赤い石のお人形

―2話・仲間がいっぱい―




ぷにぷにの上に乗って途中までラクチンな旅でしたが、下りの坂で転んで少し汚れてしまいました。
「うー……最悪。あ、ここかな?」
パンパンと体についた汚れやごみを払いながら歩いていると、
大きな木の家の前にやってきました。
このあたりに他の家が見当たらないので、これがきっと魔女の家でしょう。
「すいませ〜ん、誰かいますかー?」
コンコンとドアをノックしたつもりですが、
体が布と皮でできているので全然音がしません。
でも、声に気づいたらしくドアが開きました。
「にゃ〜、誰か呼んだかにゃ?」
中から出てきたのは、猫耳と尻尾がついた魔道士みたいな女の子。
この子が魔女なのでしょうか。
「ここだよ〜!あなたの足の近くー!」
「にゃ!?ゼルダリア様〜、お人形がしゃべったのにゃ〜!」
猫耳の女の子は、尻尾の毛を逆立たせるほど驚いて、
奥にいた青いローブの女性を呼びました。
女性がドアのところにやってきます。
「何じゃどうした。ちょっと見せてごらん。……おやまあ。」
リイタを見た女性も、女の子ほどではありませんがちょっと驚いた様子です。
人形がいきなりやってきたのですから、これでも驚いていない方でしょう。
「こんにちは。えーっと……噂の魔女さん?」
「いかにも、わしが魔女といわれてるゼルダリアじゃ。
それで、お前さん何しに来たんじゃ?」
ゼルダリアは見た目は若い女の人のようでしたが、しゃべり方はおばあさんそのもの。
外じゃなんだからと、中に手招きされたのでトトトッとリイタは家に入りました。
「はじめまして、あたしはリイタ。
人間になりたくて、あなたならその方法を知っていると思って聞きに来たんだ。」
「ふぅむ……そうじゃのう。擬人の方術を使えば、人間の姿にはなれる。
じゃがそれだと、本当の人間にはなれんしのう……。」
ゼルダリアは、むうっとうなって考え込みました。
「どうしたら本当の人間になれるの?」
「方法はあることはあるが、3つ材料を集めねばならん。
それに『あれ』は手に入るものではないし……ん?おぬし何か頭に持っておるようじゃの。」
ゼルダリアが、かがんでリイタの頭を指差しました。
何をさしているのかはすぐにわかります。
「それって、帽子の下にある赤い石のこと?」
「うむ、それで1つじゃ。それがあれば話を進められる。
それ以外の材料は、それに比べれば手に入りやすいしの。」
それを聞いて、リイタはうれしくなりました。
人間になる第一歩が踏み出せたのですから。
「ゼルダリア様、赤い石って何なのかにゃ?」
「昔伝説の人形師・イリスが作った6体の生きている人形の、命の源みたいなものじゃ。
色々と不思議な力があってな、そのおかげでこの子は動いたりしゃべったりできるのじゃ。」
『へ〜……。』
女の子と一緒に、リイタも興味津々そうに聞いてしまいました。
自分のものとはいえ、あることさえ知ったばかりだからです。
「で、残りの材料の話じゃが……まず、2つ目はニンフの銀、それから3つ目が星の砂じゃ。」
「ふーん……じゃあ、探してくるね!」
「待つのじゃ。おぬしの体では見つけても持ってこれないじゃろう。
ノルン、一緒に行ってやれ。あと、この紙も持っていくといい。」
ゼルダリアはそういって、ノルンにアイテムの形が書いてある紙を渡しました。
これなら、どれが必要なアイテムか見てすぐにわかります。
「わかりましたにゃ〜!リイタ、よろしくなのにゃ〜。」
「うん、よろしくね!」
「まずはニンフの銀が南のヤーデ滝の近くにあるはずじゃ。気をつけていくのじゃぞ。
よいか、何か困ったことがあったり、次のアイテムを探す前には一回戻ってくるのじゃぞ。」
「わかりましたにゃ〜!ちゃんと戻ってきますにゃ!」
こうして、ノルンと一緒にアイテム探しが始まりました。
2人一緒なら、きっと見つけられそうです。


