EL34/6CA7 all-differential amplifire
おしながき
ぺるけ氏発表の全段差動メインアンプをつくる、というページです。「情熱の真空管アンプ」をテキストに、なるべく自分で計算してつくります。ただし、本人がドシロウトのため、「ぺるけアンプ補習」というようなテーマで展開していこうと思います。語尾が「~と思う」というのはさしたる確証がないのでいろいろ考えた結果をつらつら書いているためです。
なかなか写真が出てこないし話があっちいったりこったりするけど、見限らないでね。
本文中、グラフのお絵かきはeasyにPowerpoint、四則演算に贅沢にもRを(Macでどうやって計算するか知らなかったんだよ)、回路図はQtBS3chを使っています。
電源回路から眺めます。ぺるけさんのページの電源とアースの設計のところには、センタータップ付きトランスから高速スイッチングダイオードを用いて両波整流を行い、その後Rb0 20Ω/2Wの抵抗を経てからコンデンサ・抵抗によるリプルフィルタを2段かまし、そこから終段へのB電源を供給するといった回路が提示されています。
リプルフィルタについては、ぺるけさんのページにも「情熱」にも後で詳しく説明がありますが、ここのRb0 20Ωの記載については「サージ電流からダイオードを保護するため」で、どのくらいの容量が適切かは記載がありません。
「サージ電流」であり、「情熱」の104ページには、
突入電流からダイオードを守るため、順方向電流の最大定格を動作時電流の10倍程度の余裕を持たすという記載があります。つまり動作時電流の10倍の耐圧のダイオードが要るということです。回路の電流が140mAであったら、1.4A程度の定格のダイオードが必要ということらしいです。ダイオード側の最大定格はそれでもいいのですが、抵抗はどうやって決めているのか?
E=IRで、つまり、300(V)= I(A) x 20(Ω) より、I=15(A)を得る
20(Ω) x 140(mA) = 2800(mV) = 2.8(V)
P=EIで、つまり 2.8(V) x 140(mA) = 392(mW)
Rb0は解決したところで、Rb4はなんだかわかりません。整流後・リプルフィルタ後に単純に電源の負荷としてかかっているようです。ハタからみると電気の無駄遣いにしか見えません。
「情熱」をすみからすみまで見ましたが、試作アンプにはこの抵抗はないものの、本番のアンプにはこの抵抗が入っています。
自分の考えとしては、おそらくリプルフィルタのコンデンサが電源が切れたときに放電するための抵抗だと思う、というところだったのですが、いろいろ検索したところ、ぺるけ氏のウェブページの掲示板ログに書いてありました。どうもその通りのようです。
時間を忘れてこの掲示板をよみふけります。そこには新しいものに挑戦する人たち、指導する人たちの熱い交流があります。今となってそれを追体験するのは幸せなことですが、その渦中に居られなかったことは残念です。ちょうどWTK-80とかWTK-96192を製作するあたりの熱い書き込みがそこにあります。「するめ度」が高く、宝の山です。
さて、Rb4ですが、抵抗の消費電力など考えてこの値になっているようです。ここはそのまま採用したいと思います。
手に入れた電源トランスはノグチトランスでもタンゴでもなく、ソフトンのPWT260-300というものです。型番通り、260V/300mAというかなり大きなものです。追加の18Vタップがあり、280Vの出力もとることができます。
「情熱」によると、整流後の電圧出力は以下のように近似的に求められます。
Eout(V) = トランスのタップ電圧 x (1.4 - 0.18 x (動作電流/定格電流))
今回とりあえず(原典に近く)260Vタップを用い、動作電流を仮に「情熱」のごとく143mAと設定したとすると、
260 x (1.4 - 0.18 x (143/300)) = 341(V)
ということになります。「情熱」の各種真空管データベースのEL34の動作表を見てみると、Ep 300VでIb 60mAと書いてあります。一方、本文中の6L6GC/5881全段差動アンプの解説では、「動作点を6L6とEL34の中点に設定し」、とあり、プレート電圧はたかだか275V程度です。電源トランスのポテンシャルを考えても、1球あたり60mAの電流をおごっても、初段等をあわせても250mA程度は確保できる気がします。ただしこの条件だと、やたら電気を食いそうな気がします。
まず、この電源トランスから引っ張り出せる電圧に関してはどうだろうかと考えます。フルパワーの300mAを負荷とした際、出力電圧は
260 x (1.4 - 0.18 x (300/300)) = 317.2(V)
で、無負荷であった場合、
260 x (1.4 - 0) = 364(V)
