美奈の夏休み

13〜エンディング




「あ……んん」
 美奈の唇が僅かに震えて、微かな呻き声が洩れてきた。
 そろそろ目を醒ますのかしら?と私は目で玲子に問いかけてみる。だけど玲子は小さく一度だけ首を振ると、手を止めることもなく穏やかな口調で応えた。
「まだよ。お薬はあと二時間は充分に効き続けるはずだから。ただ、ぐっしょり濡れたオムツが外されてるんだって感触を夢の中で感じてるのかもしれないわね」
「そう……なの?」
「そうよ。──でも美奈ちゃんの声が気になるようなら、静かにしてもらう方法はあるわよ」
 私の表情を読み取ったみたいに玲子が軽く笑って言った。
 たしかに、玲子の言う通りだった。美奈の唇をついて出てきた呻き声を耳にした私は、心の中に得体の知れない波紋が広がっていくのをハッキリと感じていたんだ。それを最初、美奈を預かってちゃんとした体にしてあげるって約束したのに玲子のせいで思いもかけないことになってきた後ろめたさのせいかとも思った。でもすぐに、そんなことじゃないよっていう私自身の胸の奥から伝わってくる声も聞こえちゃったんだ。──ねえ亜紀、あなたの心がそんなに震えてるのは美奈ちゃんに対する後ろめたさのためなんかじゃないんだよ。それはね……。
 私は心の耳を必死で塞いだ。その言葉の続きを聞いちゃったら──私の心が妖しく震えてるその理由を知っちゃったら、私はたぶん今までの私でいられなくなっちゃうってことを知っていたから。
 でも、私がいくら心の中で耳を押さえても、私自身の奥深い所から湧き響いてくる私自身の声を聞こえなくすることはできない。
 そしてその声は、美奈の呻き声にシンクロするように強く弱くなっていた。私は、私自身の声から逃れるためには美奈の声を聞こえなくするしかないことを実感していた。
「どうすればいい? 美奈ちゃんを静かにさせるにはどうすればいいの?」
 私はひょっとしたら喘いでいたかもしれない。
「わからない? 簡単なことよ──美奈ちゃんの口を塞ぐだけじゃないの」
 美奈の(スクール水着に覆われていたために日焼けしていない)白い肌にいやらしくまとわりついていた水玉模様のオムツをすっかりオムツカバーの上に広げてしまい、ピンクの谷間をなまめかしく濡らしていた湿りけを新しいふかふかのオムツできれいに拭き取りながら、玲子が目を細めて言った。
「口を塞ぐ……?」
「そう、方法はいくらでもあるわよ。例えば……」
 不意に体を伸ばして、私が目を皿のようにして見守っている中、玲子は美奈の唇に自分の赤い唇を押し当てた。そして、大きく息を吸いこむみたいに口を開くと、美奈の薄いピンクの唇を覆い包みこむようにかぶさっていった。
 細い粘液の糸をひく玲子の唇のために自由を奪われた美奈の口からは、僅かな声も洩れてはこなかった。ただゼイゼイと荒々しい、それでいてなぜとはなしに私の胸を高鳴らすような切ない吐息の波紋が部屋の空気を弱々しく震わせるだけだ。
「……それは……お願いだから玲子、それだけはやめて……」
 かすれた声を私は出していた。
 たしかにそれは、美奈の口を塞いでしまう一つの方法かもしれない。だけど、でもだけど、たとえそれで美奈の声が聞こえなくなったとしても、玲子がまるで美奈に襲いかかるようにキスを(それも、ほっぺい軽くチュなんてものじゃない。見ようによっては恋人どうしのディープキスとも思えるようなのだった)しているのを目にした途端に私の心は金切り声をあげていたんだ。
「どうしたっていうのよ、いったい? せっかく美奈ちゃんを静かにさせてあげたっていうのに」
 玲子は美奈の口から唇を離し、髪を掻き上げながら、ねっとりと絡みついてくるような声で言った。
「……だって……ああん、だって……」
 私は自分でも何を言いたいのかさっぱりわからなくなってしまって、ただ唇を震わせて言葉にならない言葉を口にするだけだった。
「私にはわかるわよ、亜紀。あなたの胸の中が手に取るようにね」
 玲子の瞳が妖しく輝いた。そして玲子は右手を私の方へ突き出すと、掌を上に向けて誘いこむみたいに指を動かしながら言ったんだ。
「さ、私の近くへいらっしゃい。うふふふ、心配しなくてもいいのよ。私は亜紀のことを美奈ちゃんと同じくらいに大好きなんだから。──さ、おいで」
 ハァハァハァ……どこかで、ふいごのような音が響いていた。
 それが自分の熱く激しい息づかいの音だということに気づくまで、どれくらいの時間が必要だったろう?
