Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   
BMP7314.gif 虹色の約束は守られたか? E BMP7314.gif 〜ナミさんBD記念企画
 



          
終章



「その"虹の泉"の噴水っていうのは、この街の創立記念にと建てられたものだそうで、結構歴史のある古いものらしいのだけれど。」
 ロビンはお膝にチョッパーを乗せたまま、夕食前に語りかけていた話の続きを、すっかりと暮れた港町の夜景を背景にしてゆっくりと紡ぎ始めた。本屋さんで出会い、それじゃあとロビンが間に立っての消耗品や薬品類のお買い物の後。やはり単なる"観光客"として、綺麗な緑の公園の中、見晴らしのいい、爽やかな潮風の吹き寄せる展望台へと運んだところ、そこにあった評判の噴水のお話を耳にしたらしくて。
「噴水に水を引いている水路がね。どうやら半年ほど前の台風で壊れるかどうかしたらしいの。」
「…え?」
「3カ月前から…というのへの原因はこれといって何も起こってはいないのだけれど、どうもその台風が影響した損傷らしくてね。」
 日にちを"3カ月前"ではなく"半年前"と限っている根拠が今ひとつよく分からないその上、いやにあっけない理由だわねと、ナミやウソップの目が点になった。噴水に運ばれる水の水圧が減ったから、虹が立たなくなったというのなら、確かに"神憑りな理由"なんかじゃない、物理的な事が原因であり、
「じゃあ、修理すれば済むことじゃないの。」
 単純なことでしょうにねと、論理派のナミが機械屋のウソップへ相槌を求めて頷き合ったものの、
「街の人はそこまで気づいてないらしいんだ。」
 チョッパーがぶんぶんと腕を振り回しながら付け足した。
「なんで?」
 何だか…言ってる話がよく噛み砕けないなぁとばかり、小首を傾げるナミさんへ、
「古い噴水だって言ったでしょ? しかも、設置されてからずっとずっと、そんなアクシデントに見舞われたことが一度もなかったんですってよ。だから、今や仕組みを覚えてる人さえいないらしくてね。」

  「………だから"故障"だってことに気づく人もいないって?」

「ホント、平和な島よねぇ♪」
 そこは笑うところじゃないと思います、ロビンさん。
う〜ん
「訝
おかしいわねぇって声が出てない訳じゃあないらしい。さっきも言ったけど、そういえば台風の後から様子が変よね、それから急に、そうそう3カ月前からまるきり出なくなってしまって…なんて、地元の人たちは話していたわ。そういう声を受け付けた役所も原因は分からないって言ってるらしいって話だけれど…そんな筈はないわよねぇ♪」
 たかが噴水の謎を何でまたそうまでムキになって調べたのやら、それと…いやにニコニコと笑っているロビンだが、お膝に抱っこされたチョッパーは少々表情が硬いのも妙。

