月下星群 〜孤高の昴・異聞

  天上の海・掌中の星 〜黎明朝凪 A
 

 

          




 肌寒いほど瑞々しい、朝の冴え渡った空気の中を引き裂くように。遥か頭上に遠く離れし宙空の高みから、格好の獲物を見据えたと、落下にも似た急降下を仕掛けて来る何か。大きな翼を持った、間違いなく意志のある何物かに鋭い眼差しにて見据えられ、坊やと小さなトナカイさんは、それこそ封咒でもかけられたかのように、その場に がちんとばかり釘付けになってしまっていた。
"なんで…。"
 つい今出て来たばかりな門扉はすぐ後ろなのだが、どうした訳だか、足が地面に張りついたようになって動かない。ほんの一歩で駆け込めるのに、そこへと飛び込めばサンジが張った結界の中だから無事なのに。これもあの何物かの妖術か何かのせいだろうか、足が1ミリだって上がらない。
「るふぃ〜〜〜っ!」
 怖いようとばかり、肩口にぎゅう〜〜〜っとしがみつく小さなチョッパーを、咄嗟に掴んで胸元へ抱え込む。
"…ごめんな、チョッパー。"
 外に出ちゃいけないって、さんざん言ってたチョッパーなのに。耳を貸さなかったのは自分だから。あの何かに掴み掛かられて、怪我をしても食われてもそれは自業自得だけれど、チョッパーだけは助けなきゃいけない。小さなムクムクの体を抱え込んでその場にしゃがみ込み、ぎゅうっと眸を閉じて。

   ばさばさばさ………っ

 風を切るような鋭い音と物凄く分厚い羽ばたきの音とがした。あまりの間近で強い翼が羽ばたいていて、その羽根の先が頭に触れそうなほどまで近づいたんだと思った。風の気配も震えていたし、きぃーっっていう、身が竦み上がりそうな鋭い鳴き声もすぐ傍で聞こえたし。
"ああ、もうダメだ…。"
 チョッパーが言ってた通りだな、邪妖のこと、舐めてかかると大変なことになるんだぞって必死で言ってくれたのにな。俺、思い上がってたんだろな。あんな怖いのにも立ち向かえたから大丈夫って。俺自身は何の力もないんだのにな…。

  "ゾロ、ごめんな………。"

 そりゃあもう色々と。一気にぐるぐるって、頭の中をまわった想いが一杯あって。そんな中、声をかけたら、名前を呼んだら、こっち向いて"どした?"って顔してくれる緑髪の頼もしい破邪さんのこと、強く浮かんで来て泣きそうになった。せめて最後に逢ってから死にたいって思った。そしたら………。


   ――― ぎゃおぅ、きぃやぁあぁぁっっ!!


 勢いをつけて弾けるような、耳をつんざくような絶叫の中、はらはらと降りかかる何かの感触。頭や髪へと落ちかかる感触は、軽すぎて微かすぎてよく分からなかったけれど、頬や肩にまで触れて、足元へ落ちかかるのがちらりと見えて。
"…羽根だ。"
 随分と大きな…輸入雑貨のお店で陶器の壷に差してあるのを見たことがある、孔雀の羽根みたいな大きな灰色の羽根が、大きすぎる雪みたいにはらはらと降りかかって来るのだと分かって。
"………。"
 しゃがみ込んだままで、そぉーっとそぉーっと。恐る恐る顔を上げたルフィは、

  "あ…。"

 その場の情景に思わず息を呑んだ。相手は大きな大きな、人間の大人と同じくらいはある怪物、鳥の邪妖だ。頭は人間みたいな目鼻立ちをした顔と、だけれど羽毛の髪をしていて、首から下の体は大きな鳥のまま。両腕の代わりに、鷹より鷲より逞しい翼を、腕を伸ばせばぎりぎりでこちらから届きそうな宙にて、ばたばたと激しく羽ばたかせていたものが…人で言えば"舌打ち"をし、大きく空を叩いてその身を空の高みへと舞い戻らせる。忌々しげにこっちを向いたままなのが、諦めて逃げる訳ではないぞという執念深い意志を伝えているようで、
"…えと。"
 一体何が起こったのかと、しゃがんだまま周囲を見回しかかったルフィのその体を、ぐいって。力強く引き寄せる腕が、胴の真ん中、お腹に回ってて。上へと引っ張り上げられたので、立ち上がりながらも肩越しに背後を振り返ると、

