香奈と沙織 その3



「いいのよ、遠慮なんてしなくても。それに……」
 沙織は奇妙な笑顔になって、思わせぶりに言葉を途中で切った。
「それに……?」
 なんとなく不安な気分におそわれて、香奈が早口で訊き返す。
「……夜中に一度、後片付けをしてあげたのよ。だからもうほんとに遠慮することなんてないんだから。――気がつかなかった?」
「え?」
 沙織の言葉を耳にした香奈の目が大きく開いた。
 そして、沙織に後ろから抱えられたまま自分の姿をあらためて眺めまわしてみる。
「あ……」
 途端に、香奈の唇から小さな叫び声が洩れた。
 今着ているパジャマが眠る前に身に着けていたのとは違っていたからだ。昨日の昼前、オネショで濡らしてしまったハート模様のパジャマから淡いブルーの水玉模様のパジャマに着替えたことを香奈ははっきり憶えている。それが今は花柄のレモン色のパジャマを着てるんだ。それは、つまり……。
「やっとわかったみたいね? じゃ、始めるわよ」
 それまで香奈の後ろの方にいた沙織が前の方に廻ってきた。沙織の顔はベッドの上に立ちすくんでいる香奈の胸あたりになって、そのまま手を伸ばせばすぐに香奈の腰に触れる。沙織は香奈のパジャマの上着を両手でふわっと持ち上げるように捲くり上げてから、ズボンのウエストのゴムを軽く引っ張って左右に広げながら引き下げようとする。
「やだったら……」
 沙織の手の動きに逆らうようにズボンのウエストに自分の指をかけて大慌てで引き上げながら、思わず香奈はベッドからおりようとして足を踏み出した。
「ダメよ」
 思いもかけない強い調子で沙織が香奈の手を払いのけ、ベッドの上に押し戻す。
「そのままベッドのに上いなきゃダメよ。でないと、パジャマから滲み出したオシッコでカーペットが汚れちゃうんだから」
「……」
「このくらいのことは香奈も知ってるでしょうけど、カーペットに付いちゃったシミを抜くのって大変なのよ。それに比べれば、お布団を乾かす方がずっと簡単だしね。
だいいち、そのお布団はもうすっかり濡れちゃってるんだもの、あと少しくらいシミが増えても同じだわ」
「……いじわる」
 香奈にはそう言い返してプイッとそっぽを向くのが精一杯だった。沙織がどこまで考えて言ったのかはしらないけど、その言葉が香奈の心にぐさっと突き刺さったことは確かだった。あまりの羞恥と屈辱のために、意地とか気力とかいうものがみるみるうちに体中から抜けて行っちゃうのが香奈自身にも痛いほどに感じられる。
「なにが『いじわる』よ。私はほんとのことを言っただなのに。――さ、あとは私にまかせて、オモラシ香奈ちゃんはおとなしくしててね。ほらほら、すぐにすむから。
香奈ちゃんはいい子でしょ?」
 沙織はちょっと冗談めかしておもしろそうに、まるでちっちゃな子供をあやすみたいな口調で香奈に言いながら、あらためてパジャマのズボンに指をかけた。
「やだったら……自分でするから……」
 あっちの方を向いてた真っ赤な顔を慌てて下に向け直して、香奈は両手でパジャマを押さえた。
「いいのよ、私がやってあげるから。夜中にオネショして着替えさせてあげたことにも気がつかないし、その後でまたオモラシしちゃうような体なのよ、香奈は。私にまかせておけばいいの」
 沙織の言葉はとどめを刺すみたいだった。
「それは……」
 と言いかけたきり、香奈は口をつぐんでしまう。
 沙織はベッドの上の香奈を見上げるようにしてにっと笑ってみせると、素早く両手を動かし始めた。さっとゴムを引っ張ってパジャマのウエストを広げたかと思うとそのまますっと引きおろしてしまい、オシッコを吸って香奈の肌に貼り付いている生地を、ストッキングを脱ぐ時みたいに優しく丸めるようにしてずらしてく。濡れてる部分が腿から膝の裏側、そうしてくるぶしへと微かにじめっとした感触を伝えながら静かにずり落ちていく。いつもの木綿の肌触りじゃない、こそばゆいような冷たいような、それでいてどこか懐かしいみたいな不思議な感覚。
「あ、ん……」
 香奈は知らないうちに微かな喘ぎ声をあげていた。
