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Transistorはなんでもいい 'mini-watter' amplifier (version4.01)

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whole view of amplifier

画像はイメージです。ケース加工終わってません。試作なもんで。

おしながき

はじめに

ぺるけ氏発表のトランジスタ式mini-watterアンプPart4をつくった方もたくさんいらっしゃると思います。ぺるけさんの頒布に頼めばいいといえばまあいいんですが、問題となるのが部品の入手です。
2SA1931/2SC4881は秋葉原では見かけなくなりました。代わりに使えそうな2SA1869/2SC4935はたまーに見かけますが、mini-watterの出力段にそのまま使うことはできません。本家ページにも、アイドリング電流が流れすぎて他のトランジスタは好ましくない、と記載があります。
Mini-watterでトランジスタの型番の指定が比較的厳しいのは、mini-watterではバイアス回路をダイオード2本で簡略化していることがその理由に他なりません。
一方、自作派の味方である秋月電子には、まだリード部品をつくってくれているサンケン電気のTO-220やらTO-3Pやらのトランジスタの取り扱いを始めてくれています。現行品なので価格的にもとんでもないことになっている、ということはありません。LAPTなんていう、往年のサンスイアンプを彷彿とさせる部品まで現行品であるではありませんか。
本作はぺるけさんの作品のデッドコピーから0.01歩踏み出し、部品の枯渇問題に対応するのと同時に、これらの面白そうなトランジスタを使う、ということを目的とします。

回路

左がオリジナルの回路(抜粋)、右が今回改変した回路。
これでいいのかよくわからないけれども、これでいいのだ。としとこう。

回路はmini watter version4を概ねコピーすることになります。バイアスをつくっているダイオード2本のところをどのように変化させるか、ということを考えていきます。
バイアス回路には「定本 トランジスタ回路の設計」にあるようなトランジスタを用いた回路を使います。 本家の2SA1680のコレクタからダイオードを介してV-につながっている220オームには-7.32V - -0.6Vで-6.72Vかかっています。つまり流れる電流は30.5mAくらいです。このうち、だいたい1割の3mAをバイアスをつくるトランジスタのブリーダー電流として使います(と、当初決めていましたが変更しました。読み進めていただけると幸いです)。
バイアス回路のトランジスタのVBEをだいたい0.6Vとすると、ここに3mA流したとき、B-E間に入る抵抗値は0.6V / 3mAで200Ωとなります。上の抵抗も計算すると200Ωとなりますが、これだと調整の余地がまったくありません。そこで下の抵抗を220Ωとし、上の方は470Ωの半固定抵抗とします。センター位置で調整を開始すればとんでもないことにはならないでしょう。バイアス用トランジスタは熱結合します。熱結合させるためには、少なくとも同じ放熱板にくっつけなければいけません。M3のタップを放熱板に刻むことになりました。
本家掲示板では、バイアス回路用のトランジスタはhFEが十分大きくないと、という記載があります。一方、「定本」には「ここは放熱器につけられれば何でもいい」「バイアス回路の方に流す電流はベース電流を無視できるようにベース電流の10%程度にする」、という記載があります。mini watterでは2段目のコレクタ電流が比較的大きいため、ある程度バイアス側に流してもいいのではないかと思い3mAという値を当初は採用しました。
ところで、2SC3964のhFEは最低500だそうです。つうことは、コレクタ電流が30mAそこそこのとき、ベース電流は0.06mAくらいしか流れない、ということになります。ブリーダー電流を今回は3mAも確保していますが、これは実際は多くってベース電流の10倍を確保しても0.6mAくらいでもよく、そうすると220Ωと470ΩのVRとしていたところはそれぞれ1KΩと、2KΩくらいのVRで十分という計算になりそうです。いま1KΩと、1KΩVR+910Ω、という組み合わせとしていますが、アイドリング電流70mAくらいで安定しています。
3mA流したときと0.6mAで済ませたときの違い、っていうのを考察しないといけませんが、本家のPart2設計詳説の出力段の設計のところを読んでみると、最大出力時点でのふるまいが変わってきそうな気がします。これにかんしては現在検討中です。 この半固定抵抗をいじると、アイドリング電流が自由自在に設定できます。ただちょっとクリティカルに変化するので、多回転型の半固定抵抗にすればよかったと思います。
バイアス回路を調整可能にしたことで、出力段トランジスタの選択はかなり・・・というか、パワートランジスタならだいたい何でも大丈夫になると思います。定格さえオーバーしなければ大丈夫です。電源2回路も別基板にしたため、実用アンプとしても実験用ベースとしても使用できそうです。写真でケースの右上には空き地がありますが、ここにDACを仕込めないかな、ということで無理に空けてみました。結果として電源の基板とメインの基板が干渉することになってしまい、実装が困難になってしまいました。
とりあえず、いろんなトランジスタで試してみましたが、どれもそれなりの音がなります。ここでトランジスタの型番と音の傾向を・・・と行きたいところなのですが、どうしたものか難しいところです。とりあえず試したものは、A1931/C4881、A1869/C4935、A1186/C2837の3つの組み合わせです。少なくとも、Ic=1Aくらい流してもhFEがへこたれない石ならだいたい何でも音は出ると思います。石を変えたらアイドリング電流を調整してください。秋月で売っているペアなら、2SA1488A / 2SC3851A、2SA1859A / 2SC4883A、2SA1668 / 2SC4382、2SA1725 / 2SC4511あたりは問題なく動作すると思いますが、追試したわけではないのでご自身の責任で使用してください。

