香奈と沙織 その4



 しばらくして室に戻ってきた沙織の目に映ったのは、ベッドのフレームに体をあずけるようにして床に座りこんでる香奈の姿だった。
「あら、どうかしたの?」
 あまり慌てた様子もなく、新しい布団をベッドに広げながら沙織が声をかけた。
「……ふみゃ〜ん、ねむいよぉ……」
 パジャマの上着だけを羽織った香奈は半分ほど閉じかけてる両目をぼんやりと動かして応えた。
「お薬が効いてきたみたいね」
 沙織はこともなげに言って、香奈の細っこい体に手をかけた。
「さ、お布団の用意もできたからベッドに上がっていいわよ。そうして、ゆっくり眠るといいわ」
「ん……」
 沙織に抱えられるようにして香奈はベッドに横たわった。でも、急に何かを思い出したみたいな顔になると、眠さのためか少し舌たらずな調子で沙織に尋ねた。
「パジャマのズボン、持ってきてくれた? あ、ショーツもまだ穿いてないんだったっけ……」
「ちゃんと持ってきてあげたわよ。香奈にお似合いの下着をね。さ、お尻を上げてちょうだい」
「う…ん」
 眠くてたまらなくなってる香奈は沙織の言葉に素直に従って、丸裸のお尻を僅かにベッドから浮かせた。そこへ、沙織が柔らかい布地を手早く敷きこんだ。
「え……?」
 うつらうつらしながらも、それがショーツやスキャンティの感触じゃないことを感じ取った香奈は両手に力を入れて上半身を起こした。起こして、ねぼけまなこを自分の下半身に向けてみる。
「なに? ――沙織、それ何なのよ?」
 やっとこさ焦点の合った目にとびこんできたのは、アルファベットの「T」の形に組み合わされた何枚もの長方形の布地だった。ふかふかした感触のその布地が香奈のお尻の下に敷きこまれてて、沙織の手が、その布地でもって香奈の下腹部をくるみこもうとしている。動物柄がプリントされたその柔らかい布地が何なのか、一目見ただけで香奈にもわかった。でもそれは、もうすぐ二十歳になろうとしている香奈に似つかわしい下着なんかじゃない。
 香奈は体をよじって沙織の手から逃げようとした。
 でも思いもしなかったような激しい眠気がおそいかかってきて、香奈の体から力を奪ってしまう。香奈は何かを訴えるように唇を半ば開いたまま、次第に意識を失っていった。




「う〜〜」
 呻くような声をあげながら香奈は体を伸ばした。
 よく眠ったようなあまり眠らなかったような、奇妙な感じだった。
 濃い霧が晴れるみたいに、ゆっくりゆっくり意識が戻ってくる。
「……醒めたの?」
 どこかで聞き憶えのある声が香奈の耳に届いた。
 香奈はなぜか体を固くしておそるおそる目を開いた。
「目が醒めたんだね?」
 少しウェーブのかかった肩よりも少し上くらいまでの髪に包まれた優しそうな顔が香奈の顔をみつめていた。
「……司クン……?」
 目の前にいるのは、たしかに香奈のボーイフレンドの司だった。
「でも、どうして?」
 香奈は嬉しさと戸惑いをない混ぜにしたような表情を浮かべて眩しそうに司の顔を見上げると、照れくさそうに尋ねた。これまで、司がこのマンションを訪れてきたことなんて一度もないんだから。
「ああ、うん……香奈ちゃんが風邪で寝こんでるって、ルームメイトの沙織さんから聞いたもんだから。昨日も今日も学校を休んでるから心配してたんだよ。――でも、よかった。思ったよりも元気そうだね」
「うん、まあね……」
 香奈は司の顔から目をそらせて曖昧に応えた。
 元気そうもなにも、最初から香奈は風邪なんてひいてないんだから。恥ずかしい粗相をごまかすために沙織に風邪だなんて嘘をついただけなんだから。でもそのせいで香奈は沙織の手でアンダーヘアを剃り落とされ、その上……。
