太陽王の覚醒 解説

★表紙の折り返しより★
 
ダークエルフ、スキュラ、トロール。
 亜人種たちに古より伝わる太陽王信仰。いずこかに眠る王を復活させると、少数部族である彼らに、繁栄と世界を支配する力を与えるという。
 復活に必要なものは、三冊の黙示録、太陽王の墳墓、そして全てのキーとなる聖女の存在だ。
 ジャッジメントの事件で、聖女の力を示したウェンディに、中央サザンの教皇庁から召集がかかる。得体の知れない実験を繰り返され、軟禁された彼女を救えるのは、”平原の悪魔”イエル・チェトケルのみ!
 大ヒットTCGモンスター・コレクション・ノベルの六門世界を舞台に、召喚術師とモンスターが繰り広げるアクション・ファンタジー。全ての謎が明らかにされる、感動の大団円。

 ……黙示録のことは本文ではなるべく伏せてたり、実は全部で4冊だったり、必要なアイテムは太陽のロザリオと月のアミュレットだったり、いろいろ見て度肝も抜かれた折り返し。まあそんなのでドッキリするのは著者だけだけど……他の人の本でもときどきネタバレしてることがあるので、北沢はここを最後に読みます(笑)。
 ドキドキ。

●登場人物(いない人物は、前巻までの解説を参照)
マリア(女/約9歳?/聖女)
 ウェンディと同じく聖女としての力を見いだされた少女。教皇庁に軟禁され、様々な実験を受けているらしい。
 無垢な心とはうらはらに、その能力と肉体ばかりを必要とされ、心を閉ざしている。

オフィーリア(女/?歳/紺碧の女王)
 スキュラ族を束ねる女王。
 美人で勝ち気、思いこみの激しい性格。プライドが高く、一族の秘宝を奪われたため、デルピエロを追ってサザンまでやってくる。
 個人的には好きなキャラだった(笑)。

パーミア(女/?歳/女王親衛隊?)
 オフィーリアに付き従う女戦士。出番も影も薄いが、やはり好きだった。デルピエロに惚れているらしい。
 カード名で言えば、「ドラゴンヘッド」。

ダンゲルブ(男/?歳/最も怒れし者)
 トロール族を束ねる巨漢の戦士。
 見た目怪物、言葉もヘン。されど義理堅くイエルに恩を感じて付き従う。
 カード名は、「マッドマックス」。

ルジエリ(女/14〜5歳?/真夜中の女王)
 闇の顎の一族を束ねる若き長。
 ダークエルフ復興のために、太陽王を復活させるべく暗躍する。以前登場したダークエルフ、アズライルとは別部族。かつては友好関係にあったようだが、黙示録事件以降不仲のようだ。
 一族を想う気持ちを利用され、ベルフェンディータに操られる。残虐で冷酷だが、その実は情熱的でやや直情。典型的ダークエルフ女性である。
 カード名は、「ミッドナイト・クイーン」。

ロシェーヌ枢機卿(男/48歳/教皇庁枢機卿)
 教皇庁の教皇を補佐する6人の枢機卿のひとり。
 枢機卿の中でももっとも力を持つ実力派で、武力にも長ける。かつては聖杯騎士団の騎士団長まで務めた叩き上げで、いわゆる名門貴族の系譜とはひと味違う切れ者。
 聖女ウェンディのコピーを作る「人造聖女計画」の発案者であり、六門世界全土を聖エルド教の元に支配しようと考えた野心家である。名誉や権力を欲する反面、実はそれなりに信仰心も厚い。現在の教皇庁のあり方に懐疑的であり、自らの手で改革しようと考えたのがすべての発端のようだ。

●舞台
 今回はイエル編の完結編ということもあり、これまで名前でしか登場しなかった世界の中心である聖都、サザンを中心に展開する。
 強大な力を得たがゆえに腐臭を放ちつつある聖都、そして教皇庁。その組織の中で暗躍する人々やひずみによって、純真な神の使徒であるウェンディは翻弄される。そして連れ去られた彼女を追うイエルにとっては、悲しい記憶の眠る故郷でもあるサザン。
 やがて物語はサザンさえも飛び越えて、大きなうねりとなってラストへと続いてゆくこととなる。

●北沢の雑感(ここよりネタバレあり)

