2
結構栄えている港町のちょいと奥向きの、繁華街の中心からは少しばかり外れた場末。看板さえも探さなきゃ見つからない、小さな小さなスナック"バラティエ"は、だが決して"はやっていない寂れた店"ではない。知ってる者には"通の隠れ家"扱いをされるほどに料理が旨いし、うら若きオーナーはなかなか小粋で話題も豊富。今時の口コミにのって昼間の利用客は結構な数を誇ってもいる。だがだが夜は…ちょいとした事情があったりして。所謂"裏世界"の情報をやり取りする窓口のような、もしくは伝言板のような役回りをこなす場でもあるがため、にぎやかなまでに人の出入りがあっては困る。そういう向きの利用者たちにこそ重宝がられているせいで、あまり派手派手しく宣伝をする訳にもいかないし、そんなお陰でランチタイム以外は暇を持て余すような店ではあるのだが。金髪碧眼、長身痩躯、端正な顔立ちをしたお若いマスターさんにしてみれば、儲けの採算を考えず、のんびりやってけるのは大助かりだと、日の半分は閑古鳥が鳴いていようがあまり気にはしていないらしい。ところがところが。そういう裏稼業と縁よしみをつないでいる身を、初めて彼が悔いた事態が勃発した。世の中へは拗ねたように斜はすに構えていながらも、その反動みたく何物にも替え難いとばかりに、そりゃあ可愛がっていた唯一の肉親である弟御が、選りにも選ってその"裏世界"に鼻先を突っ込んでしまったのである。蝶よ花よとそれはもう、親がないことに屈しないよう、僻ひがんだり歪んだりしないよう、何の不自由もないように、自分の青春を切り刻んででもと可愛がって育てて来た愛しい愛しい弟が、
"何でまた、あんな野郎に懐くかね。"
怪盗"大剣豪"としてその名を馳せている凄腕の泥棒相手に、喜々としてまとわりつき、何と弟子入りまでしてしまったから。これは。これだけは。どうあっても許せないし、面白くない。弟にだけは…その無垢な笑顔を曇らせることなく、平凡で良いから真っ当な仕事について、誰にも恥じず後ろ暗くない人生を歩んでほしいと、常から願っていたサンジだったのに。
"こんなことなら、この店で使いっ走りに使ってやるんだった。"
そうすることでどんな世界なのか、重々知らしめておけばよかったのかもと、今頃になって思いもする。ドラマや映画のように、カッコよくもないし感動もない、この世で最も危なくて汚い世界なのに。裏切りだとか欲望だとか、人間のそういった醜い面ばかりが生々しくも剥き出しになっていて。意志の強さをもってどんな泥にも染まらないでいられるような強靭な人間なんて、此処では…それこそ伝説の中にしか存在しない。隙あらば足元を掬ってやろう、食らいつくしてやろうと虎視眈々と構えているような、胡乱うろんな者しかいないような、要領の良い、小狡い者のみが生き延びられるような、そんな世界だというのに、と。近頃、頓とみに溜息が増えたお兄さんなのである。今日も今日とて、幾つめになるんだかという溜息をつきつつ、咥え煙草で早じまいした店内を見回す。店舗の上の住居部分。以前は倉庫代わりという使い方をしていたのだが、とある晩だけは彼らの待ち合わせや打ち合わせ用の部屋として提供してやることにしているサンジであり、今夜はその"待ち合わせ"があると聞いている。
"………まあ、妙な言い方になるが、悪い奴じゃあないけれど。"
ルフィが夢中で"追っかけ"をしていた"大剣豪"こと、ロロノア=ゾロという男。他人様のお宝を非合法な手段で掻っ攫う、間違いなく"凶状持ち"男ではあるものの、こんな世界には今時珍しく、心根までもが腐り切った輩ではない。元はどこぞの道場に住み込んで修行をしていた武芸者であったらしく、そんな名残りか、気性の根底に礼節を刷り込まれた折り目正しさがほのかに滲む。ルフィが彼の手元からお宝を横取りし倒していた頃にしたって、本気で殺気を漲みなぎらせて立ち向かったなら、あんな子供の悪戯くらい、脅して賺すかして易々と跳ね飛ばしも出来たろうに。要らぬ怪我を負わせては可哀想だとでも思ったか、手加減するあまり、ずっと鼻面を引き回されるような案配が続いていたようだったし。今だって、依頼のあった仕事の全てに坊やを連れ出す訳ではない。これはさほどややこしくはなくて簡単だな安全だなと踏んだものにだけ声を掛けているらしく、それ以外の仕事の折には逆にわざわざサンジへその旨を伝えておき、こっそりと尾行…なんてとっぴんしゃんなことが出来ぬよう、坊やへの見張りを強化させもする徹底振り。どうかすると自分に並ぶほど、気を遣い、可愛がってくれているようにも思えて、
