逃亡奇譚―十六廻目―



紅葉さん(@rion_vir_yume)の女審神者・真宵ちゃんと、彼女の初期刀兼近侍の山姥切国広が登場する小話。
真宵ちゃんの設定→審神者設定(別窓)


最近、主が変だ。
先日、深夜に入り込んだ夢魔を退治した事がきっかけの気がする。
夢に入り込んで、精神を疲弊させてから食らうというたちの悪い魔物だった。
それはさておくとして。今、主の執務室は良く分からない状況になっていた。
主は、何故か棚から持ってきた熊のぬいぐるみや、
どこから持ち出したか不明のすまし顔の日本人形、果ては華やかな西洋人形と、何故か人形の類をしかめ面で見比べている。
「あれは何の品評だ?」
「さぁ……何でしょう。」
居合わせた前田に尋ねても首をかしげる。当然か。
いかに女の機微には詳しい短刀といっても、
この突拍子もない奇行の原因に見当がつけば苦労はない。
究明を諦めるかと思ったところで、急に主が立ち上がった。
「国広。聞きたい事がある。答えろ。」
「何だ?」
嫌に真剣な顔で主が命じる。
こうしていると、小さく見えても一城の主人らしい威厳がある。
だが、何を尋ねたいというのだろうか。
「この3種のうち、可愛いと思うのはどれだ。正直に答えろ。」
「どれと言われてもな……。」
正直に言って、どれにも興味がない。
すまし顔の日本人形は、どこにでもあるようなありきたりな造作。
西洋人形は、栗毛の巻き毛がいかにもだと思うが、よしあしなど分からない。
そうなると、消去法で熊のぬいぐるみになる。
夜中に見ても精神衛生に優しいと人間が証するのだから、これが一番可愛げの絶対値が高いはずだ。
「……ぬいぐるみだな。」
「本当か?」
「何故疑う。」
いつもなら、そうかの一言で片付けるところだろうに。
何故か主は疑り深く見てくる。
「どうなさったんですか?
別に、おかしい答えではないと思いますが。」
「いや、こちらの話だ。」
意味深長に呟くと、主は人形を片付け始めた。
ぬいぐるみだけは、いつも部屋の賑やかしに飾ってある代物なので、定位置である棚に戻る。
そして、片付けが済むとそのままふらりと部屋を出て行ってしまった。
庭園に散歩にでも行くのだろうか。
いずれにせよ、今の質問の意図はつかめないままだ。
『……?』
気付けば俺は、残された前田共々、顔を見合わせて首をひねっていた。



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妙な展開の後日談。夢落ちというか夢魔落ち。