戦慄の破壊神 解説

★表紙折り返しより★
 
魔道士ギルドから追放された、異端の召喚術師イエルは、修道女ウェンディから危険な依頼を受ける。古代の魔道兵器”ジャッジメント”の復活を阻止し、空中都市タージケントの破壊をくい止めて欲しいというのだ。二人は復活のキーとなる神宝を探すため、風化したダンジョンに向かう。しかし、そこには”ジャッジメント”を我が物にせんとたくらむ、敵側のモンスターが待ちかまえていた!
 話題沸騰のカードゲーム『モンスター・コレクションTCG』をオリジナル小説化。パワーアップ・カードセット”古代帝国の遺産”と完全リンクでおもしろさも2倍! 空前絶後! リミッター・オフの召喚バトルが開幕する!

 ・・・いま見ると、結構すごいあおりだな(笑)。
 記念すべき、モンコレ・ノベル第1弾。ドラゴンマガジンに連載されたものに加筆修正し、短編を1本追加してあります。

●登場人物
イエル・チェトケル
(男/27歳/召喚術師)
 本編主人公。
 顔半分に網目模様のような赤い入れ墨を持つ、召喚術師組合に加盟していないはぐれ召喚術師。
 その名前は本名ではなく、”平原の悪魔”という意味の異名。かつて聖都サザンの闘技場で戦っていたときに、そう呼ばれていたらしい。
 はぐれ召喚術師ではあるが、《黒い翼の天使》を呼び出すなど、強力な召喚術を使いこなす。
 現在は東方の辺境都市、タージケントを中心に遺跡荒らしをしており、金さえ積めばどんな依頼でもこなすという評判の持ち主である。

ウェンディ・ディムズベル(女/16歳/修道女)
 本編ヒロイン。
 1年ほど前に聖都サザンからタージケントの聖エルド教会に赴任してきた、新米シスター。
 真面目で一生懸命な性格だが、反面ひとつのことに集中すると、周りが見えなくなるタイプ。聖女としての力を秘めており、”神託の夢”に導かれ、タージケントを救うべくイエルに依頼を持ち込む。 

ティツィアーノ・デルピエロ(男/30歳/無法召喚士)
 イエルのライバル。
 無法召喚士を自称する、召喚術師組合に所属しない無法者。
 リザードマンなどの召喚を中心に、水系の召喚術を得意とする。蒼い外套を身にまとい、人を食ったような態度で接する派手な男。しかし魔物を駒のように扱い、非情にして冷徹。召喚術の腕前も相当のもので、実力はイエルとほぼ同じか、上回っている。
 ある人物に依頼を受け、”ジャッジメント”の探索に乗り出している。

プリス(女/?歳/フェアリー)
 イエルになつき、付きまとっている小妖精(フェアリー)の少女。
 元気で明るく、好奇心旺盛でいたずら者の、典型的なフェアリー。ただし焼き餅焼きで思いこみが激しいところもあり、初めイエルに近づくウェンディを敵対視する。

ラフェロウ(男/?歳/黒い翼の天使)
 イエルが召喚する、最強にして最高の魔物。
 天使でありながら〈魔〉に属する強力な堕天使で、魔法も剣も使いこなす。イエルに絶対の忠誠を誓っており、あらゆる局面で彼の手となり足となり、奮戦する。

●舞台
 六門世界の辺境、東の果てに存在する浮遊都市、タージケントが舞台。
 火水風土聖魔の六つの元素(エレメント)が支配するこの世界にあって、東は風の影響が強い。そのため、都市ごと浮かび上がってしまったのがタージケントである。
 風に揺られて一定の場所にはとどまらず、地上との行き来にはグリフォンなどの飛行する魔物に乗らなければならないという異境の都市。水や食料は乏しく、昔ながらの部族社会が息づく辺境都市だが、古代遺跡がそのまま浮かび上がっているため、遺跡荒らし(トレジャー・ハンター)が多く集っている。
 主人公イエルもそうした者のひとりであり、遺跡に潜っては遺物を見つけてきて、生計を立てている。基本的に都会の修道院で育ったウェンディとは、生活の根本から価値観まで違う都市、人々なのだ。

●北沢の雑感(ここからネタバレあり)