"………。"
それならそれで、可愛い弟御の心を鷲掴みにしてくれて憎たらしい野郎だぜと、やっぱり素直には喜べないらしい。邪険にされても怒るのだろうに…まったくもって複雑な心持ちのお兄様であるらしい。………と、
「………? ルフィか?」
背後のバックヤード、事務所や控室へ通じている裏口がばたんっと勢い良く開き、ばたばたばた…っと階段を駆け上がる少々乱暴な足音。ルフィが戻って来たらしきその様子に、おややとサンジが小首を傾げる。カウンターの中の小さな扉から直接に裏の廊下へと出て、階段を追うように上がり、
「どうしたよ。」
開けっ放しのドア、覗き込んで声を掛ければ、
「どうもしないもん。」
明かりも点けないでソファーに寝そべった小さな陰。手ごわい鬼ごっこでもこなしたか、それとも何かしら、不手際や手違いでもあったのか?
「ゾロはどうした。一緒に帰って来るって言ってたろうがよ。」
だから、夜食を二人分、作ってやって待ってたのによと続けたが、
「知らないもん。」
ソファーの上、突っ伏すように顔を伏せているのが気に掛かる。まさかに泣いてでもいるのなら、どんな事情であれ…あの怪盗さんをぶっ飛ばしてでも謝らせてやるのだが、声ははっきりしていてそんな雰囲気ではない。
「何でもないからさ。ごめんだけど…しばらく放っといて。」
一向に顔を上げないのが気になりながらも、そういう時もあろうよなと、そこは気が利くというのか、これもまたやはり甘いということだろうか。
「…そうか。」
あまり強引に穿ほじくるのも何だろうしと、ここは一旦、落ち着くまでと引く構えを見せるサンジであり。
「階下したにいるからな。落ち着いたら降りて来い。」
柔らかい声を掛け、そっとドアを閉じて出てゆく兄に、ルフィは"ふみ…"と小さな吐息をついた。
"…俺、どうしたいんだろう。"
10年近くも昔のあの晩。警察という追っ手からの追跡を振り切って逃走中だったゾロと、寂れた路地裏にて偶然から鉢合わせたルフィ。たいそう幼かった自分は、蒼月の中から飛び出して来たかのようなゾロに、あまりに鮮烈な印象を刷り込まれたのだと思う。それからもずっと忘れられなくて、やがてその暗躍を噂に聞くようになるほどの怪盗にまでなった彼に、もう一度逢いたいと思うようになって。そしたら、思わぬほど間近にその糸口があって…。
"だけど…。"
いつの間にか、ただ逢いたいというだけでは収まらなくなっていた。あの人に近づきたい。ただの通りすがりだとか、顔見知りっていうような存在としてだけでなく。…そう。近所や行動範囲で顔を見かける子供ってだけの間柄じゃヤだと思った。ゾロの側からも自分を自分として把握してほしい。そんな上で傍らに居たいって思った。でも、
"手助けになりたいって、そう思ってたんじゃない…のかな。"
ちゃんと役割をもらえて、それなりの頼りにされて。それが嬉しかったのはホント。泥棒になりたかった訳じゃないけど、あんな凄腕の怪盗の、手品みたいに見事な手際の一端を、自分のこの手も添えて実現させるのはなんだか嬉しい。少しずつ、難しいことも任せてもらえるようになって来たしさ。それってちゃんと見込まれてるからだよなって理屈も分かる。…でもさ、
"…遠くから見てるだけって、何かイヤだ。"
作戦の関係であっちとこっちって手分けしたんだから仕方ないじゃんって、それも判ってるんだけどもね。一人で出来るだろからって信頼されて任されたからのこと。でもでもなんか、胸がチクッてしたんだもん。ゾロが…此処から見えるトコにいるゾロがさ、自分じゃない誰かにあんな風に微笑ってるトコなんて、やっぱ、見たくない。