 そして、その声が沙織の耳に届いちゃったかと思うと激しい羞恥におそわれて目の下が熱くなる。
「私の肩に手をかけて――そう、それでいいわ。そのまま片方ずつ足を上げるのよ。
慌てなくていいから、ゆっくりね」
 だけど沙織はそんなことには全く気がつかなかったみたいにてきぱきと指示をする。
 香奈は沙織に言われるまま、そっと右足を上げた。
 腰をかがめた沙織のちょうど目の前に香奈のショーツがあった。まるで小学生や中学生が穿くみたいな(ううん、いまどきの中学生はこんなの穿かないかな)、アニメキャラクターがお尻の所にプリントされたショーツだった。その可愛らしい(っていうのかな?)ショーツが舟底のところから裾の方へ淡いシミになって濡れていた。かろうじて濡れてないのは、腰のゴムのすぐ下くらいのものかな。
「え……?」
 足元の様子を確かめながらゆっくりと右足を上げかけていた目を自分の下腹部を覆っている下着に向けた途端、香奈は小さな叫び声をあげた。
「どうかした?」
 目を細めて香奈のショーツの濡れ具合を眺めていた沙織が、わざとみたいな不思議そうな声で尋ねた。
「このショーツ……これ、私のじゃないよ……」
 香奈がおずおず言った。
「あら、そのこと? いいのよ。これは私が夜中に穿き替えさせてあげたものだから」
「沙織が?」
「そうよ。さっきも言ったでしょ? 香奈は夜中にも一度オネショをしちゃったんだって。で私が着替えさせてあげる時にこのショーツにしておいたの。二晩も続けてしくじっちゃうんだもの、三度目もあるかもしれないって思うのが普通よね。だから少しでも吸水性のいいショーツをって思って、急いでコンビニで買ってきたのよ。でも、うふふ……木綿のショーツも割と伸縮性がいいのね。小学生のでもちゃんと穿けるんだもの」
「……」
「それに、こんな可愛らしいショーツが香奈にはとってもお似合いよ。アニメキャラのショーツをオネショで濡らしちゃうなんて……ほんとにちっちゃな子供みたいで可愛いわ」
 今度はそのショーツに指をかけながら、沙織がくすくす笑って言った。
 香奈の体がかっと熱くなる。
「ひどい……こんなの、ひどいよ……」
 恥ずかしさのあまり唇をぎゅっと噛みしめて、泣き出しそうな声で香奈が言った。
「なにがひどいのよ。いつまでもオネショの治らない赤ちゃんのくせして」
 沙織は香奈の言葉なんて軽く無視して、ぐっしょり濡れてるショーツをくるくると手早く丸めてずりおろした。
 丸裸にされた下半身がひどく頼りなくて、香奈は思わず腰をかがめてしまう。ショーツの中に隠れていた童女のような白い股間が香奈の目にくっきり映る。
 え?
 形のいい唇をだらしなく半分ほど開けて、香奈が慌てて自分の股間を覗きこんだ。
そこにあった筈の黒い茂みがきれいになくなっていた。
「あら、やっと気がついたの? もうとっくにわかってるかと思ってたのに」
 用意してきたカゴに香奈のパジャマとショーツを投げ入れながら、沙織が悪戯っぽく声をかけた。
「……これも沙織が……?」
 微かに震える声で香奈が弱々しく尋ねる。
「そうよ。オネショで汚れちゃったところをきれいに拭いてあげようとすると、どうしてもジャマになっちゃうのよ。かといってそのままにしておくと奇麗なお肌が荒れちゃうものね?」
「そんな……だからって……」
 幼い女の子みたいになっちゃった羞ずかしいところを両手の掌で包みこむようにして隠した香奈は、毛布の上にぺたりと座りこんだ。
「仕方なかったのよ。何度も声をかけたんだけど、香奈ったらてんで目を醒まさないんだもの。そうそう、香奈ったら、オネショしちゃった時もショーツとパジャマを着替えさせてあげた時も、それに、うふふ……ヘアの始末をしてあげてる最中もほんとちっとも目を開けなかったわね」
 沙織は昨夜のことをゆっくり思い出してみた。

 夜中――といっても、まだ十一時くらいだったかな。
 足音を忍ばせるようにして香奈の室に入ってきた沙織は、そっと照明のスイッチを入れた。天井の蛍光灯が白く光って、ベッドの上で穏やかな寝息をたてている香奈の姿が浮かび上がった。でも香奈は、沙織が入ってきたことも天井の蛍光灯が眩しく輝いてることもちっとも気がつかないみたいにぐっすり眠りこんでいる。
