Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ


   
BMP7314.gif 虹色の約束は守られたか? BMP7314.gif 〜ナミさんBD記念企画
 



          



 夏島海域が近いのか、陽射しが日に日に強くなって来た。頬を撫で、髪を梳いてゆく潮風が心地よく、いかにも"爽快"な濃い色の青空が頭上には広がる。
「ナミ〜、次の島はまだか?」
 船の舳先、羊の頭に相変わらず乗っかって、我らが船長さんが無邪気なお声で訊いてくるのへ、
「じきよ、じき。」
 こちらもにこやかなお返事を返す航海士さんで。これが昨日までなら"日に何度同じことを聞くかっ"と怒ってしまうところだったが、今日は別。ログポースのぶれもなく、小型の海鳥がちらほらと姿を見せている辺り、陸が近い予兆に他ならない。前に立ち寄った島で聞いた話では、次の島はなかなか賑やかに栄えている土地なのだそうで。幸いにして…ちょいと臨時収入を得る機会が続いたがため懐ろが温かいので、食料や消耗品、備品に資材の他に、洋服や雑貨小物といった、ちょっぴりおしゃれなものも見て回れるかもねと、久し振りに女の子らしいワクワクにときめいているからで。
"まずは宝石やインゴットを少しばかり換金しなきゃなんないけれど。"
 世界政府公認の自治都市だか国家だかなため、しっかりした市場があるとのこと。なので、いい加減な連中に無闇にボラれる…もとえ、相手の言い値に振り回されて安値を吹っかけられるというよな恐れはなさそうだが、逆に言えば海軍の監視の目もあるということか。
「そうは言っても、基地や分局がある訳ではないようだし。」
 小さな出張所規模の宿営地がある程度。海賊や外敵向けの海軍よりも内的治安維持のための警察公安組織がきっちり配備されてるってトコでしょうねと、ロビンが言っていた。外地から気安く遊びに来てもらうためにも、観光主体の商業都市にはあまりに厳つい武装は向かない。とはいえ、治安は良い方が安心。そこで小回りの利く警邏組織の方を重視しての配備になってる筈だということで。
「ん〜んvv なんか楽しみvv」
 いつもいつも、男衆たちの巻き起こす騒動に引っ掻き回され、命が縮むような想いばかりさせられている身。今度ばかりはのんびり伸び伸び、羽を伸ばして過ごすぞと、ご機嫌さんな様子のマドンナ。
「ナミさ〜ん、ロビンちゅあ〜ん。お茶が入りましたようvv」
 キッチンからシェフ殿に呼ばれて、は〜いと良いお返事を返した年齢相応、無邪気なお嬢さんであったのだった。


  「…嵐になんなきゃ良いけどな。」
  「え? ナミって嵐を呼べるのか?」
  「さすがはウチの航海士だっ!」
  「………お前ら、まさか本気で言ってんのか?」


  ―――― こらこら、あんたたち。
(苦笑)





            ◇



 これをやると船長のルフィが嫌がるのだが、海賊船であることを示す帆や旗を隠し、どこぞかで別の海賊から戦闘の果ての"ファイトマネー"の一部として頂戴した、商船登録の手形札を臨検船の係官へと提示して、無事に"一般船"としての入港を果たした。そして、
「い〜い? この島ではログが溜まるのに2日かかるらしいの。だから、その間だけは大人しくしててよね。喧嘩や騒ぎなんかを起こさないでよね。いい?」
 特にそこっ!と指差されたのがルフィとゾロで、
「? 俺か? 騒ぎなんか起こさねぇって。」
 心配症だな、ナミは、ははは…♪と高笑いする船長さんを、一緒に呼ばれた剣士さんまでが"おいおい"と目許を眇めて見やったほど。
「…う〜ん。」
 憂慮は尽きねど、考えていたってどうなるものでもないことだしと、そこはナミさんの方でもある意味で慣れたもの。はあと大きな溜息をついたかと思ったら、