  『ロビンはサ、何か…秘仏とか秘密の遺跡とかが関係してることだからって、
   それで有力者から口封じされて隠してるんじゃないかって睨んでたらしくてサ。』

 作戦執行に移ってから、こそりと、チョッパーが他の皆にばらした真相がこれであり、
『そっか。そうじゃなかったから…。』
『期待していたものを裏切られて。』
『…やけくそになったか、腹いせってやつか。』
 怒らせてはいけない人を、選りにも選って怒らせてはいけない方向で怒らせたんですね。
(くすすvv) それでいやに積極的になってるお姉様だってのはともかくとして…お話を戻しましょう。
「それで。船医さんのお鼻で地面の下の水脈を辿ってみたら、途中で水路が避けてる分岐点が見つかってね。」
 地中での不都合だから、きっちり掘り返して調べないことには気づく者もいまいという破損。その破損箇所から新たに出来た細い水路の方を辿ってゆくと、
「何だか最近建てましたって感じの、大きさだけは大したものながら、立て付けは粗末な小屋があってね。」
「ポンプが稼働していて、中で沢山の人が働かされててな。泉へと注ぐ筈の水を取り込んで、泥を漉してはビンに詰めてたんだ。」
 古い岩盤の土地だと湧き水は硬水が主で、地下水にはかなりのミネラルが含まれているため、それだけでも体への効用がある。そこへ輪をかけてもっと滋養のあるのが温泉で、熔岩に近間で触れての作用から、様々に特殊な成分を含んでおり。ローマ風呂が伝染病を広めたという失敗以降、沐浴の習慣が途絶えた西欧では"飲泉"という形で…温泉水に浸かるのではなく飲んで吸収するのが主となったそうだが、
「その噴水のお水って、殊更に滋養が高くて体に良いんですって。」
 そんなお宝が、皆さんの衆目による監視を受けてはいない水源として漏れ出していたことに気づいた者がいて、それでもって商売を立ちあげようと企んだ。勿論、そんなことをこそこそと手がけてる連中が堅気な人間である筈はなく。

  「そこを監視していた連中の会話にね、
   タラスさんとかいう名前が、頻繁に出て来たのよね。」
  「…っ。」

 ある意味での"連立方程式"。あまりに胡散臭い双方の話に共通して出て来る怪しい人物の名前。

  「それって…。」
  「怪しい、わよねぇ。」

 そっか〜、ロビンが笑顔ん時は怒ってる場合もあんのか。何だよお前、今まで気がついてなかったのかよ。凄いぞサンジ、知ってたのかっ。まあな、レディのご機嫌を感じ取ることくらいは朝飯前の前菜もどきさね。…何じゃそら。男衆がごちゃごちゃと言い合っているのを完全に無視して、頭脳班の女性陣、何やらぼそぼそと細やかな検討を始めた。


  ――― そして…。
       月光目映い夜陰に紛れて、
       謎の精製工房 大襲撃という極秘作戦に打って出た彼らなのであった。







            ◇



 自分たちは明日にも出港する身で今夜しか機会はない。単にそれだけの事情から急遽の"特攻"となったのだが、それで大正解だったと…相手である海賊の頭目やあの太鼓持ち弁護士がとんでもない方向へ運ぼうとしていたというタイミングに、彼らの行動の方が先んじたがために最悪の事態を免れることが出来た…というのは、あいにくと旅立ってしまった陰の主役たちには届かなかった後日談。

  「あれか。」
  「おお。」

 昼の内にロビンとチョッパーが突き止めた謎の工房。窓もなく中の様子は覗けないものの、粗末な板壁作りの節々隙間から明かりが仄かに洩れ出ていたりするため、夜中であるのに稼働中だというのは伺い知れて。こそこそと接近した奇襲&救出部隊の面々は、とりあえず手筈を再確認。
「ルフィとゾロ、サンジくんは一気に突入。恐らく此処のどこかにリオスくんというのも拘束されている筈よ。」
「何で分かるんだ?」
「この小屋自体が突貫で作られたものだし、ロビンも言ってたでしょ? さして高額ではないながら、海賊としての懸賞金が懸かってる連中が混じってたって。海賊の方が本業だった連中だから、陸での本拠をそうそうあちこちに構えてはいないに決まってる。」
「…もしかして、また"勘"じゃねぇのか? それ。」
 根拠のない自信で決めつける時に重宝する語句ではあるが、あまり多用すると信用を無くすのでご用心。
(苦笑) 白い右手を力強くも"ぐう"に握ったナミさんの女の勘はそれなりにおくとして。おいおい 今日の昼間にあんな…刺客に直接カララ夫人を襲わせるなんてな手を使った相手ではあれど、だからこそ奥様の側だってゴートさんが警戒を強めていることだろうから。そっちは自衛に任せて自分たちはこっちだとしての人員配分を施してある。あんな物騒なことをしでかした"実行犯"に近しい人物であろう、あの太鼓持ち弁護士には、チョッパーが匂いでもって街の中から捜し当てた後、一応の見張りとしてロビンとウソップを張り付けて。残りは全員がこちらへ集結。人目につかない寂れた林の中ほどに突っ立っている工房は、人目につかないことを重視しているがため、周囲に身を隠せる薮や木立ちも多くてこそりと近づくのには不自由しなかったものの、
「よ〜し、殴り込みゃ良いんだな。」
「まあ、待て待て。」
「なんだよ、サンジ。」
「中にいるのは、無理から作業させられてる"トーラス号"の船乗りさんたちと見張りだぞ。」
「うん。」
「どうやって見分けるつもりだ? お前。」
「う〜っと、働いてる人は殴っちゃダメなんだな。」
「…なんか不安だわね、それ。」
 ナミさんの勘といい勝負かも知れんもんね。
(笑)

