Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ

   BMP7314.gif 真実の壷 BMP7314.gif
 



          




 ……………へ? うわっっ! な、何だよっ、いきなり見てんじゃねぇよっ! ビックリするだろうがよっ! オレが一番に気がつくなんて珍しいって? いつもならサンジかナミなのに? うっせぇなっ、ホントだったら一番気配に敏感なのは俺なんだよっ。ただ、いつもは…その、あれだ。ルフィを構ってやるので忙しかったりするからそれで…。ホ、ホントなんだからなっ、このヤロがっ。………あ、ちょっと待て。なあなあ、お前サ、今、何か隠しごととかしてないか? 誰にも言えないことって持ってないか? オレ、こないだっから考えてんだけどもサ。内緒ごとがあるのと嘘をつくのとって、同じことなんだろか? 内緒ごとを明かせないからって、内緒ごとを持ってるのに持って無いって顔をすることが“嘘”になるってことは、まあ あるんだろけどサ。でも…だったらサ、内緒ごとがあるって事がバレても、そこで“言えない”って頑張れば良いんじゃないのかな? 言わないっていうのはサ、嘘ついてるってコトじゃあないだろ? そう言ったらサ、サンジが“チッチッチッ”って指を振ってサ、
『今まで黙ってたなんて、あたしを騙してたのねって泣かれちまうだろ?』
 そうなったら困るじゃないかと言いながら、困ってるにしては…妙に笑ってたサンジだったけどもな。そしたらウソップまでが、

  『そうだよな。
   それに、言えないことがあるんだってトコまでバレてたんじゃあ、
   それってもう何割方か“内緒ごと”じゃなくなってるしよ』
  『っ! そうなのかっ!』

 そんなところには気がつかなくってサ。おおって頓狂な声を出したルフィと二人して、内緒って奥が深いんだなぁって唸っちゃったもんな。サンジもゾロも、くつくつって笑ってたけれど。そんな二人へは、
『あんたたちだってこの子たちと大差無いじゃないのよ』
 隠しごとを まんま隠し通せるようには到底見えないわよなんてナミから言われて、ゾロがムッとしてた横で、
『そんなぁ、ナミさんの前では当然のことじゃないですかぁvv』
 ハート型の眸になって、それこそ判りやすくも蕩けてたサンジだったりしたんだけれども。なあなあ、内緒を持つってのは嘘をつくのと、やっぱ一緒なのかなぁ?






            ◇



 のっけから いきなりのように、可愛らしいお悩みというか相談を繰り出して下さった小さな船医さんだったのには、実は実は当然のことながら理由(ワケ)があって。我らが麦ワラ海賊団は、相変わらずに…順調なんだか大変なんだか、三日と空けずというノリで、通りすがりの海賊船に喧嘩を売られたり、海王類に追っかけられたり、バタバタとにぎやかな航海を続けていたのだけれど。彼らを浮足立たせたり引っ掻き回したりするネタには、そういった“外的要因”は必ずしも必要じゃあないらしいから…油断も隙もないというか、大変だねぇというか。

  「…ルフィ? あんた、それどうしたの?」

 あのね、実はチョッパーの方が先にその異状には気がついていたのだけれど。それって“変なこと”ではないのかもしれないって、ちょっと躊躇しちゃったの。それで指摘出来なくて、でもでも気にはなってたから、じぃっとじっと見ていたら、そんなチョッパーに気づいたナミが…その視線の先にいたルフィに声をかけたって順番で。
「それって何だ?」
「何だ、じゃないって。」
 訊いてるのはこっちよと、目許を眇めた彼女の声の棘々しさから、食事時だからとキッチンへ集まりかけていた他のクルーたちもその注意を先に来ていた彼らへと集めた。
「…何だ? ルフィ。その手はよ。」
「手?」
 そっちこそ何を訊いているんだと言いたげな口調で聞き返す船長さんだったが、
「惚けてんじゃねぇよ、不自然だろうが。」
 オーブンへと向きっ放しだったらしいサンジも、今 気がついて怪訝そうな顔をする。というのが、我らが麦ワラ帽子の船長さん、その右手に…布を巻いていたからで。よくよく見れば、何かが入っていたらしき巾着袋を手へとかぶせている模様。
「どういう呪
まじないだ? それ。」
「呪いなんかじゃねぇもん。」
 悪ふざけを指摘された幼い子供のように、むむうと頬を膨らませるところを見ると、みんなを笑わせたくての道化ではないらしく。
「あんた、気がつかなかったの?」
 本人に聞いても埒が明かなさそうだと切り替えて、いつも傍らにいる“お目付役”へと訊いたナミだったが、
「俺が知るかよ。」
 一番最後にキャビンへ踏み込んだ剣豪さんは、今の今まで見晴らし台に登っていた身であり、彼もまた怪訝そうな顔をしているばかり。どこか呑気なそんな問答をしていた彼らへと、

