終章
選りにも選って、陽界の住人、人間の“召喚師”などというややこしい要素がからんだがために。陽世界からの引きが絡んだことで微妙に強さを加味されていた相手に、良いように掻き回された格好となった騒動で。ルフィが虜囚となってしまうわ、その揚げ句にはまんまと相手の“寄り代”にされかかるわ。負の陰体には絶対的に最強な筈の“淨天仙聖”の聖護翅翼まで もぎ取られ、今度こそは絶対絶命かと思われた大ピンチに見舞われてしまった彼らであり。そんな途轍もない土壇場を、それでも何とか切り抜けられたはしたものの。問題なのは、一体何がどうしたんだかが不明なままだということだ。ルフィを取り込んだことで陽世界へ飛び出せる身となっていたからか、最後の切り札だった“聖護翅翼”に自ら手をつけることが出来たのみならず、それを力任せに引きもいだ とんでもない邪鬼であり。万策尽きた彼らが“もはやこれまでか”と絶望しかかっていたところで起こったのが…大妖邪鬼の自己崩壊。そしてそこから、ゾロが奪われた翼を大切そうに抱えて出て来たルフィであり、
――― もしかして、これって。
ルフィが自分で頑張って、自力で戻って来たということではないのだろうか。だったとしたなら、破邪様、以降はお役御免でしょうか。おいおい そういった“真相究明”は、だがしかし、しばし待たれい。
◇
「…っ! ルフィさんっ!」
何せ突然に何者かによる封咒結界の虜囚となってしまったルフィであり。その周囲に暗示結界を張った上で、頼もしい破邪と聖封の二人が彼を救出するべく“いざ出陣”と相なった、舞台の袖の仮楽屋にて。床から突き上げて来ていた光の柱の中で、まるで人形のように堅く凍っていたルフィの姿が、不意に見つめていられないほどの強い光に包まれてからそのまま宙へと掻き消えて。ああどうしようと慌てかけたものの、次々に無事な姿を現した面々だったので。ただただじっと待ってたビビが、感極まったお声を上げて“お帰りなさい”とルフィに抱き着いている。いざと出発して行ってから、こちらの世界で経過した時間は…ほんの数十秒。そうまで短い間合いのことだったらしいけれど、それでも。彼女にしてみれば何にも状況は見えないままだったのだから、生きた心地がしなかった“待機”であったことだろうし。そもそもルフィの護衛が任務だった彼女であり、自分が一番の至近についていながら…という想いも、少なからずあったに違いなく。待っている間のずっとずっと、胸を引き裂かれそうなほどの自責の念のようなものが、その身に重くのしかかってもいたことだろう。
「良かった。本当に良かった。」
今にも泣き出しそうなほどに、嬉しくて嬉しくてしようがない彼女からの熱烈な抱擁に遇って、だがだが、
「ふにゃ…。ビビ、なんか恥ずかしいぞ。///////」
ルフィは頬を真っ赤にして面食らっている模様。綺麗なお姉さんの柔らかい懐ろに掻い込まれるだなんて、そうそう体験出来ないことだから。そこはお年頃の青少年らしく、どぎまぎしてしまったものと思われる。そんなところへ、
「あ、ルフィくんってばこんなトコにいた。」
舞台から様子を見に来たらしき、クラスメートさんたちが顔を出し、
「早くおいでっての。舞踏会の幕は上がってるんだよ?」
「そぉそ、早く舞台に出てってば。」
そうでした、随分と時間が挟まっているが(あはは)、寸劇の方は見せ場が残っている真ん中辺り。ルフィの出番だってこれからこそ多い。あんなドタバタの後ではあったが、これもまたしょうがない運びであって、気分が悪いからって早退する?と、さりげなく訊いたビビに首を振って見せ、
「大丈夫。ゾロもちゃんと残りの劇、見てけよな。」
ガッツポーズを取ると、お元気な声で笑って見せた坊やだった。
