聖愛女子学園 (第2章:羞恥の身体検査)


4 屈辱の健康診断

2時間目の授業が終わり、休み時間でざわめく校舎内を由美は京香に連れられ、健康診断を受けるべく保健室に向かっていた。入寮予定者の健康診断は、生徒、児童を預かる立場の学校にとって必要なのは言うまでもない。これは由美にも理解できた。
 ただ由美の心の中には、先ほど学園長室で聞かされた、
『由美さんには普段の授業と並行して、更正カリキュラムも受けてもらいます。』
というサエの言葉がひっかかっていた。
(更正カリキュラムって一体どんなことをするのだろう。普段の授業や学園生活の中に組み込まれているとか言ってたけど…… )由美はどうしても心の中の不安感をうち消せないでいた。
(水野さんなら何か知っているかもしれない。)
由美は歩きながら、なにげなく水野京香にたずねた。
「水野さん、更正カリキュラムって聞いたことある?。」
京香は一瞬きょとんとした表情を見せたが、
すぐに思い出したかのように口を開いた。
「あぁ、途中から編入してくる子が時々受けてるアレね。でもほとんどの子は一週間くらいで終わってるみたい。長い子でも十日くらいかな?。」
「いったい、どんなことするの?」
「それは人によってそれぞれよ。どこまで
“さかのぼる”かは先生方が決めるもん。」
こんどは由美がきょとんとする番だった。
「 “さかのぼる”ってどういうこと?」
「一種の補習よ。ほら、私たちは小学部や中学部からエスカレーター式で高等部にあがってきたんだけど、編入の人は途中からだから編入前のことは知らないでしょう。」
「そりゃあそうだけど …… 。」
「だから、編入する人に教えられなかった大事なことなんかを“さかのぼって”一週間くらいの間に集中的に補習してもらうのよ。」
「どんなことを補習するの?。」
「それは先生でないとわかんないなぁ。でも由美ちゃん、確かあのカリキュラムは前の学校で問題起こした子以外は受けなくてもいいはずよ。」
 逆に京香からそう話され、由美はギクリとした。更正カリキュラムを受ける、ということは由美が前の学校で退学処分になるような非行を行った、ということを証明するようなものだ。由美にとっても以前の学校を退学になって聖愛女子学園に来た、ということを今日から机をならべるクラスメイトには知られたくなかった。
「うんん、そうじゃないの。学園長から編入の説明があった時、そういうカリキュラムもあるようなことをおっしゃってたから、どんなことをするのかな、と思って聞いてみただけ。」
由美はあわててうち消した。
(やっぱし京香にたずねるんじゃなかった)由美は少し後悔した。けれども京香の話では、更正カリキュラムはとにかく一週間ほどで終わるらしい。
(きっと自分もそれくらいで終わるだろう)どんなことをするのかは詳しく聞き出せなかったが、由美は少しホッとした気持ちになった。

保健室は高等部の校舎を抜け、中学部の校舎を結ぶ渡り廊下の途中にある。保健室に向かうべく、由美たちは高等部校舎の廊下をぬけて、中学部の方へ向かっていた。
 高等部校舎はおりしも ちょうど休み時間で、教室から出てきた女生徒たちの明るい声であふれかえっていた。由美の目に彼女たちの制服が飛びこんでくる。
 高等部の生徒たちの制服は、実に今様のおしゃれなデザインであった。京香の着こなしもそうであるが、地方都市の学校とは思えない個性的な雰囲気がある。
 生徒たちは学園指定のモスグリーンのチェック柄スカートを少しミニにしたり、カッターシャツもホワイトやブルーなどいろいろな色を合わせて、おしゃれに着こなしている。今時の高校生らしく紺のハイソックスを履いた子もいれば、ルーズソックスを履いている子もいた。彼女たちの足元を飾る学校指定の上履きにしても、水色のスニーカーを使用しているところなぞ、小粋さすら感じさせる。
 髪も京香のように少しブラウンに染めたりしている子もいれば、ゆるくウェイブパーマをかけている子もいた。制服やヘアスタイルを見ているかぎりは、とても自由な校風を感じさせる。
(この制服を私も着れるんだ)
そう思うと由美はとても嬉しかった。
「みんなの制服いいなぁ。あたしが前いた学校のなんか、あまりいいセンスじゃなかったから。」
「そうだったの…。」
「あたしも早く着たいな。」
「 ………… 」
この問いかけに、京香はなんの反応も示さなかった。いや示さなかったというよりも、むしろ言いよどんでしまったという感じか。
(なぜ返事をしないんだろう)
由美は京香の態度に少し不満だった。由美は京香が言いよどんだのには気づいていなかったのである。
 二人の間にちょっと気まずい空気が流れた。だが、京香もこの雰囲気を変えようと思ったのだろうか。明るく由美に語りかける。
「でも由美ちゃんの服もとってもすてき。それに由美ちゃんって足が細いのね。」
 制服の用意が間に合いそうもないので私服でお越し下さい、と由美は事前に学園関係者から告げられてはいた。だが私服で構わないとは言え、由美だってそんなに華美な格好で来校したわけではない。けれども黒いタートルネックのセーターにスリムなデニムパンツは、由美のほっそりしたスタイルを上手に演出している。
 とくにブルーのデニムパンツをふくらはぎの真ん中くらいで折り曲げ、ホワイティなストッキングに包まれた細い足をのぞかせる履きこなしや、上履き代わりにバックベルトパンプスと組み合わせるところなど大人っぽさすら感じさせる。
「ほらっ、みんなも由美ちゃんを見てるよ。」
京香が由美に耳打ちした。もっとも由美だけ私服を着ているのだから、目立つのは当然のことであった。
 教室前にたたずんでいる女生徒たちはみんな、今日から編入する彼女を好奇の目で見つめ、お互いにささやきあっている。
「ちょっと、ちょっと……、あの子が今日から編入してくる子よ 。」
「ふーん、 なかなかカッコいい子ね…… 。」
「あのラメの入ったセーターなんて、いい感じじゃない?……。 」
「東京からきたんだって…… 。」
「どうりで……。 」
「あの子、髪もきれい…… 。」
「ほんとだァ、ソバージュかけてるっぽいね…。 」
「どこのクラスに入るんだろう…… ?」
「高3らしいわよ。」
 教室の横を通り過ぎるごとに、彼女についてささやきあう言葉が、ざわめきを通して由美の耳に届いてくる。
 もちろん由美もこう言われて、決して悪い気はしなかった。むしろ(東京から来たんだ)という優越感すら持てた。おかげで京香と由美の間のちょっと気まずい雰囲気も無くなりかけていった。

 ところが、高等部校舎の最後の教室前を通り過ぎようとした時である。その教室前には4〜5人ほどの女生徒がたたずみ、他の生徒同様、由美たちの様子をうかがっていた。
 その女生徒たちは体つきから、どうやら由美と同じ高3くらいらしい。彼女たちが他の生徒と違っていた点が一つだけあった。それは腕に腕章を巻いていることである。
由美はそのグループの前を通り過ぎる時、なにかいいしれぬ不安を感じた。というのも、この女生徒たちの由美を見つめる目つきが、どうも他の生徒たちと違うのだ。一言では言い表せないのだが、他の生徒のような好奇の目ではなく、なんか冷ややかな視線というか意地悪そうな視線を感じるのである。
(この子たちの視線、誰かと似ている)
由美はそれを懸命に思い出そうとした。
(そうだ、あの岩松とかいう教師だ)
確かに彼女たちの視線は、先ほど学園長室で岩松サエと初対面で会ったとき感じたのと似たような、冷たさを感じさせる視線であった。
 すれ違いざまに、由美は女生徒たちが腕にまいている腕章をちらりと見やった。それには“風紀委員”と書かれていた。
 休み時間のざわついた校舎内であるため、彼女たちの会話はよく聞き取れなかった。しかしざわめきに混じって、かすかに次の会話が由美の耳元をかすめ通った。
「今日から編入らしいわよ。あの子…。」
「あぁ、あの子がうわさの……。」
「でも……あの子、 ……着させてもらえるのかしら?」
「さぁ…、どうだか……。 」
「もし……だったら……。」
「 ハハハ……。 」
「 でもでも 、……しばらく更正……もありえるかも……。」
「 うっそぉー、…だったら笑えるね… 。」
「 大人っぽい子なのに……。 」
「超かわいそうすぎ〜、クククッ……」
「でもなんかぁ……楽しみ……フフフ…。」
「やだぁ…。あたしだったら死んじゃう…。」
 休み時間の騒然とした廊下での会話のため、途切れ途切れにしか聞こえてこないのだが、彼女たちの目つきから由美のことを言っているのは明らかだった。
(なんだろう、あの子たち。なんのこと言ってるんだろう……)
 それにあの女生徒たちの笑い方が、なんか由美には気になった。由美を馬鹿にしたような感じ?、いや、むしろこれから由美に、なにかが起こることを期待するかのような笑いだ。
 一抹の不安が由美の頭の中をよぎり、思わず京香にたずねた。
「水野さん、今あの子たちが言ってたこと、聞こえた?。」
「えっ、だれのこと。」
「今の教室の前に固まってた、風紀委員の腕章をしてた子たちよ。」
「さぁ、廊下うるさいしねぇ…。よく聞こえなかったなぁ。」
京香はまるで何も知らないかのように、目を見開いて由美を振り返った。その京香の仕草を見て、
「うんん、…なんでもないの。 」
由美はあきらめてかぶりを振った。
 この時、由美が京香の目をよく観察していれば、彼女が何かを隠しているかのような、少しおどおどした目をしていたことに気づいたであろう。いや、むしろ京香は風紀委員の子たちのことに触れまいとして、わざと知らぬ振りをしているようでもあった。だが由美は京香の目の表情の変化に気づかなかった。

 高等部の校舎を抜けると、中学部校舎を結ぶ渡り廊下が続いていた。ちょうど授業中だからだろうか。30メートル先の中学部校舎は高等部と対照的に、しんと静まりかえっていた。どうやら、高等部と中学部は日課が少しずれているらしい。
 ちょうど渡り廊下の真ん中、左側に由美たちが目指す保健室がたたずんでいた。保健室は、鉄筋二階建てで外壁の塗装もされていない、かなり無骨な建物だった。しかし学校の保健室にしては、かなり広い敷地を占めていた。ふつうの教室4部屋分の坪数はあるだろうか。
 京香は手慣れたようにノックもせず、保健室のガラス戸を引いた。
「相原先生、梓由美さんをお連れしました。」
「京香ちゃん、ご苦労様。」
部屋の奥から背が高くほっそりした、白衣をきた女性がバインダー片手に現れた。
 年齢は20代後半くらいであろうか。髪を少し栗色に染めたロングボブに、少し青色がかったレンズの眼鏡がとても印象的だ。首から下げられた聴診器が、頭の切れそうな女医のイメージをうまい具合に演出している。
 女性は由美に患者用の椅子をすすめながら、自分も診察机の備えつけの椅子に足を組みながら腰かけ、いきなり自己紹介を始めた。
「私は保険医の相原さゆり、あなたが梓由美さん?。きれいな人ね。」
 由美はいきなり自分の容姿のことをずけずけと言われて、思わず最初の一言を切り出せないでいた。しかし、さゆりはそんな由美の気持ちは意にもとめない。
 さゆりは膝丈くらいの白衣を身につけているため、座って足を組むと白衣がまくれ上がり、黒いナイロンのハイソックスを履いたふくらはぎがいやでも由美の目に入った。足を組んだまま、甲にひっかけた銀色のミュールをつま先でパタパタもてあそびながら、さゆりは話を続ける。
「もう18才のお誕生日は過ぎたの?。」
由美はおもむろにうなづいた。
「そう、どうりでずいぶん大人っぽいと思った。このネックレス、すてきね。黒いセーターにとてもよく合ってるわ。」
 さゆりは由美の銀色のネックレスに手を伸ばし、まるで値踏みでもするかのように、指先でつまみあげた。
(ずいぶん無遠慮な女の人ね)
由美は内心そう思い、おもわず顔を少し左下にそむけてしまった。おそらく不快な表情も浮かべていたことだろう。左下に目をそむけると、嫌でも銀色のミュールに強調された、さゆりの足首が目に入る。黒いナイロンハイソックスに包まれた、彼女のキュッと絞まった足首は妙になまめかしかった。
「これからやる健康診断なんだけど、寮に入る子はちゃんと検査しとかなくちゃいけないからね。児童の皆さんの健康管理は私たちの責任でもあるし……。その辺のことは学園長からも話あったでしょう?」
「あっ…、はい…、説明は受けましたけど …… 。」
由美はあわてて返事をしたが、やはり不満な表情は隠せなかった。
(私は“児童”じゃない!)
由美は心の中で叫んだ。どうしてこの学園の教師は高校の生徒にまで“児童”ということばを使うのだろう。先ほど学園長らからその理由は説明されたが、由美はどうにも納得できないでいた。やはり中学生、高校生以上は生徒と呼ぶのが一般的だろう。
 だいいち由美も、児童と呼ばれたのは小学生の頃までしか記憶がなかった。それゆえ、さゆりに“児童”呼ばわりされるのはなんとも耐え難かった。
 しかし、さゆりはそんな由美の気持ちに追い打ちをかけるように語りかける。
「じゃあ、さっそく始めましょうか。あなたのこと由美ちゃん、と呼んでいいかな?」
「えッ…?。えぇ……構いませんけれども。」
由美はためらいがちに返事をした。しかしその返事は、けっして“ちゃん”づけで呼ばれるのを容認したわけではないのは明らかだった。
 京香にしても、親が帰った後の学園長らにしても、彼女のことを「由美ちゃん」と気やすく呼ぶのが由美には気にはなっていた。はっきり言って、親しくもない他人にそう呼ばれるのが由美は好きではなかった。なんか子供扱いされているみたいだからだ。しかし、編入したその日から『やめてくれ』というのも角が立つから、あえて我慢していたのだ。
 しかし、そんな由美の気持ちを察することもなく、さゆりは事務的に指示を出し始めた。
「じゃあ私たち、レントゲンと心電図とる準備をしてくるから…。京香ちゃん、ちょっと手を貸してくれるかな。その間に、由美ちゃんは服を脱いでいい子にしててね。ブラジャーとショーツは着用してて構わないから。寒いからガウンを着るように。」
さゆりは、まるで幼い子供に言い聞かすような口振りで脱衣場の場所を指示し、京香とともに隣のレントゲン室に姿を消した。
 脱衣場といっても、それは保健室の一角を衝立で仕切ってあるだけの、簡素なものだった。おそらく他の生徒から見られないようにする為の配慮であろう。
 衝立の後ろには脱衣かごと白いガウン、スリッパが用意されていた。
 ショーツとブラジャー以外脱ぐというのはさすがに気恥ずかしかったが、代わりにガウンを羽織れるよう配慮されているので、そんなに抵抗感はなかった。ガウンはタオルケット地のバスローブのようなタイプで丈も長く、素肌にとても気持ちいいい肌ざわりだ。
 セーターやデニムパンツ、ストッキングなどを脱衣かごにまとめ脱衣場を出たが、まだ心電図の準備が終了していないのか、二人の姿はなかった。
(なんか病院なみの検査ね。)
由美はそう感じながら、所在なげにガウンのポケットに両手をつっこみ、外の景色をぼんやりながめて二人を待つことにした。
 保健室の窓からは、ちょうど中等部と高等部の校庭が見渡せた。ソフトボールでもやっているのだろうか。校庭の遠くの方から女子生徒たちのはりのある歓声が聞こえてくる。秋も終わりに近づいた、少し弱々しい日溜まりのなか、のどかな時間が過ぎていく。