○ままならない企画
 実はこの巻、セット合わせになる予定ではなかった。
 どういう運びかは忘れたけれども、イエルの話は5巻で終わりということになっており(北沢がそんなことを宣言した記憶はないのだが……)、この5巻目は完結編として完全オリジナルストーリーになる予定であった。これはいままでモンコレTCGのパワーアップ・カードセット合わせでタイアップとしてやってきたシリーズなのだが、TCGのほうが「モンコレ2」になるということで、セットが出ない(もしくは普段と違う形態)予定だったのでそういう話になっていたのである。
 ところがどう転んだか、結局モンコレからモンコレ2への橋渡し的セットとして、「太陽王の覚醒」の企画がスタート。結局イエルの最終巻もタイアップとなったのである。

○面倒なセット、「太陽王の覚醒」
 しかし完結編であるところの5巻の話と、この「太陽王の覚醒」というセットはなかなか相容れにくい存在であった。
 なにせ、このセットのコンセプトが、”複数の種族が謎の太陽王伝説を巡って覇権を争う”というものだったからである。
 イエルの話が完結するのとは、関係ねーじゃんよ。
 そんなわけで、そんなネタならバリバリの戦記風にしたいところなのだが、最終巻というわけでそうもいかず。ネタのすりあわせに四苦八苦するハメとなったのである。
 特に登場する種族は全部で12種族。
 扱いきれるかっつーの(TT)。

○見えない終わらせ方
 完結編、といわれても、本人にあまり終わらせる気がなかったのでどう終わらせるか考えていない。
 なので、物語のオチの付け方にずいぶん苦労した。特に亜人種たちが太陽王を巡って争いながら、イエルたちになんらかのオチをつけねばならないのである。相当頭を抱えた記憶だけはある。
 明確に思い出せないあたり、かなり苦労したことが想像できる。

○壮大なミスディレクション
 そんなわけで、ラストへ向けては真実と見せかけの二つの目的を見せることになった。
 つまり、「太陽王信仰」をミスディレクション(見せかけ)に仕立て上げるプロッティングである。
 ゲームのタイトルを見せかけにして、物語のオチは黙示録事件の完結なのだ。「太陽王信仰」を追いかけていくと、「黙示録事件」の真相が見えて来るという、これでタイアップとこれまでの話の完結とを両立できるアイデア。この構造を思いつき、プロットに落とし込むことに成功したときは、それなりに自分をほめてやりたい気分だったことを覚えている。
 しかし表紙裏のリードに”黙示録”という言葉が使われており、見本を見たとき北沢はこれ以上ないほどガックリきたことを覚えている。
 そんなこと気にするのは著者だけだよと、誰かが冷たく慰めてくれた気がする……慰めになってねぇよ。

○マリアというキャラ
 そんな中で、亜人種以外にも新キャラ(というかゲストキャラ)も登場している。
 それが、人造聖女計画の犠牲となる、マリアである。
 実はこのマリアというキャラ、前セットの「黄金樹の守護者」の中に召喚術師カードとして登場している(こちらのイラストは、ずいぶんとアダルティだが)。ホーリィの手記、イエルシリーズ、六門世界シリーズ、魔獣使いの少女シリーズなど、何らかの関連がある召喚術師が並ぶ中、いまいち関係がないのがオークの王オルクスとこのマリアの二人だけ。中でもマリアはまったくどことも噛んでいない(あえていうならウェンディと設定上噛んでいる)ので、北沢の小説で登場させてみようと想ったわけである。
 初めは、サザンでのウェンディとの対比用に考えた存在で、せっかくだから小さな女の子にして多少ウケも狙ってみようかと思っていた。そのあたりの思惑はまあまあ成功していて、結構教皇庁の暗部の象徴としては、かわいそうに描けたのではないかと思っている。
 しかしラストで殺すかどうかは、実は企画段階では決めていなかった。ただ安田社長の鶴の一声で殺すことが決まったような印象があるが……明確な記憶じゃないので明言しませんです、ハイ(弱)。