現在の回路は右のようになった。1K VRを調整することでアイドリング電流は自由自在。

ところでところで、いろいろ探したんですがそもそもパワートランジスタという物体自体が絶滅危惧種になっているようです。古典的な2N3055はまだ売ってますし、Pc>100Wクラスのものは現行であるようですが、mini-watterで使うようなPcが20-30Wあっちこっち、というのはなかなか見当たりません。まあ、今回のレポートは汎用性をあげていろいろなものを使えるようにするという内容なのでよしとすることにしましょう。

左チャネルはLAPT(2SA1186/2SC2837)、右チャネルはオリジナルとおなじもの(2SA1931/2SC4881)を使用し実験中。
問題は左右の音の違いがはっきりしないということ。部品に投資する気がなくなります。

音について

音のいいデバイスってなんなんだろう、ということが疑問として残ります。A1931/C4881は「大電流スイッチング用」です。一方A1186/C2837はLAPTですし当然音響用で、市販のアンプにも採用例はたくさんあります。手元には秋葉原の店頭でちょこちょこ買い集めた中出力のトランジスタがあります。
自分の耳にはどのトランジスタを終段にしてもそれなりにいい音がしているように思えます。今左はLAPT、右はスイッチング用で音楽を聴いてますがそれなりに満足できます。もちろん、LAPTが本領発揮するのはもうちょっとパワーを出したときなのかもしれませんし、もっと電圧をかけたときなのかもしれません。幸か不幸か、価格の面ではオーディオ用のTrの方が安いという逆転現象が起こりつつありそうですので、安価にLAPTが採用できるのは幸運だと思います。
トランジスタの選択に際し、耐圧やコレクタ損失を定格以内にするのはもちろんですが、その範疇ではよりhFEが大きくてlinearityの良い、またCobの小さいものを使うのがいいのでしょうか。「定本」には、hFEの安定度から考えて最大電流の3倍のコレクタ電流を流せるものが望ましい、とあります。
2SC4881のIcは5A、2SC2837のそれは10Aですが、どちらもhFEの落ち込みはIc=1Aくらいから始まっているようです。C4881のhFEは150くらいありますが、C2837のは100行くかいかないかくらいです。こういったところをみるとそこまで大げさな石をつかっているのではないようにも思えます。IbとIcのlinearityがすなわちhFEのlinearityで、これは多かれ少なかれ指数関数的な変化を示し、すなわち二次ひずみが生成される原因となります。成書を見るとIcが高い領域での非直線性に関しては記載があるのですが、小信号時の歪に関してはあまり記載がないようです。アイドリング電流をかなり流すことで小信号のことはomitできるわけなので、アイドリング領域以上最大出力以下のところの直線性を云々すればいい、のかもしれません。
「続・定本」の作例も手持ちのもの、とことわっておきながらやたらでかいMOS-FETを使ってますし。
真空管アンプでも出力管をとっかえひっかえすると確かに音は変わるのですが、結局のところ回路構成が音に寄与する要素の方が大きく、そうするとブランド球やデッドストックの高級品を探し求めるのはなんなんだろうか、と思うようになります。今回の実験でも、A1931/C4881はかなり元気な音がするんですが、A1186/C2837は上から下まできれいに鳴らしていやなところがない、A1869/C4935はその中間という感じです。いずれも優劣つけがたいと思います。今回製作の経緯がこういったものをとっかえひっかえしてみたい、という不順な動機があったというのもありますが、回路構成が与えるインパクトの方がおそらく相対的に高く、あまり終段の石のことで一喜一憂するのは賢い態度であるとは言えないと思います。よく古いTO-3パッケージのトランジスタの方が音がいいんじゃないか、という考えがあります。秋月で100円で売っている2N3055なんてデータシート上ではhFEのlinearityを云々するとは別次元の特性(別次元に悪い)ですが某所では音がいいといわれています。今度コンプリのMJ2955も入手して調べてみようと思います。