  「あ…。」

 そこには無表情のゾロがいた。こっちは向いてない横顔が、頭上へ舞い上がった鳥妖を鋭い眼差しで油断なく睨みつけている。そして、
"あの羽だ…。"
 真っ黒なシャツを着た彼の背中の向こう、肩のすぐ下辺りに見えるのは、いつぞやの壮絶な戦いの中で彼が得た、一対(いっつい)の純白の翼。白い鞘から抜いた刀を一振りだけ手にしてはいるものの、それを振るった彼ではないらしく、この大きな翼…聖護翅翼を広げることで、あの鳥妖の襲撃を触れもせぬまま弾き飛ばしたらしい。
「ぞ…。」
 声をかけようとして、だけれど。ぎゅううって懐ろへと引き寄せられて、今はお話しなんかしてられないんだって、何となく分かったから。チョッパーを抱えたまま、こっちからもゾロの胸にぎゅうってしがみつく。神様のレベルの物凄い力を、ゾロは隠し持っているのだそうで、それを発動させた時にこの翼は現れる。でもそれって、こうすれば良いっていう方法とか手順とかがある訳ではないって言ってた。そこまでの力が要るんだっていう事態に向かい合った時に、自然と沸き立つものなんだって。ってことは、あれってそんなにも凄い邪妖なんかな。何だか今頃怖くなって来て、ゾロのシャツの胸元に顔を伏せてくっついた。刀を持っていない方の手が、背中にしっかり回されていたのだけれど、こっちからも負けないくらい、ぎゅうってぎゅうって抱きついた。そんなルフィへ、

  「…来るぞ。」

 張りのあるお声が届いて。空の方を見上げたままな、硬くて険しい表情の横顔。翡翠の眸の深色が、何だか余所余所しいほど冷たく見えたけど、それだけ真剣で、それだけ闘気をあふれさせているゾロなんだと、そう思って…唇をきゅうっと噛みしめる。どんな奴が現れても守ってやるって言ってたゾロ。それが役目だからって言ってたものが、

  『俺はどこにも行けない。行けっこないんだよ。判るな?』

 あれは…去年のハロウィンの晩。自分のこと嫌いにならないでって、どこにも行かないでって駄々を捏ねたら、ゾロの方からそんな風に言ってくれた。
『俺も、お前のことが大好きだ。だから、他のどこにも行かない。ずっとずっと傍にいる。いいな?』
 大人なのに。それでなくたって、そういうこと、気恥ずかしいから普段は絶対に言わないゾロなのに。泣き出してたルフィに、きちんと…ずぼらしないで言ってくれた。お役目だからじゃないんだぞって、自分の意志でこうしてるんだぞって。それを思い出したら、怖かったのどこかに飛んでった。ただ、

   ――― ゾロ…。

 どうか怪我だけはしないでねって、そんな風な気持ちが代わりにむくむくって沸いて来た、強気復活の坊やであった。











「さんじ〜〜〜っ。」
「ああ、よしよし。怖かったな。」
 涙と鼻水とでくしゃくしゃになったお顔で飛びついて来た小さなトナカイさんを受け止めて、こちらも黒づくめの聖封さんは"いい子いい子"と柔らかな毛並みの背中を撫でて、何とか宥めてやる。
"間一髪ってトコだったな。"
 此処へは次空移動を使って、文字通り"瞬く間"に戻って来た彼らだが、たまたま偶然間に合ったのでもなければ、感知の能力に長けているサンジが彼らの危機を嗅ぎ取った訳でもない。それに加えて、

  「…また呼ばなかったな。」

 ややもすると固い声で、ゾロはルフィへ声をかける。
「あれほど言ってあるだろうが。何かあったら名前を呼べって。」
 そう。この破邪精霊がルフィにだけ教えてある"真
まことの名前"。それを、声に出さなくても心の中ででもいい、一言呟けば良いと、何処にいようと駆けつけられるからといつもいつも言い聞かせているのに。こういったピンチに限って度忘れするのか、呼ばれた試しは数えるほどしかないと来て。それじゃあ…どうやってタイミングよく戻って来た彼らなのかというと、