となるわけで、つまり317Vから364Vくらいをひねり出す実力がある、ということになります。ここで、だいたいリプル・フィルタで「仮に」20V程度の電圧ドロップがあるとすると、297Vから344Vくらいが実際使える電圧です。これが終段のプレート電圧とグリッドバイアス分の電圧の和になるようです。この調子で話を進めていこうと思ったのですが、「仮に」プレート電圧を300Vとすると、「仮に」プレート電流を40mA流したとき、バイアス電圧は-24Vくらいになるから、そうすると出力管4本でのプレート電流の合計が160mA、初段はここからリプルフィルタ1段を経て「仮に」290Vくらいのプレート電圧をかけることができて、定電流回路を「仮に」・・・・という感じで変数がやたら多くて電源回路の中では話が進まなそうです。やはりアンプ動作を考えて設計しないといけなさそうです。
土台(電源回路)からの設計は難航しそうでした。どのあたりの条件になるか、出力段のところから概観してみます。今回のアンプで予定しているEL34の出力条件について考えます。出力トランスはソフトンのRX-30-8というもので、この条件を加味します。
P=EI なので、積が25Wとなる点を画像上で結び最大定格のラインとする。
E=IR なので、I=E/R 傾きは負で抵抗の逆数になる。150mA/0Vと0mA/600Vの線を結ぶ。負荷抵抗4KΩならこの直線と平行な線のどれかがロードラインになるはず。これらをプロットしたのがこの図です。(出典はAudiomatica)他に三結のEp-Ip曲線はMullard等のが公表されているようですが、デジタルデータだったり加工しやすそう、という理由でこれを利用しています。
「直線性の悪い」ということは、動作起点から0Vのところと、バイアス x2のところの距離の差がありすぎそうなものを「直線性が悪い」ということかと思いました。この考え方でいうと、EL34はグラフ右下のところがやたら詰まっています。ところが、ぺるけさんのホームページのロードラインその3に曰く、
ロードライン上で無信号時を起点としてプラス・マイナス同じだけのバイアスの範囲で考える、のではなくて、ロードラインを端から端まで使い切る、と思って計算した方が現実的ということだそうです。負帰還をかけるとドライバ段の左右非対称性が増加する、というのがその理由だそうです。無帰還のアンプではなるべく対称性のある領域を使えばいいのかしらん?
LM317では、out-adj間が1.25V一定となる
E=IR より、1.25(V) = I x 18(Ω), これを解くと I = 0.694mA ≒ 0.7mA
整流出力電圧 = 250(V) x (1.4 - 0.18x (143/180)) = 314.25(V)
さて、先のロードラインでの条件をみて、電源設計をやりなおします。条件1だと、260Vタップでは電圧が不足し、260+18Vのタップを直列にし278Vとしたあとのトランスの整流出力はこんな感じのようです。
278 x (1.4 - 0.18 x (243/300)) = 348.7(V)
条件2だと、260Vタップが使え、
260 x (1.4 - 0.18 x (203/300)) = 332.3(V)
となりますが、条件3だと、
260 x (1.4 - 0.18 x (163/300)) = 338.5(V)
のようになります。
なるべく260Vタップで行くという前提(トランスが端子じゃなくて線直だしなので、なかなか接続しにくい)でしたが、これだともったいない。条件3を用いることにすると、マイナス電源用に3.7V程度用いられ、バイアスが28Vになるため、338.5-(3.7+28+300)=6.87Vとなり、これがリプルフィルタで用いる電圧降下分です。あまりのりしろが多くありません。
ぺるけさんのページでは、最近はトランジスタではなくMOS-FETを用いたリプルフィルタを使っていることが多いようです。FET式リプルフィルタについてはこちらに詳しいので、それにのっとって考えてみます。高耐圧のMOS-FETについては、秋月のFQPF3N90かなんかを使うことにします。高耐圧のトランジスタが入手難であるということ、hFEで動作が変わることあたりを考えて、「FETのが実は楽なんでね?」というのが理由です。
「続・定本」によると、FETのソースフォロア回路はとてもインピーダンスが低く、ゲートに入力された電圧とVGSの差をもった出力電圧を維持する、というような感じのようです。インピーダンスが低いということは、大電流を流せる、ということですよね。
JK1EYPさんのページによるとゲート・ソース間の電圧は2.5Vとのころですが、今回用いている3N90(