でもたとえば胡椒でもバターでも、いいやつはいいんですよね。料理を極めたところで素材の違いが際立つように、石の型番も回路を極めたところには差異が出てくる、ということなのでしょうか。本機もどの石でfixすればいいのか、さっぱりわからなくなってしまいました・・・ 定性的な話ばかり述べていてもなんの解決にしかならないので、歪率の測定を行わなければいけません。いまWavespectraと格闘中でありますが、手元のwindowsデスクトップだとどうもノイズレベルが高いのか、まるでちゃんとした値が出ていません。手元のファンクションジェネレーター(ヤフオク落札品)もちゃんとした値が出てるかきわめて謎です。アンプの性能を測っているのか、系のノイズを測っているのか、測定器のひずみを測ってるのかさっぱりわからない状況です。やれやれ。
さて本家ページでも将来的にこういったバイアス回路の変更がなされる可能性があります。ただ、出力トランジスタの熱結合といった点では、誰でもつくれるパターン図まで公開、といったあたりに問題が発生するために、ぺるけさん的な手厚い製作記事を期待するのはなかなか難しいのではないかと思いました。本ページが部品入手の困難さを解決するための一手段として活用できれば幸いに存じます。

おまけ

秋月のJFETの品揃えが回復しています。といってもフェアチャイルドなどの海外製品です(東芝のも最後はタイで生産されてたようですけど)。PF5102というのがIdSSが20mAくらいあってGmも11mSくらいあるらしいので、代わりに使えないかと思って買って来ました。あ、ちなみに足の並びがDSGなのでDGSな2SK170の代わりにポン付けはできません。

nameVGDSIdssGmCissCrss
2SK170(Toshiba)-40VGR 2.6-6.5mA, BL 6.0-12mA V 10-20mA22mS30pF6pF
2SK117(Toshiba)-50VY 1.2-3.0mA GR 2.6-6.5mA, BL 6.0-14mA4.0-15mS13pF3pF
PF5102(Fairchild)-40V4.0-20mA11mS16pF6pF

こう並べてみると、2SK170より2SK117に似てそうに見えます。ぺるけさんのページによると2SK170は14mSくらいで計算したらいいでしょう、とあるので許容範囲なのでしょうか?
さて10本購入してバイアスをみてみると、えらいばらつきがあります。ランク分けして欲しい。データーシートを見ても縮尺がおおざっぱすぎてよくわかりません。
ぺるけさんのFET分別冶具を使って、電源電圧をある程度上下させてみると、VDSが可変できることがわかりました。ただし、あまり電圧を下げるとツェナダイオードへうまく電流が供給できなくなって定電流動作が難しくなると思います。VDSを測定しながら、バイアス値を一定にして、そのときに流れるIdをプロットしてみました。つまりいつもの選別ではIdを固定し、バイアスの揃ったものを選別するわけですが、その逆をやってみたわけです(2本やってみたのですが、もう1本はIdが流れすぎて、おそらく温度によるバイアスの変化が発生してうまく測定できませんでした。今後の宿題です。)。この子ではIdSSはかなり低めで4.6mAくらいです。グラフを提示しますが、まあこんなもんか、くらいに見ていただけると幸いです。これをみるとGmはだいたい8mSくらいになるのかな、と見えます。

The VDS-Id curve of a PF5102 sample. Maybe wrong. Use at your own risk.