  「まさか怪我をしたとか、そういうのではないの?」

 思えば一番心配しなけりゃいかんことだろう、無難なご意見を下さったのが、考古学者のお姉様。それを耳にして“あわわ…”と慌て“医者はどこだっ”といつもと同じパニックに陥りかかった船医さんをひょいと抱きかかえ、
「ほら、船医さんも心配しているわよ?」
 テーブルの傍らまで運んでやったロビンさん。さっさと席についていたルフィのお隣りへ、ちょこなんと腰掛けさせられ、そうなると…小さいもんだからテーブルの縁から鼻から上だけしか見えなくなってしまうトナカイさんだという様子が、何とも言えず可愛らしかったのだが、それも今はさておいて。
「ルフィっ、怪我してるのか? 見せてみなっ!」
 小さな蹄のついた手を、未だパニック状態にあるらしきノリにて ぶんぶんと振り回すトナカイさんだったが、船長さんの応じは意外にも、

   「…やだ。」

   「「「「「「…はい?」」」」」」

 巾着袋に突っ込まれたまんまのその手を、懐ろへと隠すように掻い込んでまでしてのお断り。
「何だよ、それ。」
「ルフィ?」
「怪我ならチョッパーに見せな。」
「怪我じゃない。」
「だったら何なんだよ。」
「おおお、俺が信用出来ないのかっ!」
「違うって、チョッパー。」
「何がどう違うんだよ。」
 ウチの船の、しかも自分が見込んで連れ込んだ船医を信じられねってのかよと、ウソップとサンジが重なるように問い詰めたけれど、
「見せないったら見せないっ!」
 頑として引かず、妙なところで意固地さを露呈させてる船長さん。搦め手もダメかと舌打ちしたサンジに代わって、
「るふぃ〜〜〜、正直に見せなさい。」
「正直にってのは何だよっ。」
 正確には“素直に”と言うところ、口が滑ったのかなとロビンやゾロが怪訝そうに眉を寄せたが、ナミはお構いないままに、
「隠し事なんてのは一種の嘘だからよ。」
「何だよ、それ。」
「さっきあんた“何でもない”って言ったでしょ? だったら見せても構わない筈じゃないの?」
 すぱんと指摘され、
「うう…。」
 言葉に詰まった船長さんへ、
「でもホントは見せられないのよねぇ? だったら、ほ〜ら、嘘ついたことになるじゃない。」
 だから“正直になれ”って言ってるのよ。そうとまとめて さあさと強硬に迫るお姉さん。意外にも…というか、本人が一番自覚してなかったらしいが、正直者なところが結構自慢だったらしい船長さんに、この言い回しは結構効いたらしく。うう…と唸って“窮地に陥りました”というお顔になったものの、だがだが、

  「ヤなもんはヤだっ!」

 声を荒げてまでというのが、やはり只事ではない証拠。懐ろに抱え込んだ手をもう一方の手で覆うルフィと、どうしても言うことが聞けんのか、こいつわと、こちらも少なからずムッとしたらしいナミが睨み合うその狭間にて、

  「………る、るふぃ〜〜〜。」

 ぐしぐしと。春雨のようなしとしと雨を思わせる、それはそれはささやかな声での抗議が立って。
「な、なでもないなら、見せて、も、いじゃないか…。」
 うぐうぐと…ところどころで涙に呑まれかかるお声も可憐に、信じてもらえてないようと泣き出した船医さんだとあっては、

  「「「るふぃ〜〜〜。」」」

 この場の形勢も一気に傾いて。
“………相変わらず、分かりやすい子たちよね。”
 一番年上のお姉様がクスクスと微笑いながら見守っていると、案の定、

  「………判ったよ、見せればいいんだろ?」

 不本意なんだからなという不貞腐れたお顔のままにてながら、それでも…あっさりと圧しに負けてしまった船長さん。渋々だからか、それとも不器用だからか。少々手間取りながら、右手を突っ込んだ格好になっていた巾着袋を取り除く。やれやれ大騒ぎだったわねと、これで一件落着も同然だと思っていた面々は、そこから現れたものに…ますます怪訝そうなお顔になってしまったのだった。