  「だ〜っもう面倒だっ。行くぞっ!」
  「あっ!」
  「こらっ、ルフィっ!」

 止める間もあらばこそ。さすがはゴムゴムの瞬発力というやつか、数歩分の間合いをぴょ〜んっと大股に跨ぐよにして詰めるとそのまま、板張りの壁へ肩口からぶつかるようにして一気にぶち破っての突入を敢行したルフィであり、

  「うおっ!」
  「な、なんだっ?」

 見張りはあくまでも脱走や作業管理へ向けての"監視"としてのものだったらしく、外から…それもドアや扉ではないところをぶち破って飛び込んでくる者があろうとは、思ってもみなかったらしくって。数人ほどいた海賊くずれが、この不意打ちには飛び上がって驚いて見せたものの、
「てめぇっ!」
「何者だっ!」
 すぐさま立ち直り、威嚇的な怒号を放つところは、さすがに一般人ではないというところか。手に手に一応は提げていた大剣や棍棒をそれぞれに握り直す連中へ、

  「お前らとは知り合いじゃねぇからな。名前言ったって判んねぇだろうによ。」

 ごもっともでございます。…じゃなくってだな。
(笑) 実に素直な、加えて言えば彼にしてはなかなかウィットのあることを、けろりと言い返したルフィへ、
「うっせぇっ!」
「畳んじまえっ!」
 何を答えようと同じ対応だったらしき連中が一斉に飛び掛かって来たのだが、

  「おっと。」
  「せっかちだねぇ、兄さんたち。」

 丸ぁるい麦ワラ帽子めがけて降りそそぎかかった刃の雨あられを、手元で根本近くを交差された二振りの和刀の峰が、その長い差し渡しにてがっちりと受け止めており。しかもしかも、

  「ぐがっ!」
  「げぇえっ!」
  「がぁっ!」

 それぞれの武器の持ち主たちが…爆風に遭ったかのような勢いで一気に後方へと弾け飛びながら、揃って目を剥き、口からは舌を突き出しての悶絶の表情。剣豪殿が全てを余裕で受け止めたことで庇のようになった刃の下へ、少しだけ身を屈めて素早く滑り込むと、そのまま軽〜く上体を旋回させての回し蹴りの乱打を素早くお見舞いしたシェフ殿であり。渾身の力を込めて剣を振り下ろしていたという、胴体がら空き、隙だらけ状態にあった面々へと、真っ向から繰り出された容赦のない"速射砲"みたいなもの。一体どうやって避けられたものか。

  「凄っげぇ〜〜っ!」

 双璧のお見事なコンビネーションに、ルフィがワクワクと喜んで見せているが、いや…そんな場合じゃないだろうが。
(笑) いかにも派手に乱入した3人へ張り番の意識が集まっている隙をついて、

  「こっちよ、早くっ。」
  「急いでっ。」

 ナミとチョッパーが捕らわれの身だった船乗りさんたちを外へと誘導する。それに気づいた張り番の何人かが、
「あっ、こいつらっ!」
「逃げる気かっ!」
 これは捨て置けないとばかりに向かって来たが、
「きゃーっ! いやぁ〜〜〜っ!」
「わっわっわっ! 来んな、このやろがっ!」
 一見、頼りにならなさそうな女の子と不思議な着ぐるみの小さい子なのに…振り回される三節棍は的確に相手の顎やら顔やらへとヒットするわ、
「えい、負けないんだからなぁ!」
「どひゃあっ!」
 一気に体が膨れた着ぐるみの雄々しい腕に吹っ飛ばされるわ。