とりあえずそれなりにバイアスの揃ってそうなのが3本、あとぎりぎりでいけそうなのが1本あったので、ある程度のDCバランスが取れないことを覚悟しながら1台組んでみました。10本買って3本揃ってれば優秀、という考え方もありますが、IdSSでみると上のような4.6mAのから平気で20mAくらいあるのと、えらい幅広い感じで・・・
ちなみに、PF5102のデータシートをみると、Sourced from process 51と書いてあります。プロセスナンバーというらしいですが、おなじプロセスナンバーのものは一般的にはウェハー上のプロセスが同じなので、データシート上のスペックとして差異は出るが本質的には同じようなもの、ということだそうです、と海外の掲示板に書いてありました。
初段はPF5102(Fairchild)を上記の通り使いました。ドライブ段はhFEが高いトランジスタが必要とのことなので、同じくTO-92Lパッケージのもので2SA1287(Mitsubishi/Isahaya)。こいつはhFEが余裕で500くらいあります。ダーリントンではありません。出力段は2SA1931/2SC4881で試してみましたが、現在は2SA1488A/2SC3851A(Sanken)を使っています。バイアスの温度補償用には2SD1694というのにして、あえてオリジナルと違う組み合わせを使って組んでみました。

足パターンをDSGにして熱結合できるようにしたパターン図をつくってみた。
なるべくジャンパは無くしたのと、配線がくねらないようにも頑張ってみた。いつもより集積度が低いけど、製作はしやすいかな?
パーツに数値が入っていないけど、回路図をおいかければなんとかなる。
真ん中上に立っているのがバイアス用のTrなので、実際には配線を引き出して放熱板につける。

測定するまでなんとも言えませんが、これでもちゃんと動作しています。
いや自作って楽しいですね。

おまけ2;手持ちトランジスタの活用

秋月で1個100円で売っている2N3055を買ってきました。コンプリのやつは近日発売らしいです。そういえば千石にいったらぺるけさんのアンプの部品を集めているひとを発見しました。
インバーテッドダーリントン接続というのを試してみることにします。NPN側は2SC2021-2N3055のdarlington、PNP側は2SA937-2N3055のinverted darlingtonです。注意すべきは、通常のダーリントンではVBEがトランジスタ2段重ねの2倍になるのに対し、インバーテッドダーリントンの場合はVBEは通常のトランジスタと同じく0.6V近傍になるということのようです。この項目について、「定本」の記事ではトランジスタのコネクションが間違えているので注意が必要です。最初さんざん動かなくって悩んだら、本の誤植ということに気づきました・・・
そうするとバイアス回路を調整しなければいけなく、半固定抵抗を増量するのと、直列に抵抗をかませることで対応します。
これでもちゃんと出力のDCも出ないですし、ちゃんと音もなっています。
そうすると、手持ちのやつをついに鳴らすときが来たのかもしれません。やっと2SC241の出番です。
ちなみに2N3055とこれを比較すると、全損失が115Wに対し75W、耐圧は60Vに対し40V、Icが15Aに対し5A、hFEは20-70(max)に対し15-40(typ) (いずれも2N3055対2SC241)ということで、ふたまわりくらい小さいパワーTrですね。NPNエピタキシアルメサ型シリコントランジスタ、と書いてあります。今日日だったらTO-220パッケージでなんとかできちゃう大きさですな。
これも難なくクリアしてちゃんと音がなっています。長年の懸案事項だっただけに、うれしさもひとしおです。なんたって(たぶん)自分より長生きな石ですから・・・
ただ、準コンプリのアンプでこのようなダーリントン・インバーテッドダーリントンになっている形式のものはあまり見たことがありません。何か問題があるのだと思います。さらに考察を加えることにします。


Last modified: Fri Nov 13 22:58:50 JST 2015