 その時である。
(あれっ?…… )
由美は奇妙なことに、ふと気づいた。それはほかでもない。目の前に広がる校庭である。
なにか変なのだ…… 。
 しかし、何が変なのか、由美はすぐには気がつかなかった。
(おかしい…。この学校の校庭、なんか雰囲気が違う)
 なにが違うのか、由美はその原因を探るかのように、校庭の隅から隅へ視線をゆっくりと移していった。まるで一つ一つ、確認でもするかのように …… 。
 確かに校庭では高等部の女子がソフトボールをしていた。由美のいる保健室からはだいぶ離れたところでやっているので、はっきりとは見えなかったが、おそらく高1か高2くらいの学年だろう。バッティングする音と、それと共にあがる女生徒たちの明るい歓声を聞いている限り、一見なんのへんてつもない、のどかな女子高校の校庭の風景である。
(でも、なにかが違う…) 
由美はなおも注意深く校庭を見渡した。
 勘のいい由美が違和感の原因を発見するまで、そんなに時間はかからなかった。校庭の隅からつぶさに眺めていくと、まず青いペンキで塗られたすべり台が由美の目に入った。
(あら、高等部の校庭なのに、なんですべり台が置いてあるのかしら?)
 一つ違和感の原因を発見すると、次々におかしな点が目にとまり出す。すると、すべり台だけでなくジャングルジム、ブランコ、砂場、シーソー、その他いろいろな遊戯設備が配置されているのに由美は気がついた。
 こういう遊技設備はふつう中学や高校の校庭にはないものである。学校案内によると目の前の校庭は高等部や中等部専用と示されていた。なのに、いったいなぜこんなそぐわない遊技設備があるのだろう。
(これじゃあまるで、小学校の校庭だわ。確かここは高等部の校庭じゃないかしら?。)

 由美がその素朴な疑問をいだいたのとほぼ同時に、ガチャンという重い鉄の扉の音とともにレントゲン室の扉が開いた。
「由美ちゃん、待たしてゴメンね。さみしかったかな?」
相変わらず、さゆりは幼児に語りかけるような話し方をやめる気配はない。しかし由美はそれには返答もせず、つい今しがた自分の発見した疑問をさゆりにぶつけようかどうか、迷っていた。
 けれども小学生でも遊べるように、校庭にこども用の遊技設備を置いたとも考えられなくもない。もしくは以前は小学校用の校庭を中等部や高等部用に転用したのかもしれない。
(私もちょっと考えすぎだったかな?…… )
由美はそう思うことによって自分を納得させようとした。
「由美ちゃん、どうしちゃったのかな〜?。ぼんやりさんになっちゃたようだけど… 。」
「えっ…、いえっ、なんでもありません。」
「じゃあ検診はじめますよ。そこのいすにお座りして。」
幼児と対するようにさゆりは指示を出す。
(お願いですから、そのこども扱いするようなしゃべり方やめてください。)
由美はその言葉が喉まで出かかったが、やはり言い出せなかった。なんというのだろう、さゆりのこのしゃべり方は、保険医として児童の面倒を長年みてきたところからくる、なんか職業的というか高圧的な雰囲気があるのだ。
「なにボヤボヤしてるの。早くお座りなさい。レントゲンの前に内科検診もしなくちゃいけないんだから。」
 急に口調がきびしくなったさゆりの言葉に圧倒されて、由美はあわてて患者用のいすに腰かけた。
 それからは型どおりの内科検査が手早く行われた。京香がさゆりの助手のように由美のガウン着脱の手助けし、聴診器を当てやすくする。
 ガウンの前をすこしはだけさせると、ブラジャーにつつまれているとはいえ、形のいい由美の乳房があらわれる。その乳房のまわりを中心に、さゆりが手早く聴診器を当てていく。
 聴診器のひやりとしたプラスチックの感触は、由美にとってあまり気持ち良いものではなかった。
 しかしもっと由美の嫌悪感を誘ったのは、さゆりの背後に立つ京香の視線であった。自分と同じ年齢の同性に自分の体を見つめられる、という恥ずかしさも確かにある。
 しかしそれに加え、自分の胸や肌を見る京香の視線が、ふつうの同性の目つきとなにか違うのである。うまく一言で言い表せないのだが、由美の体をなんか、ねっとりと舐め回すような視線なのである。しかも京香の目つきが心なしか、とろーんとした、うつろな目になっているようにも見える。
(なんか気持ち悪い子ね。この子の目つき…)
 由美は同性からこのような視線で、自分の体をながめられたのは初めてであった。それゆえ背中側の聴診も終え、再びガウンを着てもよい、とさゆりに言われた時は由美は内心ほっとした。
 その後、おきまりの目や耳鼻咽喉の検査、体重、身長測定に続いて問診に入った。問診ではわりと細かなことまで、詳しく尋ねられた。薬物アレルギーや貧血めまいはないか、
これまで大きな病気をしたことはあるか、等々の人間ドッグのような質問ではじまり、ダイエットと便秘に関する質問に及んだ。
「由美ちゃん、ふたつ気になることがあるんだけど…。」
「なんでしょう。」
「さっき計った由美ちゃんの体重と身長のことなんだけど、身長のわりに体重が少なすぎるのよ。あなたダイエットしてない?。」
 確かに由美はここ一年ほどダイエットを続けていた。別に彼女に肥満の心配があったからではない。単に年頃の女性が誰でも持っている、自分を美しく見せたいという気持ちからであった。とりわけバイク仲間の間では、由美のスタイルの良さは羨望の的だった。それゆえ美しくなりたい、という意識は人一倍強かったのかもしれない。
 さゆりはそんな由美の気持ちを察してか、さっきまでとはうってかわり、にこやかに話し始めた。
「えぇ、由美ちゃんの年頃ってみんなスマートになりたいって気持ちあるよね。その気持ち、わかるよ。私だってそうだったから… 。
でもね、ダイエットも度がすぎると体に悪影響が出て、かえって逆効果なの。由美ちゃんが問題なのはね…、あなた便秘してるでしょう!。」
 いきなり便秘のことを指摘されて、由美はいささか狼狽した。
(どうして私が便秘ぎみだってこと、わかったのかしら?)
由美は驚いた。たしかに由美は通常のお通じにも便秘薬はかかせなかったのだ。返す言葉に迷っていると、
「どうしてわかったか、知りたいでしょう。教えてあげる。由美ちゃんの肌、とてもきれいでお手入れもまめなようだけど、肌の一部が便秘特有の荒れ方をしてるのよ。」
「えッ、本当ですか?」
「そうですとも。ほらっ、ここの左頬の部分とか見てご覧なさい。」
 さゆりは由美に手鏡を見せ、自分の顔を写させた。しかし肌の一部分が荒れていた理由は便秘のせいでもなんでもない。東京から空気の乾燥した東北の地方都市にきたばかりで、こちらの乾燥した空気に肌が一時的にカサカサした状態になっただけのことである。
しかしさゆりはさらに追い打ちをかけるように、
「ほら、このおでこや口元の吹き出物も便秘のせいよ。」
「 …… 」
これもこじつけである。ただのニキビにすぎない。10代後半になれば、誰でも経験することである。
 しかし由美は、自分の顔に時おり現れるニキビは気になっていた。それに吹き出物の原因の一つが便秘にある、ということも何かの本で読んだことがあった。それゆえ、さゆりに自分の気にしていたことをピタリと言い当てられて、いささか狼狽してしまったのである。
 だが由美が便秘ぎみということをさゆりが言い当てることができたのはほかでもない。先ほど山村女史らが由美のハンドバッグの中を物色した時、便秘薬の錠剤が出てきた。それをサエがレントゲン室で準備していたさゆりに、インターホンで伝えただけのことである。
 しかしこれだけでも、由美を脅すのには純分な題材であった。
「まぁ、これから新しい生活も始まるわけだから、気長に直していきましょう。あせって直るもんじゃないからね。」
由美を不必要に心配させないようにという配慮か、さゆりは明るく由美に声をかけた。
「はい、よろしくお願いします。」
「そうね、由美ちゃんの便秘を治す第一歩は食事療法ね。これは今日からでも始められるし…。やっぱり栄養のバランスが悪かったり不規則な食事は肌荒れや便秘の大敵よ。寮の食事はひとりひとりの健康もケアして献立されるから、由美ちゃんには今日からその食事をとってもらいます。」
「あっ…、でも…。」
「心配しなくてもたいじょうぶよ。このことは私から栄養士さんに報告しておきますから…、きっとすてきな献立をつくって下さるわよ。それとレントゲンが終わったら直腸の方も見てあげるわ。」
「えッ、いぇ…、それは結構です。そ、そんなにひどいわけじゃありませんから……。」
由美はあわてて、さゆりの検査の申し出を否定した。
「ダメよ、由美ちゃん。あなたの年頃って便秘の子って多いのよ。中には便秘ひどいのを我慢し続けて腸閉塞になったり、痔になっちゃった子もいて学園問題にまでなったこともあるの。由美ちゃんもひどいひどいにならないうちに、治しておきましょうね。」
また、さゆりの口調が幼児向けになっている。どうやら生徒をさとす時に、このしゃべり方が出るらしい。
 それでも浮かない表情を浮かべている由美に、京香が助け船を出す。
「由美ちゃん、ぜんぜんだいじょうぶ、心配することないよ。あっというまに終わるし、痛くもないし…。」
「いや、でも……。」
「京香ちゃんのいうとおりよ。食事療法と腸の適切な処置で便秘なんてすぐ直るんだから。そしたら、お肌だってもっときれいきれいになるわ。」
「そうよ、由美ちゃん。今よりすべすべした、“あかちゃんのような”柔らかい肌に生まれ変われるよ。」
 京香は “あかちゃんのような”という言葉だけ、由美に言い含めるかのように、気持ちゆっくりとささやいた。まるで、その言葉の響きを楽しむかのように …… 。
 京香はちょうど由美の背後に立っていた。そのため由美は、彼女がその言葉をささやいた瞬間、先ほど自分に垣間見せたような少しうつろな視線に変わったことに気づけなかった。

「さっ、とにかく先にレントゲンからやっちゃいましょう。おなかもすいてきたし…。」
さゆりは問診のファイルをはさんだバインダーを机の上に置くと、自分から席を立ちレントゲン室に入っていった。
「行こう、由美ちゃん。」
京香にうながされ、由美らもあとに続く。
「じゃあ、身につけてる貴金属類は全部はずしてね。レントゲンに写っちゃうからね。」
「イヤリングもですか?」
「もちろんよ。」
 指輪やイヤリングなど、由美を大人っぽく演出していたアイテムがはずされていく。はずされたアクセサリーは、京香が受け取った。
 この時の由美には、まさかこれが自分を美しく飾るアクセサリーとの永遠の別れになろうとは…、その後二度とアクセサリーを身につけることが許されないなど、夢にも思わなかったであろう。
 続いて京香は、由美をレントゲン台に向かい合うように立たせる。そして由美の背後にまわると、
「ほんのちょっとの辛抱だからね。」
と言って、京香は由美の華奢な肩に引っかかっていた白いガウンの襟を持ち上げ気味につかみ、一気に下に引き落とした。
 するりとタオルケットのガウンが由美の体をつたってすべりおちる。由美の陶器のように白い肌が現れ、由美の体温でぬくぬくしたガウンが由美の足首にまとわりつく。
 同時に淡い水色のブラジャーとショーツが京香の視線にさらされた。
 ブラジャーはショーツとお揃いらしく、聖愛女子学園の編入に合わせて、由美が少し奮発して買いそろえたものだった。由美の毬のような豊かな乳房を柔らかく包む部分は、レース模様があしらわれ、ちょっぴり大人のムードをかもしだしている。
 しかし京香は、由美の背中側に付いているブラジャーのフォックも手早くはずしてしまった。
 突然のことに由美は、はずされまいとあわてて両手で前を押さえる。だが京香は
「レントゲンと次の心電図の間だけはブラジャーはがまんしてね。」
そういいながら、由美の華奢な肩からブラジャーの肩紐をもちあげると、強引に由美の腕から抜き取ってしまった。
 あっと思ったときには、ついさっきまで由美の胸を優しくつつんでいたブラジャーはすでに京香の手の中だった。
 あらわにされた豊満な由美の胸に、冷たい外気と二人の同性の刺すような視線がそそがれる。由美はあわてて、両手で自分の胸を押さえた。
「まっ、可愛いらしいこと。」
その仕草にさゆりはクスクス笑いながら、隠そうとした手を下におろさせ、由美の豊かな胸をレントゲンの透写板に密着させた。
 レントゲン撮影時間は実際にはほんの数分程度のものであった。しかし自分の裸体を異性より同性にさらされるのは由美にとっては耐え難いものであった。由美は自分のブラジャーを人の手ではずされたことすらなかったのである。たった一人の恋人を除いては…。 由美にとっては撮影の数分間は五倍にも六倍にも長く感じられた。それゆえ、つつがなくレントゲン撮影が終わり再びガウン着用の許しをさゆりから言い渡された時は、由美は内心ほっとした。

 だがそれもつかの間、ガウンを着終えるとすみやかにレントゲン室の横の部屋に行くよう、由美はうながされた。その部屋には『多目的検査室』と書かれていた。
 この部屋のプレートを目にして、由美はふたたび気が重くなった。さきほどのさゆりの『レントゲンが終わったら直腸の方も見てあげるわ。』という言葉が心の隅に引っかかっていたのである。
(どんな検査をするんだろう。)
不安で足取りが重くなるのも当然だった。しかし、そんな由美の気持ちを知ってか知らずか、京香は楽しげに由美を隣の部屋へとせき立てる。
 多目的検査室は明るい照明に照らし出された、15畳はあろうかと思われる広い部屋であった。所狭しと近代的な検査機器や医療器具が配置されている。
 病院なみの設備の充実ぶりに、由美は思わずつぶやいた。。
「まるで病院みたい……。」
とても学校の保健室とは思えない。
由美の言葉にさゆりは、
「驚いたでしょう。うちの学園の保健室は医務室も兼ねているからね。たいていの病気やけがの治療にも対応できるの。簡単な手術だってできるのよ。」
由美は思わず相づちを打つ。
「こどもっていつなん時、けがや病気するか分からないじゃない。特にうちの学園のそばには病院もないし…。じゃあ由美ちゃん、検診台に横向きになって寝てくれるかな。」
「あ…、あの……、直腸の方ならだいじょうぶですから……。」
「なんであなたがだいじょうぶって分かるの?。直腸に腫瘍ができてたり、肛門に内痔核ができてて便秘になることもあるのよ。」
「……」
「もしそんな病気があって、とりかえしのつかないことになったら私、あなたの両親になんといって言い訳したらいいの。」
「そ、それは、……。」
「いいから、早く。いつまでたっても終わんないでしょ!。」
 だんだん、さゆりの語気が荒々しくなっていく。ここで、京香が由美にすばやく耳打ちする。
「由美ちゃん、ここでさゆり先生怒らさない方がいいわよ。」
「でも恥ずかしいよ…。お尻の検査なんて…。」
「だいじょうぶ。私がついててあげる。そのために私がいるようなもんだから。」
京香は由美の手を握りしめて、由美の目をみつめた。
「さゆり先生、だいじょうぶです。私が由美ちゃんの横につきますから。」
「そう、たのんだわよ。」
京香にそのように言われてしまうと、由美も嫌とは言いづらくなってしまった。
 さゆりは少し気を取り直したのか、直腸検診の準備を始めた。その間に京香は由美を部屋中央にしつらえた、ビニールばりの検診台の方へ導く。
 由美を検診台の上に横向きに寝かしつけると、ブラジャーとお揃いの水色のショーツもスルリと抜き取ってしまった。由美はあわててガウンのすそをちょっとでものばそうとして、見られたくない部分を隠そうとする。
「まっ、かわいいショーツなこと。」
さゆりが笑いながら由美の背後から近づいてくる。声の感じから、先ほどのいらついた気持ちはだいぶおさまったようだ。
「由美ちゃんは水色が好きなんだ。」
京香は横向きになった由美の顔の前にしゃがんで、無邪気な声で語りかけた。
 しかし由美は、そう二人から言われてもさして嬉しくもなかった。二人とも少しでも由美の気を紛らわそうと言ってるのがよくわかるし、それ以前に同性から下着のことをとやかくいわれるのも好きではない。
「じゃあ、由美ちゃん。横向きのまま、膝をかかえてくれるかな。」
直腸検診の時はどんな姿勢をとるべきか、京香は知っているらしい。
 手慣れたように京香は不安におびえる由美を横向きに寝かしつけたまま、彼女の両膝を右手でおへそのあたりまで引っ張り上げた。ちょうど母親のおなかの中の胎児のような姿勢だ。
「そうそう、そのまま両手で膝をかかえこんじゃってね。足はとじてていいわ。おなかの中の赤ちゃんのつもりでね。」
 その姿勢になると、由美をおおっていた白いガウンもすそが大きくめくり上がる。由美はめくりあがったすそを少しでものばして、自分のお尻を隠そうとガウンのすそに手をかけようとする。
 しかし京香は、由美のその手をとり、へそのあたりまで折り曲げた両膝のところへその手を添えさせる。
「ダメよ由美ちゃん、これから検査するところなんだから出しとかなくちゃあ…。手でしっかり膝をかかえてるのよ。」
 そう言うと、由美のむっちりしたお尻を一旦は隠しかけたガウンの裾を、京香は一気に腰のあたりまでたくしあげてしまった。
 ふたたび由美の白桃のような、形のいいお尻が姿をあらわした。
 冷たい空気が、由美の膝から腰のあたりまで、ゆっくりと這い上がっていく。冷たい外気にさらされると、いやでも下半身を二人の同性の前にさらしているのが実感された。
 由美のそんな気持ちを知ってか知らずか、
「あらー、由美ちゃんのお尻ってかわいいね。」
少し離れたところから、さゆりの声が聞こえてくる。
「肉づきもすごくいいみたいだし、でもそのわりにキュッと締まってるし…。」
「ほんとだぁ…、」
「京香ちゃんとは大違いね。」
さゆりが少しからかうように京香を見やる。
「さゆり先生、ひどい。由美ちゃんの前で…」
京香も甘えた声で、少しうらめしげにさゆりを見上げる。
 ふたりのじゃれ合うような会話を聞いてると、ますます二人の同性の前に下半身をさらしている自分のみじめな姿に、由美はいてもたってもいられない気持ちになった。しかも、たださらすだけならまだしも、これから検診を受けるのだ。
「でもとても同じ18才とは思えないわ。京香ちゃんのお尻なんか、まだおむつがとれないベビーちゃんみたいなんだから。」
「お願い先生、恥ずかしいからやめて……」
「でも京香ちゃん、うらやましいでしょう。」
「それを言われちゃうと弱いなー。」
「こんど暇な時に、京香のお尻も診察してあげるわ。ここのところ、見てなかったし…。」
「えぇ〜、いいですよぉ。」
 言葉とは裏はらに、京香はまんざらお尻の検査を嫌がっている様子ではないように由美には思えた。
(この子、こんな検査されて恥ずかしくないのかしら?。変な子……。)
由美でなくとも誰しもそう思ったであろう。
だが京香に対する疑問も、横臥した由美の背後から聞こえてくるパツン、パツンとビニールのようなものがはじける音で中断された。
(なんの音だろう?)
由美は後ろを振り返りたかったが、できなかった。それに、もし振り返ってその音の正体を目の当たりにしたら、おそらく直腸検診を受ける気力が萎えてしまいそうな気がしたからである。

