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さあ、いよいよのクライマックス。ルフィと同じラフテルの人間が関与しているらしき、謎の組織"バロックワークス"。その組織が時空断層を探すため、そして妨害者であるルフィを倒すためにと繰り出して来ていた"超奇獣"は、だが、誰かの手により特殊能力を持つ身に体をいじられた、普通の…こちらの世界の人間たちであったらしく。そんな"超奇獣"の一人を、だが、証拠を消すべく元の体に戻し、記憶も消して解放した相手陣営であり。これでまたもや辿る糸口がなくなったかに思えたルフィたちであったが、そんな彼を助けてくれた謎の人…実はルフィが大好きなゾロさんが、誰かと対峙している場面に遭遇。もしやもしやと、ルフィたちも窓を蹴破る勢いにて、その場へ躍り込んだのだが…。
ゾロの姿を見て文字通り"飛んで来た"ルフィであり、その…今は目許に巻いていた仮面代わりのバンダナも外して、素顔を晒している青年へ視線をやって、
「…やっぱり。ゾロさんだったんですね、あの"腹巻きが緑の人"は。」
「おいおい…。」
どうしても"紫のバラの人"の韻を踏みたい筆者らしいです。(笑) …そうじゃなくって。さっきから"貴様〜〜〜っ"とばかりの声を掛けて来ていた"Prof.何とか"というオジさんをも すっぱり無視して、
「どうして話してくれなかったんですよ。普段の俺へも…気がついてたんでしょう? 正体まるごと。」
ルフィは切ない想いを込めた声音で言いつのった。
「ラフテルの…俺と同じ時空警察の係官だっただなんて。何でそんな大事なこと、言ってくれなかったんですか?」
チョッパーがここに来た一番最初。遭難しました助けに来てという救援信号がまるで送られて来ないままに音信普通だったルフィへ、こんな遭難者は"本局始まって以来の事態だ"と、そんな言い方をした彼だったけれど。実は何人か、渡航局の人間にも遭難者・失踪者はいるのだそうで。時空跳躍術のエキスパートにして管理運営のお膝下である"渡航局"の面子が事故っただなんて、現在鋭意開発中の勢いを削がないためにも公開出来なくて。今のところきっちりと、救援出来ていることだしと…狡い話ではあるけれど、世間様には内緒になっていたのだそうで。そして、このゾロさんもそんな内の一人だと、ルフィはほんのついさっき知ったばかり。………ということは。ちょっと変わったものを着ているというだけで、そんなにも奇抜な変装でなし。ラフテルの時空渡航局内の取締り担当係官であったというなら尚更に、ゾロもまた"コマンドスーツ"は知っていた筈。そんな彼ならば、驚きや戸惑いも薄かったろうから…ヘルメットの奥の顔やら、声や体格、仕草や癖などから、とうに全てを理解してもいた筈だと、ルフィは責めるように言いつのる。いや、責めたい訳ではない。ただ、どうしてこんな複雑なことをしたのか、その理由がどうしても知りたい。
「…あのォ、もしもし?」
真剣な表情のルフィへと向かい合い、蒼く濡れた刃も目映い、日本刀型ヴォイドソードを構えていた青年は、
「…ああ。分かってたさ。」
ぽつりと呟きながら刀を降ろすと、切っ先をくるりと回して鞘へと収める。力ない語調なのは、隠していた自分の素性をとうとう知られてしまったことへか、それとも…ルフィ本人もそっちへこそ憤慨している"隠し立てをしていた"という事実が明らかになったせいだろうか。
「だが、こちらから声を掛けるのは憚(はばか)られた。いきなり、それもラフテルからの客人が現れたんだ。しかも、限られた相手にだけとはいえ、この世界にそうまで堂々と素性を明らかにして顔を晒しているだなんて…信じられなくてな。」
「あやや…。/////」
赤くなったルフィに同調してか、チョッパーまでもが頬を赤くしたほどなのは、
"そだよな〜。本来は素性を隠しとくもんだよな〜。"
相手をしていた超奇獣ととっつかっつに、怪しまれて注目を浴びたろう、異様なコスチュームや活劇の数々。えらいことをしてる子がいるなと、最初は純粋に、度肝を抜かれるほど驚いたゾロだったそうで。(笑)
「それに俺は、与えられた任務をまだ全うしてはいなかったからな。」
「…え?」
「内容は言えない。そのくらい重い任務だって事さえ、ホントは口外してはならない特命なんだ。」
「…おーい、もしも〜し。」
この、今いる次元へと彼がやって来たのは任務のためであり、しかもその任務、まだ"遂行中"なのだと彼は言う。ルフィという"ラフテル"へのつながりが現れても、それよりも優先されるほどの任務であるらしく、
「ルフィがどういう素性の子なのかも、サンジから直に紹介されたりしたもんだから、すぐにも全部読み取れたんだが。」
後ろ頭に大きな手をやり、
「こっちも極秘任務の方かたが一向についていなかったし。それだったから素性は明かせなかったし。となると、時空艇やエターナルポースを貸すことも出来なくてな。」
本当に悪いことをしたと、神妙な顔になる。…けど、あれ?