その一方では。体育館外で待機していた たしぎのところへと大急ぎで撤収していたコウシロウさんとサンジとが、あのまま放り出しとくのも何だからと連れ帰った、武具屋の若旦那を前に思案中。突然増えた頭数に、当然のことながら たしぎさんもちょっとビックリしたようだったが、
「…そうなんですか。そんな偉い方の…。」
彼女自身がルフィの遠いご先祖様の誰かのどうやら生まれ変わりらしく、前世を覚えている訳ではないながら“親戚のお姉ちゃんに似てるっ”とさんざ騒がれたのを擽ったくも覚えているので、そういうことだってあるんだという理解は追いつく。コウシロウさんの姿は当然構内でもお見かけしていたから、どんな人柄のお人かも知っており、
“そういえば、ルフィくんがやたらと懐いていたわよね。”
ウソップが“ゾロさんに妬かれるぞ”なんて心配するほどでした、はい。(苦笑) そちらへの納得はついたとして、さて。
「この人が今回の?」
気持ち良いほどすっかりと。意識を失ったままな男性が、色づいた赤い葉に梢を覆われた桜の木の根元に凭れるように座らされていて、
「ええ、そうなんですよ。」
学内で見かけたことがない訳ではありませんが、業者さんとしておいでになっても不思議のない人ですしねと、コウシロウ先生が苦笑をし、
「恐らくは、ルフィが通ってた中学も得意先だったに違いないからね。」
サンジがそんな一言を付け足した。先の“黒鳳凰”騒動があった折の余波を感じ取り、その中心にいたのがルフィだと短期間で割り出せたのは、そういう接点があったからでもあろう。
「それで、どうします?」
大した力もなかったくせに、よくもまあこんなにも大変な騒ぎを起こしてくれたわよねと。他でもないルフィを巻き込んだことへ、これでも彼女なりにかなりお怒りだったたしぎ嬢。きついお灸を据えてやるのなら是非とも参加したいと言わんばかりの、怖いお顔をしていたが、
「今回の騒動に関する記憶は全て封じた。」
けろりと言われて、
「封じた?」
「ああ。次に目が覚めた時にはもう、こいつは今回の騒動も、その前の…召喚師なんざやってたことさえも、すっかりと忘れていることだろうさ。」
今から、彼がネットに上げてる妙なサイトを消したり何やを手掛けなきゃいけない、面倒な作業だがこれも仕方がないと、金髪痩躯の聖封さんが小さく苦笑し、私もお手伝いしますよと黒須先生が微笑ったものの、
「そんな軽いもので良いのですか?」
抹消した訳ではないという処置が少々解せなかった彼女であるらしい。だってこいつのそんな勝手で、自分たちは散々引っ張り回された。しかも勝手な思惑から標的にされたルフィは、あわや生命の危機とまでの目にだって遭わされた。それほどの大罪だのに“お咎めなし”に近い処理だなんて、何だか割り切れないと思ったらしく、
「それに。そんなロクでもない記憶、消してしまった方が良いんじゃありませんか?」
まさかとは思うけれど。また同じことを繰り返さない保証はない。
「人の記憶はあまり外からいじらない方が良いんだよ?」
関係のないところまで侵食したりしかねず、影響が出ないと言い切れない危険なこと。
「ですがっ。」
そのくらいは百も承知。それでも…そのくらいは罰としてその身に受けても当然だろうと思ったたしぎであるらしい。それへと、
「こいつが憎ったらしいとか、こうまでの悪さをしたのにと義憤が黙ってない たしぎちゃんの気持ちは分かるが。」
サンジがその端正なお顔を柔らかくほころばせる。真っ直ぐな気性の正義漢。今時珍しいほどの一本気で、恐らくは無垢な純情さの裏返しでもあろうと思えば、何とも微笑ましかったのだろう。だが、
「残念なことながら、
俺らは人間に対して正義の鉄槌を下すような、お偉い立場には無いからな。」
「…あ。」