○念願(?)かなったウェンディのお尻
 第1巻より何度となくサービスシーンを織り込まれてきたウェンディ。しかし著者の思惑などどこ吹く風、ついぞイラストになることはなかった(指定を出すのは編集さんです)。
 だがついに、5巻目にしてウェンディのプリチーなお尻が解禁されたのである!(笑)。
 お色気シーンのイラストを避けていた理由に、イラスト担当の四季童子さんが女性だからというのもあったらしいのだが、今回の指定では「マニアックなシーンですね」と四季さん本人に言われてしまったらしい(爆)。うーん、多少は狙っていたけど、マニアックなのか〜(笑)。そこまで自覚してなかったや(オイ)。
 しかしなにかが吹っ切れたのか、口絵の最後の1枚もなにやら悩ましげなマリアのイラストである。しかしこの本の見本が届いたとき、北沢はケガで入院しており、入院仲間にこの本を見られるのが無性に恥ずかしかったという落とし穴が待っていることまでは気づかなかった……。

○キャラが多くて憤死寸前
 初めのほうにも書いたが、とにかく今回は亜人種がたくさん出てくる。そうした設定を活かしながら物語を完結させなければならないため、やたらとキャラが増える。これでもずいぶん絞ったが、やはり大変だった。
 というわけで、12種族中選ばれたのは、味方が「スキュラ」「トロール」であり、敵が「ダークエルフ」というわけである。わずか1/4。少な(笑)。
 しかも前回の「黄金樹〜」では雪国でラプターを走らせるような無理矢理なことになってしまったその反対に、今回は砂漠がラストの舞台。なのにオーガのイラストは雪国である。このときばかりはデザイナーである加藤ヒロノリの首を絞めたくなったものだ。
 なので、オーガはボツ。スコーピオン族はチョイ役(やられ役)で登場。ラストの聖地ではガーディアンが登場している(ちなみにガーディアンは出現頻度を勘違いしていて、レアな方をザコとして扱ってしまっているのは北沢のミスですスミマセン)。
 ともかくそれでもレギュラーに加えてトロールひとり、スキュラ二人、ダークエルフ二人という豪華ゲスト陣。加えてマリア、ベルフェンディータ、ロシェーヌ枢機卿などなど登場し、著者としても管理は大変であった。果たして読者的には問題なかったのだろうか。実はキャラが多いという指摘がなかったので、ちょっと首を傾げている北沢である。そう感じさせないだけのテクがあったのか? うむむ(笑)。

○イエルの過去
 サザンの隠れ家で、イエルの子供時代の部屋が登場する。
 実はここで、イエルがエルリクに自分の子供時代を語るというシーンがあったのだが、イエルが饒舌すぎるという理由によりカットされている。ちゃんとどのようにして闘技場送りになり、子供までできたか設定はされているのだが、いまのところ闇の中である。現状は読者の想像に任せるとして、いずれは作品内で見せていきたいと考えている。

○イエルとウェンディ
 そしてなんといっても、この巻最大の見せ場の一つである、イエルの告白シーンである。
 このシーンも、結構書くときは悶絶&苦悩した。
 もちろん超恥ずかしいシーンなので、著者は赤面せずにはいられなかったとうこと。
 それから、本当にここでイエルが気持ちを告白していいのかということ。ずいぶん悩んだものだ。
 一度はイエルが告白して、ウェンディが眠っちゃっててそれを聞いていないというラブコメにありがちなシーンを書いたのだが、即座にボツ。ここで二人の気持ちを確かめなくてどーする! と叫んで現状のシーンに落ち着いた。
 ただここでもう一つ北沢の心の中に浮かんだことがある。

 果たしてこの二人、ハッピーエンドにしてやれるんだろうか……と。

 北沢慶は、富野由悠喜氏(ガンダムの原作者)のファンである。富野氏の作品全てがそうではないが、よくあるパターンに「戦場で将来を誓い合ったカップルは(片方、もしくは両方が)死ぬ」というものがある。そして最終決戦前に将来を誓い合ったイエルとウェンディは、このパターンだと死んでしまうことになるじゃないかと、北沢は脳内で発想してしまったのだ。

 実はこれ、企画段階からもどうするか問題になっていた。
 この段階で、次のエルリク編が始まることは決まっていた。じゃあイエルたちはどうするのか? ということで、「殺してしまおう」という意見と「それはあんまりだ」という意見があった。「イエルだけウェンディをかばって死ぬ」という案もあった。いろいろなくしてきて、とうとう命までなくす話をされていたのだから哀れな主人公である。
 しかし甘々だと思いつつ、ラストはああなった。だがあれでよかったと、北沢は思っている。
 読者は、どう思っただろうか。

