月夜見
 
イレギュラー・アクシデント 〜irregular accident


          



 いささか唐突だが、時折思い出したように持ち上がる事件に"偽札騒動"というのがある。コピー機だのパソコンだのの性能が上がった昨今では、原本にあたる紙幣をどんなに精巧なものにクラスチェンジしたところで、小さなお店屋などで使われては即座の判別も難しく、また、両替機やATMなどという機械が相手であるのなら、紙幣に刷られた情報さえ正確ならどんな体裁のものでも受け付けてしまうという盲点があって。この犯罪ばかりは犯す側と取り締まる側の、正に"いたちごっこ"というのが現状だそうだが、では。硬貨でも紙幣でも"偽物"を作って使う行為はどのくらいの罪になるかご存知だろうか。答えは、

  《無期、又は3年以上の懲役》

 これがどのくらい重いかというと、殺人に対するものと同じ。ちょっとした悪戯では済まないから、絶対辞めようね。
おいおい(ちなみに、放火はもっと重くて、無期又は5年以上の懲役。)情状酌量の余地があれば執行猶予がつく場合はあるかもしれないが、人死にが出ないような犯罪なのに軽減されることはまずないそうな。どうしてそうまで重いかと言えば、国家や政府に対するテロ行為だからである。そもそも単なる紙切れが千円万円とまでの価値を持つのは、それを発行している組織態勢への信頼あってのこと。(だから、政治不安な国は物価が跳ね上がり、外貨の方が優先的に流通したり、パン一斤をリュック一杯の紙幣で買うという始末になる訳ですな。)そういう"国家政府"という存在への信頼を揺らがせ、経済の土台へ手榴弾を投擲するのに匹敵するような行為だから、それ即ち、経済テロ活動という判定を下される訳です。


 いきなり妙なお話を持ち出して申し訳ありません。こちら、間違いなく"ONE PIECE"パロのサイトですので、どうか混乱なさらぬように。


            


 時折波立つように吹きすぎる夜風のざわめきが、肌から体内へと染み通り、そのまま…自分の余熱をかすかに孕んで背後へすっと通り抜けてゆくような感覚がする。雲一つない夜空はやけにのっぺりと平板で、岩肌を照らして煌々と降りそそぐ月光は音もなくただなめらかで。まるで時が止まっているように感じるのは、昼間よりずんと冷えた大気のつるんとした素っ気ない感触のせいだろうか。こうまで月の光が明るくなくとも、夜半に野外や戸外に居るのは平気な方だ。だが、今の今はちょいと勝手が違う。こんな風に木の幹の陰や岩陰、建物の裏などで息を殺してじっとしていること自体は、さして苦痛ではないのだが、
"とんだ難儀に巻き込まれちまったよな、ったくよ。"
 何の気なしに見上げた月へ、思わずの溜息を一つ。……と、
"…?"
 月光の誘惑から振り切った意識を留めたのが、岩壁に冥
くらく口を開けている岩洞。そこから何かの気配が届く。辺りの木立ちや草原が風になぶられて立てる物音とは、どこかで…リズムというのか印象の異なるかすかな気配。徐々に人声や足音のような物音も響いて来て、
"これか? もしかして。"
 近場の村で聞いた噂話によると、この岩窟から夜な夜な不気味な声がするという。囁くような秘そやかな声かと思えば、魔物が哭
くような奇怪な声もして、風が洞窟内で巻かれる音にしてはこれまで聞こえなかったのにと近隣の村人たちが不審がっていた。
『ですが、お武家様なら大丈夫。魔物であれ、裸足で逃げていくことでしょうよ。』
 その"お武家様"というのが先程から問題の岩洞をじっと見張っている訳なのだが、
"…どこの祈祷師と間違えられたやら。"
 こちとら、自慢じゃあないが日頃は"板子一枚下は地獄"な大海原にいる身の上であり、海賊相手の悪名ならともかく魔物専門の剣士などという仰々しい評判を、それもお初に上陸した陸地の上で売って回った覚えはない。だのに、
『身分をお隠しになられても、ほれ、日頃使いの他に、お払いの剣をお持ちでらっしゃる。』
とばかり、刀を"三本"も腰に装備していることこそがその証拠と言って聞かず、こっちの言い分を聞いてくれないままに、
『お布施は幾らでもご用意致します。どうか助けるとお思いになって…。』
 魔物だか化け物だか、見届けて退治してくれと言われてしまった。
『そうは言うが。今夜とは限らないのだろう? 俺は先を急ぐんだ。』
 何とか振り切ろうとしたその鼻先、
『ですが、お武家様は"港へ向かう"と仰有りながらも、山の方へ向かっておいで。』
 白々しい嘘はお辞め下さいまし、と、村長さんから恨みがましげな顔をされたもんだから…あんたまた迷子になってるんだね。
(笑)
『港へはその洞窟を抜けないと辿り着けません。言ってみれば"行き掛けの駄賃"じゃないですか。』
『…それは俺の方から言う台詞じゃねぇのか?』
 という訳で、前払いの"お布施"とやらを無理から握らされ、怪しい音の正体と向かい合うことを約束させられたのが、皆様お馴染み、ロロノア=ゾロ氏という訳で。やぁっと『ワンピース』の世界だという繋がりに辿り着けました。
"…ったくよ。"
 海軍の情報記録にさえ記されているらしい彼の方向音痴は、もはや公認と言っても過言ではないほどだというのに、そんな彼が一人でこんな…停泊した港町を通り抜けた先のお隣りの村にまで迷い込んでいるのには、それなりの理由がある。美人で優秀な航海士に"この島のログは溜まるのに四日ほどかかる"と言われ、ならばと刀鍛治を探して歩き回ってのこの結果。申し分のない腕前の職人に出会えて、目的は一応達したのだが、さて帰ろうとしたところが見事に山の方へと向かってしまったらしくって。その道中に一日かかっても気がつかないあんたも大したもんだが、そんなすっとぼけた"お武家様"に魔物退治を頼む村長も、結構暢気な人なのかも。
"うっせぇよっ、それ以上ゴタゴタ言うと斬るぞっ!"
 あっはっはっは…っ。はいはい、早く皆のところへ戻りたいのね。判りました、話を戻しましょう。
(笑)