確かに。陽界に はみ出して暴れる邪妖を誅し、これを浄化封滅するために立ち働いている彼らではあるが、悪行を為した人間をまで成敗する権限はない。自分で、若しくは同じ人間が正すのを見守るのが、彼らの人間への対応に於ける一応の原則であり、
「確かにな。こいつの本性みたいなとっから発してる代物で、金と暇があったら、またぞろ懲りずに似たようなことを始めそうなロクでもない奴みたいではあるが。」
だからこそ こうした方がいいと、コウシロウさんからの助言があったのだそうで、
「性懲りもなくまたこんなことを企てようものなら。」
その時に初めて蘇る“恐怖の体験”という格好にて、今回の顛末がその深層心理下へとプログラミングされているのだとか。
「消してしまっては、それこそいつかまた、まったく同じ過ちを繰り返しかねませんからね。」
それはそれは穏やかに、にっこりと笑った先生だったが、
“…そっちの手の方が凶悪なんでは。”
そうかもしれないね、たしぎちゃん。(苦笑)
◇
さてとて。前半は楽チンだった分を相殺するかのように、台詞も結構多けりゃ、舞踏会に潜入していた刺客との剣劇もありという、盛り上がり場面満載な展開のクライマックスを。起きぬけにしてはなかなかの熱演にてルフィが見事に演じ切った寸劇は。観客総立ちのスタンディング・オベーションとなったほどの大好評を博して、何とかその幕を下ろしたのが………お昼前。午前最後の演目だったのを筆者も慌てて確かめたほどに、長い長い時間を費やした“数十分”であり。(苦笑) 舞台の大成功に皆して興奮し、打ち上げまで待てないぞ、今からどこかへ繰り出そうかなんて話が盛り上がってたところへ、
『ごめん。ちょっとな、家に親戚の人が来てるらしくて。』
そんな誤魔化しをし、しかも黒須センセーが“それは早く戻ってさしあげなきゃね”と後押しをして下さったので、そのまますんなりとお家に戻れたルフィとその後見の皆様方であり。
――― さて。
もしかして、今回の騒動の顛末って。ルフィが自分で頑張って、自力で戻って来たということではないのだろうか。だったとしたなら、破邪様、以降はお役御免でしょうか。
“…まだ言うか。”
だったらこれでシリーズものが1個減るということかなぁ…。あ、いや、そんな魂胆はこれっぽっちもありませんが。(ひやひや)
「御馳走様でしたvv」
お家に戻って、まずはとサンジさんが美味しいお茶を淹れてくれて。お昼時だからと、持って行かせたお弁当とは別に何か温かいものでもと、具だくさんの かやくうどんを手際よく作ってくれたのへ、こちらもお元気に箸を動かし堪能したルフィが、うっとねと思い出しつつ語ってくれたのが、
「最初の方は何にも覚えてないんだ。」
衣装のエプロンみたいなのを皆に着せられて、その瞬間から何か記憶がはっきりしなくて。それから、ふっと目が覚めそうになったから“ああ、今まで寝てたんだ”って思ってさ。そいでな、
「何だか暗いなって思った。それと、誰かの気配もしたんだけど。何だか重苦しくて、名乗りもしないままで べったりくっついて来ててサ。こんな奴 嫌いだって、ゾロに逢いたいようってそう思って。」
さすがにご本人を前にして、しかもサンジやたしぎさん、黒須先生というオーディエンスもいる場でというのは照れるのか、ふににvv ///////と真っ赤になった坊やであり、
“そりゃまあ、全部を話してって言ったけど。”
そこのところは曖昧に暈してくれても良かったのにねと、堅物なたしぎ嬢が微かに笑ってしまったほどの愛らしさ。それからねと、お話は続いて、
「そしたら、何か ふかふかしたのが起こしに来てくれてサ。やわらかくて温ったかくて、おいでって呼んでるような気がしたから。捕まえてギュウッてしたら目が覚めて。そいで、気がついたら外に出れてた。」