  「………るふぃ?」
  「何だよッ。」
  「それって…何?」
  「見て判んねぇんなら、言っても判んねぇんだろうよッ。」
  「何よ、それ。」


 言い方の乱暴さにムッとしたナミが、船長さんのよく伸びる口を左右に“むに〜ん”と思い切り引っ張ってやっていたが、
“確かに、船長さんの語彙で説明されて判るなら、その前に見て判るわよね。”
 ルフィにしては無駄のない謙虚な言い方をしたもんだと、妙な感心をした考古学者のお姉様。それもその筈で、巾着袋の下から出て来たのは…小さな壷に突っ込まれた右手だったからだった。





            ◇



 何がどうしてこんな“箱の中からまたもや箱が”という、包みのマトーリョシカ状態になっているのか。
「あんたが見せたくなかったのはこの壷なの? それともこんなことになってしまってるっていう情けない状態を、だったの?」
 どっちにしたって、成程、見せたくはなかったんだろうねと、ある意味、さっきまでのルフィの頑なさへの納得は行った皆様だったのだけれども。
「〜〜〜〜〜。」
 ますますのこと、むうと膨れたルフィであり。
「何よ、そんな顔して。」
「だってよ…。」
 むうとしたまんまなお顔を上げると、

  「人が困ってるのによ、何でそんな偉そうに怒ってんだ? お前。」
  「………え?」

 膨れながらも大きな眸は…ちょっとばかり潤みかかっていたもんだから。ついつい上から押しかぶせるような言いようをしていたナミが、不意なご指摘にあって“うっ”と口ごもる。確かに…ここまでの話運びとしては、無理から恥部を晒させたようなものではあって。なのにこんな風に責め立てては、ますます居丈高に嬲ってるようなもんかもねと、ストレートに胸を衝かれたらしい、ホントは心優しき航海士さんだったのだけれど。

  「逆ギレしてんじゃねぇよ。」
  「…っ☆」

 お前が何かおいたをしたから、若しくは先程まで意地張って隠し通そうとしていたから。そんでナミさんはお怒りなんじゃねぇかよと、両手がランチのトレイで塞がっていたから、ご自慢の“踵落とし”で船長さんにお仕置きをしたシェフ殿で。だがだが、
「………サンジの馬鹿。」
「…っ、んだとッ。」
 テーブルにお顔を突っ伏したまま、ぼそりと呟いたルフィに…今度はシェフ殿が。ムッと来つつも、その内心をぐさりと貫かれていたりする。いつもだったら、このノリのまま“ごめんなさ〜い(チャンチャン♪)”で済んでいた、立派な“仲裁方法”だったのにね。困っているのに蹴ったとばかり、口許を歪めてしまったルフィだったから始末に負えない。どうやら今日の船長さんは、その身に受け止めた事象や言動へ、日頃とは真逆のスイッチが入るような心持ちになっているようで、

  「…そ、それよか、その壷だ。」

 何だか剣呑な空気に成りかねないのを何とか拭い去ろうと思ったか、ウソップが頑張って皆の注意を現状の中核である“元凶”へと引き戻した。
「…だよな。」
「そうそう、壷よ壷。」
 テーブルに置かれた手…を覆うように飲み込んでいる、ルフィ本人の拳と大差無いくらいだろう大きさにして、控えめな彩色の施された陶器の小さな壷。まるで彼の手首から先は元からこうだったのだと言われても不思議では………。
“不審だぞ、思い切り。”
 あやや、剣士さんに先んじられてしまいました。でも、大きさのバランスは十分そうと思わせる代物であり、
「だからこそ、抜けないのでしょうね。」
 冷静になって見れば答えは簡単で、ルフィがその手を突っ込んだまでは良かったが、サイズが微妙だったせいで、どういう案配からか引き抜けなくなったと…。