○ベルフェンディータの正体
 ついにラストで牙をむくベルフェンディータ。黙示録の書を操り、世界を完全なる〈魔〉の世界にしてしまおうとする彼女。
 実はこいつも、殺すか生き残らせるかで悩んだキャラである。
 歴代北沢作品をご覧頂いている読者の方ならば想像がつくとは思われるが、北沢はこういうコワイおねーさんキャラが大好きである。その分思い入れも強い。当然死なせたくないというのが本音だったのだが……逆に派手に退場させてやることにした。
 その結果、ちらりとその本体である悪魔の姿が現れたりもするのだが……「魔法帝国の興亡」をお読みいただいた方になら理解していただける(かなぁ……)と思うが、彼女は魔法帝国時代に作り出された人造デーモンである(某キャラの正体は、モーラなのだ)。自己で進化や融合を繰り返し、最終的にあれだけの力を得たのだろう。その課程については、また別の機会に描きたいと思うが……〈魔〉による自由な世界を目指したのは、かつての楽園を取り戻したかったからではないだろうか。

○エルリクの成長
 イエルの息子である、エルリク。
 彼の成長も、この5巻(1巻には登場しないが……)のひとつのテーマではあった。
 今回で、エルリクはイエルが自分の父であること、そして母親の敵であることを確信する。その上で、ラストでイエルを「とうさん」と呼ぶシーンは、著者が言うのもなんだがお気に入りのシーンだったりする。やんちゃなひねくれ者が素直になる瞬間というのは、個人的に好きである。
 ……以降のシリーズを見る限り、この頃からメンタル的には成長してない気がしなくもないが(笑)。

○そして、大団円
 もうイエルとウェンディを殺さないことに決めた時点で、ラストシーンは結婚式にすると決めていた。
 ここまでなんだか報われず、苦労ばかりしていた二人を、最後は思い切りとろけそうなぐらいハッピーにしてやりたかったのである。しかし結婚式は他人のを見るばかりだったので、このシーンを描きながらなかなか情景を連想できず、独身である自分を呪ったりもしたが(笑)。
 そしてたぶん(実はあんまり自信ないんだけど……)、ウェンディに対して「美しい」という形容詞を使ったのは、このシーンが初めてだと思う。彼女の魅力は外見的なものではないものにしたいと考えており、ずっと「美しい」という言葉を使わずにきていたのだ(くすんだ金髪とか、薄い胸とか、割れる腹筋とか、マイナス表現は多い)。
 それだけに花嫁となったときのウェンディの「美しさ」というものは、際立ったのではないかと思っている。
 そういう目で改めて読み直してもらえると、また新しいウェンディの魅力に気づいてもらえるのではないだろうか……なーんて、ちょっと偉そうだね(苦笑)。
 でも、普通の子なんです、ウェンディは。この結末は彼女の努力の結晶であって、才能はどちらかというとない。せいぜい「聖女の素質」というあっても迷惑なものだけ。だから僕は、最初はいろいろ思うところがあったウェンディというキャラクターも、終わってみればすごく好きなキャラクターとなっていたわけである。

○まとめ
 こうして、この「太陽王の覚醒」をもってして、イエルを主人公としたシリーズは完結する。
 長いようで短かった5冊。北沢の中でもかなり思い出と思い入れの大きなシリーズとなった。
 正直企画中心で著者の思惑などあっけなく翻弄される不自由なシリーズだったが、その分好きにやれる部分では楽しく自由にやれたのではないだろうか。制約の中でだからこそ、イエルのようなハンデの多い主人公が生まれ、ウェンディのような凡人ががんばれたのかもしれない。
 このシリーズは、かつては凄腕だった落ち武者のような主人公と、凡人代表の女の子の話である。がんばれば夢は叶うという、使い古された、しかし普遍的なテーマが背景だったと思う。
 そしてウェンディの夢は叶い、イエルの心は癒された。最大限努力し、常に全力で命をかけてきた彼らは、幸せであってほしいと思うし、そうでないラストは認めたくない。
 だから大甘のラストこそが、この物語の結末にふさわしいと、僕は確信している。

 改めて、感想などいただければ幸いである。


 ……そして、物語は次の世代へと受け継がれてゆく……。

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