「では触診を始めます。」
言い終わるとほとんど同時に、さゆりの親指と人差し指が無造作に由美の臀部にあてられた。
 由美は思わず身を固くした。無理もない。ふだん自分以外の指が触れたことなど一度もない場所なのだから。
 しかし由美はここで違和感を感じた。それは自分でない指に触れられることからくる違和感と少し異なっていた。
 なにかへんなのである。明らかに人の指の感触であるのは確かなのだが、人の指にしてはあまりにひやりとした、冷たい感触なのである。
(えっ、なに…、この感触……)
 その瞬間、由美は先ほどのビニールのはじくような音の正体がわかった。
(これは、ゴムの感触なんだわ。)
 確かにその通りであった。ひやりとした感触の正体は、さゆりが両手にはめた、直腸や肛門検診用のゴム手袋であった。
 由美の臀部に当てられたさゆりの指は、おしりの割れ目をこじ広げるように両方の尻たぼの肉を押し開こうとする。由美はそうされまいと、思わずお尻に力をいれてしまった。
その瞬間である。
ピシャンという音とともにさゆりの手が、由美のお尻を平手打ちした。 」
「ひぃぃ……。」
陶磁器のような白い由美のお尻に、3本のさゆりの指のあとがくっくり残った。
「だめよ。力抜かなくちゃ…。かえってイタイ イタイでちゅよ。」
完全に幼児扱いである。しかし今の状況では幼児扱いに不満を感じている余裕なぞ、由美にはなかった。
 さゆりの右手が、指の形に赤く染まったお尻の割れ目を再び這い出す。まるで生き物のように…。
 冷たいゴムの感触が由美の形のいいお尻を伝って脳髄まで届く。由美の目の前には、紺のラルフのハイソックスを履いた京香の足元が見える。
(あぁ、早く検査が終わってくれればいいのに…。)
由美は思った。              その時である。さゆりの親指と人差し指が再び由美の左右のお尻の肉を押し開くのを感じた。しかし今度は先ほどと違い、そこにねらいを定めて押し開かれたように感じられた。それと同時にさゆりの右手中指が、由美の菊花の中心に添えられた。
「えぇ、ウソっ…、ウソぉぉぉ…。」
 もっとも敏感な部分に当てられた冷たいゴムサックの感触に由美は全身身震いし、あえぎながらつぶやいた。
 無理もない。これまで自分でさわるのでさえ疎ましい場所に、検診用手袋ごしとはいえ他人の指が触れられているのである。由美のおでこに、かすかに脂汗が浮かんできた。
「由美ちゃん、すごい鳥肌たってる。」
京香の驚きの声が耳元で聞こえる。
(当たり前じゃない。はやく終わって…。)
今や、由美は早く時間が過ぎ去ることだけを祈っていた。
ところがさゆりは、由美の菊花に添えた指を挿入する気配が見られない。
「あら、由美ちゃんて敏感なのね。でもいいのよ。初めての子はみんなこうだから。でもこう固くちゃ検査できないなあ。肛門の筋肉やわらかくなるようマッサージしてあげる。」
そう言って、さゆりは由美の菊花のまわりの筋肉をやさしくマッサージ始めた。京香もさゆりのその様子をみて、横向きに膝をかかえる由美の目の前にしゃがみこみ、左手で抱きかかえるようにして背中をさすってやる。
 検査室に沈黙の時間が流れた。聞こえてくるのは、さゆりの検診用ゴム手袋に塗られたオリーブ油と由美の菊花がこすれあう音だけだった。検診用手袋にはすべりをよくするためのオリーブ油が塗られていたのである。
 さゆりは指の腹の部分を使って、時には指全体を使って、由美の菊花の周りの筋肉を時には優しく、時には少しじらすようにもみほぐしていく。
 オリーブ油と由美の筋肉がニチョ、ニチョ…とこすれ合う音のみが周期的にきこえてくる。その淫靡な音がなおのこと、由美の羞恥心をあおり立てる。
(わたし今、保健の先生に自分のお尻の穴をいじられてるんだ。)
そう考えただけで、由美は恥ずかしさで体全部が火照ってくる思いだ。
 かたく目を閉じ、微動だにしない由美に見るに見かねて、京香が声をかける。
「由美ちゃんてば、しっかり!。深呼吸すれば楽になるから。ハイ吸ってぇ、ハイ、吐いてぇ……。」
由美は京香の合図に合わせて一生懸命に深呼吸する。はじめはハァハァいってたが、さすが一分ほどたつと、呼吸も落ち着いてきた。マッサージの甲斐もあってか、最初のころより肛門部の筋肉もいくぶん、柔らかくなってきたようだ。
「その調子で深呼吸を続けるのよ。」
そう言いながらさゆりは、菊花のまわりを這い回らしていた右手中指を、今度は菊花の中心に向かって直角に突き立てた。いよいよ今度は由美の体内に埋もれさせていく。
「あぁぁ……」
由美は苦しそうにかすかにあえぎ声をあげた。
「そう、その調子。力を抜いて、深呼吸やめないで…。」
 検査とはいえ他人の指が挿入されようとしているのである。由美にとって生まれて初めて味わう感触であった。しかもこの感触は由美にとってはただ違和感とおぞましさ以外のなにものでもなかった。
 オリーブ油のおかげで、さゆりの中指はいとも簡単に、由美の体内にのみ込まれていった。
「由美ちゃん、そんなにお尻キュッと締めつけないで。指が抜けなくなっちゃうわ。」
さゆりの笑い声とともに、京香も
「由美ちゃん、力抜くの。」
いっしょになって声をかける。京香のその言葉も、由美が思わず見せた拒否反応を面白がっているように、由美には聞こえた。
 本来は排泄のための器官から逆に指を挿入されたおぞましさに、再び由美の全身に鳥肌が浮かび上がる。しかし今度はやさしい言葉もマッサージもなかった。すでに検診は開始されているのである。
 さゆりはいったん挿入した中指の先から根もとまで、指全体を由美の内壁にあて、少しづつ圧力を加えていく。そして今度は、そのまま手首からゆっくり回転させながら、由美の恥ずかしい内壁を180度 隅から隅まで不自然な凹凸がないか、触診していく。
 自分の肛門から直腸にかけての内壁が押される感触は、体の中で別の生き物が動めいているような気色悪さであった。さゆりの指がゆっくりと由美の排泄器官の内壁を這い回る。
「あぅぅ……。」
ことばにならないうめき声が、由美の唇から漏れる。深呼吸しようとするのだが、挿入された指のせいで、思うようにおなかに息が入れられない。肩でぜいぜい息をしながら、苦しさのあまり、口も自然と半開きになってしまう。
 さゆりの指が動くごとに、由美の排泄器官は体内に侵入してきた異物を押し出そうと、由美の意志に関係なく蠕動運動をはじめる。
「あぁ、もう堪忍してぇ……。」
弱々しく、由美はさゆりに哀願する。
「もうちょっとのがまんよ。肛門と直腸の境目を調べたら終わりだから。」
さゆりは事務的に答えながら、今度はいったん由美の内部に深く挿入した中指を、半分ほど抜くと、再び由美の体内奥深くに挿入し直す。さらにその前後運動を何度となく繰り返し始めた。するとゴム手袋につけたオリーブ湯と由美の内壁から分泌された粘液がからみあって、再びニチョ、ニチョと湿っぽい音を立て始める。
「ひぃぃ、気持ち悪いよぅぅ……。」
由美はあえぎながら恥ずかしさで顔をますます赤らめる。しかしさゆりは、由美には見向きもせず、京香の方を向いて口を開いた。
「どうやら痔核や腫瘍はないようね。」
「じゃあ。由美ちゃんの便秘の原因はなんだったんでしょう。」
「ちょっと腸の動きがにぶいのよ。由美ちゃん、あなた、ここのところ運動してる?。」
「いっ、いぇ……、あんまり……ハァハァ。」
自分の排泄器官に指を挿入された由美は答えるのがやっとである。
「そうでしょう。ほら、ウンチが固まってるわ。」
「 ………… 」
「ほら由美ちゃん、わかるでしょう。」
さゆりは由美の直腸部でかたまっている便をゴム手袋越しにつつく。
「あぁ、やめて…。」
さゆりがつつくたびに、由美の内壁に鈍痛がはしる。
「ハぅぅ…」
「うさぎのウンチのように小さい固まりが幾つも固まってんのよ。」
「どうしてこうなっちゃうんでしょうねぇ
?。」
京香が尋ねる。
「腸の中でためこんでいる間に、水分だけ吸収されるからカチカチうんちになっちゃうのよ。ほら、押してもへこみもしない。」
「ひぃぃ、やめて…苦しい。」
 さゆりは由美の哀願に耳を傾ける様子もなく中指をゆっくり回転させながら、今度は反対側の内壁に留まっている由美の便をさぐりあて、軽くつつく。
「ほら、ここにも固まってる…。」
ふたたび、由美の内壁に鈍痛が走る。
「あぅぅ…、お願い……、もう堪忍して下さい…。」
 自分の排泄物を二人の同性に話題にされているだけでなく、人にも見せられない自分の排泄物をいじられているという新たな羞恥心がこみ上げてくる。
「運動してないのにダイエットばかり気にして、片よった食生活してたのが原因みたいね。」
「じゃあ由美ちゃんのウンチってうさぎさんのウンチなんだ。じゃあ、学芸会の時は由美ちゃんにウサギさんの役をやってもらおう!。
「京香ちゃん、検診中ですよ。」
「ごめんなさい。あまりに由美ちゃん、かわゆくて…、つい…… 。」
「あとでお尻、ペンペンでちゅからね。それに由美ちゃんは児童とは言っても高校3年生よ。学芸会に出る年齢じゃありませんからね。」
 さゆりの言葉は一見、京香を叱っているように聞こえる。だがあきらかに二人は由美の体内のものをネタに、会話をじゃれあっているようにしか由美には聞こえなかった。二人の会話に由美はますます恥ずかしさに加えて、こんどは惨めさまてこみ上げてくる。
 由美はあまりのみじめさに涙がこぼれそうになった。もっともこの状況だったら普通の女子生徒ならとっくの昔に涙をこぼしていたかもしれない。それでも由美が涙をこぼさなかったのは彼女自身の気の強さとプライドがあったからだ。それに加えて、由美には京香への怒りも増していった。
(なんなのよ、この子…。なんで私が学芸会のうさぎよ。この子の頭、小学生じゃないかしら?。)
 なにか、さっきからの京香の態度は、自分が苦しんだり恥ずかしい思いをしているのを楽しんでいるように思えるのだ。 
 しかし京香への疑問を由美が抱き始めた時、やっとさゆりは由美の臀部から中指をひき抜いた。だが由美が安堵の表情を浮かべられたのは、ほんの一瞬であった。、
「ほら京香ちゃん、こんなにウンチかこびっちゃった。」
さゆりが引き抜いたばかりのゴム手袋を京香に見せる。ほどなく由美の体内に留まっていた排泄物独特の異臭が、由美自身の鼻にもとどく。
 由美の顔からみるみる血の気がひいていった。
「わぁぁ、すごい。由美ちゃん、こんなにウンチ貯めこんでたんだ。」
ほぼ同時に歓声にも似た京香の声が、由美の頭上から響く。京香のこの無神経な言葉には、いかに気の強い由美も思わず気持ちが動転してしまった。
「やだぁぁ、見ないで……。」
そう叫ぶなり、由美はガウンの襟を顔に押し当てた。由美にできることはそれしかなかった。
 今ここで起こっていること、自分の排泄物が二人の同性の前にさらされること自体が、由美には信じられなかった。これは夢だ、と思いたかった。
(お願い、このゴム手袋、早く捨てて……)
由美は心の中で叫んだ。だから      「じゃあ悪いけど京香ちゃん、このゴム手袋処分して。」
というさゆりの声が耳に届いた時は、ほっと胸をなでおろした。
 しかし由美の安堵もほんのつかの間であった。京香の言葉が由美をふたたび奈落の底へと突き落とした。
「はい、わかりました。でもさゆり先生、捨てる前に由美ちゃん本人にも見ておいてもらったらどうでしょう。」
「そうねえ、自分がどんなにひどい状態か、知っといてもらうのも悪くはないわね。どう、由美ちゃん、見てみる?。」
 さゆりは横向きにエビのような姿勢で寝かされた由美の背後から、のぞき込むようにたずねる。由美はますます強くガウンを顔に押しあて、無言のまま激しくかぶりをふった。
 ガウンで隠されているため由美の顔の表情を見て取ることはできないが、隠しきれなかった由美の両耳が、先まで真っ赤に染まっているところを見ると、顔は今にも燃え上がるくらい赤らんでいたに違いない。
 その様子をさゆりは見下しながら、今度はやさしく由美に声をかけた。
「そうか、無理もないわよね。でも恥ずかしいことじゃないからね。さっ、由美ちゃん、検診手袋も捨てたから元の姿勢になっていいわ。」
「さぁ由美ちゃん、子供じゃないんだから、いつまでも顔を隠すのはよしましょ。」
京香もさゆりと同調するかのように、由美の頭をやさしく撫でながら、顔にガウンを押しあてている手を降ろすように促した。
 母親のような京香の仕草に、由美も羞恥の呪縛がほどけたかのように、おもむろに手を
おろし、ガウンの襟からまだはずかしさで紅潮した顔をのぞかせた。
「由美ちゃんってかわいい。」
京香がにっこりと微笑み返す。けれども由美の表情はまだ半分、放心状態であった。無理もない。人目にさらしたことさえない自分の排泄器官を、二人の同性の前でまさぐられ、最後には自分の排泄物まで見られたのである。
 しかしふたたび仰向けの姿勢にもどり、京香の手によってふたたびガウンのすそが閉じられると、由美も少しずつ落ち着きをとりもどり、表情も羞恥の呪縛から解放されてきたようであった。
 さゆりはそんな由美の表情を確認すると、今度は保険医の立場から少し時務的に言い渡した。
「由美ちゃんには腸が活発に動くお薬を四日分ほど処方するわ。それでもあと二日経ってもウンチが出ないようなら必ず報告すること。わかった?。」
 さゆりの言い方にはうむをも言わさない高圧的な響きがあった。由美は黙って小さくうなづいた。さらに
「それとさっきも言ったけど、今夜から食事の方も気をつけましょう。しばらくダイエットのことは忘れることね。」
「えっ、でも…それは……」
由美の声は悲しげになった。無理もない。スマートな容姿を強く願う年頃の女性に、それは酷な命令であろう。しかし、さゆりはそんな由美の気持ちを無視するかのように話し続ける。
「由美ちゃん、あなたが18歳だろうが何歳だろうが聖愛女子学園に在学の間は、この学校の児童なのよ。スリムになりたい気持ちは分かるけど、この学園の児童でいる間はダイエットとかエステとか大人がすることはいっさい考えなくていいの。あなたの健康状態に見合った食事をとってもらいますから。もしあなたに病気でもされたら、こちらの責任になってしまいますからね。わかった?。」
さゆりは冷たく言い放った。彼女のその言葉はまるで、この学園にいる間は大人扱いはしないぞ、と告げられたように由美には聞こえた。

