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CV4079 JFET driven single AMP

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ヘンなデザイン。でも電源トランスのために仕方がない。


おしながき

はじめに

ぺるけさんのサイトで一躍有名になったCV4097(5A6)ですが、CV4079という球が(なぜか手元に)あります。かなりマイナーな球らしく、ネット上で作例はあまり多くありません。春日無線ではGECのが1本2625円で売っています。そう、泣く子も黙る、黙る子も泣くGECです。KT88のGECです。世の中ではGEC代だけで1本3000円は払われていると聞きます(うそ)。そんなわけでこれをなんとか料理したいと思います。

CV4079/A2293とは。

英国GEC製の傍熱3極管です。ネット上を必死で探すとEp-Ip曲線が手に入ります。

Valves for voltage stabilisation
The A2293 is a new low impedance triode particularly suitable as the series valve in stabilised power packs.
Vh 6.3V / Ih 0.95A / Va 300max V / Ia 120max mA / Base B9A

なる能書きがあります。stabilizeじゃなくてstabiliseと書いてあるあたりがイギリスっぽいです。定電圧電源用の低インピーダンスの3極管、ヒーターは0.95Aで、プレート電流は120mAも流せるようです。ちなみにプレート損失が15Wだそうです。今動いていますが、定格内であるのに積年のホコリのせいかなんとなく焦げ臭いです。おそらくg.e.c.のシールを加熱しているのではないかと思います。電流さえ流せば直線性がよさそうな球に見えます。よくわかんないんだけど。まあとりあえずわかったことは、

ということでした。

Loadlineとドライブ

Powerpointで線を引いたのでスライドのタイトルが入ってます。すみません。製作してから気づいたのですが、図の曲線はプレート損失6Wの線です。実際はもっとパワーを絞り出すことができる球ですが、相対的mini-watterということでよしとします。
手持ちの出力トランスに合わせて、負荷=5KΩ、30mA/187V, bias -40Vなるロードラインを引いてみます(上記。CV4079のピンアサインも書いてあります)。ロードラインの右端がどっかいっちゃうんですが、なんとなくよさそうです。これをみるとドライバ段は80V peak to peakの出力が必要そうであることがわかりました。そうすると初段はネット上の作例のように高μの12AX7を使うか、いっそのこと3段増幅にすることになります。内部抵抗が低いため、2.5KΩ負荷とかでもよさそうな気もします。よそ様はだいたいが2.5KΩ負荷です。
ネット上の作例を国内で2例、海外で2例みつけたのですが、国内のは双方ともに初段は12AX7をもちいたカソードフォロアのものでした。SRPPというものもやってみたいことはやってみたいのですが、経験がない。3段増幅もまだ経験がない。そうするとオーソドックス(というか、諸先輩がもはや捨てた方法ではないか?)な12AX7の1段増幅とするか、別のことを考えなければなりません。
一方、海外のはwen audioさんの参考回路ですが、5670(rp=6.4K, μ=32)または5842(rp=2K, μ=43)を使っての2段直結回路でした。
そういえば、手元にCV4097のmini-watterがあります。この球もμ=5.3くらいの鈍感な球です。確か初段はFETで、電圧増幅段で100倍くらいの増幅をしているのではなかったっけ?
というわけで回路図を見てみると、はっきりいってそのままadaptできてしまいそうです。そうだ、SRPPや3段増幅は後日考察しよう。でも考察にあたって、こんなマイナーなCV4079でなく、もっと他の安い球を使ってもいいのではないだろうか。そういうわけで、ぺるけさんのmini-watterをそのままややスケールアップしてしまうことにします。
2段直結、出力段コンデンサのショートループを用います。ただ、Ip=30mAです。カソード抵抗が電熱器のようにならんだろうか? でもネット上のCV4079での作例を拝見するに、カソード抵抗はやっぱり10W規模のものを使用しており、プレート電流は50mAだったり72mAだったりします。30mAなんてまだまだかわいいものみたいです。これもこれで相対的mini watterとでも呼べましょうか。上記のロードラインから、

(335-36)[V] / 2√2 = 105[V(rms)]
(105)2/5000[ohm] = 2.23[W]
となり、ロスを入れてもやく2ワットとなります。

