Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

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 何だかお話が一気に加速して参りました。お昼ご飯にと注文されたサンドイッチを出前に行った大学の構内にて、ルフィは例の怪しい組織、バロックワークスの超奇獣の乱行に出食わす。爆発物を自在に生み出せる爆弾男に吹き飛ばされた、コマンダー・モンキー=D=仮面を助けてくれた、いつものお助けマン(名前はまだない/笑)は、だが、チョッパーが言うには自分たちと同じラフテルの時空警察の関係者ではないかということで。そこで照会を始めるが、そうして弾き出された結果は………。


「これって、ゾロさんじゃないか。」
 数年前にラフテルからこちらの次元世界へと出発し、そのまま消息を絶っている係官。そんな一人として、検索資料から浮かび上がって来た青年。とんでもない事実に驚いたルフィであったものの、
「…あ、でも。そんな筈はないよ。」
 すぐさま、かぶりを振って否定する。
「何でだ?」
 どうしてルフィがそんなことを言い切れるのかと、チョッパーが訊き返すと、
「だって、ゾロさんはサンジさんとは高校の同窓生なんだ。」
 自分のように昨日や今日いきなり現れた人ではない、此処で何年も生活して来た人なんだし…と、それを持って来て"異邦人ではない"と言いたいらしいルフィであったが、
「それって何年前の話だ?」
 そこにあったのは随分と若い、今に比べるとどこか少年っぽい顔立ちの彼であり、
「…あの二人が高校生の頃ってことは、7、8年ほど前だろう? ルフィくらいの年頃に最初の任務を帯びて出発したってことになってるからさ…。」
 年代的には問題はないぞと、チョッパーはたじろぎもせぬままに言い諭す。
「でもサ…。」
 ルフィはますます浮かないお顔になった。感覚的ながら…そんなの変だと、事実としてすんなり呑み込めないでいる。あの謎の"お助けマンさん"が実は大好きなゾロさんだったというのも驚きだったし、それにそれに。ラフテルから来てこの地に取り残された人間であるという身の上だっただなんて。ルフィの側でも日頃は隠していたことだが、それでも"コマンダー"としての自分との接触のおりに、実は自分も…と正体を明かしてくれて良かったことではなかろうか。怪人と対峙する時のルフィの側のいで立ちは、時空警察の対犯罪者用スーツとヘルメット。こちらの世界の皆様には、戦隊ヒーローおたくのコスプレみたいなそれだが、ラフテルの人間にしてみれば"特別な変装"ではなかったのだから、関係者であるなら尚のこと、すぐにも素性が分かった筈だろうに。
"…なんでだろ。"
 日頃も、戦闘にも、頼もしいまでのその手をいつもいつも貸してくれていたということは、係官であるルフィに知られては疚
やましい何か、後ろ暗い何かがあった彼だとも思えないのだが…。
"帰りたいって思わなかったのかな。"
 ルフィと同じような"遭難者"だとしても。しかも昔の"遭難"であるがゆえ、非常救難信号とか何とかいう救援を呼ぶ術がなかったのだとしても。ならば尚更に、途轍もない奇遇で出会えた、同じラフテルの人間であるルフィにそういった事情を打ち明けてくれて良かった筈ではなかろうか。
"………うう"。"
 不審なことだらけで、しかもそれらは全て"ルフィへずっとずっと何も言わないでいた彼"という水臭いポイントで考察の行き場を失ってしまうものばかり。
"そんなのって…。"
 いかにも男らしくて、優しくて頼もしくって。大好きだったあのゾロさんが、自分に隠し事をしていたという事実が堪えたらしいルフィだったが、
「色々と思うことはあるだろうけど。」
 チョッパーははっきりと言い放つ。
「どうしても納得が行かないって言うんなら、本人に確かめにいこうよ。」
「…え?」
「その人、ルフィを助けてから、怪人を追うって言ってあっちへ駆けてった。まだそんなに時間は経ってないから、追いつけるぞ?」
 チョッパーが指差した方向に、彼と、そして"答え"はある。