秋月電子で2本100円)のグラフを見ると、多少の温度上昇を見込んで5.5Vというように見えます。ドロップさせる電圧は6.87(V)の予定なので、ゲートにかける電圧は338.5-6.98+5.5= 337.0V。これを抵抗分圧でつくってあげればいいのですが、「FETのゲートには電流が流れない」ので、コンデンサはあまり大きくしなくてよさそうです。180μFの高耐圧Cがいっぱいあるのですが、時定数が長くなりすぎて電圧の立ち上がりが悪くなりそうです。「大容量の180μFのコンデンサを投入した」という表現を使ってみたい気もするので、これを使います。何ボルトの電位差くらいでFETが動作するかを知らないのです。
338.5(V) x (1000K / (1000K + 3.9K)) = 337.18(V)
で、抵抗分圧回路をつくります。分圧後に抵抗をかましてFETのゲートに接続し、これとコンデンサで時定数が決定するようですが、ぺるけ氏の回路では分圧後の抵抗が省かれています。コンデンサに充電するために直列につながったのが抵抗のようなので、3.9KΩと180uFでの時定数となるのではないかと思いました。この場合は、時定数が0.7秒とで、まあこんなもんでしょうか。この場合、FETでの電圧ドロップは6.87V、電流は0.163Aであるので、
6.87 x 0.163 = 1.1(W)
です。それなりに発熱すると思うので、放熱板をつけます。
何も考えずに、LM317を用いた定電流回路を使います。
1.25(V) = 0.08(A) x R(Ω)より、R=15.626Ω
18Ωに100Ωをパラにして、15.25Ωです。この程度はまあ許容範囲とすべきでしょう。あとでadj-out間の電圧を測ったら1.269Vあったのは内緒です。(NJM317を使用)
ソフトンのトランスには、出力トランスの1次側の直流抵抗は126Ωと書いてあります。自信ありげな値なので、このまま使うことにし、「情熱」の「出力トランスの1次巻き線抵抗を使う方法」の通りとし、カソード側に抵抗を入れることはしないこととしました。あとで実測したところ、出力トランスの中点からそれぞれ67Ωでした。つまり134Ωです。値が違うやないかい。
プレート電流の偏差を0.2mAくらいに押さえ込む(「情熱」では、電圧差が1mV以下、1/4.7=0.21mA)となっています。今回はプレート電圧の差をそのまま計っているので、ΔE=ΔIR= 0.2(mA) x 67(Ω) = 13.4mV以下くらいに調整することになります。
当初グリッド抵抗は「情熱」の通りに考えていました。初段の設計のところでこれを考え直すことになります。バイアス調整法に関しては、「情熱」の通りにしようと思います。
初段として用意した球は、6SC7というやつです。「情熱」によると、終段のB電源からもう1段リプルフィルタをかまして、初段のプレート電圧とする、とありました。最大プレート電圧が250Vらしいです。341.7VのB電源電圧なので、90V近くドロップしないといけなさそうです。「情熱」を見てみると、プレートにかかる最大電圧が250Vに制限されているように見えます。最大定格が250Vとデータシートにもあることですし・・
抵抗一本33KΩ/1Wでドロップすることにしました。実測するとこれでも260V弱あります。39KΩにしないといけなさそうなので、今度秋葉原に行ったときの宿題としましょう。
ロードラインを引くに当たり、プレート負荷抵抗というのを決定しなければいけません。「情熱」の57ページには、
負荷抵抗値が大きくなると増幅率は大きくなり、負荷抵抗が小さくなると増幅率は低下する、同時に負荷抵抗が大きくなると歪みはより小さくなり、負荷抵抗が小さくなると歪みは増加する
今回の回路は以下の通りです。
考えるのは難しいけど、ハンダ付けはまあまあかなと。
というわけで、オリジナルの回路からの変更点は、
つうところになります。
3分間クッキング風に、「ここにハンダ付けが終了したものが用意されています」となり、火をいれてみます。初段の定電流ダイオードの代わりに2SK30を使おうと思って、手元のIdssを全部調べたけどあんまり定電流ダイオードの変わりにならなさそうだったので、とりあえず普通の定電流Diをつかったり、といろいろあったんですが。
ヒーター回路のみでの電源入れは終了しており、配線ミスがあったのをしっかり修正したあとの出来事です。
・・・なんか煙上がってね??
今回の中身を提示します。線がのたくっててあまりきれいじゃありませんが。ソフトンのトランスは線が直接出しなので、使わない線は熱収縮チューブで末端処理をして、インシュロックで束ねてあります。配線は主に0.3スケアのものを使っています。色分けはかなり適当です。おもしろい色の線材が売っていたのでそれを使ったというのもあります。
電源周りの拡大です。向かって右がブリッジ整流からFETリプルフィルタと終段へのB電源供給用、左が初段のB電源供給とC電源の供給用です。平ラグの両面をつかって実装密度を上げていますが、あとでメンテナンスがしにくいので本来は片面で処理すべきでしょう。左のはとくに一度ぺるけ氏式の電源回路を組んでいたのを全部ハンダ付けを外して作り直したので、ハンダの処理がかなりきたないです。FETは2Wほど消費するので、そこそこ発熱します。