「エターナルポース?」
それって。次元階層間をくぐっての跳躍に使う指針であり、しかも、ラフテルとやらに帰るには、向こうからの誘導がないと元のポイントへは戻れないとか言ってませんでしたっけ? ということは。
「ああ。」
ルフィが、そしてチョッパーが気づいたことを予測して、ゾロは頷いて見せて、
「エターナルポースを使えば。ラフテルへの連絡だけなら取ろうと思えば取れた。せめてお前が此処で困ってることだけでも伝えられたら良かったんだが…それをすると、俺が追ってたターゲットに感づかれる恐れがあった。8年もの間、ずっとずっと逃げ果せてる相手だから、何ごとも慎重に運びたくてな。」
そんなこんなの罪滅ぼしにという訳でもなかろうが、せめて出来得る限りの助力をしてやろうと、ああまでも気を回し、手を回し、フォローに努めてくれていたということか。
「本当にひどいことをしていた。すまない。」
サンジに初めて引き会わされた時、それはそれはおどおどと怯えた様子が表情からも見て取れて。こんな小さい子がどんなに心細かったことだろうかと、それを思うと…任務が何ほどのもんだと思わないでもなかったが。8年前に、こちらでターゲットを見失った旨を伝えた時、本部からは徹底的に探して連れ戻せと念を押された。凶悪な犯罪がらみの対象ではなかったが、そのターゲット、政府関係の要人には違いないとかで。妙に不器用でうまく立ち回れない節のある…まるきり融通の利かない思考のまま、とある人物の痕跡を追い続ける方を優先していた彼であり、
「帰りたかったろうにな。」
異邦の地に独りぼっちだなんて、こんなに幼い少年にはどれほどの苦痛であったことか。取り返しのつかない酷いことを、しかも判っていながら1年も知らぬ素振りを続けた罪は、決して軽くはない筈。自分の方こそ辛そうに表情を歪めるゾロだったが、
「…そんな、自分を責めないで下さい。」
ルフィの放った声音はたいそう穏やかなそれだった。
「色々と一気に判って、さっきまでちょっと混乱してましたけど。」
顔を上げると、いつもよりも落ち着いた表情でいる少年であり、
「お仕事なら仕方がありません。俺だってこれでも"時空渡航局"の関係者で、しかも時空警察の係官ですからね。」
………まだ"候補生"だけどもねと、これはチョッパーからの突っ込み。おいおい
「それに、俺なんかよりもずっと長いこと、ここで一人で頑張って来たゾロさんて、やっぱり凄いです。」
「ルフィ…。」
あなたの事情は判りました。辛い任務は我慢出来ても、思いやりの心との板挟みにあって、あなたの方こそ辛かったでしょうに。それでも出来得る限りの手助けをと、いつも気に掛けててくれたんですものね。全てが明らかになった今、どうしてあなたを責めることが出来ましょうか………と、これらを切々と訴えかける対話が挟まるから、音響さん、BGMにメロウな曲、スタンバイOK?…ってなタイミングだったのに。
「いい加減にしやがれよっっ! 貴様らはよっ!!」
おおう、ビックリ。そういや、さっきから何かぼそぼそと割り込もうとしてらっしゃいましたわね。すーっかり忘れておりました。(笑)
「白々しいんだよ、あんたもな。こんなド派手に臭い展開、いつまでたらたら続けるつもりだったんだ? ええ?」
…よくも言ったわねぇ〜っ!? 赤鼻のださださ野郎のくせにぃ〜〜〜っっ!