  "…呼ばれなくとも感知出来るようになっていようとはな。"

 早朝のオフィス街から次元の壁を陰世界へと横滑りし、そこであの馬鹿デカかった魔牛を微塵に刻んで、無事に"封浄滅殺"と相成ったお仕事が片付いたその途端に。不敵なまでの余裕でいたこの屈強な破邪殿が、不意に眉を顰めて何をか嗅ぎつけ、そのまま…相棒のサンジにさえ一言も告げぬまま、ここまでの次空跳躍をやってのけたという運びであるらしく。
"何か、どんどん無敵になってないか、こいつ。"
 彼には足りなかった筈の、だからこそ…そっち専門の自分が相方として組まされた素因である"感知"の能力まで身につけつつあるとは。
"恋って偉大だよなぁ。"
 こらこら、サンジさんてば。無事に片付いたことだとばかり、暢気に構えている彼とは違い、
「呼べないような術でもかけられていたのか?」
 ルフィを狙って意気盛んだった鳥妖を、精霊刀"和道一文字"にて一刀両断という成敗をしはしたものの。ゾロとしては…無事に間に合った幸いよりも、そっちへの引っ掛かりがどうしても払えないらしい。髪一条たりとも傷つけまいぞと、しっかと取り込んでいた自分の懐ろの中から少しだけ引き離すようにして、肩を掴んだ格好にて幼いお顔を覗き込み、
「大体、何で外にいるんだ、お前。」
 彼が寝付いてからの"呼び出し"だったがために、伝言を残してはいなかったけれど、それにしたって今日が初めての仕儀でなし。チョッパーの言いようではないが、状況を見てどういう運びなのかくらいは分かった筈。
「あいつに引き摺り出されたのか?」
 たった今退治して封印した鳥妖。その妖力に否も応もなく引き摺り出されたのかと問えば、
「ん〜ん。」
 首を振って否定して見せる坊やであって。そんな彼らの会話に、
"…失敬な奴だよな。"
 俺の張った結界が、あんな鳥妖ごときの力で突き抜けられるもんかよなと、こちらは分かりやすくもムッとした聖封様だったりしたが。
(笑) それでも…余計な口は挟まずに、二人のやり取りを黙って見守った。
「ならどうして…。」
「…ごめんなさい。」
 何だか。ホントはとっくに分かっているのに、本人の口から言わせようとしているかのような問答だけど。そうではないと…サンジはもとより、ルフィ本人にも重々分かっている様子。
「…俺、自分から外に出た。」
 どれほど心配したゾロだったのか。どんな邪妖にも余裕で立ち向かえる頼もしい彼が、何でこんな危ないことになっていたのかと、おたついて真っ青になるほど…それだけルフィの身を案じたということが、それは痛いほど伝わって来て。ルフィは今になってひどく後悔してもいた。
「ゾロが帰って来る方に、ちょっとでも近くに寄っておきたくて。」
 もうすぐ朝だから、邪妖が活動出来なくなる時間帯になるから。ゾロも妖魔退治のお仕事を終えて、すぐにも帰って来るだろう。そんな彼にちょっとでも早く逢いたくて、チョッパーが止めるのも聞かず、大丈夫だよなんて勝手に決めつけて、そいで…。
「………ルフィ。」
 説明の途中から、ゾロはその長い腕でぎゅううって、坊やのこと、包み込むように抱き締める。頭がおとがいの下、首元にくっつくくらいに ぎゅううっとだ。それから、危うく取り落とすところだった壊れやすいもの、何とか割らずに守れたみたいな、深い深い溜息を一つついて見せて。
「頼むから…。」
 引き寄せた耳元に直に、掠れたようなゾロの声が聞こえた。

   「頼むから。お前、こっち方面での考えなしは辞めてくれ。」

 それはそれは切ないお声だったから。いつもいつも、憎たらしいくらい強くて、うっとりするほどカッコよくって。何でもすっかり任せ切ってる頼もしいゾロが、まるで…いつもとは逆に、ルフィにすがりついてるみたいに、切実な声でそんなことを ぽそりと言うもんだから、

