月夜見
 
イレギュラー・アクシデント 〜irregular accident A


          



 月光が青々と濡らす夜の草っ原。港のある海沿いの村の方から洞窟を抜けて来た通行人が、つい休憩に座ってゆくらしい、表面が丸みを帯びて滑らかになった、平らで大きな岩があったのへ腰掛けて。夜風がさやさやと揺らす草の海を眺めつつ、
「…っていう訳だ。」
 説明を終えたルフィの少しばかり赤く腫れたおでこに、水筒の水で濡らした手ぬぐいを不器用そうに、だが、出来るだけのそぉっと当ててやっているゾロだ。魔物退治を言いつかった村を出る時に村長夫人から貰った小さなずた袋の中に、弁当や"お布施"と一緒に入っていたもので、
「人身御供ねぇ…。」
 一通りの話にゾロが呆れて見せる。ルフィがつっかえつっかえ話した一部始終を要約すると…この洞穴の向こう側、彼らが船を着けた海側の村へ、今時にはアナクロな"人身御供を差し出せ"という脅迫が来たそうで。最初は悪戯だろうと無視したが、その途端、何物かに家畜が襲われ、子供たちが何人も攫われそうになった。泣き叫んで大人が気づくと諦めてなのか去ってゆくその影は、だが、

 《良いか、冗談ごとではないぞ。
  村の境いの洞窟のそば、寂れた神殿へ人身御供を連れて参れ。
  お前たちの不信心、贖えなくば津波が襲うぞ》

 不気味な声でそんなお告げを残したという。それからのずっと、この何ヶ月の間ずっと。已なく続いている悲しい儀式。それが今夜も行われるとあって、一宿一飯の恩義ではないが、生贄にされかけていたお嬢さんと背丈体型が似ていたルフィが身代わりになった。魔物だか悪党だか判然としない相手だが、そんな奴はぶっ飛ばしてやると鼻息も荒く、用意された衣装を着て、指示された柩に入ったルフィ。そんな彼を村の男たちが運び出して…。その後のことは箱の中にいた彼にはさっぱり分からないらしい。
「ふぅ〜ん。」
 一方、こちらはそんな事情なぞ全然知らないまま、悠長にも迷子になってた剣豪さんであり、
「しつっこいぞっ。」
 だってホントのことじゃんか。
(笑) ほれほれ、お話に戻って。何かに"ふぅ〜ん"と感じ入ったんでましょ? というのも、今初めて聞いたそちら側の事情へ"成程な"と合致させられる鍵を、彼もまた持っていたという事実に行き当たったかららしい。
「きっとそいつらのごそごそした様子を見たこっちの村の通行人が、何か化物が蠢いてるんじゃないかって誤解したんだな。」
「化物?」
「ああ。俺はそれを退治してってくれって頼まれたんだよ。」
 大きな肩を落として"はあ"と溜息をひとつ。気持ちは分かる。とんだ"正体見たり、枯れ尾花"ですからねぇ。結局、蓋を開ければ…どうやら人間が仕組んだ企みだった様相だし、本来の標的だったらしい港の方の町はともかく、こっち側の村は単なる余波で怯えていたことになる。
「どうせまた、ナミあたりが報酬に目がくらんで引き受けたんだろうがよ。」
 ゾロのこぼした一言に、船長さんは大きな眸を尚のこと見開いて見せる。
「凄げぇな、なんで判るんだ?」
 判らいでか。
(笑)
「………ちなみに幾らだ。」
「100万ベリーだってよ。」
「………。」

  "1億の男をそのくらいで切り売りすんのかあの女はよ。"

 はは〜い? もっと別なこと、思ってないかい? 俺の大事な船長を勝手にとか。
"………。"
(あっはっはっは)
 その懸賞金とやらも、海軍に勝手につけられてしまった値打ちであって、確かに王下七武海の一角を倒した男にはふさわしい金額だが、情報通の間には"海軍からの口封じ"という下馬評もある。