 眠りにつく直前の光景を思い出した香奈はハッとしたような顔つきになった。そして司に気づかれないようにしながら、右手をもぞもぞと自分の下腹部に伸ばしてみる。
 みるみるうちに香奈の顔が曇っていった。右手の掌に伝わってくるのが、普通の下着の感触じゃなかったからだ。コットンやシルクのショーツに比べるともっとごわごわした感じで、しかも、もこもこと膨らんでいるようだった。――じゃ、あれは夢なんかじゃなかったんだ。沙織が私のお尻を包みこもうとしてたあの恥ずかしい布地は……。
 それがきっかけになったのか、香奈の意識が下腹部に集まっていく。司の心配そうな顔つきも夕暮れ前の淡い日差しも香奈の目には映っていなかった。それよりも、じくじくと湿っぽく生温かい、これまで経験したことのないような下腹部の不快感に心を奪われていく香奈。
「香奈ちゃん……?」
 不安げに司が呼びかけた。けれど、香奈からの返事はない。
 その直後にドアが開いた。ドアから入ってきたのは、両手でトレイを抱えた沙織だった。
「お待たせしました。はい、コーヒー。せっかく来てくたさったんだからゆっくりしていってくださいね」
 コーヒーカップを載せたトレイを司の側に置いて沙織が言った。
「あ? ああ、ありがとう。でも、あの、香奈ちゃんが……」
 一言の返事もない香奈を心配そうにみつめながら、司は沙織に助けを求めるように言った。
「うふ、大丈夫ですよ。――いつものことだから」
 沙織はこともなげに、だけど、『いつものこと』というところを妙に強調して応えた。
「いつものこと?」
「そうなんですよ。見ていてくださいな」
 沙織は司に微笑んでみせると、泣き出しそうな顔をしている香奈に向かって優しげな声をかけた。
「またしくじっちゃったのね? でも気にすることはないのよ。香奈は病気なんだから。さ、すぐに取り替えてあげるわね」
 そのわざとのような優しげな声を耳にした香奈は、沙織が何をしようとしているのか気がついた。気がついたけど、でもだからってベッドから逃げ出すこともできない。
そんなことをすれば、香奈が今どんな格好をしているのか司に見られてしまう。かといって、このままでも……。
 香奈がぎゅっと握りしめた毛布を、沙織が無言で剥ぎ取った。
 毛布の下から現れたのは、レモン色のパジャマ姿の香奈だった。だけどパジャマの上着は身に着けてるけど、ズボンは穿いていない。その代わりに香奈の下腹部を包みこんでいるのは、大小さまざまな水玉模様があしらわれたピンクの生地でできた大きなオムツカバーだった。
「え……?」
 思わずまじまじと香奈の下腹部をみつめるようにしながら、司が驚きの声をあげた。
「やだ」
 香奈は毛布を取り返そうとして両手を伸ばした。だけど沙織は、剥ぎ取った毛布をさっさとベッドの下に押しこんでしまう。
 慌てて上半身だけ起こした香奈は、ノーブラの上にパジャマの上着だけを着て、下半身を赤ん坊のようにオムツカバーで包まれた、ひどく倒錯的な姿だった。自分のお尻をくるんでいる大きなオムツカバーを隠すこともできずにただ呆然とした表情を浮かべた顔を弱々しく左右に振る香奈の姿に、司は何かに惹きつけられるみたいにじっと見入っていた。

 そんな司が我に返ったのは、沙織がベッドの下から大きなバスケットを引き出して、その中におさめられていた何枚もの新しい動物柄のオムツを床の上で組み合わせながら香奈に向かって
「いつまでも濡れたオムツのままじゃ、それこそ風邪がひどくなっちゃうわ。さ、新しいオムツに取り替えてあげようね」
と声をかけた時だった。
「あの……じゃ、僕はそろそろ……」