  「…あれって計算してるんだろか。」
  「どっちも無我夢中だと思うぜ。」

 腹を括ればそれなりに頼もしいのは百も承知なお仲間なれど、今やって見せてる抵抗は…きっと絶対、無我夢中のデタラメだってと、剣豪とシェフとが珍しく気が合ってるところで、

  「俺も俺も、活躍するんだかんなっ!」

 ルフィが"いやっほーいっ♪"と残りの海賊たちへの突撃を敢行し、粗末な作業工房は…今にも屋根が落ちて来かねないほどのドタバタにその身を揉まれることと相成ってしまったのだった。
(ちょん)






            ◇



 急襲が成功して、奥まった幽閉室に監禁されていたところを助け出したはよかったが、あまりに弱っていたリオスくん。チョッパーが調合した滋養のある薬湯を飲んで多少は回復し、頼もしいお医者さんに抱えられたままに運ばれて、カララ夫人との半年ぶりの再会を果たすことが出来た。そんな彼は知らないことだったが、あの工房に一緒に拘束されて働かされていた船のクルーたちも無事に全員が救出されており、その工房で奥の部屋に閉じ込められていた海賊の頭目と弁護士のタラス氏、そして、工房の裏手に数珠玉のように連なって縛られてた海賊一味全員が、地元の警察から通報を受けてやって来た海軍によって逮捕され。それから…一本眉毛のザッタ坊っちゃんから鼻薬を嗅がされて、噴水のことをよくよく調べないまま放置した、役所の土木課と観光文化課の係官が検挙された。一本眉毛のザッタとやらは、自分は利用されただけだと言い張っていたが、それで収まる筈はなく。海賊がトーラス号を襲撃したのは奇遇だったにしても、そんな情況や情報を利用して利を得ようと企んでいたのは確かなこと。それなりのお咎めは食らうことだろう。そして、

  『…どうして?』

 ほとんど行きずり、お茶を御馳走になったというだけの間柄なのに。さっきまでついつい夫人が疑ってしまったように"利用してやろう、甘い汁を吸ってやろう"というのではなく。それほど容易いことではなかったろう、こんな骨折りを、どうしてわざわざしてくれたのかと。大切な孫の帰還に止まらぬ涙を拭いながら、ナミへと訊いたカララ夫人だったが、

  『さあ。』

 ナミはあっけらかんと笑って見せただけ。ホントはね、一丁前に同情しちゃったみたいなの。いつかはきっとと辛い境遇を乗り越えようと頑張って踏ん張っていた、いつか笑える日がくるから諦めちゃいけないと、毅然としてらしたカララ夫人に、何か手を貸して差し上げたかった。そういう頑張ってる気丈な人を見ると、ついつい…用心深さが揺らぐのが、完璧なあたしの唯一の欠点かしらねと内心で苦笑しつつ。海軍には通報してあるけれど、となるとあたしたちは…ちょっと困った身の上だから、同席できないの。そうと言い残し、それじゃあとその場から辞去した。やはり おいおいと泣いていた、案外と涙もろかったゴースさんが何とか引き留めようとして…勢い余ってルフィへと掴みかかりかけたものだから、

  『…おっと。』

 みぃょんと。体をゴムゴムで伸ばしてそれを避けた衝撃的な構図へ、さしもの奥方が…感極まり過ぎた弾みもあってか卒倒してしまい、その騒ぎの隙を掻いくぐって自分たちの船まで見事に遁走した彼らであったのだが、

