Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

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  「ちょっと待ってよね。

 おやおや。もしかして、あなたはナミさんではありませんか?

  「こんなところで"続く"なんて持ってって、
   よもや7月のあたしの誕生日にまで引き伸ばすつもりじゃないでしょうね。


 おおう、鋭い。

  「…やっぱり。
   今回は出番さえないのに、そんな無体をされちゃあ堪んないわ。
   この企画内できっちり鳧をつけてちょうだいよねっ。
(怒)

 ははは、はいっ。
 何とか頑張ってみますので、どうかお怒りをお静め下さいまし…。







          



  「…フィっ!」

 誰かの声がした。そして、
"…あ。"
 今の今まで意識を失っていたと気がついた。辺りは相変わらず、どこか煙ったい匂いがする"現場"であるらしく、背中や頭がゴツゴツと痛いのは地面へ寝かされているからだろう。眼前になった方向いっぱいに広がる浅い色の空に、幾条かの煙の柱が上がって見えるところから察しても、さほどの時間は経っていないようだ。
「チョッパー?」
 小さな蹄がゆさゆさと胸元を揺すってる。自分の名前を呼ぶ声が、舌っ足らずなその声が、何だか今にも泣き出しそうだったから、相手の名前を呼び返したルフィだったが、
「ルフィっ、気がついたのか?」
 今度は嬉しくてか、ますます泣き出しそうな声になるチョッパーだったりする。
おいおい
「あ、俺………。」
 すぐ間近で炸裂した爆発があって、物凄い爆風に吹き飛ばされた筈。でも…、

  "誰かに…受け止められたんだよな。"

 およそ爆発というもの。その威力からの強烈な衝撃に叩かれたり、圧迫に耐え兼ねて吹き飛ばされたり、若しくは爆風に乗って弾丸並みの速さで飛ばされた何かに当たったりして負傷する。戦闘コントなどに出てくる旧式のパイナップル型手榴弾があんなごつごつした形をしているのは、亀の甲羅のように頑丈にするためでなく、中の火薬が炸裂した時に外殻が砕けて弾け飛んで殺傷能力が高くなるようにと、板チョコやカレールウと同じ"割れやすいように"という理由から溝が入っているのである。話が逸れたが、ほぼ触れるほどという至近での爆発にあい、間違いなく宙へと吹き飛ばされた筈だのに、どこにも…動けないほどというような大きなダメージはなく、
「あれって…。」
 咄嗟の反射で顔や体を庇うように構えはしたが、それも追いつかなくて後ろざまに飛ばされた筈のこの身を、誰かの腕が受け止めてくれた。そのまま力を逃がすようにと後方へ飛びすさり、そっと平らなところへ横たえてくれた気配があった…ような気がする。
「大丈夫か?」
 グスグスとお鼻を鳴らしながら安否を問うトナカイさんへ、
「うん。もう平気だ。それより…。」
 上体を起こしつつ、何がどうしたのかと聞きたそうな顔になるルフィへ、
「…あのな。」
 チョッパーはすぐ傍らにちょこんとお膝をそろえて座ったまま、どこか感慨深げなお顔で、自分が駆けつけてからの"ルフィが倒れていた間のこと"を説明し始めたのだった。






            ◇



 逃げ惑う人々の波を掻き分けて、やっと辿り着いた中庭は、
「あやや…。」
 硝煙の匂いが遠く近くに立ち込めていて、瓦礫があちこちで山になって転がっている、どこかの国の砲撃激しい戦場のような惨状と化していた。こんな…日本国内の何でもない町の静かな文教地区の大学の構内で、爆発物が炸裂しまくるような惨劇が起こるだなんて、一体誰が想像しようか。法人母体が何かして恨まれているとか、思想犯が現役で気炎を上げているとかいう訳でもない、至って暢気なノンポリ学校だのに。(いやまあ、そういう方向でのお話には、これ以上は触れませんけれど。/怖)
「…るふぃ?」
 これから梢が萌え始める木々や新芽も幼い芝草までも、容赦なく吹き飛ばし倒した後だと言わんばかりの惨状の中には、人どころか何か他の生き物の気配さえ感じられなくて。まさかまさか、そんなの嫌だよと、辺りを見回しながらほてほてと歩いていたチョッパーの小さなお耳が"ひくくっ"と動いて。
「…っ。」
 ルフィではない誰かの気配。正体が見とがめられたって構わないという覚悟で探しに来はしたが、それでも余計な騒ぎは起こさない方がいい。それで慌てて、どこか隠れられるところはないかと、わたわたし出したチョッパーへ、

  「別に怪しんだりはしない。お前、ドラムトナカイなんだろう?」

 そんな声が掛けられて………ハッとする。

  "………え?"