○雑感・・・というより、執筆秘話? かも。
 長らく続く、モンコレ・ノベル・シリーズの記念すべき第1弾となった作品。
 当時すでにSNE総帥、安田均によって「六門世界」というシリーズでモンコレの世界は小説化されつつあった(当時2巻まで刊行されていた)。しかし世界観重視で進む「六門世界」シリーズだけでは、次々と発売されるパワーアップ・カードセットの内容まで含めた小説展開は難しいということになり、新たにシリーズの立ち上げが企画されたのである。
 この話が出たとき、実はまだモンコレTCGは発売されていなかった。発売を8月末のJGCに控え、最終テストが終了するかどうかという頃だったと思う。まだ製品版のカードはなく、当然イラストなど初期に発表された士郎正宗氏のフロスト・ジャイアントぐらいしか見たことはなかった。
 これ以前にも、実はモンコレTCGの小説化企画は立ち上がっていたのだが・・・様々な事情で頓挫。そこへちょうど手の空いた北沢が社長室の前を通りかかり、白羽の矢が立ったという、すごいきっかけの始まりだった。

 当時「ドラゴン大陸興亡記」シリーズが完結したばかりで、まだまだ小説書きとしては未熟な段階だったので、もちろん不安はいっぱいだったのだが、TCGの小説化は非常に挑戦したかったので二つ返事で承諾。1週間後に短編を1本あげてこいというお達しに、「マジかい」と思いつつ死ぬ気で仕上げて持っていたのが・・・実はこの話ではない(笑)。
 実はこの「戦慄の破壊神」執筆以前に、お試しとして2本の短編を書いている。そのうちの最初の1本が安田社長のツボを突き、正式に執筆者として決定したしだいである。
 それから紆余曲折あって、最初の2本はお蔵入り(うち最初の1本は、書き直しはしたものの、短編集に収録された)。そしてある日突然「古代帝国の遺産をテーマに、連作短編を書け。しかもおまえの好きそうな巨大ゴーレムが合体して大暴れする話や。どや、書きたいやろ?」という突然の安田社長のお達しにより、ドラゴンマガジン連載という話が決まったのだった。

○地獄のプロット
 パワーアップ・カードセット合わせ、雑誌掲載、小説「六門世界」との世界観リンクなど、初めからこの企画はかなり縛りの多いものだった。そこにドラマガ連載3話で、スペシャルカードとして作られる巨大ゴーレム、ジャッジメントの話を書け、という注文は、当時の北沢にはかなりビビリ入る話だった。
 しかもSNEではよくあることだが、公式設定というものはほとんどなく、関係者各位が相談して決めていくというスタイルだった。ようは自由になんでもできるのだが、世界観の総責任者はあの安田社長。うかつなことをすれば即没だ。
 そんなわけで、キャラクターの設定、ストーリーの構築は紆余曲折の連続だった。イエルの設定は意外とあっさり決まったのだが、ヒロインのウェンディは2転3転した。
 最初、あまり大きな話にすると、リコルの話(六門世界)に影響があるといけないから、リコルたちから100年ぐらい前で、地方都市の話にしろ、ということだった。そこで当時地図しか存在しなかった六門世界の東の果てにある、浮遊都市タージケントを舞台に選んだわけだ。
 そこで古代の魔道兵器を取り合う話だからと考えた結果、最初に北沢が思いついたのが、「ヤクザの抗争」であった。落ち目のヤクザが新興大型の仁義なきヤクザに対抗するため、召喚術師を雇ってジャッジメントを探し出す、というのがその骨子。そしてもちろん、ウェンディは死んだ父親から家紋を受け継いだばかりの一人娘という設定であった。
 いまから思うと、すごい話である(笑)。
 当然没を食らい、何度か検討した結果、誰かの鶴の一声で、「シスターにしましょう」ということになった。神託を受け、街の危機を救うために召喚術師を雇うという構造は、ここで完成(でも話大きくならんか? と思ったのはヒミツ)。
 しかしヤクザの娘案にこだわりのあった当時の北沢は「シスターだと!? そんなコビコビの設定でやれってんなら、とことんやったろうやんけ!」と内心逆ギレし、ウェンディはあんなベタベタなキャラとなったのである。
 考えようによっては、それがよい結果につながった気もするが。
 そもそも当時、大それたことに「ライトなファンタジーばかりですっかりヌルくなったドラマガ読者に、俺様がハードなファンタジーを食らわしてやるぜ!」と意気込んでおり、シスターという設定はすんげぇイヤだった。
 まさにすさまじい思い上がりである(笑)。
 それがまあ、逆ギレしてあんな話になったのだから、神様は優しいといまなら素直に思ったりする。こうして、ともかくモンコレ・ノベルはスタートしたのだった。

