黄金樹の守護者 解説

★表紙折り返しより★
 
大いなる癒しの力を秘めるという”黄金樹”伝説。その枝ひと振りで、あらゆる病に苦しむ人々を救えるという。
 謎の奇病に倒れたタージケントの人々を救うため、イエルたちは伝説の残る北の大地へ向かう。
 その頃、城塞都市バルティスでは、不可侵の土地”黄金郷”を奪おうと、軍を動かしていた。バルティス軍と黄金郷の勇者との戦闘に巻き込まれたイエル一行。さらに、ウェンディは黄金郷に連れ去られてしまう。
 召喚術を封じられたイエルは、ただひと振りの剣のみで、超人的な力を持つ勇者との決闘に挑む! ”黄金郷”はいずれの剣士に奇跡を与えるのか!?
 大人気御礼! モンスター・コレクションTCGの六門世界を舞台に召喚札が飛び交う冒険ファンタジー第四弾。

 ……的確に内容を要約しているような、微妙にニュアンスが違っているような……。でもなんとなくおもしろそうだから、いいよね(^^)。

●登場人物(いない人物は、前巻の解説を参照)
カイン(男/約20歳/黄金樹の勇者)
 黄金郷を守護する、伝説の黄金樹の勇者。
 熱血で単純で直情で荒っぽい。口も悪く態度もでかいが、根はいい奴で不器用。ガキ大将がそのまま成長したような男である。
 一途で元気系の若者だったためか、全シリーズ通してもかなり人気の高いキャラ。原案の安田も気に入っていた。もちろん北沢も気に入っている。
 一応人間らしいのだが、その能力はドラゴンにも匹敵するほどの超人である。

フォラフスキー男爵(男/30歳/狙撃部隊隊長)
 バルティス王国軍、狙撃部隊隊長。
 ゆったりした口ひげに葉巻たばこがよく似合う、ダンディな男。その部下はなぜか女性兵が多い(バルティスは女王が治める国だけに、男女同権である)。
 女王に対する忠誠心は強いようだが、常にうさんくさい雰囲気が付きまとう。その正体は……。

レスタシア女王(女/???歳/雪の女王)
 バルティス王国を治める、雪の女王。
 しかしその実体は人間ではなく、冷気と雪のスピリット(精霊)である。
 本来彼女は人間の国を治めたりするような存在ではないが、極寒の山”氷刃山”周辺に暮らす人々にあがめられ、いつしか女王となった。いわば崇拝の対象であり、政治には基本的に関わっていない。
 走り出した軍部を止められず、イエルらに助力を乞う。
 スノー・ホワイトと呼ばれる雪の精の三人娘を持つ。

ゴバル・ラーキン(男/54歳/軍師)
 サザンよりバルティスに流れてきた軍師。
 かつては闘技場時代にイエルらのパトロン(後援者)だったことがあり、その残忍さから”禿鷲”ゴバルと呼ばれていた。
 自分を失脚させたサザンへの復讐のため、黄金樹の力を求める。

シディア(男/16歳?/召喚術師?)
 ゴバルについてやってきた、召喚術師の少年。
 実はただの少年ではなく、その体には重要な秘密が隠されている。それは、ある人物の陰謀と実験の産物なのだ……。

シェムリー(男/約100歳/黙示録のウォーロック)
 黄金郷を守る者たちの長。
 あらゆる魔術に精通しており、カインを見つけて育てた、育ての親でもある。
 世界各地にまだ残るとされる黄金樹を探し求め、旅をしていた。現在はバルティスにほど近い森の黄金樹を守るため、暮らしている。
 ……ちなみに著者すら名前忘れてた(爆)。

●舞台
 今回の舞台は、雪の王国バルティスと、黄金郷。
 雪に閉ざされ、貧しいバルティスの国民は、しかし雪の女王の元で平和に暮らしていた。そこへ野心を持った男ゴバルが現れたことで、事態は一変する。豊かな自然溢れる黄金郷へと、侵略を開始したのだ。
 イエル編では初の、大規模な戦闘。黄金郷の運命を握るのは、勇者か、軍か、それとも召喚術師なのか。

●北沢の雑感(ここよりネタバレあり)

○すったもんだの執筆開始
 3巻の「空中庭園の降臨」あたりから小説も好調になり、当然のようにやってきた第4巻の話。だがこのとき、北沢は作家生活始まって以来の多忙状態にあった。
 まず、引っ越し直後。生まれて初めてのひとり暮らしである。
 さらには、角川スニーカーでオリジナル長編「ギィル・ブレイド」の第2巻。妖魔夜行短編。そしてJGCの準備。
 そこへモンコレ・ノベルである。
 しかも本来なら加藤が書く予定だった「モンコレ・クイズブック」がこっちへ流れてきて、夏を挟んですさまじいスケジュールになってしまったのである。
 さすがに頭から煙を吹いて、「たぁすけてくれーっ!」と叫んだ記憶が……。
 ちなみにそんな悲惨な状況で書いたギィルの2巻は、総ボツになっている(涙)。発売時期が合わないのは、そういう理由ですわ。ははは……。