  「………そういうことになるのか。」
  「そうね。」
  「そっか…。」

 少々揮発性の高いムードに包まれかかっていた場だったが、冷静になって分析し把握した“現状”と向かい合って見れば“そういうこと”であり。

   「〜〜〜〜〜〜」×@

   「何だよ、笑いたきゃ気兼ねなく笑えば良いだろっ!」

 そっか。滑稽なことになったという自覚はあったのね。だから、お呑気な彼には珍しくも先に逆ギレしていたと。むむうと頬を膨らませる船長さんに、
「ご、ごめん、ルフィ。」
「これは自分に笑ってんだから気にすんな。」
 ムキになって怒ったりした自分が可笑しいだけだから、そうよ、あんたを笑ってんじゃないんだってば、と。なかなかにお気遣いいただきつつも、あんまり居心地は良くない苦笑の中に据え置かれ…10分ほども経ってから。

  「で? 何でまた、そんなややこしいことになってんだ? お前。」

 まだ突々けば笑い出しそうな状態だったが、そんなことよりも。やっぱり珍しくも“困っている”と自分で口にした船長さんなだけに、早く取ってやらなけりゃ、そうして彼にとっても笑い話にしてやらなけりゃと、あらためて訊いたところが、

  「………。」

 おやや、また黙んまりですかい?
「何よ。大方、アメでも入ってないかって手を突っ込んだら抜けなくなったっていうんじゃないの?」
「そんなんじゃねぇッ。」
 間髪入れずというお返事であり。だったら…何で? 少なくとも誰かに無理強いされてこんなことになった訳じゃあなかろう。頭数の極力少ない顔触れたちなのだから紛れようはないのだし、素っ惚けたってすぐにもバレる。態度を読むのに長けている大人な顔触れにはこんな下らない悪戯を仕掛ける者はおらず、日頃からお調子者で悪戯も好きな顔触れはこういうものへこそ嘘がつけないと来て、
“やっぱり…。”
 自分で悪戯していて抜けなくなったってトコなんでしょうにね。それが恥ずかしい彼なんだろうと、何でこうなったのかへは“そういうところか”と目串を刺して、
「…ま、言いたくないならそれでも良いサ。」
 唇の端で軽く挟んだ煙草をくゆらせながら、サンジがそうと言い、
「そういうこったな。」
 大きな背中をゆったりと壁に凭れさせていたゾロはゾロで、胸高に組んでいた腕をほどいて身を起こす。妙に落ち着き払っている麦ワラ海賊団の双璧コンビ。表現体的なタイプはともかく、結構遠くまで見越せる視野を持ち、忍耐強く、懐ろだって深いくせして…いざという時には気が短かったり、瞬発力に頼って一気呵成に畳んでしまおうと構えたり、傍から見てると立派に似た者同士でありながら。だからこその“同類嫌悪”という代物か、片やが何か言い出せば必ず片やが突っ掛かるような人たちだのにね。戦闘中以外で気が合うなんて、これはまた珍しいことがあったもんだと、ウソップやチョッパー、ナミやロビンまでもがキョトンとし、丁度その二人に左右を挟まれる位置取りになっていたルフィが…こちらさんは動物的な勘からか、嫌な予感へギョギョッとしながら二人を交互に見やっていると、

  「「要は、叩き壊しゃあ済むことだろうがッ。」」

 高々と振り上げられたは、シェフ殿の御々脚と剣豪の和道一文字(峰側)。その二つが勢い良く落下しようとしていた先にあったのは、テーブルの上へ置かれていた“船長さんの右手 in a vase”であり、

  「………えっ? うわわっっ!」

 ちょっと待てと。手を引っ込めようとしたルフィのゴムつき反射も及ばないかという、電光石火の早業だったが、

  「ちょぉっと、待ったっ!」

 今にして思えば、ゾロもサンジも手加減足加減はしていたのだろう。中に収まっているルフィの手にまで危害を加えては何にもならないからで、とはいえ…ゴムゴムの実の能力から打撃系統の攻撃は効かない船長さんなのだという事をうっかり考慮していなかったのは、数々の戦闘シーンを丸腰のまま掻いくぐって来た彼を良〜く知ってる双璧だったから。あれで自己防御への反射は素晴らしい船長さんなのだということも織り込み済みであり、だからこそ、雑念無用、逃がすもんかいと。最後の皮一枚を躊躇なく引き千切って虫歯を抜く時のよに、突発的な勢いの中で片付けようとした二人だったに違いなかったのだが、だが…しかし。