   "…ん?"

 ふと…じっと見つめていた岩洞の奥に何かが見えた。月光に照らし出された岩肌の裾にぽっかり空いていた空洞の闇の中。まるで小さな星のように瞬いた点が一つ。
「………?」
 眸をこらしていると、それは松明
たいまつの灯であると判った。離れた物陰から見据えていた"それ"が少しずつ大きくなっているということは、奥からこちらへ…出口へ向かって近づいて来るということ。
"通り抜けになってる洞窟だって聞いてはいたが…。"
 妙な唸りの噂が広まると同時に、村の皆して怖がって。昼間であれこの辺りを通る者は滅多にいなくなったという。だが、人通りが絶え、人目がなくなったということは、怪しい何かをコソコソとしでかしていても見咎められないということでもあって。
「???」
 小首を傾げた彼の視線は、そこから出て来た数人の男たちと、彼らの手で担ぎ上げられて出て来た柩のような大きな木の箱に留まった。
"何だ、ありゃ。"
 3人ずつほどが2列になって、肩の上へと担ぎ上げている長四角の箱。魔物ではなく人間たちが出て来たのはまあ良いとして、それが"怪しい人間たち"だった場合は、
"やっぱ成敗しないといかんのかねぇ。"
 こんな時間に正式な埋葬とは到底思えない。それに、だ。
「…うまくいきやしたね、兄貴。」
「馬鹿。中に聞こえる。黙ってな。」
 風に乗ってそんな会話が聞こえた。そう。担いでいる連中は、皆、どこか怪しくもへらへらと笑っていて機嫌がいい。ということは、葬儀埋葬ではありえない。それに、
"…中に聞こえる?"
 耳は良い。集中にも自信はある。だから、聞き間違いではない。柩の中に、まだ何かを"聞くことの出来る"存在がいるということ。即ち、
"生きた人間が入ってるってか?"
 しかもしかも。そんな柩を担いで運んでいる男たちがその首尾を"うまくいった"と喜んでいるということは…。
"…誘拐か、略奪か。どっちにせよ、真っ当なご招待じゃあなさそうだ。"
 それが人の目がある場所でなら、自分たちは正義の味方じゃあないんだとばかり、こちらはお金が絡まないと腰の重いナミ同様、面倒ごとに巻き込まれるのは鬱陶しいからと煙たがるくせに………実は温情厚いお人よし。今も、
"………。"
 切れ長の眸を眇めて"どうしたもんか"としばしの思案をし、自分の額辺りを見上げてから数刻。はぁあと溜息を一つこぼしながら、大きな肩をがくりと落とす。
"しゃあねぇか。"
 息をひそめるようにして座り込んでいたのは、草原のところどころに顔を覗かせていた華奢な木々の根元。屈強頑丈で体格のいい彼がうずくまって隠れ切れるほどの大樹ではなかったが、彼には武芸者として必要な研ぎ澄まされた精神修養によって得た、様々な気配の制御が出来る。そこにいるのにそれと感じさせない"消気"というのも基本中の基本。時折夜風にざわめく草原の囁きも加勢してくれて、気配を消したまま、易々と怪しい輩たちの傍まで移動する。
「何せ半月掛かりの計画だからな。」
「ああ、情報を集めたりお膳立てを整えたり、何やかやで元手だって結構かかってるんだ。詰めを仕損じちゃあ話にならねぇ。」
「なぁに、もう九割方は成功だって決まったようなもんだぜ。」
 ここらで良いかと岩陰の傍らに立ち止まり、柩を足元へ下ろして。唯一の"やばい聞き耳"を恐れて話し声を低く落とした彼らだが、こうまで近づけば…どうかするとその"聞き耳"が居る柩の中よりもよほど良く聞き取れるというもので。話の内容から、
"…中にいる誰かを目当てってことだろうから、やっぱり誘拐か。"
 そうと判断し、ちきっと"雪走"の鯉口を切る。相手は都合7人。一見したところ武装しているようには見えないが、懐ろに匕首
あいくちや小型拳銃くらいは装備しているかも。剣豪は思わずのことながら口許を不敵に歪ませて苦笑する。そういえば、こうやって一人でいる時にも、ちょろっとした諍いについ首を突っ込む機会が増えたなと気がついたから。
"これもあいつの影響だろうか。"
 どこかくすぐったげに微苦笑しつつ、秘やかに夜陰の中へと溶け込ませていた自分の気配をゆるやかに解放したゾロであった。









