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何だか妙な空気のまま、皆してルフィに対しては腫れ物に触るかのようにって案配で過ごしてた。だっていつもだったらサ、どんなに怒ってたって美味しいお菓子とかであっさり忘れるルフィだったのに。ゾロが“いい子いい子”って宥めてやりながら一緒に昼寝してやったら、大概のことはすっぱりと忘れちゃってたのにさ。今回はなかなか根が深かったらしくって。しかもそのゾロまでが、何だか様子が変なんだ。ルフィがぐっすりと寝ちまったからって、医務室にわざわざ運んでサ。そいで傍らから離れて、でも…そのままいつもの鍛練に入るのかというと そうでもなくて。所在なさげってのかな、自分の身の置きどころがないのを持て余してるような、何だか…ちょっとばかり浮足立ってるような雰囲気で、甲板をあちこちと歩き回ってて。皆から一斉に責められたのが堪えたのかな? 探しものがあるなんて言ってたけれど、日頃と同じ、背条をピンと立てた鷹揚そうな姿勢でいるんだもん、到底そんな風には見えないしサ。なあなあ、俺たちこれから、どうなっちゃうんだよう〜〜〜。
◇
午前中のずっとを淡いグレーで空を塗り潰していた薄雲が切れて、後方へとどんどんと流れてゆき。今やすっかりと春めいた陽射しが現れて、甲板のそこここを明るく照らしている。窓辺にいるとじりじりと暖められるのが暑いくらいで、こんな機会を逃してなるものかとばかり、ナミから出された指示を受け。ウソップとチョッパーが船倉の各自の部屋から甲板へまで、ベッドマットをうんせうんせと引っ張り出しては干し出している模様。ほかほかと せっかくの良いお天気なのにね。たった一人の不機嫌が、船内へ妙な空気を招いてる。いつもの彼ならむしろ、先頭に立って“面白れぇvv”って笑い飛ばしてるようなことなのにね。それが自分の身に降りかかったことでも、それこそお構いなしに。それが今回は…妙な方向へご機嫌がよじれているようで、
「不便だって言うなら、それこそ診せてくれても良いのにね。」
痛くないのかな、怪我とかしてるからルフィ機嫌が悪いんじゃないのかな。野生の動物が怪我をすると じっとしていて自分で治すんだけれどね、その間に襲われると当然不利だから、周囲へぴりぴりと敏感になって日頃より威嚇が激しくなるんだ。何かそんな感じがするからサ…と。小さな船医さん、やっぱり何だか心配が絶えないらしくて。
「チョッパー、あんな勝手な奴なんか放っておきなさい。」
マット干しの大仕事…の監視役を務め終えたナミが、ミルクたっぷりの甘い紅茶を満たしたマグカップを差し出しながら、う〜んう〜んと相変わらず気にしている彼へとクギを刺す。
「あんたがウチの頼もしい船医だってことは、あいつにだって重々判っている筈よ。」
だから。体の不調や怪我を抱えてて、しかもがどうにもならないレベルのものなら、ちゃんと頼ってくる。
「勝手に傷を縫って勝手に“治った”なんて言い出す大馬鹿もいるけど、ルフィはそこまでお揃いではないわ。」
と。やっぱり不審で、しかも非協力的な剣豪さんを揶揄するみたいな言い方をしたナミだったけれど。そんな二人から少々離れた窓辺のベンチにて、
“…でも確か。虫歯が痛いって大騒ぎをした時は、ず〜っとず〜っとあんな風にむっつり不機嫌なルフィじゃなかったか?”