            ◇



 チョッパーの鼻で匂いを追ったその先は、大学院の学舎の裏手。
「…あれ?」
 ルフィは"おやや?"と辺りを見回した。
「どした?」
「うん、此処ってさ…。」
 そういえば。こんな奥まったところまで入ったのは初めてだったから気がつかなかったが。どこぞのマンションや団地のそれにもよく似た、波状のスレート屋根がついた小さな自転車置き場と、それから…何の記念のものか小さな石碑を根元に据えた、ちょっと名前の分からない樹が真ん中にある小じんまりとしたその裏庭は、コンクリートブロックの土台の上、くすんだ白塗りのスチールのパイプを鉛筆みたいに立てて並べたような柵で囲まれていて、
「ほら。水路を挟んで、向こうが"アラバスタ保育園"なんだ。」
 現在の水嵩は数センチもないような、大雨の時にだけ用を足すのだろう、セメント打ちの2メートルほどの幅の水路の向こうに、見慣れた緑色の金網フェンスが見える。児童公園のような広場を取り囲むそれは、確かに…ルフィが出入りしているあの保育園の裏側であるらしく、
「こんなにも近所だったとは気がつかなかったなぁ。」
 大学の構内は広いし、ここへはあまり人も出入りしないのか、保育園の側から見た時も何の建物なのか深く考えなかったルフィであったらしい。…でも、それって。
"…暢気な話だよな。"
 そですよね。次元断層というか時空の歪みというかがある場所として、保育園の近辺が怪しいんじゃなかったんかい。なのに、目の前の建物や敷地が何なのか、1年も経つのに確かめていなかったとは…。
"まあ、今更なことだけどもね。"
 元々そういうお暢気な彼だということを重々知っているし、今になって言ったって始まらないこと。チョッパーは頭を切り替えると、こちら側のフェンスの足元、ドウダンツツジの茂みの傍らに誰かが倒れているのに気づいて、
「ルフィ。」
 あれ、と、指差してから、こそこそと石碑の陰に隠れた。気絶しているだけという感じで、となると自分を見て驚くかもしれないから姿を隠した彼であり。だが、そうと指示されてそちらへ向かったルフィは………。

  「………え?」

 そこにぐったりと倒れている人物を見てギョッとした。
「この人…。」
 さっき自分と対決していた"超奇獣"の青年ではなかろうか。臙脂色の長いコートも、真っ黒なサングラスも同じなままだ。チョッパーの言の通りであるなら、こいつを追って、ゾロ…らしきあの仮面のお助けマンさんはこっちに来た筈なのだが。
"俺に代わって倒してくれたということなのかな?"
 でもじゃあ、その本人はどこに行ったのだろうか。こんな風に放っぽっといて、自分が駆けつけないままに意識を取り戻していたら危険ではなかろうか? そうこう思ううち、
「む…。」
 小さく唸ってから、ふっと意識を取り戻した彼だったから、
"…っ!"
 ルフィとしては反射的に警戒しかかったものの、その青年は…しばしキョトンとした様子を見せてから、
「あん? 何だ? 此処は。」
 辺りを見回しながらゆっくりと上体を起こし、傍らに居合わせたルフィへ、
「坊主、火事でもあったんか?」
 周囲が焦げ臭いことに気づいてだろう、そんな声を掛けつつ立ち上がる。そして自分のいで立ちを見下ろし、
「な、何だ? この格好はっ。この暑いのにっ。」
 はは…、ごもっともでございます。
(笑) 長いコートを脱いでしまうと、下には春向きのトレーナーにGパンの…いかにも大学生という恰好であり、
"此処の生徒さんだったのかも?"
 そういえばと、ルフィが思い出したのが、