 沙織が自分の目の前で本当に香奈のオムツを取り替えようとしてるんだってことに気づいた司は腰を浮かせた。
「まだいいじゃありませんか。せっかく来ていただいたのに、香奈が寂しがりますよ。それに、どうしてもオムツを取り替えるところを見ておいていただきたいんです」
 沙織はクスクス笑って言った。
「オムツを取り替えるところを僕に見せたい? でも、なんのために……?」
 司は要領を得ない顔で問い返した。
「たしか、司さんは香奈を旅行に誘ってらしたでしょ?」
「え? ああ、うん。――それが何か?」
「うふふ。オネショの治らない香奈はこれからずっとオムツが手放せないんですよ。だとしたら、旅館で香奈のオムツを取り替えてあげるのは司さん、あなたしかいないんじゃありません? だから、どうやって取り替えればいいのかを今のうちに見ておいてほしいんです」
 沙織は奇妙な笑いを含んだ声で説明した。
「……」
 その言葉に、司は再び香奈の下半身におどおどした目を向けた。
 香奈は何も言えずに、まるで金縛りにでもあったようにただ身を固くして小刻みに震えているだけ。
「じゃ始めますからね。よく見ててくださいね」
 床の上で組み合わせたオムツを静かにたたみ直してベッドの上に置いた沙織が、香奈のオムツカバーに指をかけた。
 不意に司が立ち上がった。
「本当に僕はこれで帰るから……」
 そう言う司の顔は真っ蒼だった。
「そうですか? 残念だけど、本人がそうおっしゃるなら仕方ありませんね」
 沙織は司の方には振り向きもせず、香奈のオムツカバーの腰紐に指をかけながら低い声で言った。そして、急に何かを思い出したように言葉を続ける。
「お帰りになる前に、少しだけベランダを覗いてみません? きっと面白い物がみつかりますから」
「面白い物……?」
 問い質そうとした司は、でも言葉を途中で飲みこんで立ち上がった。
 そしてそのまま、リビングのガラス戸を開けてベランダに出てみる。
 ベランダの手すりに掛かっているのは二枚の敷布団だった。夕暮れ近くの太陽の光で、白いシーツがほのかに赤く染まって見える。そのシーツの中ほどに奇妙な形のシミがあるのをみつけた司は思わず目を凝らした。
「……」
 そのシミが何なのかを察した司は、だけど無言だった。
 そうして司はごくりと唾を飲みこむとちらと目だけを香奈の顔に向け、ぎこちなく体を動かして室に戻ってきた。
 その室の中では、沙織の指でホックが外されたオムツカバーが香奈のお尻の下に大きく広がり、ぐっしょり濡れた動物柄の布オムツがあらわになっていた。もう香奈はなにもかも諦めたみたいに抵抗もせず、ただ、すがるような目で司を追いかけるだけだった。
「ごめん、僕は……」
 それだけを言うと、司は口をつぐんで拳をぎゅっと握りしめた。握りしめて、顔を伏せたまま室から駆け出す。
 玄関の方から、ドアを叩きつけるように閉める激しい金属音が響いてきた。
「司クン……」
 香奈は弱々しく呟いた。
 でも、もうみんな終わった後だった。
「司クン……」
 もう一度ボーイフレンドの名前を呼んだ香奈の目から涙が溢れた。
「あらあら、どうしたのかしら? すぐにオムツを取り替えてあげるから、少しだけガマンしていればいいのよ。だからもう泣かないでちょうだいね」
 香奈の涙の意味をわざと取り違えてみせた沙織は、幼児をあやすように優しい言葉をかけた。
「いや、いやなのぉ……司クンてばぁ……」
 とうとう香奈は掌で顔を覆って泣きじゃくり始めた。
 もうその時には、沙織が香奈のお尻を新しいオムツでくるんでしまっていた。
「ほらほら、そんなに泣かなくていいの。もうおしまいだから」
