雪のクリスマスイブ 〜天使の微笑・番外篇〜




 電話のベルが鳴り響いた。
 母親が廊下を小走りに電話器に近づき、静かに受話器を持ち上げる。
「もしもし、井上でございます」
『井上さんのお宅ですか。私、河田と申しますが、京子さんはいらっしゃいますでしょうか?』
 受話器から流れてきたのは、どこかで聞き憶えのある若い女性の声だった。
 母親は保留ボタンを押すと、自分の部屋で机に向かっている京子を呼んだ。しばらくして階段を駈けおりてくる軽やかな足音が聞こえ、母親が先日編みあげたばかりのセーターを着た京子が顔をみせる。成長期を迎えたようで、つい半年前に体格を計って編み始めたセーターが、編みあがっていざ実際に着せてみると、僅かながら窮屈そうに見える。
 母親は我が子の成長にふと目を細めながら受話器を差し出した。
「お電話よ――河田さんていう女の人」
「河田さん……?」
 京子の顔にやや不審げな表情が浮かんだ。クラスメイトの中には河田という子はいない。誰だっけ?――だが、じきにそれが誰なのかを思い出して顔を輝かせると、まるでひったくるように母親の手から受話器を受け取り、弾んだ声で話し始めた。
「もしもし、京子です――ううん、とても元気よ。そう、うん――看護婦さんも元気そうね。え?――あら、そうなんだ……」
 電話の主は、半年ほど前まで京子が入院していた病院で看護婦をしている河田宏子だった。京子は退院してからもことあるごとに宏子に手紙を送っていたが、今のように電話で話すことは随分と久しぶりで、ついつい懐かしさに声が弾んでしまう。
「で――え、メグミちゃんのところへ行くの? うん、大丈夫よ。夜は家族でパーティーだけど、昼間は空いてるから。うん――じゃ、待ってます。えへへ……とっても楽しみだわ」
 宏子からの電話は、今度のクリスマスイブの日に恵のところへ遊びに行かないかという勧誘だった。入院している間、京子は恵を自分の妹のように可愛がり、オモラシ癖のためにオムツの外れない恵の世話を焼き続けたものだった。しかし、京子よりも一足先に退院した恵からの連絡は一切なく、京子はずっと寂しい思いを味わっていた。正直に言えば、ちょっぴり恨めしくも感じたものだった。
 そんなところへ、久しぶりに恵に会おうかという誘いを宏子から受けたのだ。京子がその申し出を断る訳がなかった。




 そして、クリスマスイブの当日。
 ここ数日間に渡ってどんより曇っていた空も久しぶりに青く澄み渡り、日差しの中にいればほこほこと暖かく感じられるような穏やかな日だった。
 京子は宏子との待合せの場所に約束の時間よりも三十分も前にやって来て、腕時計と睨めっこを続けていた。そんなに早く行っても仕方ないわよと母親に注意されたにもかかわらず、いよいよ恵に会えるんだと思うとじっとしていられなかったのだ。
 あと十分で約束の時間という時、私鉄の駅から宏子の姿が現われた。京子は高く挙げた右手を大きく振りながら、宏子に向かって大きな声で呼びかけた。それに気づいた宏子が、ちょっと驚いたような表情を浮かべて駈け寄って来る。
「どうしたのよ、こんなに早く来ちゃって。そんなに慌てなくてもメグミちゃんはどこへも逃げないわよ」
 少しばかり息を弾ませて京子の側に並んだ宏子はそう言うと、微かに意外そうな顔つきになって京子の体をみつめた。そして、僅かに首をかしげて言葉を続ける。
「ねえ、宏子ちゃん――もしかして背が伸びたんじゃない?」
「あ、やっぱりわかります? あのね、退院してから急に伸び始めて、病院にいた頃に比べるともう六センチほど高くなったんですよ」
 京子は思わず笑顔を浮かべて応えた。
「へえー、すごいわね。京子ちゃんもとうとう成長期に入ったのね」
 宏子は我が事のように目を細め、自分よりも僅かに低いだけの京子の肩に掌を置いて言った。
 もうすっかり病気もよくなり、これから京子はますます成長してゆくのだ。宏子は胸の中でそう呟き、改めて京子の体に目をやった。そうして見ると、京子の体は背が伸びただけではなく、僅かに胸も膨らみ始め、腰回りもいくぶん絞りこまれて、大人の女性の体つきになりつつあるのがハッキリわかる。今、一人の少女が女性への階段を昇ろうとしているのだ。
 宏子は眩しいものを目にするような表情を浮かべ、にこやかな声で訊いてみた。
「初潮もあったのね……?」
 不意に予想外のことを訊かれた京子はサッと顔を赤らめたが、じきに笑顔に戻ると、小さく頷いてみせた。
「そう、おめでとう。これで京子ちゃんは大人の仲間入りね。もう赤ちゃんだってつくれるんだから、自分の体、今までよりもずっと大切にするのよ」
 宏子はにこやかな声で言った。