しかも、抜かれたり削られたりする歯の治療が嫌いだったからって、何にも言わないでやり過ごそうとしていたし。歯を連想したせいか、両手で自分の頬を包むような格好になってたウソップだったが、
「それはないと思うぜ。」
ぽそりと。頭上から小声が降って来たのへ“はい?”と素直に振り仰げば、こちらさんへも暖かな紅茶を差し出しながら、咥え煙草のシェフ殿がほのかに苦笑して見せている。
「歯の心配してんなら、お門違いだっての。」
「…やっぱし?」
「トーストサンドにした昼飯をどんだけ食ってたよ、あいつ。」
あ、そっかと。いつも通りに食欲旺盛だった船長さんを思い出す。あれは確か…まだチョッパーが加わっていなかった時期のこと。虫歯が原因でルフィが元気をなくしたという一件もありはしたが、その時はそれと同時に食欲も無くしたので、皆して“こんな異様なこと、アリエナイ〜〜〜ッ”と心配したのだ。だが、だったら何で…と、ああまでの不機嫌をいつまでも保ってるその原因になることへは、やっぱり皆目見当がつかない皆であり、
「む〜ん。」
難しい顔になってるウソップや心配顔のチョッパーだけでなく、ちょいと不機嫌なナミや苦笑しているサンジまで、やはりやはり心配してはいるらしく、
“可愛らしいことよねvv”
こちらさんはクルーの皆さんへとそんな感慨を抱きつつ、くすすvvと微笑いながら紅茶の芳しい香りへうっとりと瞳を伏せた、ロビンお姉様だったそうです、はい。
◇
そんな状況でもお構いなしに襲来するのが、急なスコールやハリケーンと海賊の襲撃であり。中型クラスの船が寄って来て、あっと言う間に鉤のついたロープを船端へと投げて来て接舷し、
「きへへへっ!」
「命が惜しけりゃ大人しく宝ぁ出しなっ!」
「俺たちに逆らって無事に済んだ奴なんていねぇんだぜッ。」
せっかく干し出してたマットレスを蹴散らしたり ずんばらりと切り裂いて、気勢を上げてる不躾けな賊どもの乱入に、
「ちょっと あんたたちっ!」
勝手なこと言って散らかさないでよねっ、それでなくたって今は取り込んでるんだからっ! じんわりじわじわと不機嫌のボルテージを上げていたナミが、珍しくも先頭切ってそんな啖呵を切ったのは、
「ありゃあ、欲求不満を解消したいんだろうな。」
「だな。」
船医さんの診立ての通りでしょう、恐らくは。(苦笑) 自慢の武器、三節棍を手際よく組み立て、寄って来る賊どもを右に左に鮮やかなまでに薙ぎ倒す勇ましさは素晴らしく、
「こらこらこらこらっ! ウチのマドンナに気安く近づいてんじゃねぇ!」
当然のことながら…麦ワラ海賊団が誇る双璧さんたちも、何だか不審な様子だったのはひとまず置いといて、それぞれに得意の攻撃で甲板へとなだれ込んで来た無頼の輩たちを蹴散らし薙ぎ倒しと、獅子奮迅の大殺陣回り。
「呀っ!」
腰のすわった姿勢から長い脚をぶん回し、相手の顔や顎へと無駄なくヒットさせて昏倒させたり、胴を薙いでは軽々と吹っ飛ばす。海賊たちの世界がどんなに広いと言ったって、屈指のレベルには間違いなかろう、鋭くも容赦のない蹴技にて。シェフ殿が中央部の主甲板で華麗に活躍すれば、
「哈っ!」
その態度が静謐に凛然と冴えているがゆえ、力だけが自慢の巨漢と並べば細身にさえ見える引き締まった肢体が一気に躍動し、ほんの一瞬という刹那の澹あわいに斬り込んで。そこへは収まり切らぬほどにも凄まじい威力を、瞬殺にて炸裂させる。その雄々しい二の腕や背中にて、隆と張った筋肉が力強くうねって撓しなう様も頼もしく、大きな手が握り締めた二本の和刀が繰り出す旋風は。切っ先に直接触れずとも…只では済まない威力にて、大の男たちを足元から易々と吹き飛ばし、そのまま海へと放り出している物凄さ。双方ともにまだまだ青いほどにも若く、ギラギラと挑発的だったり威嚇的な構えや態度を見せたりなんかはしない二人だというのに。スーツのボトムのポケットへ両手を突っ込んだまま、撓やかな背条をピンと張って、そこに立っているだけなのに。はたまた…甲板に触れそうなほどにも下げた剣の切っ先を特に構え直しもしないまま、つまりは両手を重い武器に塞がれているようにさえ見えるほど、それはそれは無造作な姿勢でいるだけの若造なのに。