    ……………で。


 わざわざ描写するのも何だしなぁと呆れるほど、それはそれはあっけなく方がついた。何しろいきなり、しかもこうまでがっちりと良く鍛えた、上背のある強そうな男が突然現れて、触れただけで穴が開きそうなほど鋭い視線で睨まれた。何も言われなくとも、本格的な“強い奴”だというのは…長いものに巻かれる事で生き延びてきた手合いとしてよくよく判ったらしくって、
『ひぃいぃぃぃ…っっ!』
と、まるで怪奇まんがで筆書きされてそうな悲鳴を上げて。いい年しているのだろう男たちが、無様にも諸手を挙げて逃げ去るのにかかった時間はほんの数秒。かかった手間は、雪走オンリーのほんの2、3振りと来て、
"…何なんだかな。"
 拍子抜けも良いところだ。もしかして助っ人や加勢を呼びに行ったのかもしれないが、ああいうレベルの顔触れがいくら増えてもさして変わりはないことだろう。放り投げていった松明はどれもこれも湿り気の多い地面に触れて消えてしまっていて、だが、夜目が利く身には月光が眩しいくらいだから気にはならない。刀を鞘へと戻し、さてと、問題の柩へ注意を向ける。このくらいの代物なら、このまま楽々抱えて運べる力持ちだが、それでは却って可哀想だと傍らへ歩み寄った。
"酷でぇな、こりゃあ。"
 柩は間近で見ると単なる木箱。さほどしっかりした作りではなかったが、蓋を何カ所か釘で止められてあって、これでは中に閉じ込められているのが誰であれ、自力で逃げ出すのはまず無理だろう。
"可哀想なことをしやがるぜ。"
 すぐ傍らへと屈み込み、さっきの輩がこれも放り出していった匕首を拾いあげると、その切っ先を蓋と柩の隙間にねじ込んだ。
「待ってろよ。すぐに出してやるからな。」
 松明や匕首と一緒に柩も放り出して逃げて行った奴らの魔手からは逃れられたが、これでは外で何が起こっているのかが判らない。さぞや怖かろうと大急ぎ、ゾロは匕首を釘抜きの代わりにし、釘づけされている5、6カ所を手際よくこじ開けて回った。最後の一本をガギィッと弾き上げたその時だ。
「わっ!」
 蓋が独りでに撥ね上がったのである。それもかなりの勢いであり、すぐ傍らにいたゾロの耳朶を叩いた"ガッ"という音のあと、風を撒いて撥ねたその蓋が地上に落ちて来た気配は…なかなか聞こえて来なかったのだから推して知るべし。
「な…何だ、何だっ!」
 何しろすぐ傍にいた。蓋の釘を手づからこじ開けてやっていたのだから当然なのだが、もしもその蓋に身を乗り出すか肘でも引っ掛けるかしていたなら自分もただでは済まなかったろう。だが、彼が上げたこの声はその突発事へ驚いたのではなく、それに続いた…何かしらふわりとした感触が不意に頬に触れたからだった。触れた感触こそ柔らかなものだったが、それもまた撥ね上がった蓋に負けないほど凄まじいスピードを伴っていて、柔らかい肌こそしていたが天まで届くほど長い大蛇の腹だったりしたら怖いなぁ…と
おいおい、あまりの得体の知れなさに思わずゾロも傍から跳び退いたほど。自分が何のために柩へ駆け寄ったのかを忘れた訳ではなかったが、
"え…っ。"