 京子が小さな声で、はいと応え、二人はどちらからともなくクスッと笑い合った。

 二人が乗りこんだタクシーは、まだ渋滞の始まっていない郊外の道路を快調に走り続けた。
「ねえねえ、その大きな紙袋はなーに? メグミちゃんへのプレゼント?」
 運転手に目的地までのコースを指示し終えた宏子は、京子が大事そうに手に提げたままの紙袋を覗きこむようにして言った。
「ええ。ママに相談したら、これがいいって言うから……あの、私が着ていた洋服なんです」
 京子はちょっと恥ずかしそうに応えた。
「京子ちゃんの着てた洋服?」
「はい……私の背が急に伸びたものだから今までの洋服は着れなくなっちゃったんです。だけどメグミちゃんにならピッタリだと思うわってママが……それで、古着で気を悪くするかもしれないけど、もしもよかったら着てくださいって……」
 それを聞いた宏子は、京子の世話をするために毎日のように病室を訪れていた母親の顔を思い出した――そういえば、京子が「新しいお友達ができたの。メグミちゃんていうのよ」と母親に話し、それがきっかけになって母親は何度か恵の病室へもお見舞い行っていたようだ。
「そうだったの。メグミちゃんが着れくれたらいいわね」
 宏子は、ニコッと京子に微笑みかけた。
 それに対して京子が、運転手に聞かれるのを避けるように小さな声でポツリと応える。
「……うん。でも、メグミちゃんは本当は男の子でしょう……私の洋服なんて持って行って喜んでくれるかしら?」
 京子の言う通り、恵は少女ではなく、実は男の子だ。それも、れっきとした高校生なのだ――ホルモン分泌の異常から身体の発育が充分でなく、小学校の高学年程度の身長しかないのだが、そんなコンプレックスを吹き飛ばすために始めた体操に目覚ましい才能をしめし、最近設立された私立のE高校にスポーツ特待生として招かれたのが恵だ。それが鉄棒からの転落事故を起こして宏子の勤める病院に運びこまれたのがきっかけで、美和と宏子によって、少女としてふるまうことを強要されてしまった。そんな病院生活を送るうちに京子と知り合い、次第に京子は恵を(男の子とは知りながら)妹のように扱うようになっていったのだった。
 もっとも京子の母親は、京子が内緒にしていたために、メグミが男の子だということは全く知らない。だからこそこうして、京子が着れなくなった洋服をクリスマスプレゼントと一緒に持たせたのだ。
 宏子はにこやかな表情のままで京子に言った。
「そうね、ちょっと難しい問題かもしれないわね……でも、京子ちゃんがわざわざ持ってきてくれたんだってことだけでメグミちゃんも喜んでくれると思うわよ」
「そうかしら。そうだといいんだけど」
 京子はちょっと首をかしげるようにして宏子の顔を見た。そして、宏子が膝に載せている包みをみつけて言葉を続ける。
「ねえねえ、それって河田さんからのプレゼント? 中は何が入ってるの?」
「え、ああ、これ?……なんだと思う? あててごらんなさい」
 宏子は悪戯っぽい顔つきになると、挑発するように言った。
「うーんと……ねえ、触ってもいい?」
「いいわよ。はい、どうぞ」
 宏子は膝の上から包みを持ち上げ、京子に手渡した。
「何かしら……思ったよりも軽いんだけど……」
 包みを受け取った京子はそう言いながら、そっと振ってみた。
 すると、包みの中からカラコロという軽やかな音が流れてくる。
「オルゴールかしら?……ううん、そうじゃないわね……うーん、わかんない」
 京子は小さく首を振り、手にしていた包みを宏子に返した。
「諦めたの?」
「ねえ、何なの? 教えてよ」
「うふふ、この中に入ってるのはね……」
 宏子は右目で軽くウインクしてみせると、ちょっともったいぶるように言葉を切った。そして、京子の興味深そうな顔を覗きこむようにして言葉を続ける。
「……プラスチック製のガラガラと、布でできたボールなのよ」
 宏子の返答を聞いた京子は、なんともいえないような顔つきになった。それから、おずおずと口を開く。
「ガラガラって……あの、赤ちゃんのオモチャの?」
「そうよ」
 宏子がクスクス笑いながら応える。
「でも、メグミちゃんは……」
 メグミちゃんは赤ちゃんじゃないわと言いかけて京子の言葉が途切れた。メグミが入院している間、京子はメグミのオムツを取替えたり食事を手伝ってやったりしていた。そうしているうちに、いつしか自分が恵のことを小さな妹のように思うようになっていたことを思い出したのだ――そうそう。メグミちゃんたら、まるで赤ちゃんみたいで本当に可愛いかったわ。
 が、じきに我に返って思い直す――いくら赤ちゃんみたいだからって、本当にガラガラや布のボールをもらって喜ぶ筈ないわよね?