「う………。」
「な、何だよ、こいつら。」
雑魚にも判る殺気や本気。いやいや、彼らにしてみれば、こんな程度のものを“本気”だなんて勝手に断じて欲しくはないのだけれど。野ネズミを睥睨する猛禽のように、明らかにレベルが違い過ぎる気魄を呑んだ人物たちだと、遅ればせながら気がついて。そういうレベルへの感知能力が冴えていたからこそ今まで無事だったんだろう連中が、
“しまった。こいつら、存外強ぇえぞ。”
初めて見極めを誤ったことに気がついて…いやな汗を流し始めたそんな間合いへ、
「待たねぇかっ、この小僧っ!」
後甲板からのただならぬ怒声が聞こえ、敵味方なく全員の注意がそちらへと向く。こちらの緊迫感をあっさりと蹴飛ばしたのは、相手方の首領らしい年嵩の海賊が赤いシャツの少年を追い回していたやり取りが、妙に…コミカルだったからで。
「このサル野郎っ! 降りて来いっ!」
「何だよ、失敬なおっさんだな。」
これでも今日は右手が使えません状態のルフィだというのに、あっさりと剣の間合いから逃げまくられているおじさんが、腹立ち紛れに相手のすばしっこさへと罵声を投げる。何の武器も持たない丸腰のままのルフィが、ゴムゴムの技も取り混ぜて、軽やかな身のこなしで相手を撹乱翻弄する図というのは、これもまた いつものこと。その気になれば一撃で伸せるのだが、それじゃあ詰まらない。相手からの躍起な攻撃を躱すことでこっちの反射を試すように、そう…組み手の練習でもするかのように、この立ち合いを楽しんでいる彼であるらしく。他のクルーたちにしてみれば、いつものお馴染みな情景だったのだけれども。
「へへぇ〜だ、こっちだよっと♪」
追い回されているように見せつつ、余裕で足場を保ったままに。ルフィが辿り着いたのが、船の上、甲板の中では最も高みの、キッチンキャビンの屋根の上。
「こんのっ!」
ぶんっと横薙ぎにされた青龍刀の切っ先を、やはり身を少し引いて避けた…つもりが、
「…あっ。」
何かが。ルフィのベルト近くからピンッと弾かれて宙へと舞った。それへと視線ごと注意が逸れたらしい船長さんが、それだけでなく…追おうとしての手を思わず伸ばす。咄嗟に出た反射のようなもの。ひょいと捕まえられそうな間合いを追って、腕が無防備に伸ばされ、それがために がら空きという格好になった上体へと、
「もらったぁッ!」
先の一太刀を空振りしたおじさんも、そこは…こっちだって油断なく構えている海賊だから。そんな隙を見逃しはしないで、もう一方の手の先へ手裏剣タイプの小柄こづかを滑り出させる。両手が同じくらい器用に使える男であったらしく、すかさず繰り出した切っ先のその素早かったこと。
「うわっっ!」
もともとはこっちが得手だったのか。見事な手並みの早業で放たれた鋭い凶器は、小さな疾風のような素早さで…避ける間さえ与えぬまま、小さな船長さんの懐ろへと飛び込み、そのままざっくりとシャツの懐ろを大きく抉えぐる。数歩ほど後ずさりをしたルフィだったが、そんな避け方では間に合わなかったのか。小さな背中が、甲高い声を上げながら…その場にすとんと座り込んだものだから。
――― ルフィっっ!!