○大人気の”勇者”様!
 すさまじくドタバタした執筆スケジュールではあったが、どうにか滑り込みセーフで〆切死守。そんな中で生まれた意外な人気キャラが、”黄金樹の勇者”ことカインである。
 このキャラ、いまだに再登場を希望する声も多く、その人気ぶりが伺える。実はあんまり深く考えず、肩の力を抜いて出てきたキャラなので、「あんまり考えないほうがいいんじゃ……」といつも思わせてくれるいいキャラである。
 ゲーム的には、ドラゴンと同じレベルのスゴイ人間で、「タイプ:黄金(当時はタイプの概念はなかったが……)」の装備品を3つまで装備できるというステキなユニットだった。黄金アイテムはこのときすでにいくつもあり、その組み合わせを考えるのが楽しかった。初登場時は《黄金の仮面》《黄金の剣》《黄金の鎧》で、峠で斬込部隊と戦ったときが《鎧》《鎧》《楯》。
 ちなみにイベントなどで「勇者の《黄金のコルセット》を装備したところが見たかった!」と言われることがあるが、それは読み込み不足というものである。イエルが剣の練習をしているときに、月をバックに現れたカイン(イラストあり)のシーンこそ、カインはコルセット装備なのである!
 ほら、セリフにあるでしょ。「路地裏(リミット3)だろうが場末のカジノ(最低リミット2)だろうが、どこでも通り抜けられる」って。勇者は6レベルだけど、このときカインはコルセットで3レベルに変更、仮面×2で−2レベルして、実に1レベルになっていたのだ。
 これは簡単に気づいてもらえると思っていたのに、案外誰も気づかなかったらしい……ちと悲しかった。

 なお、黄金樹の勇者は、当時ガンスリンガーでも人気があった。敵本陣で全装備品を爆破する《ファイナル・ストライク》をかまし、自分は《レジスト》で生き残る。まさに爆炎の中で勝利の笑みを浮かべる勇者。かっこいい。
 決まったこと、ほとんどないけど(爆)。

○登場人物のネーミング
 実はこの巻ほど、適当にネーミングした巻はないかもしれない。
 その最たるものが、フォラフスキー男爵とジェノ将軍である。
 モンコレ・ファンならばご存知とは思うが、この二人も元になったカードがある。フォラフスキー男爵が「狙撃部隊のほらふき男爵」で、ジェノ将軍が「斬込部隊の虐殺将軍」だ。フォラフスキー男爵はもちろん「ほらふき」のもじりだし、ジェノ将軍は「ジェノサイド(虐殺)」である。傭兵部隊のキリエフも、元はマーセナ(マーセナリー:傭兵)という名前だったが、これは原案の安田によって書き換えられてしまった。まあしょうがないか。
 しかし北沢本人としては、ジェノ将軍はともかく「フォラフスキー男爵」が通るとは思わなかった。関係者全員が「絶対ダメって言われるに決まってる」と言っていたのにね(笑)。
 ちなみにゴバルやシディアなどは、なんとなく語感から。カインは、たぶん勇者王ガオガイガーの「カインの遺産」からではないかと思われるが、明確に意識はない。黄金勇者なら、ゴルドランなんだけどね。懐かしいなぁ。

○落とし込むのに案外苦労した、人間ユニット
 今回のセットである「黄金樹の守護者」のテーマは、”キャラクター・コレクション”であった。初登場の「人間」ユニットと、これまた新要素である「召喚術師カード」の登場である。
 人間は基本的に、職業や軍隊の種類でユニット分類されており、セットの大半を占める。つまり、人間ユニットを小説の中に落とし込まないと、セット合わせの小説っぽくならないわけだ。
 その結果、なんだかイラストは南国風なのに、雪国でラプターだのダチョウなりを登場させるという無理矢理なことになり、個人的には複雑な心境だった。雪国生まれのノーザン・ラプターなんて、生物学で考えれば不自然極まりないもんな。こういうときファンタジーは便利だ(オイ)。
 でもそれなりに、人間ユニットは活かせたように思う。ヴジャドの暗兵や盗賊など、うまい具合に話に織り込めたのではないだろうか。戦闘シーンも、ちゃんとモンコレルールに準拠しているし。暇な人は、戦闘がどういう手順で解決されているか、解析するのも楽しいかも。

○召喚術師カードの登場
 以前から噂はされていた、召喚術師カードが登場したのもこのセットからである。
 これにより、登場人物の能力がある程度規定された。北沢の小説からも、イエル、デルピエロ、ベルフェンディータの3人がカード化。しかしテスト・プレイ時に北沢が大暴れしたせいで、イエルの特殊能力は原作通りにはならなかった……やっぱフェンリルと黒い翼の天使が同じ地形にいられるのは、無茶だったか……。
 しかしこの召喚術師カード、なにがつらかったって、その出現頻度である。モンコレのファースト・セットを除けば、コンプリートするのにもっともたくさん買ったセットとなった。しかも召喚術師がそれぞれタロットに対応しているんだけど、これで占いした人いる? ある意味豪華だよねぇ。