"………。"
サンジのスナックで初めてゾロを見かけた時もそうだった。太々しい顔でちょっと挑発的な声で、サンジやナミと何か話してたのを物陰から覗き見て。ああやっぱりカッコいいよな、貫禄あるし渋くて強そうだしって思って。ドキドキしたけど、でもサ、ただ"サンジの弟か"っていう、それだけの逢い方はしたくないって思った。向こうから、ゾロの方から"おやっ"て注意して見てもらえるような、ちゃんと認めてもらえるような間柄になりたかった。どれでも誰でも一緒っていうレベルなんじゃなく、沢山の中からわざわざ探してでも見てくれるような。そんな存在になりたくて、そいで一杯頑張って。最初はちょっと怒らせちゃったけど、でも、腕前や度胸はたいしたもんだって、ずっと一匹狼だったゾロが組んでくれるほど認めてくれたのに。
"………。"
自分でもよく判らない。昼間は物凄い張り切ってたのにね。今は"はふう"と溜息ばかりが出る。ちゃんと念願が叶ったのに。今はまだ対等なんて言えないくらい"未熟者"もいいトコだけれど、そっちはね、少しずつ頑張れば良いことだ。だから張り切ってもいたのに。
"……………。"
どのくらい、ぼんやりしていただろうか。明かりを点けぬままな部屋。しんと静かで、時々どこかから、ラジオの音だろうか、途切れ途切れに古そうな音楽が聞こえてくるのが、何だか物寂しい。ちょっとお腹が空いて来たかな。サンジが夜食、作ってくれてる筈だから、降りてってみようか。そんなこんな考えていると、
「…お前。よくも顔を出せたな、おい。」
ドアが開く音はしなかったけど、そんなサンジの声がして、それから、
「ルフィ? 帰ってんのか?」
階段を上る足音がしなかったから、まさに不意打ち。いきなり飛び込んで来たゾロの声に、
「…っ。」
ドキッとしたままのルフィからの返事も待たないで、ドアが勢いよく開く。そこへと、
「お前っ、ルフィに何しやがった。」
サンジの声が追って来たが、
「仕事の話だ。遠慮してくれ。」
ゾロの…少しばかり堅くて冴えた声がそうと告げると、サンジも"理屈"は判るのか、
「…後でちゃんと説明しろよ。」
言い残して立ち去ったらしく。彼の足音が再び降りてゆき、ドアが閉じる音がしてから、こちらのドアを閉じたゾロだ。そして、
「ルフィ。」
明かりは点けず、声だけを掛けてくる。
「なんで打ち合わせ通り、駐車場で待ってなかった。」
「………。」
「具合でも悪くなったのか?」
訊かれても、何とも答えぬままにソファーに突っ伏したままでいる。
「ルフィ、いい加減に…。」
「…っ。」
再び声を掛けかけたゾロの手元へ、ぶんと放って寄越したのは、今日の獲物の"アントワープの黎明"だ。受け止めた宝石よりも、その一瞬だけ上げられたお顔がいかにも"怒っています"という表情だったのに気づいたのは、夜目の利く彼ならではのこと。だが。
「何だよ、一体。」
理由が分からず、ゾロが再度訊くと、
「…ゾロ、女の人と何か話してたろ。」
「はぁ?」
「だからっ。」
むくっと再び顔を上げ、
「かんしゃく玉を仕掛けてさ。後は逃げ出すタイミングを計ってるって筈の頃合いだと思ってたのにさ。呑気にお喋りなんかしててさ。」
「そんな騒ぎの直後にすぐにお暇したら、わざとらしくて追われちまうだろうがよ。」
「じゃなくってっ!」
言葉尻を取られて、んきぃ〜っと声を荒げる。体を起こし、手が届くところにあった床置きのフロアライトを灯して、
「前庭んトコでっ。誰だか知んないけど、女の人と話してたろっ。」
ルフィが言葉を連ねたが、
「庭…?」
何を言い出すかなと、まだちょっと理解が追いつかないらしく、怪訝そうに眉を寄せるゾロだ。こんな時でもカッコいいなと、男臭い面差しにちょっとだけポワンと見とれたルフィだったが、
「…ああ、あの人な。」
思い出したらしいゾロが、何だか丁寧な呼び方をしたのへ再びムッとする。見ず知らずの女の人。顔見知りのナミへでさえ"あの女"とか"あのアマ"とか言うのに。あんな知らない女の人へ"あの人"だなんて呼び方するのか?