 香奈が目を醒まさないことを確認した沙織は大胆な身のこなしになった。大股でベッドに近づくと、少しも遠慮なんてするふうもなく、香奈の体にかかっている毛布を剥ぎ取ってしまう。そうして、香奈のパジャマとシーツがびしょびしょになってるのを(ちっとも驚いた顔なんてしないで)満足そうな表情で覗きこんだんだ。それから沙織は香奈のお尻の下に大きなバスタオルを敷きこむと、そのタオルの下に腕をまわして香奈の体を抱え上げた。つまりそのタオルは、香奈を抱き上げる時に自分の着てる物が汚れないようにするための用意だったんだね。で、香奈の体をそっと床の上に横たえてから、ベッドの上に広がってる敷布団を引きずりおろしてベランダ近くのガラス戸の前まで動かした。それはもちろん、香奈のオネショで濡れちゃった布団をベランダに干すためなんだけど、その時はまだ夜だったからガラス戸の前に仮置きってことで。でもって香奈の室に戻る時には沙織は自分の室の押し入れから予備の敷布団を抱えて行って、汚れちゃった布団の代わりにベッドに広げてあげた。
 そうしておいてから、香奈のパジャマとショーツを脱がせた(眠りこけてる香奈のパジャマとショーツを独りで脱がせるのって、意外と重労働だった。だって、腰とお尻を片手で持ち上げてる間にもう一方の手で素早く脱がさなきゃいけないんだけど、オネショで濡れてるパジャマとショーツはなかなか動いてくれないんだもの)沙織は、今度はバスルームへ行って洗面器やシャボンを持ち出してきたんだ。もうわかってると思うけど、それはもちろん、香奈のヘアを処理するためだった。
 大きなカップにたっぷりシャボンを泡立てた沙織は、その真っ白で温かい泡を柔らかなブラシで丁寧に香奈の股間に塗りつけた。次第次第に黒い茂みを雪のようなシャボンの泡が覆い隠していく様子は、それまで沙織が見たこともないようなひどく幻想的な光景だった。小さな小さな泡の一つ一つが天井からの照明の光をきらきらと反射させながら弾け、黒い茂みの先に目に見えるか見えないかの雫になってまとわりつき、つーっと肌の上を流れて行く。沙織がブラシを動かす度に香奈のヘアが揺れ、さわさわと絡み合い触れ合いする音が聞こえてきそうにさえ思える。
 そうしてカップを床に置いた沙織が次に手にしたのは、小振りのレディスシェーバーだった。沙織はこれまでに、ハイレグの水着を着るために自分のヘアの形を整えたくらいしか経験がない。それが今度は香奈のアンダーヘアを残らず始末してしまおうというのだから、沙織の手がきごちなく僅かに震えるの仕方のないところかもしれない。外側のヘアから始めてゆっくり丁寧に(いくらかはおそるおそる)鋭いカミソリの刃で剃り落としていく沙織。カミシリを持つ右手を動かす度に、細く縮れた黒い毛が落ちていくぞりっとした感触が伝わってくるようで、いつしか沙織の呼吸も乱れ、上気して熱くほてっている頬に一条の汗が滴り流れる。
 いよいよという時になって、沙織はますます慎重にシェーバーを動かしていく。まちがっても、香奈の羞ずかしくてでも大事な部分には傷一つも付けられない。沙織は大きく吸った息を少しずつ少しずつ吐き出しながら、肉の谷間に沿ってゆっくりゆっくりカミソリを滑らせた。
 右手を誘導するためにそっと添えた左手の薬指が、まだ子供のようなピンクのクレヴァスに触れた。ぴくっと下半身を震わせる香奈。慌ててシェーバーを持ち上げる沙織。
 だけど香奈はそれから、んん……というような喘ぎ声を洩らしただけで再び静かになった。額の汗を手の甲で拭ってからもう一度シェーバーを押し当てる沙織の目は異様に輝いていた――そうよ、香奈ちゃん。あなたはそのくらいのことじゃ目を醒まさないのよ。どんなにあがいたって、香奈ちゃんは明日の朝まで目を開くことはできないんだからね。そうして朝までにもう一度、信じられないくらい羞ずかしい粗相をしちゃうのよ。ちっちゃな子供みたいになった子猫ちゃんからオシッコを溢れさせて、香奈ちゃんの年齢にはふさわしくない可愛らしいショーツを濡らすのよ。