  『俺もとっとと元の体に戻してもらいてぇしな。』

 そんな一言を言った彼だったこと。聞いた時にも"え?"と引っ掛かったフレーズであったし、覚束ない様子で周囲を見回すところから察しても、どうも…何も覚えていない彼であるらしく、
"…これは。"
 彼は単なる通りすがりの学生なのか? それを無理から…あんなとんでもないことが出来る身体に改造していた? ………それって、一体誰が?
「あの…。」
「あん?」
 何がどうなっているのやらと、彼自身も混乱しかかっているのだろうが、これだけは聞いておかなくちゃと。ルフィは…先程と打って変わって取っ付きやすい雰囲気になっている彼に、1つだけ訊いてみた。

  「覚えている最後、誰か怪しい人に声を掛けられたりしませんでしたか?」







            ◇



 サングラスの青年は至って好意的で、何とか思い出そうと頑張ってみてくれて、
『………ああ、そういえば。』
 朧げながらも、とあることを思い出してくれた。
『新しく出来たサークルの顧問だっていう先生が、割のいいバイトを紹介してやるって言って来たんだ。パーティー企画社の募集で、子供向けのパーティー用の演出をしたり、ビデオを作ってる事務所らしくてな。そこで作ってる、特撮ヒーローものの怪人役とかやってみないかって。』
 そうそう、その担当者に会いに行った筈なのに、そこから先を覚えてない…と言う彼であり、そんなタイミングに、
『そこに誰かいるのか?』
 遅ればせながら、消防隊の救急班がやって来たらしい声を掛けられたため、
『…っ!』
 たたた…っと駆け寄って来たチョッパーを小脇に抱え、反重力装置を使って、一気に学舎の屋上まで跳ね上がって、その身を隠した彼らであったのだが。
「………聞いてたか?」
「うん。」
 取り残された青年は、怪我はないらしかったので自分で歩いて、消防の人たちと共に裏庭を後にして立ち去った。それを見下ろしながら、ルフィとチョッパーは揃って、

  「う〜〜〜ん」×2

 と、唸ってしまった。
「この大学に、その"バロックワークス"とやらが居たっていうか、あったってことかな?」
 チョッパーがそうと訊くが、
「でもさ、さっきの人、新しいサークルって言ってたろ?」
 ずっと此処にあり続けた代物ではないのでは? ルフィの疑問に、
「う…ん。きっと、名前をころころと変えてたのかも知れない。」
 チョッパーは応じて、
「ゾロさん、だっけ? あの人がルフィを何かと助けてくれてたのなら。ここの学生さんだったんだからさ、そっちの調べも進めてくれてたのかも知れない。ルフィが気づかなかった、この大学の方への働きかけをさ。」
 そう。保育園の方にばかり注意を注いでいたルフィだったが、こんなに近所だということはもしかして、こっちの敷地内でも奴らはこそこそと暗躍していたのかも。
「ところが、それを向こうに察知されて、それで名前をコロコロと変えるっていう小細工をして潜伏してたのかもな。」
「そんなことが出来るもんなのか?」
「その組織は…ルフィが現れたのとほぼ同時くらいに、行動を起こし始めたってサンジさんが言ってたから、シャンクスが追ってた連中な訳だろ? ってことは、この世界に来てまだ1年目なんだろから、そんなに怪しまれてないうちなら、小手先の誤魔化しで十分に身を躱せるんだろう。」
 都心ではなく、どちらかといえば静かなこんな土地では、大学というのは人が紛れるにはちょうどいい場所なのかも知れない。色々な人が出入りするところで、しかも学生たちは各人それぞれのスケジュールに沿って学舎や教室を出入りするため、きっちりとは管理されていない。時間割を照会したところで、例えば今日はサボっているかもしれない、若しくは履修していない教室に紛れ込んでいるのかもしれない。そこまできっちりとした管理は不可能だ。
「そっか…。」
 どっちにしたって、これで直接の糸口は消えてしまったことになるのかも。
「肝心な時に意識を失っちゃうなんてな…。」
 また迂闊さから手掛かりを失っただなんて、自分の馬鹿馬鹿…と、しょげかかったルフィだったが、うつむいた彼のその視野に、