 ああ、タロットで思い出した!
 そう。なんと話の中に、タロットの雰囲気も落とし込めと注文されたのだ!
 関係ないやん、話と直接……。
 でもまあ、本文を読んだ方はご存知かと思うけれど、ちゃんとそういうシーンがあります。タロットの原型になった”タロック”というゲームまで調べて遊んでみたりもしたんだよねぇ。本文にはなんら影響してないけど(爆)。
 なお、北沢はタロットにはそんなに詳しくありません。ジョジョ第3部を読むと把握できる程度かと(オイ)。

○がんばれお嬢様
 たいしたことじゃないけれど、この巻のアーシェラは個人的にかなり好きである。子供相手にカードでムキになったり、病気を隠したり、《飛び跳ねるベッド》で盗賊を撃退したり。ウェンディとアーシェラのどっちか選べって言われたら、個人的には相当悩むな。しかしやっぱりいつも一緒にいるウェンディを選んじゃうんだよなぁ、イエル。それが現実なのね。

○毎回むかれるヒロイン
 これまたどーでもいいけど、ウェンディは毎回裸にひんむかれる(空中庭園では、なかったような気がする)。かつて北沢が中学〜高校生だったころ、カラー口絵にエロいイラストがあると思わず手にとってしまった経験からの演出だったりもするが、このシリーズでは1回もイラスト化されていない。ちょっと寂しい……って、演出じゃなくて好きなだけじゃないのか、オイ。
 そして今回も、むかれる。感情の高ぶりを押さえられず、思わず力任せにカインがひんむいてしまうのだ。メッチャ好きなのに、振り向いてもらえないどころか「イエルさ〜ん」なウェンディを自分のものにしたくて。
 わかるっ、わかるぞその気持ちっ! そしてその結果、すべてを台無しにしてしまうのだっ。ううう、かわいそうなカイン……そんなところも受けたのかなぁ。違うかな、やっぱり。

○ラスト・バトルへ
 イエル対勇者、アバドンなどと見せ場は満載だが、やはり個人的に意味深なのは、シディアと《赤き死の天使》の存在である。
 気づいている読者がどの程度いるかは不明だが、シディアはもちろんベルフェンディータの作品である。これらの実験が元で、以後の「人造聖女計画」が動き出すわけで、実は結構重要なキャラクターなのである。
 シディアはようするに、偶発的に自己の魂を分割してしまったイエルを見たベルフェンディータが、自らの手でそれを作り出してみたくなったがゆえの作品である。つまりは量産型イエル。
 またこのとき、ウェンディをユニット・カードとしてデザインされていたので、それも小説の中に落とし込んでみた。例の”光の波動”である。
 この力によりシディアは天使もろとも消滅させられてしまい、イエルの危機は救われる。が、ちょっとだけ北沢はここで失敗したなーと思っていたりする。
 この”光の波動”は、サイコロで1か2を振ると効果を発揮しないという弱点がある。ウェンディのドジっぷりを表現しているわけだ。で、黒い翼の天使がいるわけだから、その特殊能力で1か6しか出ないので、1/2で失敗したはず。これをイエルが《アンラック》のスペルで手助けするとかいう演出が入れば、二人の協力で倒したという美しいシーンが演出できたのに……すっかりウェンディひとりで倒した形になってしまいましたとさ。
 だって気づいたの、ゲラ返したあとだったんだもんよ。ゆるせ、イエル。どうせおまえは尻に敷かれる運命なのだ……。

○とりあえず、まとめ
 テンポ、ストーリー展開、キャラクター、どれもがバランスよく収まった、よい作品にまとまった1冊だった。内外でも、この本の評価は高い。しかもモンコレ景気に乗って、もう少しで発売1週間で緊急重版というフィーバーぶりだった。残念ながら、緊急重版は同時に出た別作品(ヒントは3)に奪われてしまったが。
 なにはともあれ、確実に手応えと勢いを感じた1冊であった。だが誰が言い出したか、このシリーズは5冊で終わることがこの頃いつの間にか決まっており、次巻で最終巻なのが残念だった。個人的には、もっと続けてもよかったのになぁ。
 あとあんまり大きな声じゃ言えないけど、「モンコレ・ノベル」っていうレーベルは北沢個人のものだと思っていたら、「仮面の魔道士」や「短編集」まで一緒くたにラインナップに載せられてしまったのもショックだった。それでなくても巻数が示されてないから、どこから買っていいかわかりにくいシリーズなのにね……。
 ま、そうした外的要素はともかく、気分は絶好調。

 そして物語は、最終巻「太陽王の覚醒」へと続くのであった。

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