「なんだとーーー!!」
怒り心頭、くわっと大口を開いたピエロのようなお顔のおじさん。この大講義室にてゾロが相対していた"敵"であるらしく、
「…あの。ゾロさんが8年掛けて追ってたって、この人なんですか?」
「いやいや、こいつはルフィの追ってた奴なんだって。」
こらこら、そこ。舞台の主役はそもそもあんたたちだろうが。そんなひそひそ話をやっとる間に筆者を止めんか。(笑)
「そうだぜ、うかうかしてると俺様はいくらでも手を打っちまうぜ?」
そんな言いようへ、ルフィがハッとする。
「あ、もしかして…どこかに"次元穴"を開けるのでは…っ?!」
そうそう。この赤鼻のおじさん
「誰が"赤鼻"だぁっ?」
あんただ、あんた。このおじさん、もしかしなくとも"バロックワークス"の首領であると思われる。ルフィが倒された後、超奇獣化されていた青年の後を追ったゾロであり、
「あのサングラスの男の頭の上へ手をかざしたら、ふっと意識を失って倒れてな。念のために寄ってみたが、例の"BW"の模様は消えていた。」
そこでこちらさんをと追って、ここに辿り着いた彼だったらしい。
「…ワニ野郎じゃなかったのか。」
「いくらMorlin.でも、あれは使いにくいんだろうさ。」
悪かったわね。相変わらずのお気楽MCはともかく。
「俺様は"マジックハンド"の持ち主なんだぜィ?」
Prof.バギーとやらは、白い手袋をはめた手をパタパタと振って見せ、
「人間を怪人に仕立て上げるなんざ、ちょちょいで出来ちまう。次元穴だって、ほれ、この通り。」
宙でくるりと、その指先が輪を描いた空間が、ふうっと色彩を失ってぼんやりした黒っぽい陰になる。
「…あっ。」
今度こそまんまと逃げられてなるもかと、腰を落として身構えたルフィだったが、そんな彼へ、
「大丈夫。」
ゾロがにやりと笑って余裕の声をかけた。
「こいつが"次元穴"をコントロール出来るようになったのは最近の話。プロフェッサーなんて言ってるが、出鱈目な自己流のやり方で開けられるようになった程度でな。」
「何だと、派手に偉そうだな、お前っ。」
この青二才めが…っと、酷薄そうな目を吊り上げるバギーに向けて、
「何ならご自慢の次元穴でどこかへ逃げてみろよ。」
ゾロはわざわざ挑発するような言いようまでして見せる。えっ?えっ?と成り行きにドギマギしているルフィとチョッパーに構わず、
「おお、よくも言った。ならば望む通り、ここから逐電してやろうじゃないか。」
がはは…と高笑いを見せたバギーが先程よりも大きく、腕ごと回して輪を描く。そこに浮かんだのはさっきより何倍も大きな、バギーが楽々入れそうな"次元穴"だったが………。
「………あれ?」
何とか頑張って足を上げ、その縁へと乗り上がろうとするのだが。陰や幻には触れないのと同じように、何の足掛かりもないままに空振ってばかりいる。
「な、なんでだっ!」
すかっすかっと、何度も空振りし続けながら、焦ったような声になる道化服のおじさんへ、
「これまでは、向こう側の誰かや何かを掴んでそこを通して来ただけなんだろ、お前。」
ゾロさん、偉そうに胸を張っております。
「次元穴だの次元断層だのってのはな、固定しないと"そのもの"には触れられないんだよ。まして、その穴はお前という起点から始まる存在。その起点が移動しては存在出来ない代物だから、お前が"移動"することには使えないんだよ。」
「おおお、ゾロ、かっちょい〜いvv」
「へっ、俺だってこのくらいの決め台詞くらいはな。」
「でもでも、ゾロ。」
「何だ? チョッパー。」
「意味は? 分かって言ってるのか?」
「いや、全然。」
………だろうねと。筆者同様にチョッパーも、その一言でやっと、何となく納得に至っている辺り。
「んがぁ〜〜〜っっ!」
おおうっ。そうそう忘れとった。こんな脳みそまで筋肉男…もとえ(笑)、どう見たって体を使う方が本職ですという風情の青年から、あっさりと…科学的真理による"次元穴の盲点"を突きつけられてしまい、Prof.バギーなどと名乗ったおじさん、大きく吠えて海賊風のお帽子の羽根飾りを両手で掻き毟むしる。
「大体だなっ、オレ様は自分のパーツを探してるだけなんだよ。この何年もの間、ずっとずっと探し続けて。やっとこの次元、この世界にあるとやっと分かって時空跳躍して来たってのに、それをまあまあ、この一年、ずっと邪魔してくれおってからに。」
