
 なんでやねん・・・と思ったことは黙っておこう。

○隠れテーマと恥ずかしい話
 実はこの2巻、ウェンディを話の中心に置いた段階で、北沢の中であるテーマが生まれていた。
「気になるんだけど好きだと自覚はできず、でもだから素直になれない少女が勢いから心にもないことを言って後悔しちゃって、ドジったりしながらもどうにかしようとがんばる少女漫画的お話」である(長い!)。
 第1巻がハードボイルドを目指していたとは思えない、この180度転換ぶり(笑)。まさしくカッコワライである。
 がまあ、当時「こどものおもちゃ」などにややハマっていた北沢は、ちょっとこのテーマが気に入っていた。執筆のモチベーションも、メキメキと上昇したものである(苦笑)。
 そして第1稿を書き上げた直後の、JGCの打ち上げにて。
 なぜか大先輩である水野良先生と会社の女子と3人だけで茶を飲むことになり、そこで最新作の話になったのだが、そこであらすじを”口頭で”説明させられたのだ!
 はっきりいってゴツイおっさんが喫茶店で女の子横に置いて口頭で「少女漫画的恥ずかしい話」のあらすじを説明させられるのは、すさまじい羞恥プレイであった。実は以前、SNEの事務所で、やはり口頭でソードワールド短編の第1作目のあらすじを説明させられたことがあるが・・・水野さん、ひょっとして狙ってます?
 文章でならいくらでもクサイ話や恥ずかしい話はできるが、口頭はつらいッスよ。

○フェンリルとイエル
 さて、話はずばーっと飛んで、ラストシーン絡み。
 イエルは地形の召喚を封じられている代わりに、リミット制限を越えた召喚が出来るという設定は、実は第1巻のころからあった。それを具体化するシーンとして、ラストの戦闘シーンを演出したわけだ。フェンリルと黒い翼の天使が同時に召喚できれば、そりゃ強いもんね。
 しかしモンコレ・プレイヤーの方ならおわかりと思うが、結局ゲーム的にはそれができないことになった。まったくもって、ゲーム小説は難しい。

○結局黙示録ってなんなのよ?
 ぶっちゃけた話、北沢にもよくわからない(オイ!)。
 とりあえず、古代帝国の滅亡を元に、世界の終末を予言した書物・・・かな? 書かれたのは、古代帝国期の次の暗黒時代と思われる。いくつもの写本、疑典、外典があり、著者も様々。すごいものからショボイものまであるらしい。
 なお、儀式スペル・カードとして登場するアポカリプス#1〜4は、その中でも超強力なもの。強引に終末を引き起こす力を持つのか、ともかく世界をリセットするほどの力を秘めていたらしい。

○なんとなく、まとめてみる
 ともあれ、第2巻はウェンディの成長(精神、肉体ともに)とイエルの過去ばらしという2本の柱が、結構うまくいった巻となった。2巻の発売とともに小説もほどほどに売れ始め、ほっと胸をなで下ろしたものである。
 この2巻目で、以降のシリーズの方向性も、ある程度固まったと言える。そしてイエルは、どんどん主人公の座から転落してゆくのである・・・ああ(涙)。
 ちなみにこのあたり、全然計算じゃありまへん。すまんのう、イエル。おまえはかっちょええハードボイルド・キャラの予定だったのに、すっかりダメな大人にしちゃって。
 ともあれ、物語は「空中庭園の降臨」へと続いてゆくのであった。

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