2人は南の滝を目指して歩いていました。
「ねぇノルン、ゼルダリアって昔からあの姿なの?」
「そうにゃ。ノルンがちっちゃかったときからず〜っとあのまんまにゃ。」
「へ〜……ん?」
なんだか妙な気配がして、上を見上げました。
すると。
「きゃ〜〜!!」
「に゛ゃ〜!?」
上から降ってきたのは、たくさんのちびぷに。
数え切れないくらいたくさんのちびぷに達の中に、あっという間に2人は埋もれてしまいました。
「ちょっと、これじゃ出られないじゃない!」
「ふにゃ〜……重いのにゃー……。」
身動きできずにもがいていると、少し遠くから人の声がしました。
誰かこっちにくるようです。
「助けてにゃ〜!」

「ん?何だ今の声。」
サングラスをかけた男の人は、どこかから聞こえた声に首を傾げました。
「子供の声だな。ちょっとあっちに行ってみよう。」
「あ、おいどこに行くんだよ!」
女戦士は、声が聞こえた方に歩いていきました。

ノルンが助けを求めて叫んでから少しして、2人の旅人がやってきました。
「何だこりゃ……おーい、大丈夫かお前ら?」
「見てないで早くちびぷにをどけてやれ!」
のんきに声をかけているサングラスの男の人を、女戦士がしかりました。
「へいへい、言われなくてもどけるって。」
ポイポイと2人がかりでちびぷにをどかしてもらって、
ようやくリイタとノルンは動けるようになりました。
「ふにゃ〜、助かったのにゃ。ありがとにゃ〜!」
「ありがとう!」
「おわ、人形がしゃべった!?」
びっくりして、サングラスの男の人は肩を思い切り震わせました。
腰を抜かしそうな勢いだったので、相当びっくりしたようです。
「へぇ……面白い人形だな。ところで、こんなところでどうしたんだ?
ここはモンスターが出るから危ないぞ。」
「ノルンたちは、南のヤーデ滝に行ってニンフの銀をとりにいくのにゃ。
2人はどこに行くのかにゃ?」
「俺達もそっちに行くんだよ。目当てはそれじゃなくて、そこにいる魚だけどよ。」
「食べるの?」
魚といえば食べるものです。
じゅうじゅうと火にあぶられる魚を想像してしまいました。
「いや、結構高く売れるんだ。
少し手持ちが少ないから、売ってその足しにしようと思ってな。
そこまで一緒に行かないか?」
「うん、そうするにゃ〜!」
さっきあんな目にあったことでもあるので、
リイタもノルンも仲間が増えるのは大歓迎です。
「お、おいマレッタ。」
サングラスの男の人は、驚いたような困ったような顔で女戦士を見ました。
リイタたちと一緒に行きたくないわけではなく、
急に話を進められて困っているようです。
「子供をこんなところに放っておくわけには行かないだろう。」
「子供じゃないのにゃ、ノルンって名前があるのにゃ!
あ、そうそうこっちはリイタって言うのにゃ。」
「それはすまなかった。私はマレッタ。武者修行の旅をしている。
こっちは冒険者のデルサスだ。」
女戦士もマレッタと名乗り、お互い手早く自己紹介を済ませました。
「ま、よろしくな。」
まあ仕方ないと割り切ったのでしょう、
サングラスの男の人、デルサスは肩をすくめてこういいました。
「うん、よろしくね。」
これでモンスターも全然怖くありません。
滝に行くまでですが、仲間が増えたので楽しくなりそうです。

