天上の海・掌中の星

     “お花見に行こうvv”



「ポテチよ〜し!」
「ポテチよ〜し!」
「ポッキーよ〜し!」
「ポッキーよ〜し♪」
「サブレよ〜し!」
「サブレよ〜し!」
「東京バナナよ〜し!」
「東京バナナよ〜しvv」
「エアリアルよ〜し!」
「えあ…? 何だそれ?」
「おう、これだ昨夜開けたのがあるぞ。食え。」
「んまぁ〜いvv」

ちょっぴり寒くて、花寒というより寒の戻りぽかった数日を抜ければ、
やはりやはり前倒しの感が強い、
この春、新年度の始まりで。
列島の各地で桜が咲いたとの知らせが飛び交い、
気の早い顔ぶれが
まだ開花宣言だというにもう花見じゃと徹夜でシートを広げて
見回りのガードマンさんに叱られてみたり。
なんたらミクスと政治家さんは言うけれど やっぱり景気はなかなか良くならない中、
それでも特別な日のご馳走だけはいいものをと、
ちょっと贅沢な花見弁当を頑張ったり。
日本の桜はさながら熱病みたいに人々を浮き立たせる効果があるらしく。
食事も睡眠さえままならぬほどお忙しい人でさえ、
思わぬ拍子に視野に入った桜花についつい声なく見とれる麗しさなのだから、
これはもうしょうがないのかも。
そんなまで切実な大人ではないお子様は尚更に、
心浮かれてのお祭り気分にもなろうというもの。
こちら、某都内のお宅のリビングでは、
お子様二人でのお菓子の荷造りがそりゃあ賑やかに始まっており。
商標登録名が聞こえるのは、まま気のせいということにしてください。(おいおい)

「ルフィはともかく、チョッパーは実は大して量はくえんから無茶はさせんでくれな」
「さぁな。まだ食いたいってのを止めるのは野暮だろう。」
「だから、加減ってのをだな。」

ダイニングとの仕切り代わりになっているカウンター越し、
大人の二人が坊やたちのはしゃぎようを見やりつつ、
こちらのお立場なりの意見交換をなさっておいで。

「さて。メインの弁当はこんなもんか。
 エビとアボカドのカナッペ風オープンサンドに、
 花見団子に 錦糸玉子でおおった海鮮ちらし、
 道明寺タイプの桜餅に 梅七号鶏の唐揚げ。
 ポテトサラダに 切り口が桜模様の細工巻き寿司。
 ぷりぷりエビチリに ジュ―シーな椿十四号豚のヒレカツに、
 風味の良い 雪華六号のローストビーフ、
 ミニ揚げ春巻きに出汁巻き卵。
 練り天の甘辛煮に、インゲン豆とニンジンのあぶらげ巻きに、」

「肉巻き握りはないのか?サンジ。」
「飯ものだらけになっちまおうが

途中でこちらへ気づいて寄ってきたルフィが、
狭くはないカウンターに広げられたお花畑もかくやという豪華ランチを
わあと見まわしつつそんな合いの手を挟んで来て。
豪傑ぶりは今更だが、そんな炭水化物ばっかじゃ偏るだろうがと、
細い眉をしかめたシェフ殿、
食いしん坊な腕白さんへもう一つ釘を刺したのが、

「スイーツには別腹作れても サラダはめっきり残しやがる。
 今回は大して入れてねぇんだ、チョッパーに押し付けんじゃねぇぞ?」

「善処します。」

ところでところどころに番地みたいな名前が入ってたのは…、
おう、肉の銘柄だ、随分と希少なのも入ってるぞvv と。
自信満々な仕上がりへ胸を張る天界のシェフ殿だったりし。
会話だけだと
そうは言っても一品につきちょろりと二切れ三切れずつ程度、
お節料理のような盛り合わせだろと思われるかもしれないが。
とんでもないない、
それぞれがちゃんと数人分の一品料理として呈して十分な
結構なボリュームでもあるから恐ろしい。
そんな特別なお弁当を提げ、彼らが向かうは
そっちも特別な大桜、
南の聖宮、別名“天炎宮”ご自慢の、
途轍もないスケールの大きな大きな大桜、
命の泉を守っているともいわれておいでの伝説の大樹を見物しに向かう彼らであり。

「ドエドエフスキー・平賀Jr.を回してやっから、
 乗せてってもらえな?」
「おうvv」

サンジが口にしたのは彼の屋敷で飼われている
天界所属、空飛ぶ聖獣わんこのことで。
詳細は『
花守の座にて』を再読いただけるとありがたい。(こらこら)
天界もお天気は良いようで、
お花見お花見と浮かれておいでの子供らへ、
微笑ましいとどこか一線引いてるような口調でいる金髪のお兄さん。
今になってそうだと気づいたか、
破邪殿がそれは手際よく、
コンテナですかと問いたくなるよなでかいキャリーへ
タッパウェアに詰められた料理の数々をしまっているのを眺めつつ、