 香奈の股間は次第次第に幼女に戻っていった。

「いやよ、こんなの……こんなじゃ……こんなになっちゃったんじゃ、司クンになんて思われるかわかんないよ〜」
 香奈は沙織を恨みがましい目で睨みつけた。でもじきに、じわっと両目を潤ませて唇を震わせる。あ、司クンっていうのは、香奈を旅行に誘った男の子の名前だよ(参考までに)。
「仕方ないでしょ、香奈がオネショしちゃうんだもの。今はそんなことよりも、病気を治す方が大事なのよ」
 沙織は冷たく言い放ちながら、でも心の中じゃ面白そうにちろと赤い舌を出していた。
「そんなこと言ったって……」
 香奈は掌を少しだけ動かして再確認するみたいに自分の股間をちらと覗きこんで、また慌てて掌で包みこんだ。
「ほら、お薬を飲んで。その間に私は濡れたお布団を片付けるから」
 沙織はベッドにへたりこんでる香奈に包みを差し出した。
「そんなの、いらない」
「何を言ってるのよ。そんなこといってたら、それこそほんとにお出かけもできないままよ。それでもいいの?」
 沙織は香奈の返事も聞かずに薬の包みを広げて唇に押し付けた。
「いや……いやだってば……」
 香奈は幼児のようにいやいやをしてみせた。
 薬を飲んでも仕方ない(だって、ほんとは病気なんかじゃないんだから)ってこともあったし、それに、沙織が差し出すその薬になんとなく邪悪な(というのは大袈裟かな)雰囲気を感じ取ったせいもあった。昨日はその薬を飲んで間もなく深い眠りにひきこまれてほとんど丸一日間も眠り続けていたんだから。たいていの風邪薬には眠くなる成分が含まれてるってことは知ってるんだけど、でも、それにしてもと香奈は思ったんだ。
「いいかげんになさいよ。――いいわ。司クンには私から話しておいてあげる。香奈は司クンと旅行に行くのがいやで、わざとお薬を飲まないんだって」
 沙織はわざと意地のわるい言い方をした。
「そんな……」
 香奈は思わず、すがるような目になった。冗談にでも沙織がほんとにそう言って司クンが少しでも本気にしちゃったら……。
「じゃ、ちゃんと飲むわね? 香奈ちゃんはいい子だもの」
 さっきの言い方とはうってかわって、沙織のすっごく優しい声
「うん……」
 沙織の甘ったるい声につりこまれるみたいに、香奈がこくんと頷いた。
 で、渋々みたいに包みとコップを受け取る香奈。無毛の白い股間にパジャマの上着だけを身に着けた格好でぺたんと座りこんだまま両手で支えたコップから水を飲む香奈の姿は、奇妙な幼女だった。ほんとの年齢なんてまるで感じさせないみたいな、それは不思議なあどけなさをたたえた不思議な可愛らしさだった。沙織は、妖しく輝く目で香奈の姿を満足げに眺め続けた。

「にがかったよ〜」
 コップを枕元に戻した香奈が舌を突き出してみせた。
「それでいいのよ、香奈。じゃ、ちょっと待っててね。そのお布団を干して、予備のお布団を持ってきてあげるから」
 沙織は唇の端を歪めるような笑みを浮かべた。
「あ、それより先に……」
 香奈のもじもじした声が沙織を呼び止めた。
「なにかしら?」
「……パジャマのズボンだけ貸してくれない? この上着は濡れてないみたいなんだけど、私、パジャマは三着しか持ってなくて、えと……他の二着は汚しちゃったし……だから……」
 香奈はとても言いにくそうに口の中でもごもご。
「いいわよ。じゃ、代わりのお布団を持ってくる時に一緒に持ってきてあげる。だからそれまでおとなしく待っててちょうだい。――でも、気をつけてよ。もうこれで予備のお布団もおしまいなんだから」
 沙織はまるで幼児にでも言い聞かせるみたいにそう言って、香奈が汚しちゃった敷布団を抱えて室を後にした。
 家事なんてちっともできない香奈は、ただ沙織の後ろ姿を頼りなげに見送るだけだった。こんなことなら洗濯機の使い方くらい教えてもらっておくんだった――香奈は童女のような股間を恥ずかしそうに両手で隠したまま、所在なげにぽつりと床に立ちつくしていた。



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