  『う〜ん、さすがは大立者の奥様。』

 次の島へのログがぎりぎりで何とか溜まったのを見計らい、昼下がりにわたわたと出奔した彼らのお船へ、見知らぬ快速艇が追いついて来て、

  『カララ様からの贈り物です。』

 お互いに止まらないままという状態にて、こちらへと搬入された荷があって。山ほどの食料、お酒に燃料に豪奢な絹。それからそれから、あまり荷物にならないようにと気を遣って下さったか、太った土鳩ほどは膨らんでいた革の小袋に入っていたのは、世界政府発行の金貨が目一杯。純金のインゴットや宝石だと、換金に手間がかかるし出所を探られかねないと、よくよく考えて下さった"お礼"であるらしい。

  『これだけの額を"ほい"と即日で用意できるなんて、物凄い方だったのね。』

 ロビンが感心して洩らした呟き、瞳がベリーになっていたナミはあいにくと聞いちゃいなかったが。
(笑) それが何とか落ち着いてから、

  「それにしても…。」

 ロビンが再びしみじみとした声を出し、んん?と小首を傾げたナミへこんなことをあらためて訊いた。

  「よくもまあ、あんな時点で執事さんの言うことだけを鵜呑みにしたわよねぇ。」
  「はい?」

 お招きにあずかったその日の帰途、呼び止められるままに付いて行き、今回の経緯の背景を聞いたのへナミが心を痛めたのが、騒動の発端っちゃあ発端なのだが、
「いつもだったら人一倍用心深いあなたなのに。もしかして、この執事さん、ザッタとかいう坊っちゃんの駒なのかもしれないとか、微塵にも思わなかったのね。」
「………あ。」
 初見も良いとこ、誰がどんな立場なのか、まるきり分からない状態にあったには違いないのだから…もしかしたらそんな奥の手"隠しキャラ"だった恐れは確かにあって。
「そそそ、そーねぇ。でもほら、あたしったら勘が良い方だしィ。」
 少々強ばったお顔にて応じたナミへくすりと笑い、
「そうね。彼があいつらの仲間であったなら、情報に関しては任せ切って、大人しく自分の屋敷で朗報を待っている筈。殊に、ナイフで襲いかかったなんて日は、アリバイ工作のためにもむしろ遠いところに身を置かなきゃいけない。」
 あの屋敷に"間諜"がいたなら、2日と明けず通う必要はない筈ってものよね、と。にぃっこりと笑ったお姉様に、
「ももも、勿論じゃないの、やぁねぇ〜〜〜、ロビンたら。」
 おほほほほ…と力強く高笑いしたナミだったが、

  「あれは、今 気がついたな。」
  「そうだな。」
  「あの冷や汗がすべてを物語ってるもんな。」
  「うんうん。」

 チョッパーとウソップが、キッチンキャビンからは離れた眼下にある主甲板のキャビンの角から、重なるようになって半身だけを晒して、こそりと様子を伺いつつ囁き合っていたのが…どうやって聞こえたやら。

  「なぁ〜んか言ったかしらぁ。」

 数秒のちには、ぱんぱんと手から埃を払いつつ、二人を重ねてサンダルの下に踏み付けていた豪傑ナミさんだったりする。…つ、強い。
(笑) それで気が済んだかと思いきや、

  「あ、あああっ! しまったぁ〜〜〜っ!」

 今度は頭を抱えて騒ぎ出したものだから、

  「「ひぃいいぃぃぃ………っっ!!」」

 踏み付けられてた犠牲者二人が何事かと、まだ何かあったのかという、心からの悲鳴を上げたのは言うまでもなかったが、
「どしたんだ、ナミ。」
 怖い者なしが売りの船長さんが、ぺたたんと草履を鳴らしつつやって来て、呑気そうな お声を掛けたところが、

  「お洋服を買ってないぃ〜〜〜っっ!」
  「………お。」

 おお、そういえば。そのためにとウキウキ気分で上陸したお姉様だったのにねぇ。
(笑) せっかくのご褒美の金貨も着ることは出来ずで、
「可愛い小物もあったのに。目をつけてたドレスもあったのに。」
 なまじ一通りを観てはいたから尚のこと、思いきり失望しちゃったらしく。嘆きながら"ああう…"と膝からがっくり、甲板へと崩れ落ちたお嬢さんに、