 玲子の指の動きについつい引きこまれるようにふらふらと立ち上がって歩き出しそうになる自分をかろうじて押しとどめることに私は思いもかけないほどの気力を振り絞らなきゃいけなかった。
「どうしたの、私に抱っこしてほしいんじゃなかったの? ま、いいわ。亜紀がそれでいいのなら、私は美奈ちゃんだけでもかまわないんだから」
 私が何も応えないことに苛立ってきたのか、急に興味を失ったように言い捨てると、玲子は再び美奈の方に向き直った。
 あ──私の体から急に力が抜けていった。だけどそれは、玲子の視線から開放された安堵のためというよりも、ひょっとしたら玲子に見捨てられちゃったんじゃないかという脅えのようなものを感じたせいだということを私は知っていた。そう。それはまるで、つまらないことで我を通したあまり優しい母親を怒らせておろおろしてしまう幼児の心の動きと同じものだったのかもしれない。
「じゃ、美奈ちゃん。オムツの交換を続けましょうね。うふふ、お姉ちゃんはママのこと嫌いなんだって。だからこれからは、ママは美奈ちゃんだけのママになるわね。どう、嬉しいでしょ?」
 玲子が冗談めかして(聞いてもいない)美奈に言い聞かせている言葉は、だけど私の胸の中を激しくかき乱した。それが玲子の思惑通りだったとすれば、私はまんまと彼女が広げておいた網にからめ取られたことになるんだろうか。そして、ううん、それが偶然だなんてことがあるわけはなかった。玲子は私の胸の内を隅から隅まで知りつくした上でじわじわと自分の思い通りに事を進めているにちがいないんだ。

 私が何も言えずに見守っている中、玲子は美奈に背負わせていたリュックを手元に引き寄せてファスナーを開いた。そうして、その中に詰めこまれていた布オムツを何枚かとレモン色の新しいオムツカバーを引っ張り出してくる。
 玲子はオムツカバーのホックを外すと、その上に布オムツをそっと広げていった。それから、美奈の足首をつかんで高く持ち上げて僅かに浮いたお尻の下に、そのオムツカバーを手早く敷きこんでしまう。あとは、玲子のお店で見たのと同じ光景だった。
ただ違うことがあるとすれば、今は美奈がくーくーと眠っているために全く抵抗する様子もないことと、布オムツが新しいふかふかのものだってことくらいだろうか。
「あ……あんん……」
 玲子が手にしたオムツが股間に触れると、美奈の口から再び呻き声が洩れ出した。
 それを耳にした私はぞくりと体を震わせ、思わず自分の肩を抱いてしまう。
「だめよ、美奈ちゃん。お姉ちゃんは美奈ちゃんのその声に弱いんだから、もう少し静かにしてあげてちょうだいね」
 私が体を動かす気配を察したのか、玲子は美奈の方に顔を向けたままそう言った。それからオムツをあてている手を止めるとリュックの中を探り、ゴムのオシャブリを取り出して、それを美奈の口にふくませながら、幼児をあやすように言う。
「そうそう、これがあったわ。美奈ちゃんの大好きなオシャブリよ。これをお口に入れあげるから、もう声を出さないでちょうだいね」
 玲子は、親指と人差指で鋏みこむように持ったオシャブリを美奈の上唇と下唇との隙間に軽く押しつけた。薬のために意識をなくし、すやすやと気持ちよさそうな眠りにおちている美奈は抵抗するような気配なんか微塵もみせないで、玲子が咥えさせたオシャブリを無造作に口にふくんでしまい、まるで幼児がするみたいにちゅっちゅっと微かな音さえたてて吸い始めた。まだ中学生の美奈にしてみれば──ううん、ひょっとしたら私くらいの年齢の人間でも──羞じらいやてらいを感じない無意識の中で柔らかな(そして、幼い頃の母親のぬくもりを思い出させるような)オシャブリを口にふくまされたら思わずそうしてしまうんだろうかと思うくらいに、美奈の仕種は自然なものだった。
「うわ、かっわいい。そうしてると本当に赤ちゃんみたいよ、美奈ちゃん。じゃ、これはどうかな……」