力を得たことへといい気になった鬼が図に乗って、愚かにも自分から自身の胎内へと飲んだ聖なる翼。それが、やはり取り込まれていたルフィに働きかけたということか。こういう巡り合わせや偶然もまた、所謂“天の采配”とか運命というものなのだろうかと、後日になってサンジが小首を傾げたのへは、
『運は運でも、ルフィに備わってた機運。ツキってやつなのかも知れないわよ?』
悪戯っぽく笑って、そうと言ったナミさんだったそうで。
『天運や宿命…ではないと?』
確かめるように訊き返した、金の髪した伊達男さんへ、
『そうそう何でもかんでも神様が仕切ってらっしゃるとは限らないってことよ。』
愛らしくも小さくウィンクをしてから、
『そんなまで微に入り細に入りって介入なさって、人間に“何も考えないで良い”なんてな楽をさせてやっては、それぞれに“意志”を持たせて世に出してやった意味がないってもんでしょうが。』
『…vv』
なんて素敵な考え方をなさっていらっしゃる女神様なんだvvと、聖封さんが惚れ直したお話は思い切り余談なのでさておいて。(苦笑)
「ゾロが倒れていたのが見えて、凄いびっくりしたぞ。」
たどたどしい言いようを紡いだルフィは、今はもうないあの翼を抱いていた自分の両手を見下ろしてから、
「あの羽って、もしかしてゾロのなんだろ?」
健やかに躍動し、自ら無垢な輝きを発光していて、邪が恥じ入るほどに煌めいていた純白の聖なる翼。一番最初にお目見えしたその時、その翼にこそ庇われ守られたのだから、忘れようがないルフィでもあって、
「…まあな。」
ゾロの側は側で、ルフィから起こされるまで人事不省状態にあったので。翼を毟むしられて以降、どういう展開があったのかを全く知らない身。あの禍々まがまがしき大邪鬼の胎内に取り込まれ、その絶大なる聖力をそのまま吸収されるのかと危ぶんだ“聖護翅翼”が、邪妖には吸い込まれず…ルフィの覚醒へこそ働いたということならしくって。しかもしかも、深手を負っていたゾロの傷を癒したのも、このルフィではなかったか? 懐ろに抱いていた片翼が彼を促すように点滅し、それでと…小さな手のひらを破邪殿の額へと伏せた坊やであり。それからはあっと言う間に快復したゾロでもあったのは、違たがえようのない事実。それをもってして、
「きっとルフィくんの素養が、
あの鬼の寄り代になることではなく、
ゾロの翼の力を受け入れる方を選んだということなんでしょうね。」
その一部始終を見ていたコウシロウ先生が、はんなりと笑ってそう言った。太古の昔のそのまた始まり。人の世から見れば永遠と呼んでも構わないほど、住人たちの生命のスパンが長い長い天聖界であってさえ、そこからの延長が現実の“現在”に繋がっているのかどうかが覚束ない、伝説や“神話”になりかけているほどの大昔。世界を混沌から分断した一番最初の光明だったとされる“転輪王”が、元へと戻りたがった“旧の世界”の具現として現れたものを倒したとされる、最後にして最悪の大邪妖が“黒鳳凰”といい。麒麟に龍に朱雀に天馬…と、世のあらゆる生き物の能力を備え、しかもその身が欠けたれば すぐさま倍加しての再生が可能という、何とも厄介な輩でもあって。そんな大鳥妖が、これも優れた能力の一端か、ずる賢さを発揮して、後世での自らの復活を懸けての咒をかけて用意した“筺体”。世界が陰と陽に分断されたがために、陰体には“殻”が必要なほどに強烈な、陽白“日輪”の力の満ちた陽界でも活動が可能になるよう、凄まじいまでの存在を収めることの出来る身として復活出来るよう、歳月を経ることで頑健になるようにと練られて練られて完成した“筺体”というのが、他でもないルフィだったと判明したと同時に敵の手に攫われてしまった彼であり。そんな坊やを巡っての途轍もない騒動を乗り越えたその結果として、ゾロには前世の“淨天仙聖”の能力が目覚め、そして…。