 美和のマンションの前に停まったタクシーからおり立った京子と宏子は、エントランスホールの奥にあるエレベーターに乗りこんで六階を目指した。
 やがて軽いショックと共にエレベーターが停止し、二人はカツンと足音を立てて廊下に歩み出る。
 何度かマンションに遊びに来たことがある宏子は慣れた足取りで廊下を歩き始めた。それに遅れまいと京子も後を追う。
 もうそろそろ廊下もおしまいだという頃になって、宏子が一枚のドアの前で立ち止まった。そして、ここよとでも言うように京子に目で合図を送る。京子は思わず表札に目をやった。だが、そこには『梶田美和』と書かれたプレートが掛っているだけだった。
「……本当にここでいいんですか?」
 京子は、あれ?というような表情を浮かべて宏子に尋ねた。
「そうよ、ここでいいのよ。どうかした?」
 宏子は京子が何を戸惑っているのかわからず、ちょっと不審げな顔つきで頷いた。
「でも……メグミちゃんの本名は坂本恵でしたよね。それで退院後はお姉さんのマンションで暮らしてるって聞いたのに、このお部屋は梶田さんになってる……」
「ああ、そのことね。いいわ、説明してあげる――」
 恵の付添いをしていた美和は、E高校の養護教諭だ。だが宏子は、小児科に入院している子供たちには美和のことを恵の姉だと紹介した。そうしておいた方が、美和が自然な感じで恵の付添いをできるからだった。そして京子も、宏子のその言葉をすっかり信じた。だから、美和の名字も恵と同じ『坂本』だと思いこんでいたのだ。それが実際に訪れてみると『梶田』になっていたので京子は戸惑ったのだった。
「――という訳なの。だからここは梶田さんの部屋でいいのよ」
 宏子は改めて事情を説明した。
 宏子の説明を聞き終えた京子は、かなり興奮したように顔を紅潮させて言った。
「ふーん、じゃ、あの人はメグミちゃんのお姉さんじゃなかったのね――でも、すごく驚いちゃった。だって、メグミちゃんが男の子だってこと知ってたけど、まさか高校生だなんて思わなかったもの。絶対に私と同じくらいの年齢だって思ってたのに……」
 京子の言う通り、彼女は恵の年齢までは知らなかった。或る事情で男の子が女装をしているということまでは美和に聞かされていたのだが、まさか自分よりもずっと年上だとは思ってもみなかったことだ。もっとも、それも仕方のないことかもしれない。京子と同じくらいの背丈しかなく、まだ第二次性徴期を迎えていないために声変わりもせず、中性的な顔をした恵が高校生だとは誰も気づかないだろう。しかも、眠っている時のみならず意識がある昼間でもオモラシをしてオムツを汚してしまう姿を目にすれば、ちょっと体の大きな幼児だとさえ思ってしまっても不思議ではないのだ。
「うふふ、随分と驚いたみたいね。メグミちゃんが高校生だって知って、会うのがイヤになったかな?」
 宏子が、京子の驚いた表情をおもしろそうにみつめながら笑い声で言った。
「え?……ううん、そんなことありません。いくら高校生だって私より年上だって、私がオムツを取替えてあげてスプーンで食事を食べさせてあげたメグミちゃんは可愛いいままのメグミちゃんだもの」
 京子は静かにかぶりを振った。だが……。
「そう。そうよね、メグミちゃんはいつまでも京子ちゃんの可愛いい妹だものね」
 『妹』という部分を強調するようにして宏子が同意してみせる。
 すると、京子は微かに顔を曇らせ、ポツリと言った。
「でも……」
「どうしたの?」
「あのね……メグミちゃんが高校生の男の子なら、私が持って来た洋服なんて絶対にイヤがるよね? それに、看護婦さんが持って来たガラガラやボールなんて……」
「あらあら、何を心配してるのかと思えばそんなこと?――大丈夫よ。私が持って来たオモチャは美和さんから頼まれた物なんだし、京子ちゃんが着てた可愛いい洋服なら美和さんがきっと気に入ってくれるから」
 宏子は京子の背中を優しくぽんと叩いて言った。
「さ、部屋に入ろうよ。チャイムのボタン、京子ちゃんが押してくれる?」
 宏子にそう言われた京子はムリヤリ笑顔をつくると、ドアの横にある白いボタンに指をかけた。澄んだ電子音が微かに外へも洩れてくる。
 だが、部屋の中からの返答はなかった。
 京子は再びボタンを押した。それでもやはり返答はない。
「どうしたんだろう? 私たちが来ることは知ってるんだから出かけちゃうことはないだろうけど……」
 宏子は試しにドアを叩いてみた。あまり力は入れなかったつもりだが、予想外に大きな音が廊下に響き渡った。
 と、その音を聞きつけたのか隣室のドアが開き、女性が顔を覗かせた。
 ドアが開く気配になにげなく振り向いた宏子は、ドアから現われた女性の姿を見ると、あらそっちだったのと呟いて隣室の方へ歩き出した。