 オシャブリを口にした美奈の表情があどけない幼女のような顔つきになったことに満足した玲子は、今度はリュックからプラスチック製のガラガラを取り出した。そうして、あまり力を入れずに指を丸くしている美奈の掌にそっと持たせる。美奈の手が反射的に動き、玲子が手渡したガラガラをぎゅっと握りしめた。玲子は両手で美奈の掌をそっと包みこみ、そのまま軽く振ってみせた。美奈が手にしたガラガラが揺れ、かろやかな音がゆったりと流れ出て部屋の空気をなごませる。
「よくできたわね。じゃ、オムツをあてましょうね」
 まるで着せ替え人形かミルク飲み人形でも扱うみたいに、玲子は美奈に赤ちゃんのような格好をさせて満足そうに微笑んでみせた。
 やがて玲子の手で美奈の下腹部は布オムツにくるまれ、淡いレモン色のオムツカバーで包みこまれてしまう。もともと美奈が着ていたブラウスはフリルがたっぷりあしらわれた可愛らしいデザインのだったから、そうして新しいオムツカバーでお尻を覆われて赤ちゃんがするようにガラガラを手にしてオシャブリを口にふくんだ姿は、思いがけないほどに愛らしく、あどけなく見えた。今、私の目の前に横たわっているのは奇妙でだけど愛くるしい体の大きな幼女だった。

 中学生の美奈をすっかり赤ちゃんに変身させてしまった玲子が、にっと笑って私の方を振り返った。
「美奈ちゃんは──亜紀の可愛い妹はすっかり赤ちゃんになっちゃったわよ。可愛いでしょ?」
 体ごと振り返った玲子は、なにも言えずにただ美奈が変身していく様子を見守っていただけの私に言った。
「妹……?」
 玲子が言った言葉の意味がわからず、私は独り言みたいに呟いた。
「そう、妹よ。私は何度もそう言った筈よ。亜紀がお姉ちゃんで美奈ちゃんが妹。二人とも私の可愛い娘なのよ」
 玲子の目の中に妖しい炎が揺らめいていた。
「私が……私と美奈ちゃんが玲子の娘……」
 冗談にもほどがあるわよ、なにをくだらないことを……でも、私はそうは言えなかった。玲子の言葉を聞いた途端、私の胸の中に響いていた私自身の声が尚いっそう激しく強く、私の意識なんて呑みこんでしまうように……。
「オムツを取り替えてあげて、美奈ちゃんはおとなしくオネムしてるわ。今度は亜紀ちゃん、あなたの番よ」
 ちっちゃな子供みたいに『亜紀ちゃん』と呼ばれて、でも私は恥ずかしさで頬を染めるどころか、妙に切ない悦びを覚えていた。そうして、私が奇妙な悦びに浸っているのを手に取るように知ってでもいるのか、玲子はそんな私の心をますますくすぐるようなことをしたんだ──玲子は部屋に入る時にジャケットを脱いじゃってたんだけど、今度は、その下に着ていたトレーナーまでさっと剥ぎ取るみたいに脱ぎ捨てたんだ。それから、ノースリーブのフレンチシャツみたいな形のブラを手早く体から離しちゃう。
 ちょっと外向きかげんでつんと上を向いたピンクの乳首が、私の大きく見開いた目にとびこんできた。
 私の喉はカラカラに渇いて、呻き声さえ出そうになかった。
「さ、いらっしゃい。……どうしたの、ママのおっぱいが欲しくないの?」
 張りのある乳房を恥ずかしげもなく見せつけるようにして、玲子は私に向かって両手を広げた。
「あ……」
 ついふらふらと玲子の方に歩き出しそうになる自分の脚をかろうじて押しとどめながら、でも私の目は玲子の乳房に吸い付けられたままだった。
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。亜紀ちゃんはママの可愛い子供なんだから」
 私には、玲子の笑顔がまるで聖母みたいに見えた。
「でも……」
 どうしていいのかわからなくなってきて、私はもう泣き出す寸前だった。
「いいのよ、亜紀ちゃん。もういいの。亜紀ちゃんはこれまで、ずっとずっとガマンしてたのよね? ママはそのことをよーく知ってるわ。でも、もういいのよ。もう何も考えなくていいの。……かわいそうな亜紀ちゃん。でも今日からは、思いきりママに甘えていいのよ。さ、いらっしゃい」
 玲子の声は直接、私の心の中に響いてくるみたいだった。
