天上の海・掌中の星

     “サクラサク”


年度と年度の丁度境目であるが故、
それが高校生でも小学生でも、唯一宿題の出ない長期休暇が春休み。
当たり前な話じゃあるが、
だからと言って何もしないで過ごしておれば、
いざ授業が始まっても机につくのが億劫になりかねないし。
全員不公平無しで同じスタートラインへ着く新学期なのに
そんなつまらない理由で出遅れちゃうのは勿体ない。

「ってことからか、
 進学塾のチラシが郵便受けに たんと入っとったぞ。」

学齢の子供がいる家とか結構判るもんなんだな。
いや、ウチの子は高校生だから
読み間違っとるぞ、此処のとココのは…なんて。
天聖界の重鎮、最強の破壊神と守護神たる二人の男性が、
この家の一人息子さんへのそれだろう
勧誘のチラシをダイニングテーブルに広げて取り沙汰しておれば、

「なあなあ、サンジ、これ何て読むんだ?」

当のご本人がリビングからやって来て、
情報誌を開いて何かしらの記事の中ほどを ここだここと指差すものだから、

「俺らは地上の印刷物は基本読めないと言っただろうが。」

ずぼらしないで辞書を引けと、
坊やの机から亜空経由で引っ張り出したのだろう、
手元の宙から新品同様な辞書を取り出してほれと手渡す聖封さんで。

「え〜、サンジもなのか?」

途端にルフィが不満げに口許をとがらせる。
シリーズ二話目の『
晩夏黄昏』 の二章にて
ゾロが口にする格好で早くも浚っていることだが、
こちらのお兄さんたち二人は、地上の言語への接しようがやや微妙。

『俺がどんだけの人種や生き物たちと関わってると思うよ。
 世界中の、方言や部族特有のまで合わせたら
 下手すりゃ国の数より多いかも知れない何百種類もの言語に、
 いちいち通じてられっかい』

という背景を負っているからと、
読み書きが出来ぬことを大威張りで表明しておいで。

『見ただけ聞いただけでゾロの使ってる言葉へ変換されてしまうとか、
 するんじゃないかって思ってた』

ルフィさんが思ってた形式もあながち間違ってはおらず、
向かい合っている相手の表層思考が拾えるので会話には不自由はしないし、
書いた人物の意思がそのまま染みている直筆文書や、
誰かが熟読したらしい書物なら、
ぎりぎりその人の思いが宿るため これもクリアできるのだが、
味もそっけもない印刷物の活字は、
残念ながらただいま鋭意勉強中のお二人なので
そんな中の“難しい字”が読めようはずはなく。
よって、いかにも子供子供したルフィさんに教えてと訊かれても
そうそう期待に添うてやれない身。
人間の世界では、どこまでも遠くへ足を延ばせる運輸交通の術よりも、
印刷という意思伝達の技術の方がより早く深く発達したのが、
天世界の方々にすりゃあ大きな誤算というやつだったようで。

「大体、イマドキの言い回しとかじゃあ
 判らなくたってしようがなかろうよ。」

と、これはゾロの方が口にしたお言いよう。
若い子の珍妙奇妙な省略語や暗号みたいな記号語なんてのは、
同じ日本人のおじさまおばさまでも理解不能なのだし、
日常で使う程度の言語なら何とか読める。
売り出しのチラシなら、不自由なく制覇できるようになったぞと、
先程買い出しに出たスーパーで、
お買い得の洗剤をきっちりゲットしたのテーブルへと並べた彼だったが、


  何かウチのゾロルは時々方向を見失ってませんか?
  ご意見ございましたらWeb拍手まで。(こらこら)


冗談はともかく、
今時よく耳にする“忖度”の読みと意味が判らなかったらしいルフィさんが、
何とか辞書で意味を把握し、
実は補習の取材だったんですよと、
学校の現国のノートへ書き付けているのを見下ろして。

「…活字は読めねぇのにコレは難なく読めるってのは、
 果たして胸張っていいことなんだろか。」

何ともくすぐったげに、恐らくは内心楽しそうに口にしたゾロが
難なく読める“コレ”と差したのは。
どんな速記か、はたまた乱視かと目を細めてしまいそうな
くちゃりくちゃりともつれた糸で紡がれた、
ルフィの手による、お見事な前衛文字の羅列だったりするのである。





おまけ

Q;野菜が嫌いな誰かさんが、
  付け合わせにとほうれん草だのピーマンだの育てている家庭菜園を
  微妙に故意っぽく踏み散らかすのを予防するにはどうしたらいいのでしょうか。

  「黒須先生が、
   物理や数学の参考書を吊り下げとけば結界効果が働くのでは?と言ってたが。」
  「その前に生存本能とか拒否反応が働いて叩き落とすんじゃね?」

  「失敬だな、二人とも





    〜Fine〜   17.04.02.


 *一カ月ぶりですね、ごめんなさい
  東京では早咲きの桜がもう満開だそうで、
  今年もまた入学式のころは葉桜なんでしょかね。
  じっくりと眺める機会がここ何年か減ったので、
  通学路や近所の公園に見事な樹があった、昔住んでたとことかが懐かしいです。
  そんな中、何のこっちゃなお話ですいません。
  ウチの小さい方の姪の小姫さんがこの春から小学生で、
  周囲が時計の読み方とかひらがなとか教えまくっておりまして。
  それに触発されました。(ウチのルフィって幾つなんだ。)

ご感想はこちら めるふぉvv

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