甲板のあちこちで展開されていた小競り合いが、不意に…一方的に終止符を打たれた。クルーたちの意識は同じ場所の一点へと向いたまま。自分たちがそれぞれに向き合っていた相手たちへと、
疾風を孕んで鋭く振り下ろされた剣が、
真横へと勢いよく薙ぎ払われた三節棍が、
指から離されたスリングショットの弾丸が、
風を切って繰り出された長い脚先の爪先が、
思い切り叩きつけられた鋼鉄の蹄が、
相手の全身へと咲いた撓やかな腕たちが。
ある意味でぞんざいに…力加減のない容赦ない一撃で、一気に直接の相手をぶっ倒し、その勢いを殺さぬまま振り返ると。自分たちの意識を否応無しに引っ張り寄せたそちらへと、そりゃあ素早く体を振り向けて、全員で一斉に殺到して見せて、
「貴っ様〜〜〜〜っ!!!」×@
ゴムゴムのピストル以外の“麦ワラ海賊団・大技スペシャル”が、ほぼ手加減なしという凄まじい勢いで。たった一人の上へと見事に決まったのは言うまでもないことであった。……………合掌。(笑) そして、
「ルフィっ!」「ルフィっ、大丈夫かっ!」
空の彼方へ吹っ飛んでった、相手の首領なんて知ったことじゃあない。逃げたきゃ逃げなと甲板をドタバタ駆け去る連中をも無視し切り、甲板に倒れ込んでた船長の元へと駆け寄ったクルー全員だったのだけれども。
「あで〜?」
皆が作った輪の中で、案外お呑気な声を出しつつ、むくりと起き上がった船長さんで。見やれば…着ていたシャツの懐ろには、しわ一つ増えてはおらず。ただ、
「あ〜〜〜っ! ルキュイの壺がっ!」
ずっとずっとその右手に嵌まっていた壺の姿がない。小さな手がお久し振りにその姿を見せていて、
「おお、取れたっvv」
「取れた、じゃないっ!」
50万ベリーよ、どこへやったのよと。ああまで心配していたのはどこへ吹っ飛んだのやら。航海士さんが胸倉を掴んで揺さ振れば、その懐ろのどこに引っ掛かっていたやら、ころころっと板張りの床の上へと出て来た壺だったが、
「あっvv」
ほっとして伸ばされたナミの手の先、ぱかりと真っ二つに裂けてしまったではないか。
「船長さんが咄嗟に手で払い飛ばそうとしたところへ、絶妙な角度とタイミングで刃先が当たったせいでしょうね。」
剣士さんほどの腕前ででもない限り、粉砕もされないまま、こうまで綺麗に真っ二つに割るなんて無理よと感心しているロビンさんだが…感嘆する方向が違うって。(苦笑)
「そっか、あれが楯になったのか。」
凄い奇跡があったもんだなとチョッパーが感心すれば、
「50万ベリーの楯か〜。」
ウソップくん、そんな言い方は…。
「………そうよ、50万ベリーの楯よ。」
先々で海賊王になろうって人は太っ腹よねと。言いようと裏腹、恨み骨髄という凄まじいお顔をゆらりと上げて見せたナミから、小一時間ほども甲板中を追い回されたそうである。
「な、なんで俺がっ!」
「うるさいわねっっ! 一発思い切り殴らせてくれて終わるっ?!」
「それもイヤだ〜〜〜っっ!」
ご愁傷様である。(苦笑)
…………………………で。
◇
一体 何でまた、そのお高い壷がルフィの手を呑んでしまって、取れないまんまになっちゃったのかといえば。
「…これを隠そうとしたら抜けなくなった?」
壺から抜けてからもルフィがぐうに握ったまんまにしていた手。ロビンが脇をくすぐって拳を緩めさせると、何か小さなものが甲板へコツンと落ちた。緑色の小さな小さなそれは…。
「あっ。」
短い声を上げてから、見るからに愕然としたお顔になった人物が約一名。そしてそのお顔がちょっぴり苦々しいものになったまま、皆に取り巻かれてた船長さんの方を向いたのだが。船長さんの側でも…睨めっこなら負けないぞと言わんばかり、なかなかに頑迷そうな気合いを滲ませてのむっかりとしたお顔で睨み返していて。
「…どういうこと?」
そんな二人であることを、他の面々がまた…よ〜く判ってると言いたげな、やれやれと肩を竦めたり苦笑をしたりという空気になって見やったのへ。こちらさんは逆に…唯一 事情が判らない考古学者のお姉様が、それは純粋に疑問を抱いて小首を傾げて見せたのだが。