「だって……」
 自分の目から一雫の涙がこぼれ出す感触が伝わってきた。
「亜紀ちゃんがどれほどつらい思いをガマンしてきたのか、ママは知ってるわ。亜紀ちゃんにはお兄さんがいたわよね。でも、お兄さんと亜紀ちゃんとはかなり年が離れてる。つまり亜紀ちゃんは、お母さんが少し年を取ってからできた子供だったのね。そのせいで授業参観の日でも、クラスメートのお母さんが若いのに自分のお母さんは……って寂しく思ってた。それでも、いい子の亜紀ちゃんは自分がそんなことを思ってるなんてお母さんに気づかれないようにムリに明るくふるまってたのよね?」
 玲子の口調はとても穏やかだった。
「ああ……」
 私の涙はもう止まりそうになかった。
「お兄さんが結婚したのは、亜紀ちゃんが中学生の時だったっけ。お兄さんの奥さんになる人と初めて顔を会わせた時、亜紀ちゃんは随分ビックリしたでしょう? なんたって、お母さんに雰囲気がそっくりな人だったんですものね。いつか亜紀ちゃんに家族の写真を見せてもらったことがあったわね。その時に私がよく似てるなぁって感心したくらいだもの、本当の家族の亜紀ちゃんが驚いても不思議はないわ。亜紀ちゃんはだから、最初のうちはとっても喜んだ筈よ。まるで若い頃のお母さんが家族に加わったようなものなんだから」
 玲子は何もかも知っているみたいだった。
「でも……」
 私はいつのまにか足を踏み出していた。
「だけど、その人は亜紀ちゃんの若いお母さんじゃなかった。仕方ないわ──お兄さんのお嫁さんなんだもの。それでも、理屈じゃそういうことをわかっていても、亜紀ちゃんの心の奥に鬱屈したわだかまりが溜まっていくのも止められなかったのね。そうしていつしか、亜紀ちゃんは家族に対して無条件の信頼やとめどない甘えを期待しちゃいけないんだってムリヤリ言いきかせるような子になっちゃったのね。いつか亜紀ちゃんは私に、お義姉さんとソリが合わないって話してくれたわよね? でもそれは、ソリが合わないんじゃないのよ。ムリにそう思いこむことで、ちょっとしたことでお義姉さんに惹かれそうになる自分の心を亜紀自身がごまかそうとしてたんだと思うわ」
 玲子は、おずおずと近づいていく私に向かって更に大きく両手を広げてみせた。
「ふぇ……」
 玲子の乳房が私の目に大きく映っていた。
「そんなふうにいろんなことにガマンをすることを覚えながら、亜紀ちゃんはおおきくなっていったのね。そうして故郷をあとにしてこの街へ出てきたのね。でも、大学に入って初めて私と出会った亜紀ちゃんはとても驚いたでしょうね。だって私は、お義姉さんとそっくりだったんですもの。だからもちろん、お母さんとも雰囲気が似てるわよね。──亜紀ちゃんが妙に私に惹かれたのは(そして亜紀ちゃんは、そのことを”妙にウマが合う”って感じてたのかもしれないけど)そういう理由があるからなのよ。わかる? 私は亜紀ちゃんのお母さんの身代わり……だからママなのよ。さ、いらっしゃい。恥ずかしがることも遠慮することもないのよ。これまでガマンを続けてきたぶん、たっぷり甘えていいんだから」
 玲子の乳房がぷるんと震えた。
「ええん……」
 もう私の頭の中は真っ白になっていた。
「亜紀ちゃんと初めて会った時、私にはなんとなくわかっていたのよ。あなたが胸の中に抱えこんでいた寂しさや切なさとかにね。それからあれこれと話すうちに、その寂しさの正体に気づいたの。──かわいそうな亜紀ちゃん。これまでずっとずっとたった独りでガマンしてたのよね。でも、もういいの。あなたが美奈ちゃんを預かるって聞いた時から私はこうなるように計画してたんだから。今から亜紀ちゃんはちっちゃな子供に帰って、これまでできなかった楽しい思い出を作り直すのよ。さぁ」
 玲子の腕が私の体を力強く抱きしめた。それから、まだ私の目から溢れ出している涙を自分の舌でそっと嘗める。
「あむ……」
 私はおどおどしながら、ちょっぴり震える唇を玲子の乳首に押し当てた。