   「………ぞろ。」

 怒鳴られるより叱られるよりも、ずっとずっと。切なく掠れたお声だったから、もっとずっと。胸の奥、するんと入っていって、心臓がある辺りの真ん中辺
へんを とすんと叩かれた気がした。つらいって、かなしいって。辛い、悲しいっていう日本語の言葉よりももっと、一番分かりやすい言い方で、どれだけ ヒリヒリとツキツキとしたかを告げられたみたい。
「な? 俺、お前を守れなかったらどうしたら良い? お前がいなくなったらどうしたら良い? さっきの奴、殺し返したところで、お前は帰って来ないんだ。分かるよな?」
「うん。」
「あんな詰まらん奴に、お前の命、持ってかれたくないんだ。な?」
「…うん。」
「何だってするから。寂しかったんなら、飛んで帰って来るからさ。こんな危ないこと、絶対しないでくれ。な?」
「うんっ。」
 掻き口説くように言われて、何だか…ゾロが泣いてるような気がして。でも、

   「…ごめんな。泣かせたな。」

 怒ってないからなって、骨張った指の腹で、目許をぐいぐいって拭いてくれた。怒ってないって言われたのに、何だか眸の奥がヒリヒリして来て。怖かった間はそれでも頑張ってたものが、今はもう我慢も出来なくって。ううんって首を横に振りながら、だけどでも。そのまま目の前の大きな肩にむしゃぶりついて、

   ――― うゎあ〜〜〜んっっ!!

 大声上げて、手放しで泣き出してしまったルフィだった。











            ◇


   ――― なあ、ゾロ。

       んん?

   ――― 俺、何にも出来ないままなんか?

       何にもって?

   ――― ああいうのを引き寄せるばっかでさ。
       俺って奴らの御馳走なんか?
       そいで、何にも…自分を守れる力とか持ってないんか?

       ………。

   ――― 俺、ゾロのお荷物なんか?

       あのな。



 おいおいと泣き出した坊やを抱えて、ひとまずは家の中へと全員で戻った。堰を切ったような泣き方だったせいか、なかなか泣きやまないルフィだったので…手際よく朝ご飯を作ってくれてから、サンジはチョッパーを連れて天聖界へと帰っていって。片や、家に入るなり朝の気配に満たされ始めていたリビングの、いつものソファーに腰掛けたゾロは。小さな坊やをそのままお膝の上へ座らせ、こちらの懐ろへと凭れ掛からせて。小さな肩やら背中やら、そぉっと撫でてやりながら、何とか宥めようとしたのだが。少しずつ泣きやみながら、それでもまだせぐりあげながら、ルフィは訥々と何事か話し始めて。しまいには…こんな風な突拍子もないことを歯痒そうに言い出すに至って、
「…あのな。」
 広々とした懐ろの深み。まるで、そこにくっついていることが彼の最初からの定位置であるかのように、窮屈そうでないのは勿論のこと、隙間もなくすっぽりと収まっている小さな坊や。その幼いお顔を覗き込み、何か言いかかったゾロだったものの、
「………。」
 潤みの中に頼りなさそうに揺れている琥珀の瞳が、何の他意もない素直さで見上げてくるのと視線がかち合うと。何だか、その場しのぎの考えなしな言葉で応対するのはいけない気がしてしまって…。

   「…ぞろ?」

 大きな手が。寝起きで もしゃもしゃなままの猫っ毛を梳くように撫でる。そうして少しばかり、ルフィの気持ちが落ち着くのを待ってから、
「俺はサ、お前に会うまでのずっとを、自分がいつ何をして過ごしていたのか、まるきり覚えていないんだ。」
 響きのいいお声が、静かに静かにそう言った。
「…? 忘れたの?」
「いいや、そうじゃない。どれがいつの騒ぎやら退治やら、いちいち覚えてなかったんだ。」
「…なんで?」
 ゾロほど強い破邪精霊はそうはいないってこと、ルフィも知ってる。サンジやチョッパーから話を聞いてるし、自分の目でもその鮮やかな戦いぶり、沢山見たし。だから、今と同じで、退治や封印のお仕事もそうそう簡単なものばかりではなかった筈だっていうの、良く判る。
「あんまりにも長い間、沢山々々退治して来たから?」
 いちいち覚えてられないくらい大変だったの? 案じるように眉を寄せるルフィに、口の端、小さく持ち上げて苦笑って見せ、