―ヤーデ滝―
ヤーデ滝は、ヒスイのようにきれいな水が滝つぼにたまる滝です。
そこから続く川の水もとてもきれいで、泳いでいる魚が見えるくらいでした。
「うわぁ、きれいだねー。」
「ほんとなのにゃ〜♪」
2人とも滝を見るのは初めてなので、
目をキラキラさせて喜んでいました。
「さ〜て、俺は早速釣りを始めるかね。」
デルサスは適当な岩に腰をかけて、川で釣りを始めました。
「そうだ、2人はニンフの銀を探しているのだろう?
釣りはしばらく時間がかかるし……私も手伝おうか?」
「え、本当?ありがとう!」
「いや、礼には及ばない。釣れるまでの間、暇で仕方ないからな。」
暇つぶしでも何でも、探す人が増えればそれだけ見つかるのも早いでしょう。
ノルンは、ゼルダリアからもらった紙を広げました。
「これがニンフの銀にゃ。え〜っと……どこにあるのかにゃー?」
「青い金属なんだな。それらしいものは見当たらないが……。」
紙に書かれている青い金属の塊は、見渡す限りではどこにも見えません。
「でも、ゼルダリアが言ってたんだからあるはずだよね。」
もしかしたら、岩場ではなくて滝の中かも。
そう思ったリイタは、滝の裏をのぞいてみました。
この滝は、裏に隙間があるのです。すると、壁に一ヶ所妙なくぼみを見つけました。
「あれ?穴があるみたい。」
「どれどれ……本当だ。ちょっと行ってみるか。」
幸い、滝と壁の間の隙間は人が通れるくらいはあります。
マレッタが先頭になって、中に入ることにしました。
「どうなってるのかにゃ?」
滝の裏に開いていた穴は、人一人通るのがやっとの狭い穴です。
リイタは簡単に入れましたが、ノルンやマレッタは少し大変そうでした。
「ふう……中はこうなっているのか。」
「広いね〜……。」
きょろきょろとリイタが穴の中を見回します。
中が広いので、穴というよりは洞窟のようでした。
「にゃにゃ?壁が緑にゃ〜!」
ノルンが壁を見て、びっくりして大声を上げます。
薄暗いので、マレッタは持っていたランプに火をつけてから壁を見てみると、
確かに壁が緑っぽい色をしていました。
「これは……ヒスイだな。なるほど、それでヤーデ滝というのか。」
不透明な緑の石は、ヒスイの原石のようです。
これが壁を覆っているので、壁が緑に見えるのでしょう。
「ここなら、ニンフの銀があるかもね。」
道がまっすぐなので、そのまま奥に進んで行きます。
すると、目の前にキラキラと細かい光が現れて、青い服の女の子が出てきました。
「あれぇ?こんなところにお客さんですぅ。」
「にゃ、こんなところにマナかにゃ?」
ニンフは突然のお客に少し驚いていました。
どうやらこの洞窟は、ニンフの家になっているようです。
「ここはあたしたちニンフの家ですぅ。
あの穴を見つけて入ってきたって事は、あたし達に何か用ですかぁ?」
「ううん、違うの。あたし達はニンフの銀っていうアイテムを探してるの。
それがこの滝のどこかにあるみたいだから、ここも探しにきたんだけど……知ってる?」
ニンフの銀という名前がついているくらいなのですから、
ニンフが知っているかもしれません。
そう思ってリイタはたずねてみたのですが、ニンフは困ったように顔を曇らせました。
「ニンフの銀ですかぁ。確かにここで取れるんですけどぉ、
この間取れた分はさっきとられちゃったんですぅ。」
『えー?!』
なんということでしょう。
誰かに一足先にとられてしまったと聞いて、2人はショックを受けました。
「誰が持って行ったんだ?」
ショックを受けている2人に代わって、マレッタがニンフに尋ねました。
すると、ニンフはますます顔を曇らせます。
「ムルっていう銀髪の悪魔ですぅ。
悪魔の中でも特に嫌なやつで、あたし達マナをいじめるんですぅ。
さっき来たときも、渡さないとあたし達を消すって脅してきたんですよぉ。」
「ムルだと?!」
マレッタの表情が険しくなりました。
知っているのでしょうか。
「知ってるのかにゃ?」
「とりあえずここを出てから、デルサスに聞かせてもらうといい。
……そうか、あいつに持ってかれてしまったのか。」
「そうなんですぅ。ニンフの銀は3ヶ月に一回、
この滝の水の力が一番強くなるときにだけ取れる貴重品なんですぅ。
あれは水の力がいっぱいつまってて、炎から身を守るお守りになったりもするんですよぉ。
他にもいろいろ使えるのに、あの悪魔が全部もってっちゃったんですぅ。
おかげであたし達みんなカンカンですよぉ。」
「そうだったんだ……。」
「ひどいやつにゃー。でもここに無いなら仕方ないにゃ。
その悪魔はどこにいるのかにゃ?」
とられてしまっている以上、ここに居ても仕方がありませんから、
その悪魔を追いかけて手に入れなければなりません。
「あたしはちょっとわかんないですぅ。ごめんなさい〜。」
「いいのにゃ。ありがとにゃ〜。」
「それじゃ、お邪魔しましたー。」
運が悪くて残念でしたが、3人は穴の外に引き返しました。