 降りそそぐ月光の下、光に拮抗して闇の深さがより強調された夜空に高々と舞い上がった"もの"が、それを振り仰いだ剣豪殿の視線を釘付けにした。さっき彼の頬を撫でた感触の"正体"だろう、はらはらはためくボレロの裾やら腰に結んだサッシュやら、ドレープのたっぷり取られたスカートの裾やらが月光に透けて、まるで夜更けに遊ぶ精霊のようにさえ見える。まるで踊り子のようないで立ち。頭には薄絹をかぶっていて、それを髪に留めている飾りやら手首や頸に銀の環や鎖をつなげたものやら、いやに綺羅らかな装飾品をたんと付けている。ブレスレットの中の一本には…腕を伸ばした時に袖が肘まで捲れ上がらないようにか、蝶の羽のように広いボレロの袖の端が一ヶ所留められるようになっている。そこまでのディティールを瞬時に把握出来たゾロの動態視力は大したもので、並の人間では“何だか判らないが、ひらひらキラキラしたものがシャラチャラと涼やかな音を立てて飛び出したようだ”としか思えなかったに違いない。身を起こした…つまりは立ち上がったゾロのそのまた頭上というとんでもない高さまで飛び上がった相手は、身につけた翅
はねのような装束をなびかせて地上へ難無く着地して見せた。そして、
「ちょ…ちょっと待てってっ。」
 次の瞬間、ぶんっと風を切ってこちらの懐ろへ飛び込んで来たのは、その相手からの凄まじい勢いによる直拳一閃である。慌てて避けても続けざまに、途轍もない素早さで次の拳が飛んでくる。
"なんなんだ、こりゃあ。"
 生きたままに柩に入れられていたという立場。様々な装飾品にて目一杯飾り立てられた様子といい、ひらひらとしたこの装束といい…恐らくは何かの生贄のようなものか、はたまた誘拐されかけていた娘さんに違いなく。だがだが、それにしては。こちらを怪しい者やもしかして魔物か何かと勘違いしての気丈な抵抗にしては、あまりにも達者すぎる見事なもの。
「おわ…っ、と・とっ!」
 結構、いや…随分と手強いこの相手には、ゾロも何とも戸惑った。どう考えてもやはり、この人物は人身御供にされんとしていた娘さんだろうという自分の判断に間違いはない。だが、接近戦となって横薙ぎに飛んで来た手は…小さくはあったがちょこっと"握り慣れ"していたし、スカートの下に何故だか履いている下履きが包む脚も、女性のそれにしては…股の開き具合の力強さがはしたなさすぎるような。
「哈っ!」
 避けるだけという態勢を決め込んでいる分には何とか躱し続けていられる。ただでさえ夜という暗がりであり、しかも相手の衣装がひるがえったり はためいたりするのが邪魔で顔などは見て取れないが、
"もしかすると…。"
 この相手は"ただの生贄"ではないのかも知れないと、受け止めることだけに専念していたゾロにもようやく察しがつき始めた。頭にかぶった薄絹の下、素早い動きに合わせて撥ねては躍るつややかな黒髪。柩から飛び出した時のあんなとんでもない跳躍がほんの一息でこなせて、ここまでの体術がこなせる人物。至近での接戦だ。意識して見定めようと構えれば、仮装はしていても変装ではないのだ、見分けもつく。

   ――― …っ!