「…なんて顔してんだよ。」
感情がそのまま出たらしき顔に呆れられ、
「ありゃあ演技の一環だろうが。ホールの中っていう"現場"から離れておこうと思ってだな。ちょっと人いきれで酔ったみたいだなんて言ってた人だったから、こりゃあ渡りに船だと、外へお連れして少しばかり話をしてただけだ。」
そんな場つなぎ、いちいち覚えていられなかったゾロらしいのだが、そこいらの理屈はまだピンと来ないルフィだったし、自分の目で見た場面があまりに鮮やかだったものだから、
「…あんな嬉しそうに笑ってか?」
何かしら納得し切れず、うう…と上目使いに睨んでくる幼いお顔。
「綺麗な人に鼻の下延ばしてさ。俺、ずっと一人で屋根裏に隠れてたのに。凄っごいドキドキしながら、首飾り狙ってさ。なのに、ゾロは…。」
「あのな…。」
何とも感情的な言いようへ、おいおいと呆れてゾロが言い返す。
「だから。その場しのぎの芝居みたいなもんだろうがよ。妙な素振りで目立って印象づけたらまずいから、当たり障りのないことをだな。」
「そんでもっ。」
理屈はどうあれ、気持ちが収まらない。そんな風情がありありとするルフィの語調に、ゾロはその翡翠の瞳をやや眇めると、
「じゃあ、師弟関係は終しまいにするか?」
そんなことを言い出した。
「俺は構わねぇぞ。その方がサンジだって喜ぶかもな。」
冷然とした声。大人の割り切りが理屈を浚ってすっぱりと言い放つ。
「これは遊びじゃねぇんだ。気分で好き勝手やられちゃあ堪んねぇ。応用が利くほどの蓄積もねぇ、腕でもねぇってくせに、一端のことを言うんじゃねぇよ。」
怒っているゾロではない、これは"叱られて"いるのだと。だが、まだ少し気が高ぶっているルフィには察しがつかず、
「良いもん。また"追っかけ"するだけだもん。」
ついつい拗ねたように言い返していた。
「…おい。」
睨まれたって怖くないもん、と。こっちからも睨み返して。
"こっち向いてくれてないゾロを見るの、やっぱイヤだ。"
思えば。最初の頃、ゾロが狙ったお宝を横取りしては怒らせて、自分を追いかけて来させてたのも。怒らせたかった訳じゃなく、お宝がほしかった訳でもない。こっち見てよって、そう思ったからだ。
――― これは"お仕事"とは別の感情みたいだ。
お仕事に絡ませてはいけないもの。押さえ込まなきゃいけないもの。その理屈はようよう分かって、
「………ごめんなさい。」
ちょっとだけ俯いて、小さな声で謝ったものの、
「でもな。俺、ゾロんこと好きなんだもん。」
そんな一言を付け足した。
「…ルフィ?」
胸元へ高々と腕を組んで"お説教のポーズ"というやつを取ってたゾロが、んん?とどこか呑み込み難いものと遭遇したような顔になる。それにも構わず、
「俺の知らない誰かに、あんな凄げぇ優しそうな顔してるゾロを見てなきゃいけないなんて、何か…ヤダもん。」
今にも泣き出しそうな、子供の駄々の延長みたいな声でルフィは続けた。泣いたら…それこそ子供だからと思うのか、嗚咽が漏れぬよう唇を真一文字に引き結び、必死になって頑張っている。
"………。"
小生意気だが、一途で懸命。何よりもゾロのことをそれは慕ってついて来る、何だか放っておけない可愛い子。泥棒というもの、どれほど罪深いのかもよく分かってない、いつまで経っても危なっかしい子で、そして、こんな…思いもよらない唐突な隠し球にて、こちらを翻弄してくれる、なかなか困った坊やでもあって。
「…あんな上っ面だけの演技で優しくされたいか?」
ぽつりと。静かな声でゾロが訊く。
「………。」
「胸の内じゃあ"何言ってんだかな、こいつ"なんて思われながら、愛想だけほしいのか?」
わざと。こつこつと足音をさせてソファーまで近づいてくる。