憎々しげに言いながら、ビシッと指差したのは当然…ルフィへ。まあそうだろうね。今までの話の流れから言っても、ゾロさんだけなら彼には関わることはなく…洟も引っ掛けなかった筈だし。
「鼻を引っ掻くだとぅっ!」
言ってない、言ってない。(苦笑)
「追っ手だったこいつを封じた筈なのに、どうも妙だと思ったら、お前みたいな坊主が邪魔だてしてくれてたとはな。」
そんな言いようをして彼がキャプテンコートのポケットから掴み出したのは、カボチャくらいの大きさだろうか、大振りの水晶玉であり、
「あっ!」
よくよく見ると、その水晶珠に封じ込められた人物が。真っ先にルフィが大きく眸を見張り、その人の名を呼ばわった。
「父さんっ!」
おおう。やっとの登場でございます。ルフィの父上にして、時空渡航における一等航海士のシャンクスさん。どこかにいる姿をそこへと映しているのではなく、その中へと封入してしまっているらしい様子であり、
「何てことしたんだよっ! 父さんを返せっ!」
「やなこったい。」
べ〜っと真っ赤な舌を出し、
「お前に分かるか? こんなガキに1年もの間、良いように振り回された大人の気持ちがよ。」
無届けの違法行為には違いないが、そんなに大それたことを企んでの違法渡航ではなかったのに。追っ手だった正規の係官も、逆襲に転じて逆に捕まえて封じることに成功したのに。ああそれなのに それなのに。こらこら こんな子供の存在のお陰でこうまで追い詰められたというのがよほど堪こたえたのだろう。どこか切羽詰まったような形相になって、Prof.バギーさん、苦々しげに言いつのる。その一方で、
「…パーツ?」
さっき彼が吐き出すように言った台詞の中のとあるフレーズへ、ゾロがどこか考え深げな顔になった。眉をぎゅぎゅうと顰めたお顔になって、胸元に腕を組むような格好で片方の肘を支え、顎にやわく拳にした手を添えて…幾刻か。
「………もしかしてお前、ラフテルでもお尋ね者だろう。」
どこかで見たことがある、記憶にあるという訊き方をするゾロへ、むんと大きく胸を張り、
「俺は"ジグソウ・ヒューマン"の一族のもんだ。体が自在にバラバラになるんでな、その制御原理を生かして"次元穴"の研究をしてんだよ。」
あくまでの"プロフェッサー"という肩書にこだわりたいらしかったが、そんな彼をビシッと指差し、
「あーっ!! 思い出したっっ! そんな体を悪用して強盗団を結成してた、赤鼻のバギーだっ!」
ルフィがこれまた大きな声で言い放ったものだから。
「何だこのガキ! 誰が"浅はかなバギー"だってっ!」
言ってない、言ってない。(苦笑)
「そっか。父さん、こいつを追ってたのか。」
おいおい。今頃気づいたのか? 筆者同様の想いを抱いたらしく、講義室内にずらりと並んだ机の陰から"じ〜〜〜っ"と責めるような眼差しで見やってくるチョッパーへ、
「いや、だからさ。」
ルフィもさすがに要らない誤解は解きたいらしくって。
「チョッパーだって知ってるだろう? もともとは試験跳躍だったんだよ。だのに、その最中に父さんがいきなり、自分の追ってた犯人が居たっとか何とか言い出してさ。」
そうか、それがそもそもの遭難劇の発端だったのか。じゃあやっぱり、
「お前が諸悪の根源なんじゃねぇかよ。」
何でこんな不幸な巡り合わせに…とかいう言いようをしていた彼だったが、何のことはない、自分が蒔いたタネじゃないかと、ゾロさんたら容赦がない。………と、そこへ、
「その"パーツ"ってこれのことかしら。」
いきなりの乱入者の声があったものだから。
「あわわっ!」
見とがめられては不味いとばかり、チョッパーが机の陰に飛び込んで…だからお帽子や頭の方だけ隠しても。(笑) 何とも愛らしい"頭隠して尻隠さず"へ、新たに現れた人は"くすり"と大人っぽく微笑んでから、
「あなた、なかなか見つけてくれないんですもの。私にも追っ手がかかってしまったから、時空艇を押さえられてしまって、ラフテルに戻るに戻れなくなるし。」
明らかにバギーおじさんへと、やんわり詰なじるような言い方をする女性が一人、白くて細い指先に、ルフィがベルトにつけているような粒子分解格納カプセルを摘まんだ、なかなか絵的に優雅なポーズにて登場なさった。
「ロビン、カッコいいなぁ。」
「そだな。俺たちの登場シーンとは段違いだぞ。」
