エピソード 一 目安箱アンケート
エピソード 二 王圭大学評議員選挙
エピソード 三 監査役の役割
エピソード 四 工場経費削減の怪
(工事中)
平成七年頃のある日の午後のこと、いつものように営業部の社員は殆ど外回りに出ていて、亜土子の他には管理職が数人残っているだけであった。亜土子が部長の指示で書類のコピーとファイリングをしていると、部長や他の管理職は皆会議等で離席し、営業一課長の武智だけが残って、方々の関係先に電話を掛け始めた。
(工事中)
平成五年の秋のこと、亜土子が給湯室を掃除して席に戻ると、隣の席の佐々が浮かない顔をしていた。
エピソード 一 目安箱アンケート
エピソード 二 王圭大学評議員選挙
「毎度お世話になります。富屋食品工業の武智でございます。朝比奈部長様は今お手すきでございましょうか。はい、よろしくお願いします。・・・あ、朝比奈様、毎度お世話になります。富屋食品の武智でございます。先日はどうもありがとうございました。いえいえ、恐れ入ります。ところで、朝比奈様は王圭大学の御出身でいらっしゃいましたね。実は、御承知かとも存じますが、この度うちの富屋が王圭大学評議員に立候補することになりまして、朝比奈様にも是非御協力を戴ければと存じまして。はいはい、ありがとうございます。助かります。はい、よろしくお願いします。はい、そうですね、よろしくお願いします。はい、ありがとうございました。では、失礼致します。はい。」
武智は電話を掛けるたびに手許のリストをチェックしていた。丁度午後三時になったので、亜土子はお茶を二つ淹れ、一つを武智のデスクに置いた。その時、受話器を置いてリストにチェックを入れた武智が背伸びをした。
「あーあ。」
「武智課長は、王圭大学の御出身でしたっけ。」
「いや、僕は九州大学だけど。」
「王圭大学の人、いっぱいいるでしょうに。どうして課長がそんなことしてらっしゃるんですか。」
「王圭ボーイのお坊ちゃま方はこんな下世話なことはおやりにならないよ。」
「あらら。王圭大学の方ってどなたがいらっしゃいましたっけ。」
「えーと、社長も亡くなった会長も勿論王圭だし、社長のお坊ちゃんも王圭を卒業してアメリカに留学してから第二興銀に入ったよね。うちの会社では佐久間常務だろ。森取締役もそうだったな。」
「もっと若い方はいらっしゃらないんですか。」
「いるけど、みんな動かないよ。それで、こういう雑用は、大体僕たち国立大出身のコネのない中間管理職が駆り出されるのさ。」
「でも、会社が大変になってきたのに、社長がそんな社外の活動ばかりされて大丈夫なんですか。」
「いや、王圭大学評議員なんて名誉職で、実際は何もすることはないよ。」
「でも、課長、大変そうですよね。」
「まあ、これがサラリーマンさ。ほんとはこんな暇があったら、得意先に売り込みの一つも掛けたいんだけどね。」
翌日の夕方、定時に退社した亜土子が寄り道をして買い物を済ませ、最寄の地下鉄の駅へ向かって歩き始めると、一年先輩の淳子が駅のほうからやって来た。淳子はブランド物のバッグを提げ、高そうな服を着ていた。
「あ、こんばんは。どちらにいらっしゃるんですか。」
「これから佐久間常務主催で王圭大学出身者の集まりがあるの。ほら、あそこに一角獣館ってあるでしょ。」
「はあ、何だか敷居が高そうなお店ですね。」
「それがね、あれは王圭大学のOB会で運営されている、王圭大学出身者専用のラウンジなのよ。」
「へえ、そうなんですか。」
「四洲さん、じゃあね。」
「はい。お疲れ様です。」
亜土子は駅へ向かって歩き始めた。
「のんきなものよね。」
エピソード 三 監査役の役割
エピソード 四 工場経費削減の怪
「佐々さん、そうしたんですか?」
「うん。来週一週間、熊本工場の応援に行くことになったんだ。」
「あら、新婚さんなのに、奥さんおさみしいですね。」
「水曜の夜、一緒にコンサート行く約束してたのに、がっかりするだろうな。」
「ところで、応援って何するんですか。」
「包装ラインの人が一人辞めちゃったところに、急に製品が売れ出して、人手が足りないから手伝いに行くのさ。」
「あら、そのために佐々さんがわざわざ飛行機乗って熊本まで行くんですか。現地でアルバイトとか雇ったほうがいいでしょうに。」
「そうなんだけど、工場は経費削減が厳しくて、予算を使いたくないんだ。」
「でも、佐々さんのお給料はともかく、飛行機代とホテル代合わせただけでも、そっちのほうが高そうじゃないですか。」
「そうだよ。でも、これは本社生産部の経費になるから、工場の負担じゃないんだ。」
「へえ、そうなんですか。」
「それに、出張旅費規程では飛行機やのぞみ号での出張は管理職しか認められていないから、ひかり号と特急を乗り継いだ料金が支給されるんだ。」
「あら、それじゃあ、行くだけでも一日掛かるじゃないですか。」
「でも、割引の航空券を買ったほうが安いから、実際には飛行機で行くんだけどね。」
「変な規定ですね。旅費は領収書が要らないから、少しお小遣いできますね。」
「まあね。それに応援手当てが一日三千円付くし、ホテル代も一日七千円支給されるけど、実際には五千円くらいでビジネスホテルに泊まるしね。」
「じゃあ、奥さんにお土産いっぱい買ってってあげられますね。」
「家のローンが大変だから、浮いた分は貯金さ。」
「日曜日に出られるんですか。」
「うん。午後の飛行機を取っておいた。帰りは土曜日の昼前だ。」
「まる一週間ですね。」
「だから、旅費を精算すると十万円超えちゃうから、あとで仮払いの伝票切っておいてね。」
「はい。でも、実質五日間の応援で十万円以上ですか。佐々さんのお給料まで入れたら二十万円くらいは会社が負担するわけですよね。」
「税込みだとそういうことになるね。」
「現地でアルバイト雇ったら、いくらくらい掛かるんですか。」
「まあ、時給九百円くらいで十分だろうね。四十時間だと、えーと、三万六千円か。」
「・・・・・。」
この作品はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものとは一切関係ありません。