 隣室から現われたのは、美和だった。
 美和は目の前に立った宏子と京子に微笑みかけて言った。
「ごめんなさいね、ちょっとこちらでメグミたちに食事をさせてたものだから」
「ああ、里美ちゃんと一緒だったのね」
 事情を知っている宏子が鷹揚に頷く。
 だが、京子には何のことかわからない。京子はキョトンとした顔で美和の顔をちらと見上げた。
「里美ちゃんていうのはメグミのお友達でね……いいわ、お上がりなさいな。実際に顔を会わせて紹介した方が早いから」
 美和はそう言うと、両手を引っ張るようにして『山口』という表札の掛った部屋に京子を招き入れた。

 京子と宏子が揃って玄関に入り、ドアが閉じられると、廊下の奥の方から山口幸子がやって来た。
 幸子は宏子と軽く会釈を交わした後、初めて見る京子にもにこやかに笑いかけた。
「いらっしゃい。ええと……京子ちゃんだったっけ? 美和さんや宏子さんから時々お話は聞いてるわ。病院ではとてもよくメグミちゃんのお世話をしてたのね?」
「いえ、そんなに……」
 京子はちょっとはにかんだような顔つきで言葉を濁した。
「うふふ、そんなに照れなくてもいいわよ。あなたの活躍ぶりはたっぷり聞かせてもらってるんだから――さあさ、上がってちょうだい」
 幸子はそう言うと、廊下の上がり口にスリッパを揃えた。
 そこへ、トタットタッと小さな足音が近づいてくる。スリッパを履いた京子の目に、少しばかり危なかしい足取りで廊下を歩いてくる幼女の姿が映った。
「あらまあ、どうしたの? おとなしくゴハンを食べてなさいって言ったでしょう?」
 こちらに向かって歩いてくる幼女に、幸子が叱るような口調で言った。
 それに対して、幼女がまるで言い訳するように片言で応える。
「さとみ、マンマたべてたよ。でも、メグミちゃんがエーンエーンなの」
「メグミが泣いてるのね?」
 幼女の言葉を耳にした美和が念を押すように言った。
「里美ちゃんはそのことを教えようと思って来てくれたのね、ありがとう」
 恵が美和に引き取られて初めてマンションを訪れた時に幸子の腕に抱かれていた里美は半年の間に、それほど成長していた。幸子の手で離乳食を食べさせてもらい、オムツを取替えてもらっていた里美が今や、危なげな足取りながらも自分で歩き、一緒に食事をしていた恵が泣いているらしいことを美和に報告するまでになっているのだった。
 メグミが泣いているという美和の言葉を耳にした京子と宏子は顔を見合わせ、先に立って廊下を歩き出した美和の後ろに続いた。
 美和が向かったのはリビングルームだった。美和に続いてリビングルームに足を踏み入れた京子は、ハイチェアーに座った赤ん坊の姿を目にした。その赤ん坊はハイチェアーに座ったまま、何故だか知らないが、ヒックヒックとしゃくりあげて涙をこぼしていた。だがその子は、赤ん坊というにはあまりに発育した体格を持っているように京子には思えた。
「あらあら、どうしたの。メグミは何を泣いてるのかな?」
 美和はあやすように言うと、足早に赤ん坊に近づいて行った。
 メグミ?――美和の呼ぶ声を耳にした京子は驚いたような表情で、もう一度赤ん坊の顔をみつめた。
 それは確かに、京子がよく知っている恵の顔だった。肩よりもちょっと上で切り揃えられた髪は純白のベビー帽子に包まれ、ビニールのような素材でできたエプロンを首に巻き付けて、オムツカバーが半分ほど見えてしまうような丈の短いベビードレスを着て赤ん坊のような格好をしてはいるものの、まぎれもなく恵だった。
 京子は、大きく見開いた目を傍らの宏子に向けた。
「ビックリしたようね。でも、これがメグミちゃんなのよ。メグミちゃんは美和の赤ちゃんになっちゃったの。どうしてそうなったか、教えてあげようか?」
「……」
 京子は思わず無言で頷いた。
 美和が恵のオムツカバーの中に右手を差し入れる様子を見守りながら、宏子が穏やかな声で話し始めた。
「退院したメグミちゃんを引き取った美和はね――」




 退院した恵を引き取った美和は、隣室の幸子と手を組んで、恵をベビーに変貌させる計画を進めていった。二人の企みのために大きなベビー服を着せられた恵が、幸子の指でペニスを愛撫され、生まれて初めての射精をオムツの中で経験したのが、恵が美和のマンションに引き取られて一週間が過ぎた日のことだった。
 そして恵が幸子の胸に抱かれ、放心したように眠りついた後、幸子と美和は互いに求め合い、女どうしの果てしない愛の営みに心を奪われていった。その異様な気配を感じた恵は眠りから醒め、うっすらと目を開いた。その恵の目に映ったのは、二つの白い肉体が妙な具合によじれながら絡み合い、のたうつ、この世のものとは思えない光景だった。これまでただひたすら体操の技を磨くことだけに興味を持ってきた恵にとって、それは想像をしたこともない、見ようによっては極めて醜悪な肉体どうしのぶつかり合いだった。恵は、不意に襲ってきた吐き気をこらえるために口に手を当て、まるで吸い付けられるように二人の絡み合いをみつめている両目を強引に閉じた。