いやそんな、特別とか贔屓とかはしてはいませんが。(汗) 焦る筆者を後ろから"ど〜ん"と押しのけて、
「あんた、こんなトコにっ!」
その女性へと大声をかけた人物がいる。痛いじゃないのよ…じゃなくってだな。これまではどこか冷静だったその彼が、額に青筋を立てかねない表情で彼女を睨みつけているということは。
"さては、この人を連れ戻せっていう特命を受けてたんだな。"
無難なことを思ったのがチョッパーで、
「…あれ? 占いの椿館のロビンさんだ。」
そんな………おいおいな一言を口走ったのがルフィである。
「はい?」
とうとう見つけたぞ、この野郎がと、ここぞとばかりに勢いづいていたというのに。その勢いを一気に萎えさせるような、あまりに突拍子のないお言いよう。そう、こっちは8年も探して探して探し続けていたというのに、それって…探さなくとも良く良く知ってる人だという台詞ではなかろうか? 緊迫感を蹴倒してくれたのが、選りにも選ってルフィだとあって、ゾロへの不意打ちの深さもいかなるものかと。唖然としている彼へ、
「ゾロさん、知らなかったんですか? 商店街の端っこの椿ビルの5階に並んでる占いコーナー。そこの奥の花占いを担当している人で、よく当たるってずっと前から有名だって、サンジさんも言ってましたよ?」
わざわざ、そんな駄目押しをしてくれた坊やであり、
「………。」
7、8年もこの町にいて気がつかなかったんかい、あんた。(笑
「おい、あんた。」
――― は、はい?(笑いかかったのを気づかれたんかしら。)
「なんか、無理から一気に終わらせようとしてないか?」
――― あ、そのことね。
だって、やっぱりナミさんは怖いですし、
ここいらで鳧をつけんとなーとは思ってましたし。
ごそごそと幕の外でのMCが始まったのを視野の端っこに見やりつつ、余裕の苦笑を艶やかな口許に滲ませて、ミス・ロビンはおもむろに口を開いた。
「私はアルビダ姉さんを振った彼を懲らしめるため、このパーツをこっそり隠しに此処へ来たの。ところが来てみて気づいたんだけれど、あの頃の時空跳躍術って物凄く危険で、誘導がないと到底戻れない代物だったのよね。」
気を取り直したかそれとも律義な性格からか、台本に戻ってロビンさんからの台詞へどこか憮然と応じたのはゾロだった。
「そんなだから"届け出のない跳躍"が禁じられとったんだろうが。」
「あら。そういう説明はなかったわ。ただ"禁止"って言ってただけよ? 渡航局にしてみれば、跳躍術にまだまだ不備があるって事、公開したくなかったのね。」
その辺りはチョッパーも言っていたこと。安全を保障する立場であり、公正&クリアでなければいけない政府筋の側に、隠し立てがあったのは事実であって。相変わらず相手の痛いところを容赦なく貫く人である。
「ううう…。」
ゾロが言い返せないで唸っているところ、
「この人が、政府の要人で、ゾロが特命を受けて探してた人?」
状況がよく分かっていないのか、ルフィがそのゾロへと声をかける。何にも分かっていないからこそのもの、ひょこんと小首を傾げた様子が何とも純真であどけなく。それで多少は気も紛れたか、ゾロも憤りから強ばらせていた肩から力を抜くと、
「ああ。ニコ・ロビン女史。ラフテルで時空力学を研究している権威だ。」
「凄げぇ〜。」
素直な坊や。大きな瞳を見開いて見やってくるのへ、
「でも、学問や知識だけじゃダメね。実際にピンチに立っちゃうと、どんなに理解出来てることでも思いがけない方向へ展開するのをなかなか止められない。」
ミス・ロビンは小粋な仕草で細い肩を軽く竦めて見せた。
「このお鼻のバギーさんはね、私の姉に言い寄る振りをして私の研究を盗もうとしていたの。そんな非道をしたものだから、研究途中だった"ハナハナのフルール"で彼の体のパーツをね、一部だけくすねて、この世界へ逃げたって訳。」
「そんな下らないことのために、俺は初の任務に8年間も…。」
かかっちゃったんだね。(笑) 大変なこと、笑っちゃっちゃあいかんと判ってはいるのだが、こんな貧乏くじ、ちょっと例がないかも知れないと思うと…。
「とにかく。」
「ああ、そだね…。」
「そうね。私も異存はないわ。」
「??? ゾロさんもチョッパーも何の話だ?」
一人だけ状況に乗り遅れている人がいるが、それはまあ置いといて。こらこら
「道化のバギーっっ!