  「どわっ!」「ナ、ナミさん?」

 そんな瞬殺レベルの双璧の攻撃の前へ立ち塞がったものがある。ドカッと、小気味の良い音を立ててテーブルにつき立てられたは、こちらも素早く組み上げられた三節棍。ルフィの手の向こうへと先を衝き、そこから斜めに指し渡されたクリマタクト自体には、そんなにも強度は無いのだけれど。ルフィのためにと構えられた“手加減”が働いての急ブレーキがかかったらしく、サンジの踵落としもゾロの剣撃も寸前にての急停止。
「何すんだ、危ねぇな。」
 剣豪の憤慨のお声を頭から無視し、良くぞ止まったと胸を撫で下ろしたルフィの腕をむんずと掴むナミであり、
「ななな、何だよ、ナミ。」
 一難去ってまた一難。あんまり触れられたり見られたりしたくないらしき船長さんが慌てふためきかかったが、

  「じっとしてなさいっ。」
  「………はい。」

 鶴の一声で ぴしりと言われると、さしもの1億ベリーの賞金首も形無しで。硬直したよに姿勢まで正してしまうから、
“あらあら…vv”
 可愛らしいことねと、ロビンさんがくすくす笑う。ルフィのみならず、釣られたかそれともこれも条件反射か、チョッパーやウソップまでもが背条をピンと伸ばしてしまったのだから、これはやっぱり笑える情景には違いなく。そんな緊迫の場面の只中にて、ナミが何でまたあんなにもスリリングな“待った”をかけたのかと言えば…。

  「…やっぱりだわ。これってルキュイの壷よ。」

 小さな壷の底を眺めていた航海士さんは、幼い頃からつい最近まで、已にやまれぬ事情があって泥棒稼業に手を染めていて。そんなせいでお宝を見極める鑑定眼と知識は、そこいらの専門家も裸足で逃げ出すほどの凄腕なもんだから、
「ほら、この羽根ペンを“X”に重ねたマーク。これってルキュイ社の初期のブランドマークでしょ?」
「そうね、間違いないわ。」
 ナミが話を振ったこちらさんはといえば、やっぱり幼い頃から追われる身だったため、海賊や犯罪結社などという“裏世界”をその才知と悪魔の実の能力とだけで渡り歩いて来たお姉様。よって、考古学者としてのそれ以外にも知識は豊富で、
「初期の製品にこんな小さなものは珍しいから、そうね、国を買えるほどとまでは行かないけれど、50万ベリーは下らない逸品だと思うわ。」
「50万ベリーっ!」
 きっと先日襲い掛かって来た海賊から“貰った”中にあったのね、さっきの巾着袋もセットになっていたのなら、ただの壷じゃないって、財産価値があるものだって、ちゃんと判ってた彼らだったんでしょうよ。こちらも麦ワラ海賊団が誇る、最強のブレインたちが妙にはしゃいでいるのが…こっちには何とも不気味で。腕を掴まれたまんまなルフィが冷汗をかき、姿勢が良いままなウソップがそんな様子を横目で見やり、

  “これはもしかして…。”

 話の雲行きを察して、サンジが新しい煙草に火を点け、ゾロが眉間の皺を尚のこと深めて見せる。何? 何?と落ち着かない様子でそんな皆を見回すチョッパーの頭上にて、
「50万ベリーとなると見過ごすことは出来ないわ。」
 ナミのお声がそうと告げ、

  「い〜い? その壷は決して壊さないで。そのままで外すことを検討しましょ。」

 だってルフィの手が心配なんですもの、とんだ災難だったわね、でももう心配は要らないからねと。その大きな魅惑の瞳に…ベリーマークを大きく浮かび上がらせたまま、にぃっこりと笑ったお嬢さんであり。

   “………判りやすい奴。”

 口に出してはいなかったのに。かてて加えて、感情や表情を消す術には長けてる剣豪さんだったのにね。風や波だけでなく、人の心まで読めるらしい航海士さんから、しっかりと拳骨を落とされていたから………お気の毒。
(苦笑)

  「さぁさ、どうやって外すかを考えることにしましょうよ。」

 極上の微笑みでにぃ〜っこりと笑ったナミだったけれど、究極のフェミニストな筈のシェフ殿がついつい視線を逸らしたほどだったのだからして………推して知るべし、でございます。








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  *カウンター 167,000hit リクエスト
     peco様『船医さん視点から、トラブルに巻き込まれる麦ワラ海賊団』

  *大したトラブルじゃなくてすいませんです。(うう…)
   ただでさえシリアス苦手なところへ持って来て、
   お笑いに走ってしまう周期にあったらしくて………。
   もちょっと続きますので、しばしお待ちを。