「あのな、あの根付けはな。」
小さな蹄でお口を押さえつつ、チョッパーがクスクスと楽しそうに微笑いながら耳打ちしてくれた。
「ルフィがゾロのお誕生日にって、自分で彫ってプレゼントしたものなんだ。」
「…あらvv」
もしかしなくともこの顔触れの中では最も不器用なあのルフィが、その手で何かを作っただなんて。海賊、海軍、双方それぞれの陣営の中ででさえ、正義と卑怯が入り乱れ、犯罪、謀略、専横、殺戮、欺瞞に偽善に誹謗に怨嗟。希望と絶望とが混沌とし、これでもかっと言うほどに殺伐とし荒廃し切ったこの大海原を舞台に、こんな微笑ましくも可愛らしいエピソードがあるだろうかと、いや…このお船に限ってなら結構あるかもですが。おいおい
「その前に、ゾロがイルカのマスコットを彫ったから、そのお返しってカッコで作ったんだけどもサ。」
「あらあら♪」
それもまた柄にないことと、意外なお話へちょっぴり驚いたロビンさんであり。二人ともちゃんと身につけて大事にしてたのにね。それを…ルフィがあんなカッコで持ってたってコトはサ、と。チョッパーが皆まで言わずにお口を押さえてクスクスと微笑い、
「そうね。船長さんたら怒っちゃったのね、きっとvv」
ロビンもまた“しょうがない人たちよねぇ”と、目許を細めて楽しそうに笑い返している。岩をも砕き、鋼鉄でさえ真っ二つという、ああまでの腕っ節を誇りつつ、それと並行して…何とまあ可愛らしい確執を胸に抱えてた人たちなんだか。それを思うとついつい頬だって緩んで、まったくもうと笑わずにはいられない。サンジやウソップが呆れたのも同んなじ理由からであり、そしてそして当事者さんたちはというと………。
「皆の前で色々やって引っこ抜いて取り出すことになったら、
何をどうしてそうまで握ってたかってトコまでバレちゃうじゃんか。///////」
しょうがないなと袋なんかかぶせても意味はなく、結果、やっぱりそんな風に追い詰められちゃったもんだから、機嫌が悪かったルフィであったらしく。落としてたことにゾロが気づくまで。見つからなくて どうしようかって焦るまで。これに隠して黙ってたかったのにサ。思いがけなくも手が抜けなくなってしまって、しかも隠せぬままに見つかってしまい、あんな騒ぎになってしまったから、引っ込みがつかなくなっちゃったんじゃんかよ。ちょっぴり逆ギレ気味な船長さんだったのは、結局恐れてた通りになっちゃったもんだから…頑張ったのに無駄になったじゃないかとばかりの反動がついて、自棄やけっぱちになったものと思われて。そんな彼へと、
「俺だってちゃんと探してたんだぞ?」
そんなトコに隠してたんじゃあ見つからない訳だよなと、はぁあと呆れ半分な溜息をつきつつ、取り戻そうと手を伸ばしてきた剣豪さんだったのだが。そんな言われようへ、ますますムッとしたのだろう。問題の根付けを自分の懐ろへと引き込むようにして遠ざけてしまった船長さん。
「何 言ってんだよっ! 俺がこれ見つけたの、随分と朝早くだったぞ?」
ゾロがわざわざ探し始めたのは昼頃からじゃんか。それまでは ずっと全然気がつかないままでいたくせにッ。ゾロにはどうせ そのくらいのもんなんだ。こんな詰まんないもの、どうだって良いんだろッ。ガウウッと歯を剥き出しての結構なお怒りをルフィが示して見せれば、
「馬鹿ヤロ、判りやすく探してたら他の奴らに何言われっか。」
それでさりげなく目だけで探したり、人目がない隙にあちこち見回したりしてたんだよ。お前がそれに気がついてなかっただけだろがッ。こちらさんもやっぱり“ガウウッ”と牙を剥いて、負けるものかと大声での応酬を返しているあたり。………もはや、誰に何を言われるやらという照れや小っ恥ずかさはどこへやらみたいな剣豪であるらしく、
「あれって“痴話ゲンカ”よね。」
「そうね、立派な“痴話ゲンカ”だわ。」
「ああいうのは見られても恥ずかしくない剣士さんなのかしらね。」
「そうなんでしょうよ。」