 その直後、恵は激しい尿意を覚えた。幸子に抱かれるようにして眠りについてから数時間が経ち、普段ならそのままオネショでオムツを汚してしまったに違いないのだが、美和と幸子の行為のために目を醒ましたため、尿意を自覚したのだ。しかし尿意を自覚したからといって、オシッコをガマンできる恵ではなかった。胸の奥底に芽生えた美和への甘えを無意識のうちにオモラシという形で表現することを憶えてしまった恵は、まるで幼児のように、尿意を感じると同時にオシッコを溢れさせてしまう体になってしまっていた。
 ペニスの先端に触れているオムツがジワリと濡れた。恵の口が半ばアッとでも言うかのように開いた。腰が微かにブルッと震える。膀胱から溢れ出したオシッコは次々にペニスから流れ出ては、恵の下腹部を包みこんだオムツを濡らし、ジワジワとお尻の方へ広がって行った。そして更に、背中の方へ、あるいは内腿の方へと流れて行く。恵は唇を噛みしめて、その屈辱に充ちた感触に耐えていた。美和の愛情をつなぎとめておくために自分が無意識のうちにオモラシをしているようだということには恵も薄々ながら気づいてはいた。そして、美和もそんな恵の思いに応えるように、恵がオモラシをする度に優しい手つきでオムツを取替えてくれることも実感していた。それでも、だからといって、高校生にもなった自分がオシッコでオムツを汚す感触に馴れてしまうものではない。オシッコを吸ったオムツが下腹部の肌にベットリと貼り付き、体温で温められながらも次第に冷えてゆく感触は、なんともいえない嫌悪感と共に激しい羞恥と屈辱を恵の胸に掻き立てるのだった。それは、美和の気持を自分の方に向けておくために恵が支払わなければならない大きな代償だった。
 だが、この時の恵は、いつもの屈辱と羞恥だけではない、これまでに味わったことのない不思議な感覚が胸の中に浮かび上がってくるのを知って戸惑っていた――なんだ、これは? 僕の胸にぽっかりと浮かんでいる、この奇妙な悦びは何なんだ?
 そう。恵の胸の中に新たに現われた感情は、まさしく悦びだった。それも、爽快感に充ちた喜びではなく、願いを成就した時の慶びでもない、思わず目をそむけたくなるようなドス黒い何かを含んだ、妖しく不気味な悦びだった。
 恵は困惑した。オムツの中にオモラシをしてしまうという惨めな姿の自分の胸の中に何故そんな感情が芽生えたのか、いくら考えてもわからなかった。それでも実際に、オムツが濡れてゆくのに合わせるかのように、悦びの感情もまた徐々に大きくなってゆくのだ。恵は、自分がまだ知らなかった自身の内心を改めて思い知らされたようなショックを受けて思わず体を震わせた。
 少しばかり間があって、恵のオムツが濡れたことを報せる電子音が鳴り響いた。と、その音に刺激されたかのように、恵の心に現われた悦びの感情がますます大きくなる。その時になって、恵は自分の胸の中の奇妙な悦びの正体がわかったように思った――それはおそらく、激しい嫉妬と表裏一体になった、暗く切ない情念なのだろう。美和と幸子との女性どうしの狂おしいまでに燃えさかる行為を目にした恵は、美和の関心が自分だけに向けられているのではないことを思い知らされた。美和と幸子とが絡み合っている光景を目の当たりにした恵の胸の中にメラメラと嫉妬の炎が立ちこめたのだ。だが恵にしてみれば、その嫉妬の炎をストレートに噴出させ、美和と幸子との間に割って入ることはできるものではなかった。そんなことをして、万が一にも美和が自分よりも幸子を選ぶのが恐かったからだ。そうなってしまえば、恵は美和の愛を失ってしまうだけではなく、それこそ居るべき場所さえなくしてしまうのだ。そんな嫉妬と葛藤の中、恵の体は無意識のうちに、美和の愛を得るためのいつもの行為を取っていた。それが、今のオモラシだった。美和の関心を自分の方へ向けるために、美和に構ってもらいたいがために、恵は意識しないままオシッコを洩らしていた。これで美和の目は幸子から離れて自分に向けられる――そう思った瞬間、嫉妬の背後にひっそりと身をひそめていた暗い悦びが姿を現したのだ。そして、恵がオモラシをしてしまったことを美和に報せる電子音が響いた瞬間、悦びの感情はクライマックスを迎えたのだった。