「お、お前らどこ行ってたんだ?もう俺2匹も釣れちまったぜ。」
バケツの中で、びちびちと魚が暴れています。
「それはよかったな。私達は、ニンフの銀を探して滝の裏にある穴の中に居たんだ。」
「でも、ニンフの銀はムルって言う悪魔が全部持ってっちゃった後だったけどね……。」
リイタは、はぁっとため息をつきます。
先を越されたショックから立ち直れていないのでしょう。
「ムル?あいつがか?」
「やっぱりデルサスも知ってるのかにゃ?くわしく教えて欲しいのにゃ!」
ノルンは期待に満ちた目でデルサスを見ましたが、
デルサスはう〜んと首をひねります。
「んなこといわれたってなあ……ムルって奴は強い悪魔で、
しょっちゅう人間の村を使い魔どもに襲わせたり、
マナをいじめる奴ってことしか俺もしらねえよ。」
「居る場所とか知らないの?」
ちょっと期待はずれな気もしましたが、とりあえずリイタも聞いてみます。
ですが、デルサスは首を横に振りました。
「さーなぁ……よく東の方に出るらしいけどな。
ねぐらがどこかまでは、確かめられた奴が居ないからよ。
……って、お前らまさかそいつのところに行く気か?」
デルサスは思わず引きつってしまいました。
彼はムルがどんな怖い悪魔かうわさで知っているので、
あまりの無謀さに血の気が引いてしまっています。
「もちろんよ。だって、次の分が取れるまで待てないし。
あたしはできるだけ早くそれが欲しいの。」
「……!それは危険すぎる、やめたほうがいい。」
マレッタもデルサスと同じようにムルの怖さは知っています。
子供のノルンも危ないのに、まして人形なんて。そんな顔をしてました。
「でも、それが無いとあたしは人間になれないの!
だからどうしても必要なのよ!」
「ふーん……人形が人間にねえ。」
リイタの訴えを聞いて、デルサスは少し考えるようなポーズをとりました。
「馬鹿にしてるのかにゃ?」
ノルンは、ジーッとデルサスを見上げます。
ですがそれを見たデルサスは、何故かふっと笑いました。
「いーんや。面白そうじゃねえか。その話、乗ったぜ。」
「そうだな、そういう事情なら私もほうっておけないし。」
マレッタも、デルサスに同意しているようです。
「って、ことは……。」
「仲間になってくれるのかにゃ?」
「まぁ、そういうことだ。改めてよろしくな。」
リイタの小さな腕を、デルサスが指でそっとつかみました。
握手の代わりです。
「こちらこそ、よろしくね!」
「っと、悪魔探しに行く前に、ちょっと近くの町に寄ってもいいか?」
「どうして?」
何か用事でもあるのでしょうか。
リイタはわからずに首を傾げました。
「魚売ってから行きたいんだよ。」
「あ、そういえばそうだったにゃ……。」
そうです。魚は早く売りに行かないと腐ってしまうので、
リイタ達は近くの町でデルサスが魚を売ってから、一回またゼルダリアの家に戻ることにしました。

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大筋を書くのが早かった一品。勢いってすごいね!
他に気がそれたので仕上げは遅れましたが(爆
ノルンにマレッタとデルサスが加入して、一気ににぎやかパーティに変身です。
今現在(2004/9/17)これも含めて最低でも3〜4本ほど小説を抱えているのに、増える増える書きかけ。