 直腸検査が済むと、由美は検診台の上に仰向けにまっすぐ寝かされた。ところがここで、さゆりは思いがけないことを由美に告げたのである。
「じゃぁ心電図取るんだけど、その前にお尻検査のついでに性器の検査もいっしょにやっちゃうからね。」
「えぇッ…、」
由美は仰天して思わず検診代から上半身を起こし、さゆりの顔を見つめた。
「そ…、そんな話し聞いてません。」
「でも寮に入る児童はこの検査は受けてもらうことになってるの。」
「わたし、変な病気なんかありません。」
「じゃあ、見せてもらってもいいんじゃないのかしら。それとも見せられない理由でもあるのかな?。」
「そういうことじゃありません。どうしてそういう検査があるならあると、おっしゃてくださらないんですか?。」
「それじゃあ聞くけど、もし前もって言ったら由美ちゃん、検査受けてた?。」
「そっ、それは……。」
「きっと受けなかったでしょうね。由美ちゃん、わたしたちも好きでしているんじゃないの。けれど性器にもクラジミアや皮膚病などの怖い伝染病もありますからね。これら伝染病にかかっていないことを証明できないと寮にも入れないし、ましてや寮のお風呂には入れないのよ。」
「でも……、」
「なんど同じこと言わせるの。万が一、お風呂や洗濯機などからほかの児童に集団感染したらどうするの。寮に入る高等部の児童は全員この検査を受ける決まりになってるの。」
京香がさゆりの言葉を援護するように間に割って入る。
「もちろん私たちだって由美ちゃんを疑っているわけじゃないわ。でも感染症を未然に防ぐのはさゆり先生や保健委員の義務なのよ。由美ちゃんならわかってくれるでしょう?。」
 しかし由美の表情から、二人の説明を納得していないのは明らかであった。由美はまるで無言の抗議をするかのように、床を見つめ首を振った。気まずい沈黙のひとときが検診室に流れた。
 やがてその沈黙を破るように、さゆりは溜め息まじりに最後の切り札を出した。
「じゃあ、いいわ。今から東京に帰ってもらってもうちは別に構わないから。あっ大丈夫よ、学園長には私からちゃんと話ししておくから……。」
「待って下さい。そんなつもりで……。」
「いいのいいの、無理しなくても。あなたの編入に反対の理事だって大勢いたらしいじゃない。かえってあなたから編入手続きを拒否してくれた方がこちらも助かるわ。別に今の世の中、中卒だって恥ずかしいわけじゃなし…。」
つきはなしたようにさゆりは言う。
「やれやれ、お互いに無駄な時間つかっちゃったわね。せっかくはるばるお越しいただいたのだから、当学園のお昼でも召し上がってからお帰りになって。」
さゆりは手にしたバインダーを無造作に机に放り投げ、席を立とうとした。
「待って下さい……。検診を……、お…お願いします。」由美は、蚊の泣くような、しかし意を決したような声でつぶやいた。
 その由美の言葉を待っていたかのように、京香は無言のまま、検診台の下に付いていたレバーを引いた。同時に検診台のちょうど臀部より下の部分がガクンと折れ曲がり、台の下に折り畳まれるように格納されてしまった。
由美はあっと思い、思わず両足を床につき、下半身をささえようとした。臀部から下の部分が急になくなるのだから無理もない。
 しかし同時に臀部あたりの検診台の左右から1本づつ、金属のバーが上に伸びてきた。このバーの先にはビニール張りの足置き台が装着されていた。京香はすばやく、由美の両膝をとじさせたまま左右の足を足置き台に乗せさせた。
「すぐ終わるからね。」
京香は不安におびえる由美の顔に微笑みかけながら、足置き台にのせた由美の足首を皮バンドで動けないように固定してしまった。
 さらに京香は検診台の下から皮ベルトを引っぱり出し、由美の腰の部分をしっかり台に固定してしまった。これでは逃げるどころか、姿勢を変えることさえままならない。この検診台はかなり多目的に使えるだけでなく、拘束器具もかなり充実しているようだ。
それもそのはずでこの検診台は性器検診の時、恥ずかしがって抵抗する生徒の為にさゆりが特注で作らせたものであった。
 由美は足首と腰の両方を固定されたことで、なおのこと不安感をつのらせていった。
 だがその次に由美をさらに驚かせることが起こった。由美の足首と腰の部分を固定されたことを確認すると、さゆりはやおら検診台の下のハンドルをグルグルまわし始めた。
 するとなんということだろう。由美の両足が固定された2本のバーは、徐々に由美の頭の方に移動しながら、しかも左右に広がって行くではないか。
「えっ、うそ…うそォ……。」
由美は喉の奥でつぶやく。しかし2本のバーは動きを止めることなく、さらに左右に広がっていく。同時に膝を合わせた由美の両足が少しづつ少しづつ、こじ開かれていく。
「やだっ、やだぁ…。」
由美の声は先ほどのつぶやき声から、次第に大きくなっていった。同時の声の表情も、つぶやき声の時は驚きをふくんだトーンだったのが、だんだん哀願するかのようなトーンに変わってきている。
 由美はさゆりと京香の顔を交互に訴えるかのように見やろうとするが、さゆりがハンドルをまわす手を止める気配はいっこうにない。
 京香も由美に背を向け、検診書類をバインダーに黙々と束ねている。由美に声をかける様子は二人からは微塵も感じられない。由美は足を開かれまいと力を入れるが、バーが広がる力はまったく衰えなかった。
 やがてバーが由美の腰幅よりもかなり左右に広がったところで、さゆりはようやくハンドルをまわす手を止めた。これにより由美の恰好たるや、仰向けに寝そべったままトイレにしゃがんだような、ぶざまな姿勢と化してしまった。
 しかもせっかくガウンを着ているにかかわらず、この姿勢により再び由美の下半身は二人の同性の前でむき出しになってしまった。しかも先ほどの直腸検査と違い今度は、あたかも幼女が母親の手で後ろから両足ごと抱え上げられ、用足しの姿勢をさせられているのとほぼ同じ姿勢なのである。
 この状態になると由美はもう哀願する気力もなく、ただ体を小刻みに震わしながら、自分の秘所をさらけ出される羞恥にひたすら堪え忍ぶしかすべはなかった。

「さゆり先生、準備できました。」
京香がさゆりに声をかける。
 開かれた両足の間にさゆりが座りる。さゆりの前には、先ほどさんざんいたぶられた由美の菊花から、秘密の花園にいたるまでのすべてさらけ出されている。
「それじゃあ京香ちゃん、これから由美ちゃんの検診結果を言うから、検診用紙に書きとめていってね。」
「はい、わかりました。」
「聞き違わないように、わたしが言ったら復唱するのよ。」
さゆりは京香に命じる。
 京香は診断書をバインダーにはさみ、さゆりの背後にたつ。由美の視線からは、開脚された自分の股間正面に二人の女性が顔をのぞかせているアングルとなり、これがますます羞恥を助長させる。
「では大陰唇から始めます。」
さゆりは再びゴム手袋を右手にはめながら、医師独特の事務的な口調で検査開始を告げた。ほぼ同時に、由美はへその下あたりに冷たい金属の感触を感じ思わずゾクッとしたた。
「まず大陰唇の周辺部からです。陰毛の生え具合、へそ下11センチから繁茂。ほぼ密生型。」
 冷たい金属の正体は、さゆりの左手に持たれた測定用のゲージであった。鳥のくちばしのような部分を上下並行にスライドさせて、寸法を正確に計測できる器具である。この測定器具によって由美の秘苑のサイズがことこまかに測られていく。
「へそ下11センチから繁茂。密生型。」
京香がさゆりの言葉を復唱しながら検査用紙に記入していく。
 測定ゲージの金属特有のひやりとした感触が由美の脳髄まで伝わる。実はさゆりは検査に先立ち、この測定ゲージを冷蔵庫に入れ冷やしておいたのだ。これによりゲージが秘部に触れたときのおぞましい感触が、より大きく由美に伝わることになる。
 実際にゲージが秘部に触れるたび、足置き台に固定された由美の足指は、けなげにもキュッと閉じたり開いたりをくり返している。この仕草で、由美が冷たい金属の触感に懸命に耐えているのがわかる。
「後陰唇交連から肛門部48ミリメートル。」
「48ミリメートル」
「陰毛の繁茂範囲、大陰唇下部まで。その他会陰部ならびに肛門周辺に繁茂若干あり。」
この言葉で由美の顔がポッと赤く染まる。
 さゆりは次々に測定ゲージをあてながら、こと細かに由美の敏感な部分のサイズやその形状を調べ上げ、その結果を読み上げていく。しかも京香がさゆりの発した言葉をまちがえないよう復唱し、検診用紙に書き留めていく。
 今まで他人にさらしたことすらない場所を細かくチェックされる恥ずかしさに加えて、まるで自分がものとして扱われているような惨めさが、由美の心の中にこみ上げてきた。

「外陰部はとくに異常はないようね。」
さゆりはとりあえず一息入れるように、口調をくずした。それに答えるかのように京香も
口を開く。
「由美ちゃんてわたしより毛深ーい。」
さゆりは、由美の菊花のわきにぽつんと自生している飾り毛を一本つまんで、からかうかのように軽く引っぱりながら言った。
「なに言ってるの。京香ちゃんが少ないだけよ。18才くらいの子だったら、お尻の穴のまわりまで毛をはやしてる子、たまにいるわ。」
「あぁ、やめて…。」
由美は消え入りそうな声で哀願するかのように言った。しかし二人は由美の哀願には無頓着になおも雑談を続ける。
 由美は自分の秘部を二人の同性に話題にされている恥ずかしさに顔から火がでそうだった。
「どうして私はうすいんだろ…。」
京香は自分の体に不服そうだ。
「京香ちゃん、心配しなくてもだいじょうぶよ。人の体はね、どこの部分も同じスピードで成長するわけじゃないのよ。京香ちゃんの場合、身長なんかはふつうに伸びてるんだけど、たまたま女性特有の部分がまだ幼児のまんまなんだな。」
「いやだよぉ、幼児のまんまなんて…。」
「心配しなくても平気。京香ちゃんの場合あとちょっとしたら、こどもっぽい部分も女っぽく変わってくるし、ここのオケケだってちゃんと生えそろうから。」
 こんもりと盛り上がった由美の秘丘を手の平で撫で上げながら、さゆりは京香に説明を続ける。人に見せたことのない秘苑を二人の同性から見つめられるだけでも十分恥ずかしいのに、自分の体を使って飾り毛の説明までされていることに、由美はますます顔を赤らめた。
(お願い…早く検査して)
 しかし由美のそんな願いもむなしく、さゆりは秘丘に繁茂する由美の飾り毛を逆立てるように、指を櫛のようにそろえ、下から上へ飾り毛を梳きあげる。
「由美ちゃんのオケケを半分わけてもらえば二人でちょうどいいかもね。でも由美ちゃんが嫌か、ハハハ…」
「ちゃんと生えそろうんだったら京香、それでもかまわない。」
「ちょっと京香ちゃん、今のは冗談よ。オケケだけ一人前になったってしょうがないでしょ。あなた、ちょっと前までは幼児みたいに失敗ばかししてたんだから……。」
「あっ、先生…それは言わないって……。」
急に京香の声が、少しうらめしさのこもったトーンになった。
「あら、そうだったかしら、ごめんなさい。」
さゆりは背後に立つ京香の方を振り返りながら、少し意味ありげな笑みを京香に送った。
 開脚のまま仰向けに寝かされている由美の視線からは、少し顔をうつむかせて今にも泣きそうな表情でさゆりを見つめる京香の顔が、自分の股間越しに見て取れた。しかし、その言葉がどういうことを意味しているのか、由美にはわからなかった。
 由美はもう一度、京香の顔を見ようとした。だが、
「じゃあ検査の続き、いくわよ。」
というさゆりの言葉で、それは中断された。
再びさゆりが、京香から由美に向き直ったからである。
 二人の同性の視線が、先ほどと同じように開脚された由美の股間にそそがれる。ただ違うのは、ふたりの視線が先ほどよりも妙に熱くなっているように由美には感じられた。
「では今度は小陰唇からです。縦47ミリメートル。」
「47ミリメートル。」
「小陰唇の横幅、最大部分で右が8ミリメートル。左7ミリメートル」
「右が8ミリ。左7ミリ。」
さゆりの声と復唱する京香の声が、交互に検診室に響き渡る。今度は由美のもっと敏感な部分に冷たい測定器具が当てられる。
「いやぁぁ……。」
かみ殺したようにつぶやきながら、由美は目をぎゅっと閉じ、その金属の不気味な触感に必死に耐え続ける。
 自分の羞恥の部分をこと細かに寸法を測られることが、どれほど屈辱的なことなのか、由美は思い知った。自分のなにもかもが暴かれ、さらけ出されているような気持ちになった。
(お願い…、もうやめて……。)
惨めさと恥ずかしさが交錯する頭の中で、由美は何度もつぶやいた。しかしさゆりと京香はそんな由美の気持ちを無視するかのように淡々と検査を続ける。
「次は小陰唇の厚みを測定します。」
そう告げるとさゆりは測定ゲージのくちばしのような部分で、由美の花びらの最ももりあがったところをはさんだ。
「あうっっ…。」
電流が体を駆け抜けたかのように、由美はビクンとからだを一瞬、痙攣させた。しかしそれは痛みからくるものでないのは明らかだった。さゆりはそうと知りながら、
「あら、痛かったかしら。」
そらぞらしく声をかける。
「おかしいわねぇ。軽くはさんだだけなんだけどなぁ。」
「いっ、いえ…なんでもありません。」
由美は悟られまいと、必死に平静を装おうとした。しかし痛みとは違う感覚に耐えようとしているのは、反り返るように開かれた指を見れば明らかだった。
「もしかして、由美ちゃん…。感じちゃったのかなぁ。」
京香も少し意地悪く、さゆりの言葉に合いの手を入れる。
「ちがう。ちがうわよ。」
由美は京香の言葉をうち消そうとするかのように、はげしくかぶりを振る。
「そりゃそうよねぇ。神聖な我が学園に入園する児童が、ここ少しはさまれたくらいで変な気持ちになるわけないもんね。」
 さゆりは笑いながら指先でちょんちょんと由美の可憐な花びらをつまびく。指先ではじかれるごとに由美の花びらは生き物のようにぷるぷると小刻みに震える。ふたたび由美に痛みと異なった感覚が伝わる。
(堪忍して…)
由美は唇を咬み、じっと押し寄せる感覚に耐える。
「京香ちゃん。見とれてないでちゃんと記録なさい。小陰唇の厚さ2ミリメートル、色素沈着、左右ともに若干有り。」
「はい。……色素沈着、左右ともに若干有り、ですね。」
 それゆえ、やっとさゆりの意地悪な指が自分の体から離れた時は、由美もようやく胸をなで下ろした。これで終わった、と思ったのである。