 だが、美和は電子音に全く気づかないのか、ちらとも振り向かずに幸子との行為に没頭していた。幸子の黒い茂みに顔を埋めるようにして、まるで子猫がミルクを舐めるようにピチャピチャと音をたてて幸子の秘泉に舌を差し入れ、あるいは、幸子の白い指が自分の乳房を揉みしだくのに身を委ねて陶酔の表情を浮かべ、血を吸ったかのように赤く上気した唇を触れ合わせ……今や美和は、一頭の獸に変貌していた。それも、気高い雌ライオンではなく、ただひたすらいやらしく自らの欲望に従って行動する、餓えたハイエナだった。
 恵の胸の中に浮かんでいた悦びは急速にしぼんでしまい、代わりに、黒い雲のような嫉妬がムクムクと湧き上がってくる。そして、オモラシという、いってみれば恵の最後の切り札が通用しなかったために吹き荒れる無念さの嵐。
 しばらくして、部屋の空気を震わせていた電子音も消えてしまった。美和が受信機のボタンを押さなくても、ある程度の時間が経過すれば自動的に音が止まるような構造になっているのだろう。恵は恨みがましい目で美和と幸子を睨みつけた。しかし、それでどうなるものでもない。逆に、自分がひとりぽっちだということを思い知らされ、惨めになるだけだった。そしてその頃には、恵のオシッコをたっぷり吸いこんだオムツは冷えきっていた。その冷たい感触に、恵は思わず自分の肩を抱きすくめるような格好で体をブルッと震わせた。それでも、自分でオムツを取替えようという考えは頭の片隅にも浮かんでこなかった。そんなことをして、自分と美和との間がますます離れてしまうことを恵は恐れた。それならまだ、気持悪く肌に貼り付くオムツの感触に耐えながら、いつか美和がこちらを向いてくれるのを待つ方がいいと思った。激しい嫉妬に身を焦がしながら、恵にできるのは、ただひたすら待つことだけだった。

 どれくらいの時間が流れただろう。
 いつの間にか待ちくたびれてウトウトしかけていた恵が我に返ると、目の前に、洋服の乱れも直し終えた美和の顔があった。幸子との情事にエネルギーを使い果たしたのか、どこか疲れたような顔つきだったが、それでも晴れやかな表情を浮かべている。その表情に改めて嫉妬の念を掻き立てられた恵は身を退こうとしたが、そうする前に美和の右手がオムツカバーの中に差し入れられた。恵はビクッと肩を震わせて体の動きを止めた。
「ごめんなさいね、ちっとも気がつかなかったわ」
 恵のオムツの様子を確認した美和は、微かに目を伏せるようにして言った。
「本当なら、あの音が鳴った時に気づいてあげなきゃいけなかったのにね……」
「……」
 美和に対して、恵は言葉を返さなかった。何かを言いかけたのか、少し口を開いたが、じきに思い直したようにギュッと閉ざしてしまったのだ。
 そんな恵の耳元に唇を寄せると、美和はオムツカバーから右手をそっと抜きながら囁いた。
「いつまでも拗ねてると里美ちゃんに笑われちゃうわよ。メグミはお姉ちゃんなんでしょう? 里美ちゃんのお手本になれるよう、もっといい子になろうね」
 恵の顔がカッと熱くなった。そして、恵の体に触れんばかりになっている美和の胸をドンと両手で突き飛ばしてしまう。
 美和の顔が微かに歪んだ。驚きと怒りがない混ぜになったような表情が浮かぶ。
「そう、そうなの。いいわ、メグミがいつまでもそういう態度なら、私にも考えがあるわよ――もう二度と、メグミのオムツは取替えてあげないからね。いつまでも、濡れたオムツのままでいるといいんだわ」
 美和の、ややヒステリックな声が部屋中に響いた。幸子との情事に夢中になっていたせいで恵のオモラシに気づかなかった後ろめたさを感じているところへ、その恵が初めて自分に反発してみせたため、美和は驚き、困惑してしまったのだ。
 美和と恵との間に険悪な空気が流れかけた。その時、それまで安らかな寝息を立てていた里美が不意に泣き声をあげて目を醒ました。どうやら、美和の声が里美の眠りを破ったようだ。
 寝室のドアが開いて、里美の泣き声を聞きつけた幸子が飛びこんできた。ブラウスの上に花柄のエプロンを着けているところを見ると、キッチンで少し遅い夕食の用意をしていたらしい。幸子はベビーベッドの上から里美を抱き上げると、優しく頬ずりをしながら言った。
「あらあら、おめめが醒めちゃったの? 仕方ないわよね、おばちゃんがあんな大声を出すんだものね。でも、もう大丈夫よ。里美が大好きなおばちゃんとお姉ちゃんはすぐに仲良しに戻るからね、ほーら、そんなに泣かないの」
 母親に抱かれて安心したのか、里美の表情は再び穏やかに変化し、やがてスヤスヤと気持良さそうな寝息が聞こえてくる。
 美和と恵は互いに顔を見合わせ、バツの悪そうな表情を浮かべた。そして、美和がそっと恵の肩を抱く。結果としては、里美が二人の仲をとりなしてくれたようなものだ。
 里美をベビーベッドに戻した幸子の声が届いた。