回路

回路図中に主要な部分の電圧をかきいれました。計算値ですが、実測値とほとんど一致しました。
71AとCV4079はバイアスがほとんど同じで、CV4079のプレート供給電圧がやや高いだけなので、電圧ドロップの抵抗を27Kに増量したのみで、初段回路は定数までお借りすることになりました。初段供給の電源は左右振り分けとしています。2SC4003というのは、CV4097 mini watterをつくるときにもつかった高耐圧トランジスタです。安くてCobも小さい、hFEの直線性もよく、音もよさそうです。カソード抵抗は30mAも流す都合上、5Wの抵抗2本を直列につなぐことで対応しています。
部品は一般的なものを使用しています。音響用、という部品は使っていません。一番特殊なのは出力管ですが、もしなぞらえて作る人がいたら春日無線やアムトランスで売っています。台湾のWen audioというサイトでも売っていますが、送料とか考えると国内で買った方が安いかもです。コンデンサは千石で売っていたメタライズドポリエステルっていう安いやつです。電解コンデンサも同じく千石の低ESRのものと、秋月で10本100円で売っていた35V220uFを使用しています。終段のカソードショートカットのコンデンサは、オリジナルが100uであるのを、まとまった手持ちがあるために180u/420Vという大きめのものにしてみました。
初段の2SK30Aは自分で選別しました。

電源回路もmini watterを踏襲しています。2次側260Vタップをブリッジ整流しています。整流ダイオードは秋月で売っていた一番安い1000V/1Aのもの、FETも秋月で2本100円で売っている3N90を使用します。ツェナDiを抱かせないといけないので実際あまりお得感がないことにようやく気づきました。
今回は電源回路だけ平ラグで製作し、その他は万能基板で製作しています。慣れの問題もありますが、万能基板の方が隅から隅まで基板を使えるのと、マウントしやすい気がするので個人的には好きです。
電源トランスはJIANSING transformerというところのトロイダルトランスで、JS-926というものです。Jamesというブランドでトランスを売っている、台湾のメーカーのようです。これが一番珍しいかもしれない。安価にオークションで入手したもので、AC 260V/150mAとれるもので今回の用途には十分・・・っていうか今書いてて思ったけどもったいなくないか?プッシュプルがつくれちゃうぞ。東栄のP-70とかノグチトランスのPMC-100でもよさそうです。トロイダルトランスが思いの外場所をとるので、実装にはいろいろ考えなければならないことがありそうです。

製作・トラブルシューティング

ユニットごとに組み立てています。初段+負帰還部が秋月C基板に1枚、カソード抵抗+カソードバイパスコンデンサで秋月C基板に1枚、電源は8Pラグとしました。初段+負帰還部に関しては将来ポン外しできるように考えたのですが、よく考えるとこれは直結なので、組み直すときは大変です。このままfixになりそうです。
ジャンクシャーシに組み立ててみると、スピーカーもつないでいないのにトランスがうなりまくります。正帰還になっていたのです。これを直したのですが、今度はひどいハム。よく見たらRCAピンプラグのGND側の配線を忘れている。これを直したら、とても静粛な・・・ 鳴らないじゃん。
USBDACを落っことしてUSBコネクタが抜けてた。
な、なんかこれは音がいいぞ。
シャーシをなんとかでっちあげますが、電源トランスがでかいのです。直径10cm、高さ5cmの円筒形です。東急ハンズでケーキの型を買ってきて、フッ素樹脂加工されたそれに穴をあけてマウントします。自分でいうのもなんですが、ヘンなデザインです。