 しかしその安堵もつかの間だった。ふたたび由美を羞恥の深淵に追いやる非情な命令をさゆりが告げたのである。
「続いて陰核検査に移ります。」
恥ずかしさで顔を赤らめていた由美の顔が、この宣告を聞いて今度はほのかに青ざめた。
「相原先生、お願いです。そこはやめて下さい。」
「あら、どうしてかしら?。」
「だって…、恥ずかしすぎます。お願いです。」
「恥ずかしいと思うのは、由美ちゃんの心の中に何かやましい気持ちがあるからじゃないのかしら?」
「やましい気持ちなんてありません。」
「じゃあ見せてもらってもいいでしょう。特に由美ちゃんの場合、このビラビラにも少し色素沈着があるから回りも見ておく必要があるの。色素沈着が何かの病気のサインだったりすることもあるのよ。」
 さゆりは少しからかうように、ふたたび由美の可憐な花びらを指先で軽くつまみ引っぱった。一瞬 由美の顔がゆがむ。さらに追い打ちをかけるように京香が説明を添える。
「それにね、由美ちゃんも知ってると思うけど、このビラビラから陰核のあたりは恥垢がとってもたまりやすいところなの。これが原因で炎症を引き起こすこともあるのよ。」
「わたし、清潔にしてるわ。検査していただかなくても大丈夫です。」
「でもね、由美ちゃん。恥垢というのはね、いくら清潔にしてたつもりでも私たちの年頃ってつきやすいものなの。脂腺の分泌物がすごく多いからね。」
 保健委員とはいえ、同い年の京香にまで偉そうに説得されるのに、由美は軽い屈辱感を感じた。
「でもいや。そんなところ検査されるなんて……。」
さすがに気の強い由美も涙目になっている。
「でも由美ちゃん、もしちょっとでも恥垢がついてたら可愛い由美ちゃんのあそこ、クチャイクチャイでちゅよ。」
京香は自分の鼻をつまみながら、まるで幼児にしてみせるかのようなおどけた仕草をしてみせた。
(なによ、この子まで私をこども扱いして…。)
校医のさゆりならまだしも、同い年の京香にまで幼児扱いをされ、由美は屈辱感の上に腹立たしさを覚えた。
 それに人に見られたくもない自分の秘所を、しかも同性に“可愛い”と言われることに由美は嫌悪感すら感じた。
(私を見てる時のこの子、どうも変だわ。)
 このままだと、どこまで検査されるか、わかったもんじゃない。由美は不安を感じ拒否の姿勢を二人に示そうと、身をよじって検診台から起きあがろうとした。けれども足首だけでなく、腰をベルトでしっかり検診台に固定されているので起きあがるどころか、ベビーベッドの中の赤ん坊のように身をよじるのがせいぜいだった。
 その由美の反抗的な態度を見て、さゆりが再び最後の切り札を出す。
「言っときますけどね。これから入寮する子はそういう炎症がないか検査しなくちゃいけないの。陰核のチェックやらないかぎり、性器検査は終わりませんからね。でも由美ちゃん、ちゃんと清潔にしてるんだったら問題ないでしょ。見せられるはずよ。」
「 ………… 。」
 由美は言葉をもう返さなかった。このまま我を張っても検査が終わらないことを悟ったからだ。いっそのこと、体のどこでもいいからさっさと調べて検査を終えてくれ、くらいの気持ちになった。
 由美はもう言葉をかえすのをあきらめ、ふてくされたような表情で黙って顔をそむけた。
 この態度の変化で、由美が検査に同意したと見てとったのか、さゆりは微笑みながら由美の耳元で声をかけた。
「やましい気持ちの無い子は、陰核を少し検査されたからといって、変な気持ちになったりはしないものですよ。聖愛の子はみんなそういう子たちばかしです。由美ちゃんはどうなのかなぁ?。」
 言葉つらはやさしそうに聞こえるが、明らかに由美に羞恥のプレッシャーをかけようとしてるみたいだ。そのせいか、少しふてくされたような由美の表情に、今度は困ったような表情が加わっている。先ほどからさゆりと京香の二人は、言葉や会話で由美の表情が微妙に変わっていくのを見て、楽しんでいるようにも見えた。
 さゆりは無言のまま、左手のひらを由美の秘豆の上のこんもりふくらむ丘の部分にあてがった。丘を彩るふっさりした飾り毛が、さゆりの手の平に包まれる。さゆりの暖かい体温が由美に伝わってくる。
(えっ、相原先生なにをするんだろう。どうして私のこんなところに手をあてるの。)
由美は何をされるのか、わからなかった。しかしそれもつかの間だった。次の瞬間には相原さゆりが由美の秘丘に手を添えた理由がわかった。
 さゆりは秘丘に添えた手に気持ち圧力を加えながら、由美の胸の方向に押し上げた。当然、飾り毛とともに秘丘の皮膚もつっぱった状態で上に引っぱられる。
 力の加減で飾り毛何本かが抜けそうなくらい引っ張られ、由美は痛みに顔をしかめた。
 同時に秘丘の皮膚が引っ張られるのと連動して、由美の敏感な肉芽をやさしく守る包皮が少しまくれ上がった。透明感あるピンクがかった由美の肉芽が、ちょこんと頭を出す。ここでさゆりが京香に声をかける。
「京香ちゃん早く手を貸して。」
「えっ、どうするんでしたっけ。」
「この前の陰核検査の時、教えたでしょう。」
「あっ…はい、思い出しました。」
さゆりの背後に立って様子を見守っていた京香は、仰向け状態で寝かされている由美の横に移った。そして由美に背中を見せるように後ろ向きに立つ。
(やだ…、この子何する気なんだろう…。)
京香の背中しか見えないことが、由美の気持ちを余計に不安にした。
 それにも増して、保険医のさゆりにならまだしも、同級生の京香に自分の秘所をいじられることが由美にとっては耐えられなかった。同級生の前で秘所をさらけ出していることだけで十分に恥ずかしいのに、さゆりはさらに触れさそうとしているのである。
 だいいち京香がいくら保健委員だからといっても、自分と同じ、ただの高校生ではないか。
「やだ、さわらないで……。」
不安な気持ちが、思わず由美の口に出てしまった。それを耳にしてさゆりも由美の気持ちを察したのだろう。
「あら由美ちゃん、だいじょうぶよ。京香ちゃんはこう見えても腕まえは正確だから…。この子は私の大事な助手よ。」
 確かにさゆりの言うことは嘘ではなかった。ほかの保健委員の子なら嫌がる性器検査の手伝いも、京香は進んで手を差しのべた。それゆえさゆりも、いつのまにか京香に信頼をよせるようになったのである。
 しかしなぜ京香が同性の性器検査や肛門検査を積極的に手伝うのか、その本当の理由を由美は後ほど知ることになるのである。
 さゆりにそう言われると、由美もかたくなに京香の手伝いを拒否できなくなった。由美はあきらめ、京香のしぐさをせめて気配で感じ取ろうと、全神経を集中するしか手だてがなかった。
 京香は、両手を由美の花園に伸ばしていった。そして人差し指と中指を由美の肉芽を包む包皮の左右に添え、その皮を軽く引っぱりながらめくり下ろした。
前もってさゆりが秘丘を上に引っ張ることで露出しかかっていた由美の肉芽は、京香の指によって、かんぜんにむき出しにされてしまった。
 誰にも見せたことのない、いや自分でさえ全てを見たことすらない由美の肉芽の全貌が二人の前に姿を現した。
 肉芽は真珠のように少し光沢を帯び、ピンク色にいきいきと色づいていた。気持ち、じっとり潤っているようにも見える。
「まぁ、いい色つやのクリちゃんねぇ。」
さゆりは目を細めながらゴクリと唾を飲み込む。
「きれい…、まるで宝石みたい。」
京香も相づちを打つ。
「さっ、サイズからチェックしていきましょう。京香ちゃん、この皮をムキムキしたまま押さえとくのよ。」
 二人の会話から、由美は自分のもっとも敏感な部分が、すべてさらけ出されているのが嘘ではないことを悟った。
ふたたびさゆりが測定ゲージを手にしてする。そしてゲージのくちばしのような部分で、由美の最も敏感な肉芽を軽くはさむ。その瞬間、
「ひっっ…。」
由美は声をあげ、体をびくんと軽く痙攣させた。
「あらっ、由美ちゃんって感じやすいのかしら?」
さゆりがいたずらっぽく声をかける。
「ちがいます。ちがいます…。」
由美は必死に否定しようとする。
「陰核のサイズ、縦4ミリメートル、横は…。」
今度はゲージのくちばしで由美の肉芽を横からはさむ。ふたたび、痛みとはことなる淫靡な感覚が走る。ふたたび由美の体が軽く痙攣した。
「陰核の横サイズ、3ミリメートル。大きさ的にはふつうね。」
 ふつうなら耳にするだけで赤面してしまう、さゆりが口にする数値。だが今の由美にはさゆりの言葉に羞恥心を感じる余裕すらなかった。
 もっとも鋭敏な箇所をいじられている由美はただひたすら、せつなくなるような感覚にただじっと耐えるので精一杯だったのである。足台に固定された両足の指をなんども閉じたり開いたりする仕草で、由美が懸命にその感覚を耐えしのごうと努力しているのがわかる。

しかしここで由美をさらに羞恥のどん底にたたき落とすさゆりの言葉が、由美の耳元で響いた。
「じゃあ、そのまま陰核周辺部の恥垢チェックを行います。」
「うそっ、やだっ!やだぁぁ…」
 由美は頭の中が真っ白になり、我を忘れこどものように身をよじりまわした。これが足と腰を検診代に固定された由美ができる、ただ一つの抵抗の姿勢であった。
 恥垢検査……。こんな恥ずかしい検査があるだろうか。まだ自分の尿や便を検査される方がはるかにましだ。これらはだれもが共通に排泄するものだからだ。だが恥垢なんて…。
「いくらなんでもあんまりです…。」
由美は目に涙をためさゆりに訴える。
「動かないで!。だいじなところにピンセットの先が刺さるわよ。」
さゆりが大声をあげた。
 さゆりの手には、いつのまにか先が鋭くとがったピンセットがにぎられていた。この言葉を耳にすると、由美はおびえたようにびくんと体をふるわせて、身をよじるせめてもの抵抗を止めざるを得なかった。
 その代わり由美の体は、ぶるぶると小刻みにふるえはじめた。それはピンセットが刺さる恐ろしさでふるえているのではなかった。恥垢という自分の体の中で最も恥ずかしい分泌物を検査される屈辱感が、彼女の体をふるわしているのであった。
 さゆりはピンセットの先端を、由美の肉芽とそれをやさしく包む包皮の間にこじいれていく。
「京香ちゃん、覚えといてね。この陰核と陰核を包む包皮の間がいちばん恥垢がつきやすいの。」
「わかりました。来週、中等部で一斉恥垢検査がありますので、他の保健委員の子に伝えておきます。」
「あら、そうだったわね。よろしくね。」
 この二人の会話に、赤面している由美の顔から今度は血の気が引いた。
(えっ、なに…。一斉恥垢検査って…。)
由美のぐらぐらする頭の中で、疑問がよぎった。
(まさか、ひとりひとりこんな検査をするのかしら…?。みんな嫌がったりしないのかしら…?。中等部でするって言ってたけど、高等部でもかるのかしら…?。いったい誰が検査を…? )
 たくさんの疑問符が由美の頭からあふれんばかりに現れはじめた。しかし、このたくさんの疑問符は、さゆりの歓声にも似た声でかき消された。
「ほらっ、あった!。」
「えっ、恥垢ですか?。」
京香もさゆりに合わせるかのように、少しわざとらしく素っ頓狂な声をあげる。
「ほら、由美ちゃん。やっぱしあったわよ。」
 さゆりは少し勝ち誇ったような微笑をうかべながら、検診台に横たわる由美の顔をのぞき込んだ。由美の顔が再び、みるみる赤く染まっていく。
「うそ!、うそよ…。」
由美は、さゆりの言葉を否定しようと一生懸命かぶりを振る。これがベルトで固定され身動きとれない由美ができる、唯一の否定のポーズだった。
「うそじゃないわ。ホントよ。ほらっ…。」
さゆりは再びピンセットの先端を、由美のほのかにピンクに色づいた秘豆の根元に運んだ。
「やだぁー。」
三たび悲鳴があがる。
 由美は二人から目をそらさずにはおれなかった。無理もない。婦人科検診の目的で自分の秘部を検査されるというのならまだわかる。しかしまさか、自分の体の分泌物とはいえ排泄物と同じくらいうとましい恥垢まで指摘され、それをさらされるなんぞ、だれが想像できようか。
 由美が今、自分の身に起こっていることを夢、それも悪夢と思いたかった。
 しかしさゆりの言葉が、容赦なく今起こっていることが現実であることをつきつける。
「ほら、この粒状になったのがそうよ。」
「へぇ、これが由美ちゃんの恥垢なんだ。」
京香がもの珍しそうに、ピンセットの先端をのぞき込んでいる。
「お願い、見ないで……、お願い…。」
由美は目をぎゅっと閉じ、二人の会話を聞こえまいと耳を手で押さる。
(こんなことになるんだったら、昨日お風呂に入っておけばよかった。)
由美は後悔した。
 とはいっても、べつに由美も自分の体に日ごろ無頓着だったわけではない。それどころか、由美は同じ年頃の女性の中でも体のケアには人一倍、気を使っている方であった。ただ昨日にかぎって、聖愛女子学園のある地方都市に到着したのが深夜近くだったため、疲れ切っていた彼女はホテルのバスに入る余裕なく眠りについてしまったのである。たまたま生理の後だったというのも、由美にとっては運が悪かったかも知れない。
 だが京香もさゆりも、そんな由美の事情など知るよしもなかった。恥ずかしい分泌物を見つけられた羞恥に打ち震える由美の姿を見ると、二人は面白がるように声の調子をわざと高めて話し続けた。
「恥垢ってずいぶん白っぽいんですね。」
「そうよ。脂肪と老廃物のかたまりみたいなものだからね。」
2人の会話は情け容赦なく、由美を羞恥のるつぼに突き落とす。
「いやだぁ……。お願い…、もう捨てて…。」
哀願するよりほかに羞恥の呪縛からのがれるすぺがない由美に、京香の次の言葉がさらに追い打ちをかける。
「うわっ、へんな臭い…。」
「そりゃそうよ。恥垢は脂線から分泌されるから、とても臭いが強烈なの。とくに生理の後なんかは気をつけないとね。」
「はい、わかりました。」
「ほら、由美ちゃんも見てごらんなさい。」
「いやぁ……。」
「由美ちゃん、あなたさっきは清潔にしてるって言ってたわよね。」
「ごめんなさい、もう堪忍して……。」
 由美はあわてて自分のガウンの襟で顔を隠そうとした。
 しかし今度は先ほどの直腸検査の時のようにいかなかった。なぜならば、検診台に固定された由美の体自身が重しになって、ガウンの襟を引っ張り上げようにも、引っ張れないのだ。由美ができることはさゆりの差し出したピンセットの先端から、顔を横に背けることだけだった。
「でも由美ちゃん、恥ずかしいことじゃないのよ。由美ちゃんの年頃は一番恥垢が付きやすいの。これは若さの証よ。でも恥垢つけたまんまだと炎症の原因にもなるから、これからも時々検査しましょうね。」
 この言葉に由美は信じられないという表情で、さゆりの顔をまじまじを見つめた。それは自分の最も恥ずかしいところ、それも自分がもっとも人に見られたくないものをこれからも時々検査されるということを意味しているからだ。由美の頭の中では京香がさっき口にした『一斉恥垢検査』という言葉が重なった。
 しかし、由美が驚いたのはもう一つ理由があった。こんな検査を日常行う学校があること自体が信じられなかったのだ。
 たぶん、さゆりも由美がそういう疑問を抱くことを予想していたのであろう。だまって京香に目配せした。京香もさゆりの目配せで、由美に何を説明しなければならないか気がついたようだった。
「あのね、由美ちゃん。」
京香はおもむろに口を開いた。
「さっき由美ちゃん、ちゃんと清潔にしてる、て言ってたよね。でも自分ではきれいにしているつもりでも、恥垢ってつきやすいものなんだ。それ自体は恥ずかしいことじゃないわ。でもこの学園では時々、一斉検査を行うことで、日頃からお風呂の時きれいに洗う習慣を身につけてもらってるの。」
「これからは気をつけるようにします。でもこんな検査はあんまりです。こんな検査する学校なんて聞いたことないわ。」
「そりゃ普通の学校じゃ、ここまで検査しないかもしれない。でも聖愛女子学園は淑女を育てる学校なの。」
「水野さん、あなただって恥ずかしくないの。」
しかし水野京香は由美の質問にこやかに答えた。
「そりゃ、私も最初は恥ずかしかったわ。でも今はこういう検査があって先生方に感謝してる。ちゃんときれいにする習慣もついたし…。」
そのように京香に答えられると由美も返す言葉を無くしてしまった。