言ってることは正に目クソ鼻クソ…いやそのあの。/////// 隠していたものと探しもの。その正体がバレたら照れ臭いから、だなんてね。どっちもどっち、所謂“ドングリの背くらべ”だったお二人であり。照れ隠しなのか、それとも八つ当たりか腹立ち紛れか、声を高めて喧々囂々と言い合いを続ける人たちな一方で、
「もともとデリカシーとは無縁な男の“羞恥心”の分別なんて、あたしには一生かかったって判らないし、判りたいとも思わないわよ。」
さっきまでのお怒りの様子が一転して、こちらさんは随分と沈んでしまっていたナミであり。高価な壷を結局は壊されてしまった航海士さんのお怒りと悲しみも、結構深そうだったりして。
「ナミさん、元気出して下さいな。」
「そだぞ、ナミ。その壷、修繕したら何とかなるかもだぞ?」
「あのねぇ…。」
骨董品というものが今一つ判っていないらしい船医さんが、何とも可愛らしいことを言い出すのへと。情けなさげに眉を下げたのも束の間のこと。
「そうね。使えなくなった訳じゃあないか。」
どうせだからあいつらへの罰金貯金箱にでもしましょうかね、傍迷惑な痴話ゲンカの度に金貨を此処へ入れさせましょうと、にっこり笑って見せた豪傑。奇襲をかけて来た海賊たちも、いつの間にやら綺麗さっぱりと退却しており、
「あ、しまった。ファイトマネー。」
「大丈夫ですよ、ナミさん。逃げ出す寸前にウソップと乗り込んでって、金貨の袋をね、2つ3つ頂いときましたから。」
「あら、ステキvv」
おいおい。何はともあれ、再び和やかな空気の戻った小さなキャラベルであり、
“やっぱり相変わらず、平和な海賊船よねぇvv”
そうみたいですねぇ、ロビンさん。(苦笑) 生死の境を分かつような大冒険から痴話ゲンカまで。3日と空けずというノリで、色々な騒ぎに賑やかな船でありクルーたちであり。生まれも育ちも、性格も価値観も何もかも、よくぞここまでと感心するほどにバラバラな顔ぶれで。そんな彼らを束ねている、唯一無二の“要”がルフィな訳だけれど。
“そのルフィが一番のトラブルメーカーじゃあなぁ…。”
困ったもんだよなと、感慨深げにうんうん頷いた船医さんでございました。それでも、へ、平和よね? ね?
おまけ 
………で。問題の壷はどうなったかと言いますと。
「ええ。陶磁器の目利きが言うには、逸品名品であるのならという条件つきではあるけれど、金漆で継いでの修理がしてあるものへも“それなりに小粋だ”っていう評価がつくことがあるわ。」
割れたり欠けたりしたところへ、金を混ぜた漆や何やを接着剤の代わりにして修理した陶磁器も、物によっては…その筋で“景色”と呼ばれる風情や趣きが評価されれば、高い価値がつくことがあると、ロビンが何とか助言してやったので。ウソップに出来るだけ丁寧に修理させたその上で、
「い〜い?
あの海賊王が持ってたってプレミアがせめて50万ベリー以上は付くように、
あんたたち せいぜい頑張るのよ?」
「………何だそりゃ?」
何をどう頑張れってんだと、何だか順番がおかしな発破をかけられた船長さん以下一同だったそうである。これもまた、平和というか余裕というかの賜物たまものなんでしょうかしらね?(苦笑)
〜Fine〜 05.2.25.〜3.7.
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peco様『船医さん視点から、トラブルに巻き込まれる麦ワラ海賊団』
*どんなオチにするかに少々悩みました。
彼らをへこませるのは、なかなか至難の業でございます。(苦笑)
(案外と傷つきやすい剣豪みたいなので、昨夜のアニメでは大笑いしましたが。)
あのマスコットを出した辺り、どっちかというと“蜜月まで〜”ネタで、
ああしまったと思ったのが最終章まで来てからで。
船医さんよりも考古学者さんが出しゃばってて済みませんです。
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