しばらく使っていると、なぜかヒューズが飛びまくります。各部位に異常電流が流れている気配はありません。ヒューズは1Aだとすっ飛ぶのですが、2Aだと大丈夫のようです。たかが2Wのアンプに2Aかよ、と思いいろいろ考えたのですが、どうもトロイダルトランスの突入電流にやられている様子。1次側のDC抵抗値が50Ωくらいなので、確かに最初期は2Aくらい流れそうです。
一般的に突入電流対策というと、平滑コンデンサへの充電のためのそれであって、そのために平滑コンデンサに巨大なものを使わないとか、パワーサーミスタというのを使って最初の電圧の立ち上がりをゆっくりにするとかの対策があります。
トランスの1次側の電流過多の対策としては、これらでは不可能そうで、ネット上での作例を探したところ、フォトMOSリレーを使い、一時的にセメント抵抗等でバイパス回路をつくるというものがあるようです。多分問題ないのだと思うのですが、フォトMOSリレーがヘンな壊れかたをするとアンプがタダの電熱器になってしまい、ひいては火事の危険もあるのではないかと考えました。
それを解決するためには、同様のリレー回路のバイパス抵抗側に直列に温度ヒューズをかませばいいのかな、と思っているとそういうものが市販品にあるようです。これを使おうかと考えていたのですが、リレー回路を作(ってシャーシに押し込む)のが面倒。面倒がっていては進歩につながらないから、この方式もトライしてみたいのですが、さらに考えたあげく、ただスローブローのヒューズをつかえばいいんでね? ということになりました。
そこでスローブローのヒューズを探したところ、これがあんまり売っていないんですよね。売っていてもエレキギター系のお店だったりして、ヒューズ1本に数百円もして高い。能動部品を使わない解決策は、パッシブセーフティのためには大切だと思うのですが。
さらにいろいろ見てみると、そういえばポリスイッチという物体がありました。これはもともとDCの低電圧系のヒューズのようなもの、と考えていたのですが、データシートを見ると100V対応のものがあって、しかもどうもかなり遮断までの立ち上がり時間が遅いらしい。定格の2倍の電流を流すと20秒くらいで電流遮断がなされるらしい。
20秒は突入電流対策としては適切に思えますが、ショートのときはちょっと長すぎる気がします。余裕で100m走れる時間ですよ。
というわけで、結局ない頭を振り絞り、「通常の即断型2Aヒューズとポリスイッチ0.4A(0.9Aで遮断)直列」という接続としました。このアンプはヒーターが多少大食らいだから、多分30Wから40Wくらいの消費電力なので、こんな値でしょうか。何かあったらどっちかが切れてくれるでしょう。

考察

できあがったアンプは、中域がつややかな音がするのが特長のようで、今までつくったシングルアンプと比べても異色のできです。シングルにしては低域も良く出ていると思います。シングルアンプファンが多い、ということを納得させるできです。GEC代を払った甲斐があったというものです(?)。
ただ全段差動アンプと比較すると全く違った音で、アンプを取り替えて聴くと「これって同じ曲?」といった感じです。全段差動アンプが定位の良さ、上から下までしっかり出す感じであるのに比べると、こちらは中音域を豊かに鳴らす感じです。Vocalが気持ちよく聞こえて、まったり聴くにはこちらのがよいかもしれません。(これ以上の表現はピュアな人を連れてこないと・・・)
客観的な数値もほしいので、ちょうどWindows PCが手元に入ってきたこともあり、測定ということにも挑戦したくなりました。
球の値段こそ2000円ちょっとしますが、OPTは例によって春日の安物、PTこそトロイダルトランスでそれなりのものでしょうが、価格以上のものを得ることができたと思います。総製作費用は3万円はかかっていないです。球もおそらく21世紀に音楽を鳴らすとは考えていなかったに違いありません。

真空管アンプの増幅段について考えてみます。
おそらく、私の理解した限りではよほどマイナーな回路でないかぎり、パワーアンプであれば電圧増幅段、電力増幅段の2段構成がもっともシンプルな形になるんだと思います。2段めのバイアスが偉い深い球だと、およそその倍のドライブ電圧が必要になることから、バイアスの深い球でμが低いものだと、前段の増幅率をえらいあげないといけません。
こういった場合、前段としては内部抵抗が高くμも高い12AX7なんかを使うのが常套手段のようです。初めて製作したエレキットのTU-877は確かそうでした。でもこれだと初段の出力インピーダンスが高くなってしまいます。μはそれなりにあるけれども、比較的内部抵抗の低い6DJ8なんかだとなんとかなるのかもしれませんが。
3段構成にすることで、前段に内部抵抗の低い球を使うことができますが、回路が複雑化するのが問題です。球の在庫があっても、穴を開ける気力には限界がありますし、そもそもやったことがない。
ぺるけさんの71A miniwatterで紹介されたJFETを初段に用いた方式では、比較的低い電圧で動作し、ドレーン負荷抵抗も高μ電圧増幅管に比べると低くできます。しかも終段のμが低くって真空管でのドライブが困難そうなものでも簡単にできてしまう。半導体なので安いし。
今回のCV4079アンプは、同じくドライブが難しそうな鈍感3極管に半導体ドライブ方式を敷衍して、ちゃんと動くか確かめてみるという目的をでっちあげて製作しました。結果は上々です。いろいろな球がこれでドライブできるとなると、今後がおもしろそうです。
何より、この方式で組んだこのアンプはかなりごきげんな音がします。ずっと聴いていたくなるようなそんな音です。直結がいいのか、2SK30がいいのか、2SC4003がいいのか、CV4079がいいのか、春日の安い出力トランスがいいのかはわかりませんが、費用もさしてかからないし、お正月の工作としてはちょうどいいのではないでしょうか。


Last modified: Sun Feb 10 22:12:18 JST 2013