5 悪魔の薬液注入


 それまで黙って二人のやりとりを聞いていたさゆりだったが、ここで話の方向を変えようとするかのように口をはさんだ。
「それとさっき検査した由美ちゃんの小陰唇と陰核の包皮の色素沈着、なんか気になるのよね。」
さゆりは少しいぶかしげな表情をつくりながら由美にたずねた。
「由美ちゃん、なんか思い当たることある?。」
「えっ、……思い当たることなんかありませんけど……。」
由美は少し狼狽気味に答える。
「そう…、変ねぇ。」
さやりは一瞬、考え込んだようだったが
「由美ちゃん、あなたもしかして…。」
さゆりはいきなり由美の可憐な花弁に両手を当てると、左右に大きくわり開いた。
「あっ、」
突然のことに由美も思わず息をのむ。
 沈黙が数秒つづいたあと、さゆりの少しあきれたような声が股間の方から聞こえてくる。
「京香ちゃん、この子処女膜破れてるわ。」
「まぁ、本当ですか?。」
京香も驚いた表情で由美の股間をのぞき込む。
「私も気がつかなかったとはうかつだったわ。由美ちゃん、あなた男性経験もおありのようね。」
「…………」
 由美はさゆりのその問いかけには答えなかった。それは自分に男性経験があることを知られた恥ずかしさからではなかった。というよりなぜ、男性経験のあることをそんなに言われなければならないのか、由美にはよくわからなかったからである。
 

 由美の男性経験はバイク仲間の少年とであった。少年の名前は健也といった。最初に由美を暴走族に誘ったのも彼である。
 暴走族が警察沙汰で解散になった後、暴走族自体には未練はなかったが、由美は今でも健也には思いを寄せていたのである。また健也の由美に対する気持ちも同じであった。
 ところが暴走族の警察沙汰で、健也に4ヶ月間の少年院送致が決まった。だがその時、健也は少年院を出た後はまた二人でやり直そう、そして二人で新しい生活を築こう。そのように由美と約束したのである。
もちろん由美も健也の言葉を信じた。
 おりしも由美の方は警察沙汰で前の高校を退学になってしまったが、そこに聖愛女子学園に編入の話が舞いこんだ。
 女子校という同性ばかりの環境は、バイク仲間の少年たちに囲まれてきた彼女にとっては別世界で抵抗もかなりあった。だが卒業までの4ヶ月をこの学園で過ごせば、高卒の資格も取れるのである。
 由美は割り切って4ヶ月の辛抱してみようと考えた。高卒の資格を取ったらまた東京にもどればよい。その頃には健也も少年院から出ているし、再び東京で楽しい日々をすごせるではないか。
 そもそも由美が聖愛女子学園へ編入の話しにのったのも、そういう動機があったからなのだ。そして4ヶ月後の再会と新しい生活を約束して、2人はいったん離れた。
(とにかく4ヶ月の辛抱よ。)
由美はそう自分に言い聞かせて、聖愛女子学園にやってきたのである。


「聖愛の児童で処女膜が無い子っていうのもめずらしいわね。」
さゆりはフーとため息をつきながら、皮肉っぽく言った。
「由美ちゃん、あなた今でも恋人いるの?。」
ここで由美ははじめて口を開いた。
「はい、東京の方に……。」
「それはご両親も認めてらっしゃるの?。」
「いぇ、両親はまだ……」
「そう、」
さゆりは再びため息をつき、しばし沈黙した。
あたかも、どこから話しを切り出したらよいのか、思案しているようだった。
「梓さんに話しておかなければならないことがあるんだけど。」
 さゆりはおもむろに、開脚姿勢のまま検診台に固定されている由美の横に寄り添いながら、口を開いた。
 由美はいきなり自分の名前を、あらたまったように名字で呼ばれぎくりとした。
「うちの学園はね。処女じゃないと編入や入学を許可しない、というような堅苦しい学校じゃないわ。」
言葉を選び選び、さゆりは語り始めた。
「それはね、あやまった道に進みかけたこどもを正しい方向に導くのが教育の使命、と考えているからなの。」
由美はさゆりが何を言いたいのか、よくわからなかった。さゆりはなおも話を続けた。
「だから、私たちは梓さんが当学園に入る前にどんな生活をしていたかとか、どんな交友関係があったかを問いただしたり責めるつもりはぜんぜんありません。」
 ここまできて由美は、さゆりが言いたいことがなんとなくわかってきた。
「ちょっと待って下さい。」
由美がさゆりの言葉を制した。
「相原先生が今おっしゃられた“あやまった道”というのは私の男性経験のことをおっしゃっているのですか?。」
由美は自分の疑問を単刀直入に相原さゆりにぶつけてみた。
「まぁそういうことかしらね。」
「本当に愛する人と関係を持ったことが“あやまった道”とは思えません。」
由美は毅然と言い返した。
(先ほどまで自分の恥垢まで指摘され、あれだけの辱めを受けたにかかわらず、自分の意見をぶつけてくるなんてずいぶん気の強い子ね。さすが元暴走族だわ。)
さゆりは心の中で苦笑しながら話を続けた。
「まっ、ずいぶんおませさんなこと。さすが東京の子ね。でもね、由美ちゃん…。あなたまだ高校生なのよ。ご両親が結婚を認めたわれでもない人と肉体関係を持つというのもどんなものかしら?。」
「それはわかっています。でも自分の行動には責任を持っています。私がどの男性とつき合おうと個人の自由じゃないですか。」
「由美ちゃん、まだわかっていないみたいね。あなたはまだ“こども”なのよ。」
由美がもっとも嫌がる言葉をさゆりはストレートに口にした。
 由美は憮然とした表情で、顔を二人からそらし、横を向いたまま押し黙っていた。
 高校生以上になれば恋もするし、今時、男女の関係があってもそんなにおかしいことではない。なぜ、それをとやかく言われるのか。
 それでなくても、ふだんから由美はこども扱いされることがもっともきらいだった。だから時々さゆりが垣間見せる、幼児相手のような口調も由美には我慢がならなかった。
「わたしはもう18才です。こどもじゃありません。私が好きな人とおつき合いするのがなぜいけないんですか。」
「結婚する前の女性が男性と関係を持つこと自体が許されないといっているのです。」
「いったい、いつの時代の話をしているんですか?。」
「確かに最近の世の中は、未婚女性の開放的な性生活にいたっておおらかですが、聖愛女子学園はそのような風潮はとても嘆かわしいことと考えています。」
「どう考えようと結構ですが、個人の恋愛の自由まで束縛することはできないと思います。」
「まっ、あなたがうちの学園を卒業した後どうしようと勝手ですけどね。この学園に在籍している間はいっさいの男女交際は許されません。わかりましたね。」
「………」
由美は相変わらず憮然とした表情のまま、なにも答えず横を向いていた。
 さゆりとこのまま話をつづけてもらちがあかないように思えたし、それに後4ヶ月程でこの学園を卒業できるのだ。それまでの辛抱ではないか。その間は恋人の健也も少年院の中だ。会おうと思っても会えるわけでもない。それよりも早く検査を終えて、みっともない開脚姿勢を解いてほしかったということもあった。
 
 ふたりの間に気まずい沈黙がながれた。その沈黙を破ったのは京香だった。
「相原先生、この際ですから“例の校則”のこともお話になられたらいかがですか。」
「あぁ、そうね…。由美さんには徹底的に聖愛女子学園の淑女教育も受けてもらう必要があるみたいだし。」
京香に促され、相原さゆりは思い出したようにうつむきかけた頭をあげた。
(例の校則?淑女教育?…、なんのことだろう。)
由美の脳裏にふたたび不安がよぎる。
「じゃあ、ついでだから言っとくわ。当学園が男女交際を禁じている理由がもうひとつあります。」
「なんですか、それは?」
「それは由美ちゃんにも心当たりがあると思うんだけど…。」
「なんのことでしょう。」
「じゃあ行ってあげるわ。由美ちゃん、あなたオナニーしているわよね。」
 とつぜん、予想もしなかったことを聞かれ由美は狼狽した。
「なんてことを……。わたし誓ってそんなことしてません。」
「いまさら嘘をいってもだめよ。あなたの体に書いてあるわ。」
「冗談じゃないわ。なにを根拠にそんなことを…。」
「でも体は正直なものよ。あなたの小陰唇からこのあたりにかけての、ほら…クリちゃんのまわりの包皮のあたりまで、少し色素が沈着しているのよ。これはオナニー未経験の子には絶対つかないものなの。」
「…………。」
「さぁ、言ってごらん。どのくらいオナニーしてるの?。」
「しっ、してません!。」
由美は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め、弱々しくかぶりをふりながら答えた。
「ここで意地をはってもしょうがないでしょ。正直に答えてくれないと検診になんないじゃないの。」
 そう言いながら、さゆりは由美の秘苑に色づくサーモンピンクの花弁を下から上へ、指先で無造作に撫で上げる。
「ヒィっっ……。」
「ほら、ごらんなさい。オナニー未経験の子だったら、ちょっと撫でられたくらいでこんな声出さないわよ。」
「ちっ…ちがいます。いきなり触られたから…、びっくりして…。」
「じゅあ、今度はここをいじってあげようかか。」
 今度はつい先ほどまでさんざんいたぶった由美の色鮮やかな肉芽の先端を、親指の腹の部分で軽く擦りあげる。
「あうぅ…、堪忍して……。」
「ほらほら、体はオナニーしたことあります、って言ってるみたいよ。」
「ぜっ、ぜったい…してません…。ほんとですぅ……。」
 懸命に耐えようとする由美。だが意地の悪いさゆりの指に、京香の言葉がさらに追い打ちをかける。
「由美ちゃん、恥ずかしいことじゃないの。あたしだってしちゃうことあるんだから。」
由美の手を握りしめながら、なおも続けた。
「由美ちゃん、正直に言おうよ。週に1回くらい?、2週間に1回くらい?。」
「…………」
「由美ちゃんてば。」
二人の執ような尋問には、答えない限り検診は終わらせないぞ、という気迫が由美にも感じられた。
 しばらくの沈黙のあと、由美は消え入りそうな声で答えた。
「2…、2週間に1回くらいです…。」
答えた後、恥ずかしさのあまり由美の顔が再び赤くそまっていく。この保健室に入ってから、いったい何度、恥ずかしさで顔を赤く染めたことだろう。
 この由美の告白は嘘ではなかった。
由美はすでに、女性としてじゅうぶん成熟しつつある年頃である。恋人の健也が警察に逮捕され少年院送りになった後も、ふたりですごした一夜を思い出しては、由美の手はつい自分の花園へ伸びていってしまこともあった。それはけっして不自然なことではない。
 しかしなぜ、ここでそんなことを告白させられねばならないのか。由美にはわからなかった。
 涙こそ流さなかったものの由美の心は、恥ずかしさよりもむしろ惨めな気持ちでいっぱいになった。
(それに“例の校則”ってなんのことだろう?。)
京香がつい今しがた、口にしていたのも気にかかる。しかしそれは、さゆりの次の言葉で由美にも知らされた。
それは驚くべき校則であった。
「由美ちゃん、ありがとう。正直に言ってくれて…。」
 さゆりは先ほどとはうって変わり、由美の頭をやさしく撫でながら話を続けた。
「どうして無理に聞いたかというとね。男性経験した子のほとんどがね、その時のことを思い出して、ついオナニーしちゃうんだよね。由美ちゃんだってそうじゃない?。」
「…………。」
図星をさされて由美は言葉がなかった。
「オナニーは淑女がぜったいにしてはいけない、ふしだらな行為なの。だから聖愛女子学園ではオナニー禁止を校則として定めているの。今日からの学園生活の中で忘れないでね。」
「………。」
 由美は唖然とした。いくらはしたない行為とはいえども、校則で女生徒にオナニーを禁止する学校なんてあるだろうか?。
「これでわかってくれたと思うけど、うちの学園が男女交際をきびしく禁止しているのは、オナニーみたいな淑女としてふさわしくない習慣を覚えないようにすることもあるのよ。わかった?。」
 しかし由美はさゆりの説明にはどうしても納得できなかった。このような校則は、明らかに個人のプライバシーの侵害ではないだろうか?。由美には、さゆりの説明はなんかこじつけのような気がしてならなかった。
「わかった?」
さゆりは再度、念を押すように問いかける。いつまでも返事をしない由美に少し苛立ったのか、語気がやや荒くなっている。
 それを見て京香がさゆりと由美の間に入った。
「さゆり先生、由美ちゃんは分かってくれていると思います。ただ恥ずかしくて返事できないだけなんだよね、由美ちゃんは…。」
 京香はまるで母親のように、由美の頭をなでながら、微笑んで顔をのぞきこむ。京香にそう言われると由美は反論しようとする気持ちも押さえ込まれてしまった。
 由美は京香の雰囲気におされ、目をそらしたまま小さくこっくりうなづいた。それはまるで、悪さをした幼児を『○○ちゃんはもうこんないたずらしないよね。』とたしなめる母親の様子に似ていた。
 だが由美の表情から、本人がさゆりの説明を納得していないのは明らかであった。