  「ぐえっ☆」

 これは意図しないままのことながら、膝蹴りを食ってしまったウソップが目を剥いたのはさておいて、
おいおい
「…あ〜っと。」
「その…。」
 他の男どもが顔を見合わせ、何やらもじもじして見せていて。そんな不審な態度に、人の不幸を前に何を歯切れの悪いっと、八つ当たりしたくなったナミさんだったが、

  「これ…。」
  「俺も。」
  「サイズはロビンに聞いてたからサ。」

 レディメイドなら"号数"さえ判っていればという、いかにも男のお買い物で悪いけどと、面々がぱさりぱさりと広げて見せたのが…カラフルなお洋服の数々で。

  「………え?」

 潮風にはためく、今年流行のワンピースやブラウス、カットソーにスカートなどなど。
「それ…。」
 自分がチェックしていたものも多数あるのが、失礼ながらナミには意外で。洗濯物を取り込むみたいに、1つ1つを腕にからめ、胸に抱きしめという形で受け取って…。
「でも、でも…どうして?」
 何だか現実のこととは思えない。手触りのいい上質の絹やカシミヤの気持ちのいい感触も、今にもぱぁっと消えちゃうんじゃないかと不安で心配で。それでついついきゅうと抱き締めながら、ナミが皆を見回せば、

  「何を言ってんだよ。今日はお前の誕生日だろ?」
  「…あ。」

 やはり あっけらかんと。ルフィが言って、にっぱりと笑う。
「ナミはサ、いつも一杯頑張ってるからな。」
 今度だって、目的のお洋服を買うの、忘れちゃうくらい頑張ってたから。いつもみたいにパーティーの準備だってしてんだぞ。でもでも、プレゼントは一番欲しいもんが良いだろってことで、昨日、お前が観て歩いてた店に片っ端から飛び込んで、一番センスの良いのをって店の人に訊いて買い集めたんだぞ。

  「あ…。」

 だから。あの公園にタイミングよく来合わせたルフィとゾロだったのかも?

  「…バカね。」

 もしかして、その後にあたしが買って回ってたらどうしたのよ。これ全部ダブってたのよ? それに、ゾロがあんなブティックでハウスマヌカンにそんなこと訊いただなんて、それこそ直に見たかったわよ。まったくもう、あんたたちってばって、言いたかったそんなあれこれ。なのにね、泣き出しちゃいそうだったから口を開けなかったの。その代わりに、

  「ありがとね。」

 顔を上げて、にっぱり笑顔でのお返しvv さあさ、それじゃあパーティーの準備だ。テーブル出せよ。酒もな。料理の方はもう仕込み済みだぜ。肉は? 肉vv だ〜〜〜、あるから待て待て。ナミは部屋で待ってろな。当たり前よぅ、あたしに何かさせる気だったの? それは仲良しでそれはにぎやかな一行を乗せて、小さいけれど元気なお船は、今日も大海原を悠々と泳ぎのぼる。旅の果てに待つそれぞれの野望へ、ラフテルへ、ワンピースへと…。





  ――― あとあとになって風の噂に訊いたのが、
       あの噴水は早速にも修理がなされ、
       伝説通りに幸せを齎した虹も復活。
       今回の顛末からますますの評判を得て、
       人々が御利益を目当てに多数運ぶようになったということだった。





  〜Fine〜  04.6.30.〜7.12.

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  *ちょこっとバタバタしてましたかね。
   活劇シーンが入らないと肩透かしかなと思って、急遽書き足しをしたので、
   この終章がこんな長くなってしまいましたです。
(笑)
   でも、ナミさんのBDものってのが主旨なんだから、
   乱闘は要らなかった…かな?
(う〜ん)
   お付き合いのほど、ありがとうございましたvv

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