「そう、それでいいのよ。私のせいで美和がメグミちゃんのことを放っておいたようになったことは私から謝るわ。だからメグミちゃん、もういいわね? そろそろ美和を――ママを許してあげてね」
 『ママ』という言葉に、美和と恵は揃って頬を赤らめた。しかしそれは、二人にとって決して不快な言葉ではない。幸子は優しい口調で言葉を続けた。
「お昼からしこんでおいたシチューが食べ頃になってるわ。一緒に夕食にしましょうよ。里美は眠ってることだし、メグミちゃんも離乳食じゃなくって、シチューを食べていいわよ。それに美和、明日の土曜日はお休みでしょう? よかったら、ここにメグミちゃんと一緒に泊まっていきなさいよ。そうしてくれれば、里美が目を醒ましても喜ぶと思うわ」
「……わかったわ。じゃ、お言葉に甘えることにしましょうか」
「それがいいわ。それに、育児に関しては私の方が先輩なんだから、赤ちゃんになったメグミちゃんをどう扱えばいいのか、たっぷり教えてあげるわよ」
 幸子が悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「お願いするわ。じゃ、夕食の前にオムツを取替えちゃいましょうね、赤ちゃんのメ・グ・ミ」
 美和は恵の肩から手を離し、赤く染まった頬を右手の人差指の先でツンと押しながら言った。恵の頬がますます赤くなった。

 翌朝、恵は誰かの手が下腹部に触れる感触を覚えて目を醒ました。
 うーんと小さく伸びをし、まだ焦点の合わない目を足の方に向ける。と、優しい微笑みを浮かべた美和の顔が見えた。どうやら美和は、恵のブルマードレスの股ホックを外そうとしているらしい。そう思うと同時に、恵はオムツカバーの中がじっとりと濡れていることに気がついた。いつものようにオネショをしてしまったのだ。美和は、それが毎朝の日課になっているオムツの交換を始めようとしているのだった。
 恵がオネショで汚したオムツを取替える際、美和は恵が目を醒ました後か目を醒ます寸前のタイミングを計っている。例え夜中にオムツが濡れていても、恵が熟睡している間は決して交換しない。常に、恵が意識を取り戻して、自分がオムツを取替えられていることを実感させながら行うようにしているのだ。それは、恵の羞恥心をくすぐり、美和自身が倒錯的な悦びを得るためだ。恵の恥ずかしそうな表情を眺め、その体がまっ赤に染まる様子を楽しむには、恵が眠りこけている間にオムツを取替えてしまってはいけない。あくまでも、これから敷きこむ新しいオムツを恵の目の前で広げてみせ、まるで赤ん坊をあやすような口調でオムツを取替える旨を告げてやってこそ、美和の心の奥底にある歪んだ悦びが疼くように高まるのだった。
 だが、今朝は普段の朝とは少しばかり状況が違っていた。周囲の壁や家具の様子が、いつもと異なっていることに気がついた恵は、ボンヤリと辺りを見回した。そして、自分が幸子の部屋に泊まっていたことを徐々に思い出す――と、すぐ横に人の気配を感じた。おずおずと首を回した恵の目に映ったのは、自分と並んで蒲団に横たわっている里美の姿だった。知らぬ間にベビーベッドからおろされた里美が、恵と同じようにオムツカバーを開かれ、ぐっしょり濡れたオムツをあらわにしたまま、柔らかな表情で恵の顔をみつめているのだった。
 そこへ、バスタオルを手にした幸子が静かにドアを開けて入ってきた。美和は幸子からバスタオルを受け取り、それを恵のお尻の下――蒲団とオムツカバーとの間――に敷きこみながら言った。
「ごめんなさいね。でも、こうしておかないと折角の可愛いい蒲団を汚しちゃうかもしれないから。メグミの体がもう少しだけ小さければ、里美ちゃんのオネショシーツでもいいんだろうけどね」
「うふふ、そうかもしれないわね。でも、体が少しくらい大きくたって、メグミちゃんにはベビー服がよくお似合いだわ。こうして里美と並んでると、まるで双子の赤ちゃんみたいね」
 幸子は、里美の濡れたオムツをお尻の下からそっとどけながら言った。
 次第に頭がハッキリしてきた恵は、思わず顔を赤らめた。今、恵は、里美と並んで一緒にオムツを取替えられているのだ。それも、お揃いのベビー服とヨダレかけを身に着けた姿で……。
「さ、もうすぐ終わるからね。そうよ、お姉ちゃんみたいにおとなしくしててね。ほーら、パウダーをつけましょうね……いい匂いでしょう?」
 幸子はそう言うと、すっかり丸裸になった里美の下半身にベビーパウダーをはたいた。甘く懐かしい香りが部屋の中に優しく漂う。
「じゃ、メグミもパウダーにしましょうね。ちょっと拝借するわね」