  「あんまり目に余るような事態になったなら、
   それが、ルフィ? あんたでもこの港に置いてくからね。」

 背景にオドロな雲を呼んだんじゃないかという、それは恐ろしいまでの迫力をもって言い聞かせたナミさんには、

  「…………はい。」

 船長さんであっても形無しというところだろうか。打って変わって大人しく、こくりと頷くしかないらしい。……………ホンマに威厳のないことよ。
(苦笑)それでもそれなり、それぞれへと結構たっぷりめの"お小遣い"がふるまわれ、明日の夕方には出港準備、明後日には此処を離れるからね、それまでは好きに行動してよしと お母さんから言い渡されて。遊び盛りの子らとその保護者たちが浮き浮きと船から降り立った。残った女性陣は、まずは一番最初の目的であったお宝の換金を手早く済ませて、さて。
「…あら、ロビン?」
 一緒にブティックでも見て回りましょうよとナミが誘ったが、
「私はあなた方以上に年季が入った賞金首ですからね。」
 普通の町歩きでは警戒中の警官の目に留まりかねないからと別行動。これもまた"いつものこと"ではあるものの、
「…ふ〜ん。」
 こうまで完全に独りで行動できるというのも久々のことではなかろうかと、ちょいと感動。いつもだと、買い出しのお財布係か、世話がかかって目の離せない誰かさんたちの"お目付役"としての付き添いという感じでの外出が常だったから、
"ローグタウン以来なんじゃない?"
 そんなにも遠い日の話ではない筈なのにね。思えば色々とあったなぁと、明るい石畳の道、のんびりと歩きながら思い返す。此処、グランドラインに入ってからというもの、船長さんのお望み通り、ほぼ毎日が"胸躍る冒険"の連続であり。極寒だったり灼熱だったり、大嵐や長い凪といった、気候や海流の絡む"海そのもの"に翻弄されたこともあったが、それよりも。犯罪結社に追われたり追っかけたり、こちらはたった一隻にて海軍の一個連隊と一戦交えたり。悪魔の実を食べたという特殊能力者たちと、命を懸けるほどの対峙をすることとなってしまったり。一国の将来を懸けた内乱を鎮めるべく、周到だった黒幕相手に突貫で挑みかかって、身を削るような死闘を繰り広げたり。

  "揚げ句の果てが、空の上にまで運んだものね。"

 伝説の島、天空高く浮かぶ"スカイピア"まで、そちらも"一か八か"という方法にて訪れており。尋常な一般人であったなら、何度死んだか分からないほど。よくもまあこうして無事に永らえているものだと、自分たちの運のよさには、もうもう笑うしかないというものだろう。
"海賊には"悪運"も必要ってねvv"
 そんな修羅場を幾つも幾つもくぐり抜けたのに、殺伐として来ないのは何なんだろう。話を聞いただけでも臓腑が煮えてしまうような理不尽を、強くて狡い者たちの専横や非道を、でもしようがないと看過せず、片っ端から叩きのめして来た爽快感からだろうなと思う。我らが船長さんは、間違っても所謂"正義漢"という輩ではなくて。自分たちには直接関係のないことに関しては、進んで話を聞こうとはしない。ただ、おおらかで人懐っこい彼だけれど、一旦怒らせるともう止まらず、それが"仲間"や"友達"を愚弄し傷つけた輩の所業であるのなら、完膚無きまでに叩きのめすような男だから…結果的に人助けばかりしてきたような気がするのであって。やることがあまりに不器用で直情的だから、お陰さまで莫大な懸賞金もかかってしまったけれど。どうしてだろうか、それを不手際だと怒りながらも、気分爽快なのは否めなくって。

  “まだまだこの先も苦労させられそうよね。”

 クスクスと苦笑混じりに肩をすくめたナミだった。ところどころに日よけ代わりの街路樹が植えられてある石畳の街路には、観光客だろう人出は結構あるものの、雑踏というほど暑苦しいものではなく。ニレの木陰では、優雅に日傘を傾けて貴婦人が涼を取っていたり、高級そうな店の前では、ぴしっとアイロンの利いたシャツを誇らしげに白く光らせた青年が、埃ひとつない車の脇にて、買い物を楽しんでいる主人を待っていたりする。どちらかと言えば保養のためのリゾート地という感じの土地柄らしく、商魂逞しいテーマパークだのフェスティバルだのがあるでなし。ここいらは少しほど丘の上の土地だからかもしれないが、街路に沿って並んでいるカフェテリアやブティックなども品のいい店ばかり。もっと海沿いには、それなりに賑やかな娯楽施設もあるのかもしれないが、
『結構古くから自治区として発展している土地らしいから。』
 そういえばロビンがそんなことを言ってたかな。今回はなにぶん、のんびりした寄港であり上陸だから、この島のこと、あんまり把握してなかったなぁと。カットソーから健やかに伸びた撓やかな腕を、空へと突き上げて"うん"っと背伸び。相変わらずのマイクロミニという短いスカートに、踵の高いサンダル。浜辺向きの何とも軽快ないで立ちだが、彼女自身の存在感があるせいか、蓮っ葉な薄っぺらい女の子には見えないようで、場違いだという蔑視的な注目は受けていない。特に当てもないままに、センスの合うお店があったら入ろうかなと、散策半分に歩いていた、そんな彼女の足が運ばれた先には、港が一望できるロケーションに据えられた、小さな見晴らしのいい公園があった。吹き抜ける風が心地いいものだから、思わず頬をほころばせつつ、ナミは遊歩道に沿って、園内へと足を踏み入れたのだった。


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  *ほとんど全然進んでいませんが、一応の見切り発車でございます。
   ナミさん、ごめん。