「その身へどんな莫大な力や存在でも蓄えたり収めたりが出来る“筺体”の能力を、ルフィ自身の意志で制御出来るようになっていたと?」
先生の論はそういうことを言いたいらしく、だが、
「…そんなことが起こり得るのでしょうか。」
そうそう自分たちに都合の言いようにばかり考えるのは危険かもと、慎重な言いようをするたしぎ嬢であり、実を言えばサンジもそちらへ賛同したいクチだったり。生まれてこの方のずっとずっと、悪霊や邪妖という得体の知れない存在たちに付け狙われ続けて来たというルフィだったのは、成程そういう素養があってのことだったのだろうけれど。そうまでも大きな力を制御し、向こうからの働きかけに振り回されず、自分で聖力の方を選んで吸収したということが、果たして何の心得もない子供にあっさりと出来ることだろうか? 自分もまたその目で目撃してはいたものの、そこまでの能力の覚醒を認めるのはちょっとと早計ではと感じた彼だったらしいが、
「それでは。どうしてあの翼はまだ彼の中にあるのでしょうか。」
「………え?」
先生の一言へキョトンとしたのがルフィただ一人であり、
「………。」
あとの大人たちは皆、ぐうの音も出ないというお顔になる。本人には自覚がないらしく、ただただひょこりと小首を傾げているルフィへ、
「…うん、そうなんだ。お前の中に、あの翼が入ったままになってる。」
すぐ傍ら、坊やを自分へと凭れかからせるような格好で並んで腰掛けていたゾロが。大きな手でふかふわな黒髪をぽふぽふと撫でてやりつつ、そんな風に応じてやる。
「ルフィくんに自覚がないって事は、ここぞという時にしか働かないということなんでしょうね。」
そここそが。サンジやたしぎがそうそう都合の良いこととして容認するのはどうかと思った、力の大きさ・特殊さなんだろうと、黒須先生がやさしい言い回しをし、
「勿論のこと、良かった良かったと手放しでばかりいてはいけません。」
そこはさすが、元天使長様で、
「それほどまでにも大きな力なんですから、慣れないルフィくんが振り回されたりしないように、周囲からもちゃんとフォローしてあげねばなりません。」
ただまあ、そうそう悪い方にばかり先回りして心配したおすほどのこともないのではと、妙に楽観的な仰有りようをなさるセンセーで。
“…前々からこういう人だったよな。”
そこんところまで思い出したゾロがついつい苦笑する。気負いがなくて飄々としていて、堅くて真っ直ぐな信念や何やを、実は持っていらっしゃるのに、人に見せないし押しつけることもない、どこか掴みどころがない、それでいて器が大きくて頼りがいのある、暖かな人だった。そんなお師様が付け足したのが、
「何たって、元はゾロさんの持ち物なんですし。」
およそこの世で太刀打ち出来るもののないほどに、途轍もない威力の“破邪封魔”の聖なる力を持つ翼。制御するのが難しいとはいえ、悪い力ではないのだし、それに…その持ち主がいつも傍らにいるのなら、特に問題もないのではと。何だか妙な理屈で締めた先生には、
「そういや、そうですよね。」
「そっか、そうですよ。」
「何かあったら、何をおいてもゾロが楯になるに違いないんだし。」
ビビ、たしぎ、そしてサンジに納得されて、
「う〜〜〜。」
なんかちょこっと引っ掛かる言われような気もするが、と。その翡翠の目許を眇めた破邪様だったが、
「? ゾロ?」
それって嫌なことなんか? 懐ろから見上げて来た、それは稚いとけないお顔と視線がかち合い、
“…そんな筈ねぇだろ?”
声に乗せたる言葉にはしないまま、長い腕にてぎゅううっと、小さな坊やを抱きすくめたゾロである。
  
――― なあ、ゾロ。
んん?
俺ん中にあるって羽、ゾロに返さなくていいんか?
センセーも言ってたろ?
うっと?