「そう…、わかってくれたんならいいけど…。」
さゆりは軽くため息をつきながら、なおも話を続ける。
「うちの学園が児童にオナニーを禁じている理由はもうひとつあってね、あそこいじってると指から尿道や膣のところにばい菌が入って炎症を起こしたりすることがあるからなの。」
「………。」
「それに由美ちゃんも尿道のところ、軽い炎症おこしてるわよ。」
「えっ、そんなことありません。」
沈黙を守っていた由美であったが、このさゆりの唐突な報告におもわず口を開いた。
「じゃあ、見てみる?。京香ちゃん、鏡…。」
 京香は鏡をさゆりに渡すと、由美が鏡をのぞけるように、寝ている彼女の上半身を半分ほど起こしてやった。さゆりは開脚された由美の股間正面に鏡をすえ、由美の方に鏡をかざす。
「ほら、見てごらん。」
さゆりにせかされ、おそるおそる鏡に目を移す由美。その瞬間、
「いゃぁ…。」
由美は思わず目をそらした。
 自分の体の一部とはいえ、こんなにあからさまに鏡に映し出されると、やはり恥ずかしさに顔をそむけざるを得ない。
「だめよ、目をそらしちゃぁ。ちゃんと自分が病気のところを見なさい。」
「ほら、由美ちゃん…。」
さゆりの叱責の言葉を受けて、京香はそむけた由美の両頬に手を添えて、鏡の方に顔を向けるよううながす。しかたなく由美は、鏡に映し出された彼女自身をもう一度、見つめなければならなかった。
 さゆりは二本の指で、由美の可憐な花びらを分け広げて、ピンセットの先端を由美の尿道口の周辺に軽く当てた。ひやりとした金属の感触に、由美の顔がゆがむ。
「ほら、少し赤くなってるのがわかるでしょう。ここが炎症をおこしてる部分よ。」
「えっ、でも痛くもなんともありませんけど。」
「そりゃそうよ。まだ初期の段階だから。痛いと感じたときはだいぶ病気も進行した状態なのよ。ところで最後にオナニーしたのはいつ?」
「………。」
「黙ってたってわかんないでしょ!。」
「いっ、1週間くらい前です。」
さゆりの語気に圧倒されて、由美は思わず本当のことを口にしてしまった。
「そう…、もしかしたらその時、ばい菌が尿道に入りこんだかもね。じゃあ、ひどくなる前に直しておこうね。」
「でも……。」
 じつは炎症を起こしているというのは、さゆりの大嘘以外のなにものでもなかった。
 先ほど由美の花園を検査する際、さゆりは赤い染料を由美の尿道口のまわりに気づかれないよう付着させただけなのである。しかし、この赤い染料は本物の皮膚病感染者のように、ただれかけた皮膚の状態を忠実に再現してみせた。またその色合いも由美を信じ込ませるのに十分であったのである。
「由美ちゃん、あなた自分がこうなってたこと、気づかなかったの?。」
「は、はい…。」
由美はとまどったように答えた。
 ふつうトイレや風呂の時、自分の秘所をいちいちのぞき込んだりはしない。さゆりもそれを見越してこんな意地の悪い質問をあえてしたのだった。
「こんなにここが赤く炎症おこしてるってことは、あそこも危ないわねぇ。京香ちゃん、引出しの中のクスコとって頂戴。」
由美はビクっとした。
(えっ、なに…クスコって……)
由美には聞き慣れない言葉だった。どんなものだかすら由美は思い出せなかった。
 しかし京香がさゆりに手渡した、ペリカンのくちばしのような細長い金属の器具を見たとき、由美はあっと声をあげた。
「えぇっ、やだっ…やだぁぁ。」
 名前は知らなくても、この形を見ればどういう目的の医療器具かは高校生の由美でもわかる。
「やだ、じゃありませよ。尿道口があんなに腫れていたら、膣内も検査しないわけにはいかないでしょう。」
 この二人はいったいどこまで由美に恥ずかしい思いをさせたら気が済むのであろう。
由美をいやいやさせる間髪を与えず、さゆりは手早く由美の花弁をふたたび押し広げ、銀色に不気味に輝くペリカンのくちばしを由美の秘苑に挿入していく。
「いやぁぁ、やめてっ…、やめてぇぇ。」
由美は必死にさけび、体を固定されている為せめてもの抵抗に体を左右にゆすろうとする。
「由美ちゃん、動いたらかえって痛いよ。」
京香が由美の体に覆い被さるように押さえつける。
「ひぃぃ…、堪忍してぇ。」
自分の内部に異物が挿入されるおぞましさに由美の全身に鳥肌がわきあがる。
「許してぇ、お願い……。」
「うるさいわね。さんざん男の一物くわえこんだくせに。検査できないじゃない。」
ピシャンとするどい音がして、さゆりは由美のむっちりしたお尻に思いっきり平手打ちをくらわした。
「痛ぁーい。」
由美の顔がゆがむ。
 しかし由美の顔のゆがみは平手打ちが済んでもずっとつづいていた。それはあきらかに平手打ちの痛みによるものだけではないのは、明らかであった。
 その証拠に由美の内部に挿入された膣鏡は少し位置をかえるごとに、ニチョッ、ニチョリッ…となにか粘液とからむような、ねっとりした音を響かせているのだ。
 この由美の体内から発せられる淫靡な音色を、さゆりも京香も聞き落とさなかった。
「やだぁぁ、やだぁ……やぁん……。」
由美の拒否のあえぎ声もこころなしか、トーンがかわってきていることを確かめると、二人は目を合わせ沈黙を保ったまま微笑んだ。
「やっぱし、膣の中もちょっと炎症おこしてるわ。由美ちゃんにも見えるように鏡を懐中電灯で照らしてくれる。」
「えっ、いぇ…、わかりました。もう…もうじゅうぶんです。」
由美は必死にかぶりをふった。これも由美がこのように答えることをさゆりは予測して、あえて口にしたのだ。
「わっ、わかりましたから…、早く抜いてぇ…。」
「あら、いい機会だと思ったのに…。」
さゆりはそう言いながら膣鏡を由美の内部からわざとゆっくり抜き取った。抜き取られた後も、膣鏡の先端は由美の秘苑からの一筋の粘液の糸をひいていた。
「やだぁ、へんなおネバがついてる。」
京香がわざと驚きの声をあげる。由美はギクッとした。
「まっ、なんでしょ、これ…。」
さゆりも粘液の正体がなんであるかわかっていながら、幼児に接するような態度でしらじらしく質問する。
「由美ちゃん、このネバネバさん、なんでちゅか?」
「………。」
由美はただ弱々しくかぶりをふりつづけることしかできなかった。
「聖愛女子学園にこれから入ろうという子がこれじゃあいけませんでチュねぇ〜。京香ちゃん、後で洗っといて。ベトベトだわ。」
幼児扱いされてるような口調が、ようしゃなく由美のプライドと羞恥心をもてあそぶ。由美はもう消え入りたい気持ちだった。
「こんなになっちゃうくらいだから、きっと指を中にまで入れてたんでしょ。ねっ、そうなんでしょ!。」
今度は口調を変え、さゆりは執ように問いただし始めた。
「……しっ、してません。」
「嘘おっしゃい!。口でごまかしても、由美ちゃんの恥ずかしいところが『してました』て言ってるじゃないの。」
「…………。」
恥ずかしさに答えられずにいる由美の秘苑への入り口を、さゆりは膣鏡の先端で意地悪くつつく。
「炎症の原因を突きとめるのも医師の務めですからね。黙ってられても困るのよ。」
「…………。」
「どうなの?。」
「…………。」
 たとえ身に覚えがあったとしても、とてもでないが素直に返答できるような質問ではない。しかし由美を問い詰めるさゆりの言葉は、ますます高ぶっていった。
「黙ってたって、問診になんないじゃないの。
指を入れてたの、それともなんか別のもの?。どうなの?。」
さゆりはそう言いながら、今度は由美の可憐な飾り毛をつまんで、無造作にゆする。飾り毛が左右に引っ張られるたび、由美のピンク色に色づく秘唇がいびつにゆがむ。
「うぅぅ…、ごっ…ごめんなさい…。」
由美はついに観念したようなで、つぶやいた。
だがさゆりは容赦しなかった。
「今さら謝ったってしょうがないでしょ。そうか、わかった。ほんとは指じゃなくてなんか変なもの、あそこに入れてたんだ。だから答えられないんでしょ!。」
思わぬことを言われ、由美は驚いたように必死に首を振った。
「ちっ、違います……。指です。」
蚊の鳴くような消え入りそうな声で答えた。もう今日だけで何度、顔を真っ赤に染めたことだろう。
 その言葉を聞くと、さゆりは少し勝ち誇ったように京香に顔を向けた。
「ほら、この子やっぱし指を中にまで入れてオナニーしてたんだ。」
「それで悪いばい菌さんが入っちゃったんですね。」
「由美ちゃん、いけないオイタした指はどれでチュか?。」
さゆりは幼児に叱りつけるように、由美の右手の指先を一本づつ摘んでは問いただす。
「この人差し指かな?…、この中指かな?。」
「うぅぅ…、もう勘弁して…。」
由美は小さくかぶりを振って許しを請う。だが、さゆりは追求の手をゆるめなかった。
「それとも、もしかして二本いっしょに入れたりしてたのかな?。」
「もう…、もうしません。だっ…、だから許して……。」
「本当ね。今の言葉。」
「はっ、はい…。本当です。」
「さっきも言ったけど、うちの学園は校則でオナニー禁止ですからね。二度と指を使ってへんなオイタしたらダメでちゅよ。肝に命じておきなさい。わかったかなぁ?。」
由美の指をつまみ上げ揺さぶりながら、まるで悪さをした幼児をたしなめるような口調で言い渡した。
「お返事は?。」
「…………。」
オナニーしていたことを無理矢理に告白させられた恥ずかしさに加えて、18才なのに幼児のように叱られる屈辱感と惨めさに声も出せないでいる由美に、さゆりが返事を促す。
「聞こえないわ。保健委員の京香ちゃんもいてくれてることだし、私たちの前で誓ってもらいましょう。『私、梓由美は二度とオナニーのようなオイタはいたしません』とね。さっ、どうぞ。」
 さゆりは腕を組み、今命じた言葉を由美が復唱するのをじっと待っている。口にするだけでも恥ずかしい誓いの言葉に、二人のやりとりを横で聞いていた京香まで顔を赤らめ、うつむいてしまった。
 検診室に沈黙のひとときが流れた。さゆりと出会ってまだ一時間もたっていないが、勘のいい由美は徐々にさゆりの性格がわかってきた。彼女が絶対に妥協を許さない性格であることを…。しかしそれでも由美は言い出せなかった。
「おやおや…、またおくちがナイナイさんになっちゃったのかな。由美ちゃんがオイタしないお約束してくれないと、いつまでたっても検査終わんないでちゅよぅ。」
さゆりは検診台に拘束されている由美の脇に立って見下しながら、幼児相手にちゃかすような語り口で誓いをたてるよう促す。
 由美は一刻も早く性器検診の恥ずかしいポーズから解放されたかった。
 だが、さゆりに命ぜられた誓いの言葉を口にするまでは、この検診台の束縛は解いてもらえないことを由美はやがって悟った。
 ついに由美は観念したように、唇をふるわせながら小さな口を開いた。
「わっ、わたくし…あ…梓由美は…。」
「聞こえないわ。もっと大きな声で!」
「私、梓由美は…二…二度と、おっ…オナニーを……いたしません。」
「違う!。オナニーのようなオイタでしょ。」
「私、梓由美は…、二度と…、オナニーのような、おっ…オイタ……はいたしません。」
 由美の顔は今にも燃えあがらんばかしに朱に染まっていた。自分の自慰行為の反省を誓わされること自体も十分に恥ずかしいが、それ以上に“オイタ”という言葉を口にさせられる方が由美には耐えられなかった。
 18才にもなろうという女性に、あまりに似つかわしくないこの言葉は、よりいっそう幼児扱いされる屈辱感を由美に与えた。

 ようやく羞恥の尋問から解放された由美は体を小刻みにふるわせながら、二人の視線から顔をそむけるしかすべがなかった。
 しかし信じられないことに、さらなる追い打ちが由美を待っていたのである。
「今の誓いを忘れないことよ。だけど炎症をこのままほっとくわけにもいかないわね。」
 さゆりは羞恥を耐え忍ぶ由美の表情をながめながら、京香にも同意を求めるように視線を送った。 
「そうですよね。寮に入ったらお風呂も洗濯機もみんなと共同だし……。」
京香もすかさず合いの手を入れる。
「衛生上もよくないわ。だいじょうぶよ、由美ちゃんくらいの初期段階なら今日だけの簡単な処置で終わるから。」
 二人の会話を耳にし、由美の顔にはみるみる失望の色が浮かんだ。無理もない。恥ずかしい誓いのことばで、やっと恥ずかしい検診にピリョウドが打たれたと思っていたからである。
「えぇっ、処置って……。」
由美の声は少し震えていた。それは先ほどまでの羞恥責めからくるものではないのは明らかだった。
“処置”という言葉に、由美は検査や検診とは異なる、言いしれぬ恐怖を感じたのである。そんな由美の気持ちを察してか、
「すぐ終わるからだいじょうぶよ。じゃあ私が由美ちゃんのそばについててあげる。」
京香も由美の不安が和らぐよう、明るく声をかける。
「でも…、どんなことをするんですか。」
「だいじょうぶ。化膿止めのお薬を入れるだけだから。」
 さゆりは、由美の視線から自分のおなかから下が見えないよう、検診台を真ん中から二分するように白いカーテンを引いた。これにより由美の目からは、自分のおへそから下でどんなことがなされているか、まったくわからない状態に置かれてしまった。
「じゃあ、オチッコの出る穴のまわりを消毒しまちゅよ。」
白いカーテンの向こう側から、また由美を幼児扱いするようなさゆりの口調が聞こえてくる。
 そしてなにか、湿っぽい脱脂綿のようなものが、由美の尿道口のまわりにあてられた。
「あっ…」
異常にひやりとする冷たさに、由美は思わず声をあげた。同時に消毒用アルコールのにおいが由美の鼻孔をつつく。由美の尿道口のまわりは脱脂綿によって丹念にふき取られた。
(なんかお薬を塗っているんだ。)
 敏感な場所を湿った脱脂綿でこすられるのは決していい感触ではなかったが、由美は内心ほっとした。 “処置”という言葉にもっとも痛みをともなうイメージがあったからである。
(よかった。お薬を塗っておしまいなんだ。)
だが胸を撫で下ろしたのもつかの間、
「京香ちゃん、机の上の青いアンプル取ってくれる。」
というさゆりの声に由美はギクリとした。
 続いてなにか液体を吸い上げるような音、そしてカシャンという何かガラス製のものを金属のトレイに置くような物音が、カーテンの向こうから由美の耳に届く。由美の心に再び不安の暗雲がたちこめる。
(えっ…、もしかして…)
由美がそう思ったのとほぼ同時に、
「ほんの一瞬だけ、チクッとするけどがまんしてね。」
さゆりのその言葉に、由美は自分の尿道部分に注射器の針がささることに気づいた。
「いや!、いや!」
由美はかぶりをふりながら検診代から起きあがろうとした。
 しかし両足は開脚の状態で置き足台に固定されているのだから、由美の背中がわすがに10センチほど検診代から浮いただけだった。
「由美ちゃん、がんばって!すぐ終わるよ。」
京香が胸の上に組まれた由美の両手を強くにぎりしめながら、体重をかけて押さえつける。
これにより由美は完全に身動きできない状態にされてしまった。
 ほぼ同時に由美の尿道口の上あたりに走る、チクリとした痛み…。
「痛いっっ。」
一瞬、由美の顔がゆがむ。だが、以外にも痛みはそれだけだった。
「どう、もう痛くないでしょう。今注射しているところは神経の少ないところなのよ。だから安心して。」
カーテン越しにさゆりの声がきこえてくる。
「ほーら、今 由美ちゃんの悪いところを退治してくれるおクチュリが入っていきまちゅよ。」
ふたたびさゆりの口調が幼児をあやすような
語り口になっている。
 しかし、注射器が自分の考えもしなかった部位にささっているショックで由美はただ、じっとこらえることしかできなかった。得体のしれない薬液が少しづつ、少しづつ自分の体内に注入されていく。注入された薬液はすぐ拡散せず、鉛のしこりのように、尿道口のあたりに重く固まっているようだ。だが、やがて徐々に薬は尿道周辺の筋肉に染み込むように広がっていく。それとともにこの薬の特徴なのであろうか、薬液に触れた尿道周辺の神経系統に、ジーンと沁みる感覚が広がっていく。
 さゆりは薬液を半分ほど注入終えたところで、尿道口の上にさした注射針をさらに奥に刺しこんだ。
「あぁ、やめて……。」
注射針が自分の筋肉とこすれあいながら体の中に刺さっていく感触は、痛みはないとはいえ、おぞましい以外の何ものでもなかった。
「動いちゃだめよ。今動いて、もし針が折れたら切開しないと取り出せなくなるからね。」
こう言われると、由美はただじっと、注射針がさらに自分の体内奥深くに差し込まれるのを耐えるしかなかった。由美の額には、ほのかにあぶら汗が浮かんだ。
「ほら、今お注射の針が由美ちゃんの膀胱のそばまできたからね。尿道炎から膀胱炎になることもあるからね。そうならないよう、このあたりにも化膿止めのお薬を注入しておきます。」
再び薬液が由美の体内にそそがれていく。
 今度は由美の体のもっと奥の方で、薬液にふれた筋肉がジーンと沁みる感覚が広がっていく。さゆりが明らかに由美の膀胱周辺に薬液を注入しているのは明らかだった。
 しかし先ほどと違い、今度の方が沁み方が大きいのだ。注入された薬の量が多いのだろうか。
 おもわず歯をくいしばりながら、由美は自分の体が薬液によって侵されていくような、いいしれぬ不安におそわれた。
(うそ、うそよ。由美、あなたってばかね。これはただの化膿止めのお薬よ。) 
由美は必死に自分に言い聞かせようとした。

 その後、どれくらいの時間が経過しただろうか。実際、注射をされていた時間は30秒なかったかもしれない。しかし由美にとってこの過酷な肉体処置は、途方もなく長い長い時間に感じられた。
「はい、終わりましたよー。」
さゆりの明るい言葉と同時に注射針が由美の股間から引き抜かれた時は、由美は半ぱ放心状態であった。
「はい、由美ちゃんよくがまんできましたね。えらいでちゅねぇー。」
 さゆりはまるで幼児にするかのような仕草で由美の頭をなで回し、笑顔を由美の顔に近づけた。
 しかし由美の顔は無表情のままであったばかりか、目も少しうつろだった。それは無理もないことであった。
 恋人以外に見せたことのない恥ずかしい部分を、二人の女性にさんざんまさぐられ、オナニーをしないことまで誓わされ、あげくに注射までされたのである。検査とは言えども由美にとってはショッキングなことであったにちがいない。だから半ば放心状態におちいるのも無理からぬことである。