 チョッパーの一族の学問的な種目。ヒトが"ホモサピエンス"であるような、その学名を正確に言い当てたということは………?
「………あ。」
 声がした方を振り返ると、背の高い誰かがこちらを見下ろしている。その腕には、
「ルフィっ!」
 力なく目を伏せていて、意識もないのか体の萎えた様子の、コマンドスーツ姿のあの少年を抱えているではないか。
「ルフィっ、どうしたんだっ?! まさか…っ!」
 あわあわと再び慌て出したトナカイさんへ、
「大丈夫、意識がないだけで大したダメージは受けていない。」
 彼を余裕でその腕へと抱えていた"誰か"は、そうと言ってから、まだ少しは平らな辺り、そぉっと横たえるように少年を降ろしてやる。
「ヘルメットが負荷限界を超えたらしくてな。それで爆風をまともにかぶったせいで、気を失ってしまったのだろう。」
 相手はその屈強な体格や低くて響きのいい声音から若い男性らしいと思われるのだが、お顔の上半分、鼻梁の中ほどから上を全部覆うようにして、薄いが色の濃い布を巻きつけているため、どんな顔立ちなのかが分かりにくい。だが、
「この辺りにはもう、あいつは…敵はいないから大丈夫だ。この子は任せたぞ。」
 そう言ってすっくと立ち上がったその手には、白い鞘の長い刀が一振り、慣れた様子で下げ緒のところが握られている。
"…この人。"
 こんな惨状のただ中に。警察や消防関係の人たちだって、現状把握が先だからと、まだ…正門辺りで右往左往しているばかりだというのに、こんなに落ち着いた様子で現場のど真ん中にいられる彼に、
"………。"
 チョッパーは声もなく、ただただ視線を向けるしか出来なくて。
「俺はあいつを追う。」
 それではという小さな会釈だけを残して、ひらりと飛んで見せた身のこなし。あっと言う間に数階建ての学舎の屋上まで易々と到達し、その向こうへ消えた凄まじい跳躍力は、到底、この世界の人間の持つそれではなかったし、

  "………あの刀は。"



            ◇



 思い当たるものが一杯で、しばし、我を忘れて彼の去った方ばかりを見やってしまっていたチョッパーだったが、我に返るとルフィへと呼びかけ始めた。それで、彼が意識を取り戻したという訳なのだが、
「その人って、刀を持ってて動きやすそうな格好をした、でも、お顔は隠してる男の人だったんだろ?」
 腹巻きは…どうしましょうね。
(笑) 彼のポリシーアイテムなのなら外せませんが、何だか"スカイピア篇"ではずっと忘れたままだそうですしね。ややこしいから、まあいっか。

  「おいおい。」

   だってさ。
(笑)

 意識を取り戻したばかりのルフィから矢継ぎ早にそうと聞かれて、
「う、うん。そんな人だったけど?」
 知り合い?と問うようなお顔を向けると、
「奴らと戦うことになる時に、いつも俺んこと、助けてくれる人なんだ。」
 どこの誰なのかまではまだ知らない。でも、それは鮮やかに刀を振るって、敵からの攻撃を躱したりルフィを庇ったりしてくれる。そうと話すと、
「その刀、なんだけどもさ。」
 チョッパーはルフィの傍らに置かれた…これもその謎の人がきっちり拾い上げておいてくれたらしき"ヴォイドソード"を手に取って、