○キャラクターあれこれ
 イエルは、おおむね当初の思惑通りだった。
 ただ最大の誤算は、「ハードボイルドな主人公にしよう」と考えていたのに、ちっともハードボイルドにならなかったことである(苦笑)。無口なはずなのに、意外にしゃべるときはしゃべるし、結構寂しがり屋。
 ちなみに子供がいるというのは、もうこの段階で決まっていた。ただ実はエルリクの設定は後付で、この当時は街を守りたいのでもシスターの願いを聞き届けたわけでもなく、ただ幼い娘を守るため、ジャッジメントに挑むという設定だったのである。北沢は、「エリア88」のバノックバーンなんかを連想していたのだが・・・知ってる人は読者の中には少なそうだ・・・。
 ウェンディはまあ先に述べたので、そんな感じ。ちなみに巻末の短編の冒頭、あれって後半出会う淫魔の脅威を警告した”神託の夢”なんだけど・・・誰にも気づいてもらえませんでした(そりゃそうだ)。けっして、ウェンディがエッチなわけではない。たぶん。
 それからラフェロウ。こいつは当初、実はおしゃべりなキャラだった。イエルが口数少ないので、代わりにしゃべる役だったのだが・・・デルピエロとキャラがかぶっているという理由で無口に変更。結果、イエルがおしゃべりになり、ハードボイルド計画は崩壊した。
 これまたおかげで誰も気づいてないけど、ラフェロウ=荒くれ者=荒ぶる→で、”荒ぶる”マリノス(ドラゴン大陸興亡記の登場人物)の再登場を狙ったものだった。が、無口になった時点でこれまた崩壊。しゃべりだったころの性格は、マリノスそのまんまだったのだが・・・これまた消えてしまった懐かしい記憶である。
 まあ結果としてデルピエロがマリノスを受け継ぎ、しっかり海の男になったので、北沢は満足。実はデルピエロ、イラスト指定には「美形」と書いていたのだが・・・すげえ魅力的なオッサンになってしまいました(笑)。四季さんナイス。
 プリスはとくにモデルなし。典型的フェアリーを描こうとしたら、ああなった。個人的には気に入っている。ちなみにカラー口絵の見開きに、プリスの「これでもくらえー!」が入っていたときには、思わずにんまりしたものだ(北沢が指定したわけではない、念のため)。

○その他、小話
 この連作短編、掲載前に全部書き上げたのだが・・・その分量が微妙に多く、3話では入りきらないということで4話になった(五体合体ジャッジメントの話を3回で書け、と言われたときに意識が遠のいた記憶が・・・)。あとがきにも書いたけれど、肝心のジャッジメントのデータがコロコロ変わり、難儀したのも原因の一端である。
 最終章でジャッジメントを倒すシーン、数に任せて強引に殴り倒すというのもあったぐらいである。
 ちなみに最初に北沢がこの話を書いたときのジャッジメント(Ver5)のデータは、「8L6/8飛行◎裁きの光[普通/対抗]ユニット1体が対象。手札X枚が代償。対象にXダメージを与える」というものだった(攻撃力、防御力はうろ覚え)。また召喚するには「邪悪を〜」シリーズそれぞれを装備したユニット計5体を1つの地形に集めて破棄する、という条件があった。その名残が、ジャッジメント復活シーンにリザードマンたちが「邪悪〜」シリーズを掲げるところに残っている。
 またイエルとデルピエロは、デックレシピを作ってから小説を書いた。偉いものだ。最近も一応最低限は考えているけれど、あのときほど厳密じゃなくなった。カードが増えたことも、原因だけどね。
 それと少し恥ずかしかった事件。
 SNEはHPに寄せられたお便りを、すべてプリントアウトして保存している。当時紙がもったいないからと原稿の裏とかにプリントアウトしていたのだが・・・なんとある月の裏紙に番外編の冒頭シーンが使われていた! HPのお便り読んで1ページめくると、「こんなこと、いけない−−」である。しかも社員全員が閲覧するファイルに、それが綴じられているのだ!
 最悪。
 しばらく北沢が恥ずかしい思いをしたのは言うまでもない(←実は恥ずかしがりなのだ・・・信じて、お願い)。

 ・・・そして第二巻「魔道士の黙示録」へと続いてゆく・・・。

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