  「………あれ?」

 今、飛び上がった学舎の隣り。研究棟ではなく講義室の集中している棟らしき建物の3階部分だろうか。そこは講堂のようになっているのか、随分と横に長い部屋であるのが窓から見ただけでも分かり、しかも…。

  「ゾロさんだ。」
  「え?」

 譫言
うわごとみたいな単調な語調で呟いたルフィの様子に、確かめようと聞き返しかけたチョッパーだったが、
「行くぞ、チョッパーっ!」
「わわわっ!」
 抱えられたままに、ザッと宙を飛んだルフィだったから堪(たま)らない。
「ル、ルフィっ! 頼むから…っ。」
 反重力装置を装備しているルフィはともかく、取り落とされたらエライことになるチョッパーとしては、せめて切っ掛けに声の一つも掛けて欲しかったらしい。そうだよねぇ。筆者も高所恐怖症だから、これは怖いと思うぞ。
(笑)

  "あんたが書いてるお話だろうがっ!"

 ………すびばせん。そんなこんなも、全ては一瞬の中のでんぐり返し。

  ――― がっしゃーんっ!

 そこを目標にと宙を飛んだルフィの身が、向かい側の学舎の狙いをつけた…お隣りの窓へ飛び込む。
「あやや…チョッパー、大丈夫か?」
「お、おう…。」
 懐ろへと抱えていたから、幸いにして砕けたガラスは当たってはいないが、さぞや怖かったことだろう。きゅううっとしがみついてた手がこわばってしまっていて、ルフィのコマンドスーツからなかなか外せず、
「あやや、どうしよう。」
「まあ待て、外してやるから。」
 派手に飛び込んだくせして、そのまま のほほんと小さなトナカイさんを剥がす作業に入ってしまったルフィには、

  「………。」×@

 この大講義室に先に居合わせていた面々が…破壊音にこそドキッとしてか凍りついたものの、その後の展開へ…後頭部に たらりと涙型の汗ジトマークを貼りつけもって見守る始末。
「…おいこら、坊主。」
「ちょっと待って下さいね。あ、チョッパー、も少し手ぇ緩めてよ。蹄の間に生地が挟まってるって。」
 掛けられた声へこんな応対が出来る辺りは、もしかすると途轍もない大物なのかもなと、思った人が居たとか居ないとか。いやいや、そうじゃなくって。
「ふざけてんじゃねぇよっ! 何なんだ、お前らはよっ。こっちの野郎のお友達か? ああ?」
 居丈高な男の声に、4つの蹄の全部を何とか外し終えたルフィが顔を上げ、
「お待たせしました。」
 ひょこんと頭を下げて見せる。あまりに勢いがあったせいか、
「あ、いや、どうもご丁寧に。」
 釣られて頭を下げた対手へ、さっきまでそいつと向かい合っていた方のもう一人が…、

  "…おいおい。"

 ますますと困惑の汗をかいている。そんな彼にはまるきりお構いなしに、
「終わりましたから続きをどうぞ。…あ、チョッパーは廊下に出ててよ、危ないし。」
「やだっ。俺も此処に居るぞっ。」
「ダメだって。コマンドスーツ着てないし。」
 まだ続けるのか、いきなり乱入した劇中劇ぽい そのやりとり…と、お待たせしていたもう一人が、構えていた刀にまで汗をかきそうになったところへ、

  「……いい加減にしやがれ、この派手アホどもっ!」

 ようやく現状を把握して、はっと我に返ったらしい。先程こそ、ついついルフィに頭を下げた彼だったが、
「お前、よく見たらあの"何とかモンキィ仮面"たらいうお邪魔野郎じゃないのか?」
 じと〜〜〜っとルフィを見やり、
「ヘルメットは壊れたらしいが…こんなお子様だったとは。この Prof.バギーにもそこまでは見抜けなかったぜ。」

  あはははは…、エライ人をかつぎ出してしまいました。どうかご容赦を。
(笑)




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 *あああ、まだ終わらないです。
  書いても書いても終わらない。
  もうちょっと、もうちょっとだけお付き合い下さいませ〜〜〜!