6 立ち話


 だが注射が終わり、やっと足首と腰の拘束ベルトが解かれると、由美は少しずつ平静を取り戻していった。
 京香は手早く由美にガウンを着せ、椅子に座らせた。そこにさゆりが気持ちを落ち着かせようと、温かいハーブティをそそぐ。ハーブの甘い香りが由美の気持ちをリラックスさせていく。
 一息ついたところで、さゆりは検査の時には見せたことのない優しい笑顔で由美に声をかけた。
「さあ、これで心電図が終わったら由美ちゃんも聖愛女子学園の児童一員よ。よかったでちゅねぇ。」
「由美ちゃん、おめでとう。」
京香も満面の笑みを由美に贈る。
 しかし由美は素直に喜べなかった。18才の由美には“児童一員”という言葉にどうしてもなじめないのである。それにさゆりの自分を幼児扱いするような口調も、いい加減やめてもらいたかった。
(言うなら今しかない。)
由美は決心した。先ほどは体も拘束されていたし、さゆりの迫力につい押されてしまったが、今なら話を聞いてもらえそうだ。
由美はおもむろに口を開いた。
「あの…、相原先生。」
「あら、なに由美ちゃん?」
相原さゆりもハーブティをすすりながら、カップ越しに由美に視線をなげかける。
「先ほど学園長から、この学園では高校生まで生徒のことを児童と呼ぶ、とうかがいましたが…。」
「それがどうかしたの?。」
「その理由はうかがいましたが…、やっぱし私も一応18才だし…あまり子供扱いされるのって慣れていないんです。」
「だから?。」
「そのぉ…、うまく言えないんですが、もう少し幼児扱いするような話し方を遠慮いただけないものかと……。」
さゆりは手に持っていたティカップをひざの上に置くと、キョトンとした顔で京香の方を振り向いた。
「あたしいつ、由美ちゃんをこども扱いするしゃべり方したかしら?。」
京香も困ったような顔をしている。
「さぁさぁ、変なこと言ってないで心電図とって検査終わりにしましょう。もうおなかぺこぺこだわ。」
 由美の話をさえぎるようにさゆりは立ち上がると、由美を検診室隅の心電図がセットされた診療ベッドにうながした。由美の要望はいつのまにか無視されたような恰好となった。
「10分ほど安静にしててね。その間にこの機械が自動的に由美ちゃんの心拍を記録しますからね。」
由美をベッドに寝かし、手首や胸などにセンサーを取りつけながら告げた。
「その間に京香ちゃんは被服室に行って、今日から由美ちゃんが着る制服を取ってきてもらえるかな。」
「服のサイズを聞いてませんが…。」
「なに言ってるの。一番最初に身体測定したじゃないの。」
「あっ、そうか。」
京香はペロッと舌を出し、検診表をはさんだバインダーを小わきにかかえて検診室を出ていった。
「じゃあ由美ちゃん、先生も検査が無事終わったことを学園長に報告してきますからね。くれぐれも心拍計測中だから、動かないでいい子いい子してるんでちゅよ。」
 そう声をかけながらさゆりは由美の頭を優しく撫でると、検診室の照明をおとし京香の後を追うように部屋を出ていった。

 薄暗い検診室のベッドに一人取り残され、由美はようやく気づいた。
 どうやらさゆりは、ほとんど意識しないで、生徒を幼児扱いする口調でしゃべっているらしい。さゆりにとっては相手が幼稚園児だろうか、由美のような18才の女性だろうが、診療しているあいだは同じ子供なのだ。
(保険医を長年やってると、こうなっちゃうのかしら?。)
 あきらめにも似た心境で、由美は自分をまるで幼児のように扱うさゆりの言葉を、これからは聞き流そうと決めた。
 そもそも相原さゆりはただの保険医ではないか。自分が病気や怪我でもしない限り、保健室のお世話になることはないはずだ。ふだんの学園生活でさゆりと顔をつき合わすことも、そんなにないではないか。そう考えると由美は気が楽になった。
 だが、その時の由美には知る由もなかったのである。相原さゆりが、ただの保険医ではないことを…。

 薄暗い検診室には、ピッピッという心電図の規則正しい断続音のみ響いていた。
 一人きりになり落ち着きを取り戻せば戻すほど、検査の時に感じたいくつかの疑問が再び頭をもたげ始めた。それは検査の最中に京香やさゆりが口にしたいくつかの言葉である。
(この学園、なんか変だ。恥垢検査?、オナニー禁止の校則?。こんなの普通の学校じゃ考えられないわ。)
 由美の疑問ももっともである。いくら淑女育成の教育方針だからといって、校則でそれを定めるのは行き過ぎではないか?。
 自由な校風をうたう割には、あまりに対照的な検査や校則だ。
 それに更正カリキュラム、性器検査があることも事前に聞かされていなかった。どちらも学園長室で編入の手続きをした後で言い渡されたことばかしである。
 確かにどちらも、前もってあると知っていれば編入しようとする生徒が抵抗を感じる、という理由も分からないではない。それにしても、あまりにも事後承諾的ではないだろうか。
(なんか最初の話と違うんじゃないかしら。)
由美の心の中に、そんな疑問がふつふつと湧きつつあった。
 けれども、由美はこれらの疑問をもう考えないことにした。とにかくこれでいやな検査も終わったのだ。今、自分が心電図をとっている間に京香が制服を取ってきてくれる。
 由美は保健室に向かう廊下で目にした、高等部の女生徒たちのおしゃれな制服を思い描いた。
(私もあの制服が着れる…。)
由美はどんな着こなしをしようか、思いを巡らしながら楽しい学園生活をイメージしようと目を閉じた。

  そして検診室を
     出ていった二人は……

 保険医の相原さゆりが保健室を出ると、渡り廊下のところで一足先に検診室を出たはずの京香が待っていた。渡り廊下は授業中ゆえ二人以外、人の姿は見られない。
 さゆりは京香を見つけると、軽くウインクしながらささやいた。
「京香ちゃん、よくやってくれたわ。」
「あたし、もうドキドキしちゃいましたよぉ…。」
 水野京香はさゆりの方にかけ寄ると、幼児が母親に甘えるかのようにさゆりの豊かな胸に顔をうずめた。さゆりも京香を我が娘のようにやさしく頭を何度も撫で上げる。
 そこへ京香の背後から女性の声が聞こえてきた。
「でも水野さん、なかなか堂々としてたわよ。動きもてきぱきしてたし……。」
その声に京香はあわててさゆりの胸から顔を離し、声のした方を振りかえった。声の主は岩松サエであった。
「えっ、岩崎先生どこで見ておられたんですか?。」
水野京香が驚いてたずねた。
「監視モニターよ。万が一、由美が暴れ出したらたいへんだからね。じゃあ水野さん、山村学園長には予定通りすんだからって伝えてもらえるかな。」
「わかりました。」
「それと由美に男性経験があったということと、今でも恋人がいるらしいってことも忘れずに伝えるのよ。」
「はい、わかりました。やっぱしそれによって更正カリキュラムの仕方もかわってくるんでしょうか?。」
「そりゃそうよ。それについてはこれから相原先生と相談するから。」
サエのその言葉を聞くと、京香は安心したように学園長室へ去っていった。
 岩松サエと相原さゆりは二人きりになると互いに目を合わせ、薄笑いを浮かべた。最初に口火をきったのはサエの方だった。
「由美の肉体処置の方はうまくいったみたいね。」
「えぇ、なんとか…。検査の流れでやってしまったのが功を奏しましたね。でもあれはまだ処置の第一歩ですから。」
「あの薬、どのくらいで効いてくるの。」
「そうですねぇ。個人差があるんですが、早い子で4日後くらい、遅い子でも一週間で効果が現れます。」
「そう、効果のほどは大丈夫かしら?。」
「ご安心下さい。薬が効きだすと自分でコントロールができなくなりますから。あの薬は膀胱と脳を結ぶ自律神経をシャットダウンしてしまう働きがあるんです。」
「そう、それは楽しみね。」
サエは満足そうに微笑みながら、
「じゃあそろそろ由美に更正カリキュラム受けさせる準備にはいらなくちゃね。」
「あの、そのことでひとつだけ…、いいですか?。差し出がましいようですが。」
「なんなの?、言ってごらんなさい。」
「この前、脱走しようとした子がいましたよね。加奈子ちゃんでしたっけ。」
「えぇ、あの時は大変だったわね。京香ちゃんが駅のそばで見つけてくれなかったら、列車に飛び乗られて、この学園の実体が明るみになってしまうところだったわ。」
「わたし思ったんですけど、由美ちゃんの場合、薬が効いてくるまではいきなり強烈なカリキュラム与えない方がいいと思うんです。」
「そうかもしれないわねぇ。」
監視モニターで由美の検査の様子を見ていた時、実はサエも同じように感じていたのである。さゆりは続けた。
「私も初めは山村学園長と同じく、いきなり大きなショックを与えて、いっきに由美を手なずけてしまおうかと考えてました。けれどもあの子の検査している時、それは少し危険じゃないかと感じたんです。」
「相当気の強い子だと思ったからでしょう。確かにあれだけ検査で辱めを受けて、最後まで泣き出さなかったのは由美ぐらいじゃないかしらね。」
「あれだけ身動きとれない状態で恥ずかしいところいじられながらも、自分の言いたいことはしっかり言うからビックリでしたわ。異性関係をたずねた時も、私に反論までしてくるのには恐れ入りました。」
 これまでふつうの女生徒が由美と同じ検査を受けた時の反応は、反論どころか大声で泣きじゃくるか、恥ずかしさにただじっと耐えるか、どちらかであった。それゆえ、さゆりは最後まで泣き出さなかった由美に、かなりの気の強さを感じたのである。
「だから今日の午後からいきなりあの“制服”着せて、例の“特別カリキュラム”受けさせようとしたら、あの子 暴れだしかねません。ヘタをしたら加奈子ちゃんみたいに脱走しようとするかもしれません。」
「その可能性も考えられるわね…。でもあの子の衣服も私物ももう全て処分しちゃったのよ。今さら一般生徒と同じ学園生活はさせられないわ。」
 それは事実である。検査の間にサエ本人と山村女史の二人は由美のトランクの中身をすべて処分してしまったのである。
 しかも着れそうな衣服や下着は二人でせしめてしまい、着られそうもない服は今ごろ焼却炉の中のはずである。
「ご安心下さい。私に考えがあります。」
「どうしようというの?。」
ここでさゆりは再び、意味ありげな微笑を浮かべた。
「薬が効き出したら由美自身も当然、人に知られたくない負い目を持つことになります。だからかなり恥ずかしい更正カリキュラムでも従わざるを得なくなると思うんです。」
「なるほど。」
「ですから問題は、薬が効き出すまでの期間にどんな更正カリキュラムを由美に与えるかです。」
「どういうふうにしようというの?。」
さゆりの気の持たせるしゃべり方に、サエは少しじれったくなっていた。
「由美にはまず先に、我が聖愛女子学園のきびしさになじむカリキュラムを与えましょう。確かにうちの高等部は一見、自由な校風ですが、それはきびしい規律の上に成り立っていることを由美は知らないと思いますから。」
 聖愛女子は自由な校風だから、と言って由美を聖愛におびき寄せたのはサエであった。だから、さゆりのその提案にはサエも賛成であった。さゆりはなおも話を続けた。
「もちろん、由美はカリキュラムに反発するでしょう。でも数日たてば今日注射した薬の効果が出始めます。そうなれば反発心も弱まるはずです。その弱まる頃合いをみはからって、学園長が当初予定された“特別カリキュラム”を実施したらいかがでしょう。」
「そうねぇ…。すんなりとはいかないと思うけど、まだその方が“特別カリキュラム”に由美も入っていけるかもしれないわね。」
「そこで、とりあえず今日の午後から由美に受けてもらう更正カリキュラムについて考えてみたのですが……。」
 ここでさゆりは岩松サエに耳打ちした。今後の由美に対する重要な指導方針ゆえ、万が一漏れてはならないという配慮からであった。
 最初、神妙な顔でさゆりの意見に聞き耳をたてていたサエの表情が、徐々にほころんでいった。
「フフフっ、それも面白いかもね。」
さゆりの耳打ちが終わったときはサエの表情は別人のように喜々としていた。
「しかも由美は男性経験もあるようですし、今でも恋人がいるみたいです。」
「そうみたいね、年頃の娘だし…。でも恋人は邪魔な存在だわ。これからの由美にとっては。」
「もちろんです。聖愛女子学園の児童となる子に、恋人は必要ありませんから。」
「いずれは恋人とも別れさせなくちゃいけないわね。残酷なようだけど。」
 ため息をつきながらサエは、遠くの校庭をながめた。校庭ではまだ男を知らない、高校2年生の女子たちが屈託のない歓声をあげながら、ソフトボールに熱中していた。さゆりも彼女たちを見やりながらつぶやいた。
「あの子たちは卒業したら普通の恋愛をして大人になっていくんでしょうけど、由美はその逆ですから……、ショックでしょうねぇ。無理矢理この学園の児童にされ、大人の恋愛すらさせてもらえなくなるわけですから…。」
「同情は禁物よ。相原先生。」
相原さゆりがつい口にした由美への哀れみの気持ちを打ち消さすかのように、サエはきっぱりと言った。
「だいじょうぶですよ、岩松先生。私、以前から由美のような大人っぽい、きれいな子を手なずけてみたかったの。あの子には相当やりがいを感じますわ。」
さゆりは不気味な含み笑いを浮かべながら岩松サエの方を向き直ると、なおも話を続けた。
「とりあえず由美が特別カリキュラムを受ける段階に入ったら、また少しづつ肉体処置の方を加えていく予定ですから。」
「相原先生の腕前に期待していますわよ、山村学園長も。ただ最初のうちはくれぐれも由美に気づかれないように、とおっしゃっておられました。」
「ホホホッ、もうその心配には及びません、と学園長にお伝え下さい。」
突然、相原さゆりは軽く笑いながら、紫がかった眼鏡の奥から謎めいた表情をサエに見せた。
「えっ、それはなぜ?。」
「一度でもあの薬の効果が出てしまったら、誰もがその原因はなにかの病気のせいだと最初考えるでしょう。そう思わせれば、病気を直すためにまず誰を最初に頼ってくるかしら?。」
 この謎かけのようなさゆりの説明を受けると、ようやくサエにも彼女がいわんとしている意味がのみこめてきた。
 薬というのが先ほど炎症を押さえる為に、由美の秘所に注射した薬液を指しているのは明らかだった。つかの間の静寂の後、サエの口からも再び笑い声がこぼれ出た。
「クククッ、あなたも知恵がまわる人ね。そうか…、こども達が手っ取り早く頼れるのはこの保健室だけってことね。」
「そういうことです。ありがたいことにうちの学園の近くにはほかに病院もありませんしね。それに薬の効能が効能ですから、年頃の女の子が外部の病院で診察を受けるのは、ちょっと恥ずかしいものもあるでしょう。」
「そこで治療をするように装って、さらに肉体処置を加えようというわけね。」
サエは表情がだんだん喜々としてくるのがさゆりにもわかった。しかも次のさゆりの言葉が、なおのことサエを喜ばした。
「肉体処置を重ねていけば、いやでも由美の体から大人の生活をしていく機能がだんだん失われていくはずです。そうなれば岩松先生が気にされてた由美の恋愛問題も、おそらく本人から諦めるようになるかもしれません。それに……。」
「なんなのよ、もったいぶらずにおっしゃいなさい。」
「あら、岩松先生だったらもうおわかりのはずですわ。」
「つまりその段階になれば、ふだんの生活で由美は大人の下着すら身につけたくても、身につけられない状態になっているということでしょう。」
「たぶん…。それにそうなれば由美の恋人も、そんか彼女を見てどう思うかしら。」
「フフフっ、恋愛したくても男の方から去っていくというわけね。」
「自分から恋愛をあきらめるのと、相手に去っていかれるのと、どちらがつらいものでしょうか?、岩松先生なら?。」
「ハハハッ、想像もつかないわ。」
しばしの間、人気のない渡り廊下に二人の女性の高笑いが響いていた。
《第三章に続く》

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