 ベビーパウダーの容器の傍らに幸子が置いたパフを取り上げた美和が、ぽんぽんとパウダーをパフに付けて言った。美和の手が恵の下半身を撫でまわすように動き、恵は柔らかなパフの感触に思わず呻き声をあげそうになるのを、奥歯を噛みしめるようにして耐えた。ここでそんな声をあげようものなら、なんと言ってからかわれるかわかったものではない。おそらく美和のことだ、「あらあら、すっかりベビーパウダーがお気に入りのようね。やっぱりメグミは赤ちゃんみたいにされるのが好きなのね」というようなことを言って、恵が恥ずかしそうにするのを満足げに眺めることだろう。
 なんとか声を出さずに恵は耐えた。だが、そんな恵の意識を嘲笑うように、体が正直に反応してしまう。いつの間にか恵のペニスがむくむくと動き出し、まっすぐ天井を睨むように起き上がってしまったのだ。それまで、自分でいくら刺激を与えてもピクリともしなかった発育不全のペニスが、幸子の手で爆発させられたのがきっかけになったのか、本来の機能に目覚めたようにエレクトしてしまった。
「あら、まあ……」
 美和は手の動きを止め、恵のペニスの変化をじっと見守っていた。だがやがて、わざと困ったような口調でポツリと言う。
「……どうしようかしら。そのままじゃ、オムツをあてるのにジャマになっちゃうわねえ。かといって、オムツをあてておかなきゃ、メグミはいつオモラシしちゃうかわからないし――こんなに立派なオチンチンのくせにオシッコをちょっとガマンすることもできないなんて、ほんと困った大きな赤ちゃんだわ」
 しかし、それは口先だけのことだった。実際には何か面白いことを思いついたように、美和は意地悪く輝く目をすっと細めて、楽しそうに微笑んだ。
「早く新しいオムツをあててあげなきゃ風邪をひいちゃうわよ。いくら初夏でも、お尻を丸裸のままにしてちゃ可哀想だわ」
 既に里美のオムツカバーのマジックテープを留め、ベビー服の裾も整えてしまった幸子が、恵の下半身と美和の顔を交互に覗きこむようにして言った。
「そうね。じゃ、オチンチンを小さくするオマジナイをかけることにしましょうか」
 美和はベビーパウダーのパフを容器に戻すと、右手の掌で恵のペニスをそっと包みこんだ。その手をゆっくりと上下に動かしながら、僅かに捻るような動きを加える。
 恵はアッというように口を開き、美和の手を振り払おうとして慌てて左手を伸ばした。だが、そこへ幸子の手が伸びてきて、恵の自由を奪ってしまう。元来が小学生と間違われるほど小柄で、特に最近は筋力トレーニングもできずにいる恵は、簡単に押さえこまれてしまった。
 その間も、美和は右手の動きを止めない。恵のペニスが小さくならないとオムツをあてられないというのは事実だ。だが、美和があくまでも自分の手で恵のペニスを爆発させようとする本当の理由は他にあった――昨夜のように恵が美和に対して反発することがこの先ないとも限らない。そんな時に、恵が美和の手元から離れてしまうのを防ぐためにこそ、美和は恵のペニスをいたぶっているのだ。美和は、恵が自分に対して好意以上の感情を抱いていることを知っている。その好意を利用するのが美和の狙いだ。恵を少女や赤ん坊に変身させてまるでペットのように扱うために、美和は恵の性欲の捌け口を用意してやることにした。それが、指による愛撫だった。毎朝ごとに美和の手でペニスを刺激され、目の前で精液を噴出させ続けるような生活を続ければ、やがて恵は美和の手元から離れられなくなるのは目に見えているのだ。万が一それでも刺激が足りなくても、美和は恵の体を悦ばせる術くらい、いくらでも知っている。
 恵のペニスがドクンと脈打った。絶頂を迎えるのは遠くない筈だ。と、その時、幸子が床に横たわっていた里美の体をそっと抱き上げると、今まさに爆発しようとしている恵の股間が真正面に見えるような位置に座らせた。幸子にとっても、恵は玩具でありペットであった。そんな恵の羞恥をより刺激してやろうというのだろう。恵は、ペニスを里美に見られまいとして慌てて体をよじった。が、里美の目はじっと恵の股間をみつめたままだった。まだ物心がつくかつかないかの幼い里美にとっても、それがなにか興味深いものだということが本能的にわかるのかもしれない。
 恵は奥歯を噛みしめて耐えようとした。しかし、美和の指が絡みつき、微妙に急所を刺激される感触が、まるで背骨を貫くような快感となって恵の脳髄をくすぐる。
「……もうダメ……」
 恵はまるで少女のように唇を震わせ、切ない喘ぎ声を洩らすと、全身の力を抜いた。同時に美和が、それまでペニスを握っていた右手をそっと引く。
 恵のペニスの先端から白い液体が飛び散った。噴水というには大げさかもしれないが、意外に力強い奔流が、薄いハンカチくらいなら宙に浮かせるのではないかと思えるほどの勢いで噴き上げる。



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