「うふ、くすぐったいわね。いいのよ、それで。たっぷりママのおっぱいを吸うといいわ」
 玲子は膝の上に抱き上げた私の体を少し斜めにして、私が楽に乳首を口にふくむことができるようにしてくれた。
 もう私は、玲子の乳房にむしゃぶりつくのに夢中になっていた。
 実際に子供を生んだわけでもない玲子の乳首から母乳が出る筈はない。だけど、私が玲子の乳首を吸い続けているうちに唾液が口の中に溜まってくる。その唾液が玲子の乳首に絡みつき、それが再び私の舌を伝って喉に流れこんでくる感触──それは、私がすっかり忘れ去ってしまったと思いこんでいた遠い記憶を鮮やかに呼び醒ますに充分な刺激だった。
 私は何も考えることなく、ただただ玲子の乳房に顔を埋め、乳首を吸い続ける。
 やがて、私の唇の端から一条のヨダレがつっと細い糸になって頬に伝わる感触があった。
「あらあら。亜紀ちゃんたら、ほんとに赤ちゃんになっちゃって」
 私の顔をじっと眺めながら乳首をふくませていた玲子が穏やかに笑って言った。そうして、すぐ近くに引き寄せたバッグから白い布をつまみ上げて私の顔の前に広げてみせた。それは、私の胸を覆うのに充分なほど大きく縫製されたヨダレかけだった。白い吸水性のよさそうな生地でできたそのヨダレかけは周囲がフリルで縁取りされていて、右上の方に小鳥のアップリケがちょこんと縫い付けられていた。
 玲子は笑顔のままでヨダレかけを私の首に巻き付けてから、まるであやすみたいな優しい声で言った。
「さ、これでいいわ。これでもう、お洋服が汚れることもないわね。安心してたっぷりとおっぱいをお飲みなさいな」
「まあ……」
 大学生にもなって大きなヨダレかけで胸を覆われた格好で同い年の女性の乳房に顔を埋めている私。ほんとならそんなことになったら死んでしまいたくなるくらいの羞ずかしさだろうけど、私はそんなこと、ちっとも感じなかった。私は玲子に言われるまま、ただむさぼるように乳首を吸い続けるだけだ。
「やれやれ、急に赤ちゃんが二人もできちゃったわね。まだ結婚もしてないっていうのに。でも、いいわ。二人ともとっても可愛い赤ちゃんなんだから。ほんとは亜紀ちゃんの方が美奈ちゃんよりもお姉ちゃんの筈なのにママのおっぱいから離れられないんだものね」
 玲子は空いている方の手で私の頬をちょんちょんとつついた。それから、ほんとにちっちゃな子に言いきかせるみたいにこう言った。
「おっぱいが終わったらオシッコにしましょうね。もうそろそろでしょ?」
「……うん」
 私は下腹部からじわじわ伝わってくる尿意を感じながら小さく頷いた。
「もちろん、オシッコはオムツにするのよ。亜紀ちゃんはちょっぴりお姉ちゃんだけど、まだオムツが外れないちっちゃな子供なんだから」
 玲子はヨダレかけが入っていたバッグから、美奈があてているのよりも少しだけ大きなオムツカバーを取り出して言った。それと、オネショシーツの下になっていたパステルカラーの洋服を何枚か。
「おとなしくオムツをあてさせてくれたら、ご褒美にこの可愛いお洋服を着せてあげねわね。赤ちゃんの美奈ちゃんにはロンパースがいいかしら。ちょっとお姉ちゃんの亜紀ちゃんには、ブルマーとスカートが一緒になったこのドレスがお似合いね。みんな、ママの手作りなのよ。どうかしら?」
「マ…マ……」
 胸の中が何か温かなもので充たされるのを感じながら、私はゆっくり目を閉じた。
「あらあら、亜紀ちゃんもオネムかしら。いいわよ、ゆっくりねんねなさい。オネショしちゃっても、ママが優しくオムツを取り替えてあげるから」
 玲子がそっと私の髪を撫でつけた。


 秋になれば美奈の夏休みは終わってしまう。そしてこの奇妙な体験がきっかけになって本当に精神の安定を取り戻した美奈は笑顔で学校へ戻って行くかもしれない。
 だけど、私とママの終わりのない夏休みは始まったばかりだった。




《おしまい♪》


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