「俺の相棒になりたいんじゃなかったか?」
もう怒ってはいない、静かな声だと分かる。そうと判る自分に…ちょっとだけドキドキする。顔を上げると、ほぼ同時に。
「よそのお客様扱いしてほしいんなら、今からでもそうしてやって良いんだぜ? ただの知り合いの弟。それで良いんならな。」
ソファーの前で立ち止まり、ポケットに両手を突っ込んで。ルフィの側へ少しだけ身を倒して、そんな風に訊いてくる。パーティーでは黒い髪のかつらをかぶっていた彼だったが、今はいつもの淡い緑の髪。仄かな光に浮かぶのは、さっきまでのスーツを…ネクタイをゆるめ、ベストやシャツの襟元を少しはだけて着崩した、ちょびっとセクシーかもしれない、やっぱりカッコいいゾロで。
「…そんなのヤダ。」
ほやんと見惚れてしまった坊やに、そんな彼が身を起こして出来た空間、隣りへふさりと腰掛けて、
「俺もな、実を言うと今更それは困る。」
長い脚だから、膝頭の位置の高いこと。そこへ肘をつき、頭を支えるみたいに大きな手を自分の額に添えながら、横合いからこちらを見やる。そんな、ちょっと自堕落な姿勢もまた、何とも様になっていてカッコいい。
"…ずりぃいんだ。/////"
ゾロのこと好きだって言ったばっかりなのにさ。こんな、挑発するみたく、カッコいい姿見せつけてさ。さっきまで泣き出しそうになってた名残りか、すんってお鼻を小さく啜ると、
「………。」
それに気づいて身を起こし、大きな手が、長い腕が、坊やの方へと伸びて来て。小さな肩をくるんでその余り、小さな頭を大きな手が軽々と包み込んで引き寄せる。
「時々は頼りアテにしてんだ、これでもな。だから、詰まらん駄々は捏ねないでくれ。」
軽く引き寄せられて、響きの良い声が耳元近くで囁いた。
「…う"。/////」
物凄くドキドキしたルフィだったが、
「………これってのが、形だけの"優しい"なのか?」
ついつい訊いてしまったのは、話の流れから致し方ないことかも。ふわりと抱き寄せられながらも、負けるもんか、誤魔化されて丸め込まれるもんかと、まじっとばかり見つめれば、
「おっ、心外なこと言うんだな。」
おでこ同士をこつんと合わせて、翡翠の瞳が琥珀の瞳を覗き込む。
「この俺がそうそう気の利いたことを言えるかよ。」
妙なことへ"ふふん"と偉そうな言いようをして。温かな匂いが、悪戯っぽく笑う気配が、こんなにも間近なのが得も言われずゾクゾクする。
"…なあ、これってさ。"
良いのかな、自惚れても。気に入ってもらえてるって。普段からあんまり人のこと信用してないゾロが、自分にはこんなに人懐っこい顔をしてくれるの。ねぇ、信じても良いの?
「じゃあ…良いんだな? これまで通りで。」
「あ、うん。良い。」
ほややんと惚けていたのが我に返って、その途端に…ルフィのお腹が可愛い悲鳴を上げたから、
「おお。」
「あやや。/////」
顔を見合わせて、どちらからともなくぷふっと吹き出す。
「サンジがお夜食作ってくれてるって。なあ、下へ行こ。」
「ああ。」
呆気ないほどあっさりと、よれてた機嫌を直してくれた少年へ、ゾロはこっそり…本当に心からの安堵の吐息をついていた。
"俺も焼きが回ったのかね。"
さてさて、どうなんでましょ。(笑)
〜Fine〜 03.3.19.〜3.22.
*いえ、別に原作のサブタイトルを真似た訳ではないのですが。
(ちなみに"ノクターン"というのは"夜想曲"のことです。)
この怪盗さんのお話、シリーズ化は難しいので考え中。
だって、やっぱり、
怪盗さんとしての手際とかトリックとか、考えなきゃいけないでしょうしね。
お馬鹿な筆者にはそうそう思い浮かばないです。(涙)
←BACK/TOP**
|