 オムツカバーの前当てに並んでいるホックの最後の一つをぷつっと音をたてて留め終えた沙織が香奈の耳元に唇を寄せて囁いた。
「やだ……このまま司クンに誤解されたままなんて……」
 今になって自分の置かれた状況をさとったみたいに、香奈は激しく泣き叫ぶ。
「誤解なんかじゃないわ。香奈はこれからずっとオムツをあてて生活するんだもの。今のうちに香奈の本当の姿を見てもらってよかったのよ」
 顔を覆っている香奈の両手を強引に引き剥がしながら沙織が面白そうに言う。
「そんな……」
「香奈にオネショ癖があることを知っただけで離れて行っちゃうような男なんて放っておけばいいのよ。それよりも、ね?」
 沙織は、香奈のオムツカバーの中にそっと右手を差し入れた。
「あん……」
 香奈が体をのけぞらせる。
「うふふ。そうやって顔を赤くする香奈、とっても可愛いわよ」
 右手の人差指と中指を奇妙にくねらせながら、沙織は空いている左手で自分のブラウスのボタンを外し始めた。
「だめだったら……」
 香奈は体をよじって沙織の手を振り払おうともがく。
「思い出してちょうだい、香奈。高校の時には私達、あんなに仲好しだったのよ。私は今でも香奈のことが大好きなの。なのに香奈ったら、あんな男に惹かれちゃって……。だから私は仕方なくお薬を使うことにしたの。ほんとはそんなことしたくなかったんだけど、みんな香奈がいけないのよ」
 丈の短いフレンチシャツみたいなスポーツブラを左手でずり上げ、その中から現れた乳房を沙織は香奈の口に押しつけた。
「むぐ……」
 沙織の指戯に耐えかねて身をくねらせながら、香奈は知らず知らずのうちに沙織の乳首を口にふくまされていた。
「そう、それでいいのよ。香奈はいつまでも私だけの可愛い香奈ちゃんなんだから」
 沙織の右手は、香奈の無毛の丘を執拗に愛撫し続ける。そして左手は香奈の後頭部を抱きかかえるようにして、香奈の口が乳首から離れないように押さえつけていた。
「あ…む……」
 香奈の顔が熱く上気してくる。
「最初からそうして素直に私に甘えてくれればよかったのよ。そうすれば、私もあんなお薬を手に入れるために苦労しなくてもすんだんだから。でも、ま、いいわ。今はこうして香奈ちゃんはおとなしく私の手元にいるんだから」
 沙織は、風邪薬だと偽って香奈に与えた薬剤を入手するためにあちこちを駆けまわった様子を少しだけ思い返してみた。そして二日前の夜、眠る前の香奈にその薬を溶かしこんだ温かいミルクを飲ませたことも。だけど、それももう遠い昔のことになろうとしている。
「う……むう……」
 香奈がビクンッと体をこわばらせた。そして何かを懇願するみたいに瞳を震わせる。
「いいのよ、香奈ちゃん。香奈ちゃんはいつまでもオネショとオモラシの治らない赤ちゃんなのよ。だからオムツをあててるんでしょ? さ、私が優しく抱っこしててあげるから安心して出しちゃうといいわ」
 香奈が何を訴えようとしているのか、沙織はとっくに察していた。
「ふ…んんむ……」
 香奈は沙織の乳首を口にふくんだままゆっくり目を閉じた。
 沙織の右手に、香奈の秘部からほとばしり出る生温かい液体の感触が伝わってきた。
 じゅくじゅくと溢れ出てくるその液体は布オムツを濡らしながら、じわりとオムツカバーの中を広がっていく。
 そのオモラシは薬のせいなんかじゃなかった。香奈は今うっとりと目をつぶり、沙織の乳房に顔を埋めていた。
 あどけない表情を浮かべた香奈のほっぺに優しく唇を押し当てて沙織がにこやかに微笑んだ。
 香奈と沙織、二人の全く新しい生活が始まろうとしていた。

《おわり》



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