恋歌(20代)



題知らず

二人行き雨に濡れにし片袖が涙に濡るゝひとり寝の床

風吹けば面に波立つ多摩の川水まさりなば人をとどめむ

草枕旅路に咲ける花をめで行き過ぎがたく時をすぐしぬ

君がこととはに忘れじよしゑやし一夜限りのちぎりなりとも

とく咲かなむかはのほとりの桃の花憂きことのなき里はいづこぞ

春の山にところもわかずふる雪を我はえめでず花の咲ければ

我がつまばやがてうつろふものなればつまで見るべし春の野の花

きえかへりものをおもへはなつのよにとひちかひつゝほたるそもゆる

秋近う志賀の山里夜を寒みわが黒髪に霜やおくらむ

いぬかひもうらやましけりひとゝせにひとよなりとも人にあふとは

秋の夜に桜咲ければ過ぎがてに人もとまりてあはれとやみむ

天雲の別れに涙枯れぬれば葉をくれなゐに染むる秋雨

しのびつゝ返へす衣のあだなればつれなき人を恋ひつゝなきぬ

つれもなき人を恋ひつゝ居明かせば明け行く空にぬえどりのなく

しみしみとかなしきものはあふことのつひにかなはぬこのみなりけり

いにしへのみやびをどもは我がごとく恋や死にけむ人を思ひて




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