時空渡航法違反、並びに次元断層法違反、
それから異世界での騒乱罪、公務員への拉致監禁と公務執行妨害。
まずはそれらの現行犯で逮捕するっっ!」
「ううっ、しまったっっ!」
◆◇◆
「それからどうなんの?」
途中からは読み聞かせてもらっていた長い長い原稿の束が乗っかった、キッチンのテーブル。その向こう側にて、トントンと自分で自分の肩を叩いていりウソップへ、ルフィが訊いた。
「そりゃあ決まってんだろが。捕まえた犯人をラフテルまで連行するため、そして長い任務を終えた誰かさんも報告の必要があるだろうから、全員、一旦は帰ることになるんだよ。」
「お別れのシーンだな。悲しくなんかないぞう。」
「…チョッパー、こんな説明だけで泣いてどうする。」
――― ゾロさんと一緒にラフテルに戻れるんですね。
――― ああ、向こうでもよろしくな。(背景にはお花畑を。)
「難関があるとするなら、シャンクスさんが二人の交際を許すかどうかだな。」
こらこら。(笑)
「それよか、あたしは"一旦"っていうのが気になるわね。」
さすがは鋭いナミさんへ、
「ああ。誰かさんは8年、もう一人も1年間も居た世界だし、事情に通じてしまった人もいるしで、ラフテルの政府筋が…恐らくはロビンが口添えしてだろうけどさ、連絡所みたいな派遣基地を設けることになる。」
「おお、それじゃあ、サンジやイガラムさんに前みたいに会えるのか。」
「………ルフィ。あんた、役柄の余韻からまだ抜けてないんじゃない?」
「だってサ、チクワのおっちゃんにはまた逢いたいしさ。」
「そうだな。懐かしいよな。」
「今回はビビは出て来なかったが、皆、元気でいるんだろうか。」
――― 一同、ついついしんみりしかかるも、
「心配するだけ無駄よ、無駄。あんな壮絶な爆発の中から生きて帰って来た人よ?」
「でも、あれはロビンが何か手を貸したんじゃあ…。」
「ふふ…。どうかしら。」
謎めいた微笑みを見せる彼女だが、ホント、あの件はどういうことだったんでしょうか。
「ロビンといえば、聞きたいことがあるんだけど。」
「あら、なぁに? 船長さん。」
「バギーの体の一部を奪って隠したって言ってたけどサ。一体どこを奪ったんだ?」
「……………」×@ (しーん/笑)
「さあ。私も知らないわ。Morlin.さんに訊いてみたら?」
「そか。なあ、Morlin. ロビンは何を取ったんだ?」
さ、さささ、さあねぇ。
"さては考えてなかったな、こいつ。"×@
〜なしくずしに Fine〜 03.4.12.〜5.26.
*あああ、やっと終わりました。
なんだか妙なお話に長々とお付き合い下さいまして
どうもありがとうございました。
ラストは何だか駆け込み状態というお見苦しさで、
もうもう辻褄合わせだけに奔走した今回でしたが、
これで何とかご納得いただけたのでは?
これのどこが"船長、お誕生日おめでとう"なお話なのか、
相変わらず疑問も多々ありまするが、
少しでも楽しんでいただけたのなら嬉しいです。
それではまた、別なお話にてお逢いいたしましょうvv
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