ルフィの中にあって良いから、何ともないままそこにあるんだって。
うん。
だから、ルフィが何ともないんなら構わないんだよ。
そっか。
とんでもない大騒ぎに揉みくちゃにされ、皆してハラハラした長い長い秋の一日も、何とか宵の頃合いを迎えて。名シェフ殿が腕を振るっての大御馳走を囲みつつ、ゾロが撮影したルフィの名演技、愛らしい近衛兵さんの活躍を楽しくも観賞し。こんな人数が集まったのは久々な、それは賑やかな晩餐の一時を過ごして、さて。相変わらずに10時を回ると眠くなる坊やを抱えて、保護者さんがお二階の子供部屋へと向かおうとしたのをキリに、他の皆様もお暇いとまのご挨拶。とろんとしていたルフィには、どこまで伝わったやらのご挨拶を受けて、いつものベッドへそろりと降ろされ。ふかふかな羽毛のお布団をかけてくれた大きな手が、なんだか無性に嬉しくて。眠いんだけど、でもあのねと。話しかけてたルフィであり。枕に載せた小さな頭がその枕から空気を追い出しながら ふか〜とゆっくり沈んでくのを眺めつつ、ベッドの端へと腰掛けて。
「何か気になるのか?」
大きなその手で、丸ぁるいおでこから長いめの前髪を左右に分けてやりつつ、先をこちらから訊いてやると、
「だって、翼ってのは2つで1組なんだろ?」
「ああ。」
「それが片方ずつになっても良いのかなって。」
何か不都合が起きないかな。それを心配しちゃった坊やだったらしい。ゾロはくすんと静かに笑って、髪をいじっていた手を頬へとすべらせ、
「大丈夫。むしろ、こうなった方が良かったのかもな。」
そんな風に付け足した。?なんで?というお顔になったルフィの真横へ、ぱったりと上体を寝かせると、肘での手枕をこさえつつ、
「そんなにいつもいつも、すぐ真横には居られないだろうが。」
こんな風にと、すぐ間近からの手を伸ばしてやわらかい髪を梳いてやり、
「そっちに半分を預けといたら、突発的な何かがあっても、まずはって俺に代わってお前んコト守ってくれる。その間に大急ぎで駆けつければいいんだから、これはもう確実だろうが。」
つまり俺の分身って訳だと、小さく笑ったゾロであり。ルフィもやっとのこと納得したか、そっかと小さく呟いた。
「でもサ。」
「んん?」
どした? 先を促せば、
「俺は…やっぱりゾロ本人が良いんだけど。///////」
枕灯だけしか灯してはいない子供部屋。嵩のある羽毛布団の陰へと、お顔も埋もれかかってった、そんな坊やだったのにね。ぽわんと頬を染めたのがありありと判って、そして何故だか…破邪のお兄さんまでもがその耳朶を赤くして。
――― 馬鹿なこと言ってないで、さっさと寝な。
う〜〜〜、馬鹿なことじゃないもんっ。
大胆なこと、言ったそのせいで弾みがついたか。坊やの小さな手が、お兄さんの着ていたシャツの胸元をぎゅうと掴んでる。
「………。」
じぃっと見上げて来た大きな瞳が、自分へ何を訴えているのか。他のレディからならともかく、これが判らないほど野暮ではなくて。
「……………んvv ///////」
やさしい“ちう”のその後で、さぁさ、おやすみと布団の襟を直してやって。ほかほかに温かな想いのいっぱい詰まったそんな中にて、本当に長かった運命の一日、やっとのことにてその幕を下ろそうとしていたのでありました。
――― おやすみなさいですvv
〜Fine〜 04.10.14.〜12.14.
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*あああ〜、やっとのことで終わりましたです。
(薬用入浴剤ソフレのカッパちゃんのCM風にvv)こらこら
途中でゾロ誕が挟まったり、風邪ひいて途切れたりと、
何だかだらだらした運びにしちゃって本当にすいません。
せめて本文の方も八割くらい書いてての発表にすべきでしたね。
(あの『黒い鳳凰』の時はそうしてましたから。)
妙な能力を得てしまったルフィくんで、
これ以上無尽蔵に元気になってどうすんでしょうか。おいおい
何とか年内にラストまで漕ぎ着けられて、
今はただただホッとしております。
こういう“すっとんぱったん”は懲りましたので、
当分は またぞろ甘えたれな話が続くことと思われますが、
どうかついて来て下さいませね?(礼)
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