  「どうでも良かったからだ。」

 ゾロはあっさりと、そんな風に応じた。
「邪妖が出りゃあ退治に行き、騒ぎが起これば静めに行き。瘴気を封じたりもしたし、結界の綻びを食い止める手伝いに駆り出されもしたかな。」
 瑣末な騒動には呼ばれない。大人数で力を合わせれば何とかなるような事態や、当事者たちの自浄能力に期待し、それを監督するような、時間をかけて対処した方が良いような事象にも呼ばれない。特殊な事態や、瞬時に方
カタをつけねばならないくらいに逼迫したケースにこそ、頼りにされる凄腕の破邪。エキスパートであったから対処への機転も利いたし、それより何より、途轍もない力技で強引に畳み掛けてやっつけてしまえる存在でもあったし。間が悪くて関わってしまった、もしくは…企みの中、稚拙な呪いや怨恨から、自ら邪妖を呼び出してしまった人間たちも少なくはなかったが、そちらへのセンシティヴな質や方向での対応は全てサンジが引き受けてくれたから。自分は何も考えないまま機械的に対処をし、国がひとつ滅ぶような大嵐を呼ぼうと、自らに死に至るほどの大きな怪我を負おうと、さして何も感じないままに永劫の時を過ごしていた。人間たちの葛藤や愛憎劇も、自分には関係ないし関心も湧かない。余計な手間を増やしてくれてよと、せいぜいその程度の苛立ちを感じる程度のものだったから、どんな人がどんな想いで起こした騒動だったか、どれ一つとして覚えてはいなかった。
「でもな、お前に逢ってからのこっちは、面白いこととか楽しいこととか、時々はハラハラすることとか、そりゃあもう毎日あれこれあって、充実しててな。」
 夏の朝の気配の中に、ゾロを見つけてくれた大きな眸。辛いこと、でも、我慢して、寂しい魂が寄って来るの、受け入れてやってた深くて優しい心。大好きだよって懐いてくれた明るい声。泣いてまで傍にいてと懇願してくれた、そんな幼
いとけなさもまた…切なくも愛しい大切な人。

   ――― お元気な子供、愛しい子供。

 キミが幸せでいてくれるなら、とびっきりの笑顔でいてくれるならと頑張れる。傍にいたいと、失いたくはないと、初めての執着を覚えた人。だから、
「お前はサ、大威張りで甘えてりゃあ良いんだよ。」
 こんな顔させてゴメン、もっとしっかり守るからゴメンと。小さな身体、ふわりと抱き上げ、丸ぁるいおでこにこっちの額をこつんとくっつける。

   「あやや…。/////

 精悍な男臭いお顔、間近に寄せられて、坊やの方は方で…ややもするとパニックになりかかる。大事なことだから、切実なことだからと、きちんと話してくれたゾロ。こんな頼もしくてカッコいいのに。お胸も背中も大きくて広いし、鋭角的なお顔…凛とした眼差しもかっちりした口許も、毅然としていて強そうで男らしいし。邪妖に相対す時は凄くおっかないけど、それ以外では。どんな我儘でも、一応はお説教つきだけど、でもでも…結局は聞いてくれる、大人で大好きなゾロ。宝石みたいな緑の眸で覗き込んで来て、
「判ったか?」
 とってもやさしいお声で訊かれたら、
「…うん。」
 頷くしかないじゃんかって、そんなのズルイやって思ったルフィで。でも、
「そっか。」
 よしって、いい子だって、にかって笑ってくれたから。大きな手で、ぎゅうって引き寄せて抱っこし直してくれたから。

  "…ま、いっかvv"

 良い匂いのする懐ろの中、くふふって やっと微笑った坊やだった。







   ――― でもサ、ホントに俺からも何かしたいのにな。

       そう思うんなら、そうだな…。

   ――― うんうんvv

       夏休みの宿題を溜めないこと。去年なんか大変だったじゃないか。

   ――― うう"…。



   〜Fine〜  03.7.15.〜7.18.


   *活劇シーンとか書いてみたいなと思って手をつけたのですがね。
    帰着するとこは同じみたいです。うう"…。

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