「サンジは行かねぇのか?」

一応は訊いてみたところ、

「子供のお守はなぁ。」

肩をすくめてゆるゆるとかぶりを振り、
いつものチョイと小粋な所作、紙巻きタバコに火をつけつつ、
そのまま宙へと姿を溶かし込み、そそくさと去って行ったお兄さんだったりし。

「むう。たくさんで騒ぐ方がおもしれえのによ。」

付き合い悪いなと膨れるルフィに気を遣ったか、
チョッパーが小さな蹄を振り振り 声を上げる。

「何だったら他のわんこも呼ぶか?
 あ、そだそだ、厩舎番の兄ちゃんが面白くてサ。
 何か知り合いがルフィのこと知ってるって話で…。」
「そいつはやめとけ。」

いったい何を思い出したやら、
そこへはすかさず、ゾロからの待ったがかかったのがご愛嬌。(笑)
相変わらず、子供の相手なんぞという言い方をするサンジだが、
そうと言いつつチョッパーやルフィに結構手を尽くしてくれてるのも事実であり、

「花見は苦手なんかな?」

そこのところの矛盾へと
カックリコと小首を傾げるルフィの様子へ、
同じように首をかしげかかったトナカイの聖獣さんだったものの、
何を思い出したのか、小さなお手てをポンと打つ。

「あ、もしかして桜から花粉攻撃受けたからかな」
「え?」

チョッパーが思い出したのは、
ちょっとだけ、でもでもまだ子供の彼らには随分前のお話らしく。

「随分昔になるけど、皆でお花見にって大桜まで行ったとき、
 サンジにばっかり花粉が吹き付けてさ。」

風もないのに、それもサンジにばっかりってのが不思議で。
とはいえ、凄い勢いの花粉だったんで、
他に招いてたお客もあった席、
仕方がないとサンジだけ早々に館へ戻ることとなってしまったとか。

「あとでゼフ様が言ってたのが、
 もしかしてハムの燻製づくりをずっと任されてたんで、
 桜のチップの匂いが濃くついてて、
 そこを桜に睨まれたんじゃないかって。」

それはそれは厳かに語られたのを、一応はかしこまって拝聴したルフィだったものの、

「…そういうもんか?」
「よく判らないけどな。」

他でもないゼフ様のご意見だし、
オレはあくまで聖獣で、植物の精霊の気持ちは表立ってないと読めねぇしと、
腕組みをしつつうんうんと、いっぱしな態度で頷いて見せる使い魔さん。
なので、
ルフィもまた“そういうものなのか”と納得しかかったものの、

「あ。でも、俺もこないだ行ったとき桜餅たんと食ったぞ?」
「お?」

サンジ謹製の、ちゃんと桜の葉で巻いた、今回も用意されてる美味しそうな桜餅。
それにそれに、料理の中にはハムやソーセージもあったと思うぞと、
今になって思い出す。
桜のチップで作ったことが判るくらいなら、
作られたものがご馳走として持ち込まれんのも腹立つもんじゃなかろうかと、
なのに、こちらには何の攻撃もなかったの、変だどぞれと思いついたらしい坊ちゃんで。

 「確かになぁ。」
 「出来上がったものへは美味いぞって褒め言葉がかかるから、
  それでいいんじゃね?」
 「第一、そのチップとやらにしても、
  あの桜の木から取ったもんじゃなかろうに。」

花粉攻撃なんて能動的な反撃が出来る掟破りの桜なら、
その身を削るような不埒な行い、まずは許さないだろし、

「その前に南聖宮の天使長、くれはさんが黙っちゃいまい。」
「そだぞ、怖いぞ、ドクトリーヌは。」

チョッパーは判るが
ゾロまで、なかなか本気の顔で恐ろしいぞと語るほどだから、
どれほどの存在かはルフィにも知れて。

 “そっか、気さくなばあちゃんだってだけじゃねぇのか―。”

おいおい。(笑)

 「となると」

ルフィへはお咎めなしだったというに、
サンジへはなかなか近寄りたくなるよな扱いの差があるのはやはり。
……誰も口にはしなかったれど、

 そこはやっぱり人柄の差かな、と。(笑)

そういう結論に落ち着いてしまっていたりして。

 “…もしかして女の精霊なのに粉かけても来ないのを、
  こんの鈍ちんって恨まれてるとか?”

こらこら誰ですか、これは。




    〜Fine〜  16.04.03.


 *桜の精は女性とされる一方で、
  私らの世代だとあの吉田秋生さんの有名な作品に出てくる
  “桜の木の精って男なんだって”がつい頭に浮かびます。
  あれはお話の舞台が女学園だったから、
  彼女らを守る存在としてそう言い伝えられていたのかも知れません。
  そも、植物なので両性具有か、
  いっそ性別はなしというのが近いのかもしれないですね?

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