  「あれって旧型の"ヴォイドソード"なんだ。」
  「………え?」

 ぽそっとした声で呟いたチョッパーだったが、その声は不思議とよく聞こえて。
「"ヴォイドソード"って…。」
 ルフィが戦闘に使っている、ラフテルの時空警察が開発した捕縛用アイテム。短剣型から鞭のようにも形を自在に変形させることが出来、スタンガンのような電磁波にて相手の動きや攻撃を止めさせるというタイプの代物であるが、この中に"処刑相応"というDNA登録をされている犯罪者には"DNA消去"という恐ろしい刑を発動しもする恐ろしい武器だ。だが、
「あんな長さの日本刀みたいな形にはならないぞ、これ。」
「だから。旧型なんだってば。」
 いや、それよりも。
「"ヴォイドソード"ってことはさ…。」
 自分のソードを手の中に見つめ、
「あの人も…ラフテルから来た係官だってことか?」
「うん。そういうことになる。」
 チョッパーは頷きながら自分がかぶっている山高帽子の中に手を突っ込む。そこからするりと取り出したのはカード状の"エターナルポース"だ。
「でも…さ、だったらどうして、俺に素性を明かしてくれないんだ?」
 このコマンドスーツ姿やヴォイドソードを見て、ラフテルから来たお仲間だとすぐにも分かった筈ではなかろうか。しかも、この1年もの間のずっと、何かとルフィを助けてくれたくらいなのに?
「???」
 何が何やらと、訳が判らないらしいルフィをよそに、チョッパーはエターナルポースの上の表示を幾つか、ポチポチっと蹄の先にて押してみていて、
「旧型だったってことがポイントなんだよ。昔ここに漂着した係官か、若しくはその人から譲られた人なのかもしれない。」
「………え?」
 意外な発言にルフィがますますその眸を大きく見開いた。
「ウ"ォイドソードは使う人もまた登録制だ。ルフィが使ってるのはシャンクスのだけど、念のためってことで出発前にルフィのことを登録してったんだろ?」
「うん。」
 そりゃそうでしょうな。何だか物騒な機能もあるアイテムなのに、誰にでも使えては危なくてしょうがない。
「ここの人間が何かで偶然手に入れたのだとしても、あの旧型の場合は、鞘から抜くことさえ出来ないくらいに使えない筈。」
「あ…。」
 ということは、正式な持ち主だということであり、
「係官で行方不明のままになってる人は…シャンクスを除いて5人。」
 カード全面が画面にもなるエターナルポースには、5行の名前がつらつらつらと並んでいて、
「え? 行方不明になってるって…。」
 その段階からして、ルフィには初耳なこと。
「そんなに居るのか? 不法渡航者や民間艇の事故者以外に?」
 民間にだって、いやさ、一応は係官候補生だったルフィにだって知らされてはいなかったこと。意外そうな顔をして問いただすルフィへ、
「うん。ごめんな、黙ってて。」
 チョッパーはカードから顔を上げて、ちょこっとしょげたような顔をした。
「時空警察の係官といえば時空渡航の言わばプロだ。それが遭難してたり事故ってた、だなんて、あまりいい話じゃないからって、正式な担当官か情報局の所属でない限りは知らされないことなんだって。」
 サンジへ説明したように、技術が目まぐるしいほど色々と進んでいる過渡期の今でも、完全にこなせるとは言いがたい難しいこと。だからといって、尻込みしていては不法な輩たちが危険なままにやりたい放題を繰り広げるばかり。それを阻止するためにも、この技術は公的な形にて、もっともっと前進させねばならず、
「事故が起こっても、その大半はちゃんと救助出来てる。ルフィが知らなかったあの救援信号とかさ、いっぱい対策は講じられてるからね。」
「…うう、クドいぞ、それ。/////
 恥ずかしいことを思い出させてからにと、口許を尖らせるルフィだったが、
「えと。5人のうち、獣人タイプの人は除外して、女の人でもなかったからこれも除外して。」
 チョッパーは絞り込みにと入っている。本人から資質とか人柄とかを認められて譲られたケースも…可能性としてはないではなかろうが、あの、身のこなしのずば抜けていた様子は、反重力装置も操っているものと思われる。
"そうまであれこれ、はいどうぞって譲れるもんじゃないぞ。"
 カードの画面に現れたのは、二人ほどの青年の顔写真。その一方を見て、

  「…っ、これって!」

 ルフィが愕然としたのも無理はない。いかにも証明写真という真正面を向いた厳つい表情のその男性こそは、

  「ゾ、ゾロさんだ。」



   おおう。





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 *さあさあ、いよいよのクライマックスへ。
  長い道のりでしたが、何とか終着点も見えてまいりました。
  あとちょっと、どうかお付き合いくださいませです。