 一方、ただ受け身を取るばかりなこちらに…しかもそれにしてはカウンターを喰らいもせず避け続ける絶妙な腕前であることに、なかなか鳧がつかないと焦れたのだろう。
「こんのぉっ!」
 一段とスピードを上げて掴み掛かって来た相手には、さすがのゾロも悠長に構えていられなくなった。
「わ…っ、たっ、とっ。」
 これまでは余裕で"寸止め"にしていた技を本気のそれにランクアップしたというのがありありと判る。ビジュアルに例えるなら、そうですねぇ…2倍速モードになった格闘もののビデオ画面なんかが適切ではなかろうかと。
こらこら
「ちょ…待てってばっ、こらっ!」
 小気味のいいテンポで繰り出される拳や肘撃ち。すんでのところで掌や腕や、収め直した剣を鞘ごと掴んで腰から引っこ抜き、その腹で受け止めるという防御を取った。ちょっとでも気を抜けば、鋭い突きが、容赦のない拳がビュンビュンと懐ろまで飛び込んで来かねない。
"こいつの拳をまともに喰うなんてとんでもねぇぞっ!"
 確か…岩をも砕く、途轍もないほどの力持ちさんだったっけねぇ。とはいえ、このままでは埒が明かない。相手に特長がありすぎてこちらからはその正体も判ったが、こちらは残念ながら人並外れた特長は持ち合わせてはいない…と本人は思っているらしいから、まったくもって見上げたもんである。
"うっせぇよっ!"
(あはは)
 相手がこちらに気がつかないのは、すっかりと何物だか…このシチュエーションに置かれた自分に襲い掛かってくるものへの想定が出来上がっていたからだろう。それでなくとも…勘違いからとち狂い、本気の拳を問答無用で叩きつけられたことも数知れず。威力には重々覚えがあるだけに、ごめんこうむりたくて避けまくっているのだが、それにしたって、
"…薄情な奴だよな。"
 胸中で思わずこぼれた溜息が一つ。まあまあ、お気持ちは分かりますが、単細胞で猪突猛進な人だってのも重々分かっている筈でましょ?
"とりあえず…一旦停まってもらわないとな。"
 何かしら意表をつくものを…と考えて、
(ぽくぽくぽくぽくぽくぽく)
"…っ!"
(チ〜ン)
 その全ての攻撃を間一髪で避けながら、ゾロが腹巻きの間から摘まみ出した小袋。そこに入っていたのは、ウソップ謹製の"燐光灯"という薬玉だ。小指の先ほどの大きさの丸薬状のもので、本来は火を起こす時に種火として使うものだが、今で言うマッチの先の薬品部分だけというところか。それを指先から弾き出すようにして点つけながら、
「さっきから待てと言うとろうがっ!」
 ゾロが怒鳴ったその瞬間、硝煙の香と共にパアッと灯ったのは青みがかった燐の炎。素早く燃え上がったドングリほどの小さな篝火の向こうに相手の姿が見て取れたから、これはもしかして…お懐かしや『風の谷のナウシカ(84年)』の冒頭に出て来た、暴走王蟲
オームを光玉で鎮めたアレですね。おいこら
「えっ、ゾロか?!」
 途端に相手の顔がハッと硬直するのが判った。見覚えがあると、攻撃するべき対象ではないと、やっとのことで気づいたのだろう。だが、瞬時の判断力がいくら優れていても"慣性の法則"には逆らえない。
「わっっ!」
 中途半端に突っ込むのを止めようとした相手が、せめて直撃を避けようと身を躱した側に、間の悪いことには…ゾロが盾の代わりに握っていた剣の柄
つかが待っていて、
「…っ!」
 そのまま柄の先が額への凄まじい一撃となって"決まって
(はいって)"しまった。
「うっ。」
 こちらもまた…攻撃を避けながら"燐光灯"を灯すという忙しい体勢にあったため、一連の流れを見届けるしかなかった剣豪はというと、
「わ〜っっ!」
 それら自体まで息づいていたかのように ひらひらと舞っていた衣装からも生気がふっつりと消え失せて、急な引力に吸い寄せられるまま…ドサッと地に倒れ伏した相手には、ゾロの慌てようも大きかった。
オーム、目を覚ましてっ。森へ帰ろう。
 じゃなくってだな。
(しつこいぞ)
「しっかりしろっ、ルフィっ! こんくらいで倒れるタマじゃなかったろうが!」
 おいおい。頭を打った人を揺さぶっちゃいかんぞ、旦那。



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  *カウンター49000HIT リクエスト
      ショウ様『活劇ゾロル』

  *相変わらず長い話しか書けない困った奴で、
   ショウ様におかれましては
   「何でこういうお話になっているんだろう」と小首を傾げていらっしゃる事と思います。
   はい。
   またもや、ホントはもうちょっと突っ込んだ内容のリクだったのですが、
   それは徐々に明らかになりますのでお楽しみに。とほほん
(泣)