 『本当にそうまでの腕っ節かどうかは疑わしい。
  むしろ、何かしらの秘密を握っている危険人物だから、
  息の根を止めたいのではなかろうか』

とだ。権勢ある者へと逆らった代償というやつ。何と言っても"海賊"は不法行為を為す者ども、非合法な存在だ。よって、一罰百戒…というには微妙に異なるが、世間への見せしめも兼ねて、名の売れた海賊に高額の懸賞金がつくのは致し方ない。こうしておけば、自前の偵察隊から以上の情報を得られるし、相手の行動にもある程度はセーブがかかる。そうやって自由を封じることで対象が悪さをしなくなれば、治安の維持にも通じるという訳で。………まあ彼にはそんなもの、何のハンデにもなってはいないようではあるが。
(笑) 逆に、仲間内からは"そんなもんじゃ足りない"という不満もなくはない。たかだか1億ベリーぽっちで、この、私たちの大切なお日様をどうしようっていうの? とばかり。時により人によっては"大激怒"を招く逆鱗になったりもするそうなのだが、それはさておき。
"俺の方だけでなく、こいつらの側でもそういうややこしい目に遭っていようとはな。"
 正確には、向こう側とこっち側という別々ながら"同じ事件"へ関わってた訳ですが。余程のこと、ドタバタした騒動や災難に縁のある自分たちだよなと、つくづくと痛感する剣豪だ。そだね。一体誰の日頃の行いが祟っているのかしらね。
(笑)
「ま、これでそのややこしいお告げの正体も判明した訳だ。」
 呆れ半分、苦笑の混じった溜息をつき、剣豪は顎をしゃくって。逃げ損ねて昏倒している2、3人を示して見せ、
「そこに伸びてるのを引っ括って、海軍へ引き渡すように言ってやれば一件落着だな。」
 何せ"誘拐"の現行犯だ。これまでの数カ月分も含めて、どういうからくり、どういう思惑の元に為された犯行なのかまでは、まだ判然としていないものの、そういった詳細も…土地の人には必要でも、数日後には旅立つ自分たちには関係がないし、さして興味もないこと。引き渡した警察に全て任せれば良い。
「おうっ、そだな。」
 ゾロがさらさらと小気味よく並べてくれた段取りが気に入ったか、嬉しそうに足をバタバタさせるルフィだが、
「…その恰好は何とかならんのか。」
 先程は激しい乱闘の只中で、とにかく相手の正体を見極めようと、それをまとっている"中身"にばかり意識が集中していたゾロだったから気にならなかったが、あらためて見やると…なかなか可愛らしいいで立ち。ふわふわとしたオーガンジーっぽい薄い生地のドレスは、スカートの部分が膝下まで長さのある、布をたっぷりとフリンジして巻きつけたローブかトーガのようなデザインで。肩から羽織った腰までのボレロが、まるで妖精の羽根のようにこちらもひらひら可愛らしく、胸元で銀の透かし細工のブローチにて止められてある。首条や手首・足首には細いのや玉石の通されたのといった様々な飾り鎖が幾重にも巻きつけられていて、月光の中で青みがかった真珠色の煌めきを、ちらちらと細波のように振り撒いている。短い髪の屈託ないお顔は、それと知らねば少しボーイッシュな女の子として十分通用しそうで、
「だってしょうがねぇじゃん。女の子に見えなきゃいけないんだからって言って、ナミやロビンがどっかから持って来て、あーだこーだって着せたり下げさせたりしたんだ。」
「…ほほぉ。」
 ロビン嬢は文字通り"手の多い"人だから、逆らう暇もあらばこそ、あっと言う間に着付けと飾りつけは済んだに違いない。本人も不本意ではあるらしく、ぷく〜っと膨れたその拍子、

   「着替えなら持って来たぞ。」

 そんな声が掛かってギョッとする。ここには自分たちしかいなかろうと、ちょろっと油断していたらしく、肩をすくめるルフィの傍ら、こちらは少し前から気配に気がついていたらしいゾロが、ちろりんと肩越しに見やった先、
「何だなんだ。何でお前、此処にいる。」
「…悪かったな。」
 男が相手の場合、憎まれ口でしか挨拶が出来ない奴だというのは重々お馴染み。予想外の人物としてルフィの傍らにいたゾロへ、ややもすると頓狂な声をかけたのは、光源は月光のみという夜陰の中へ、その輪郭を滲ませたダークスーツ姿。GM号のシェフにして史上最強のフェミニスト。金髪碧眼・長身痩躯な"蹴撃の貴公子"こと、
「サンジっ。」
である。
(おいおい、ずぼらな。)
「帽子っ! 俺の帽子は!」
「へいへい、ちゃんと持って来てやったさ。」
 薄絹のベールや銀細工の髪飾りが乗っかったルフィの頭から、一時的に撤収されていたトレードマークの麦ワラ帽子。それをまずは手渡して、
「ナミさんから言われてな。どうも胡散臭いからこっそり後をつけてくれってさ。」
 こちらはゾロへそうと応じて、ルフィに持って来ていたずた袋も手渡した。中にいつもの着替えが入っているらしく、受け取った船長さんはお風呂に入るお子様よろしく、大っぴらに着替え始める。………まあ、男同士なんだから構わないのでしょうが、
「…っと。」
「………。」
 残りの二人ともが、そっぽを向きつつも…ちらちらと。何となく目線が落ち着かないのが傍から見ていると何だか笑える。日頃からも、細っこい腕やらつやつやお肌の脚やら、かわいい肩やらを惜しげもなく露出している船長さんだが、それとはまた別。水着のビキニ姿よりもレースのスリップ姿の方が何となく艶やかに色っぽいように、ひらひらしたボレロの裾から覗くお腹だから、薄絹越しに透けているうなじだから、そして何より"着替え"という動作の最中だから、何だかセクシーでぞくっとして見えたりもするあれこれがあるわけで。所謂"チラリズム"というやつをこんな間近で披露され、

   "…う〜っと。"×2

 一端
いっぱしの体格・風格でも、中身はぎりぎり十代の思春期なんだもんね、お二人さんvv 対象が女性じゃないところがまた、何とも微妙な感情であり、
"ああいうカッコからの着替えって、仕草が色々と可愛いんだよな♪"
 そこは女性相手の経験値の蓄積がたっぷりあるシェフ殿が、それらと照らし合わせてワクワクと想像する傍ら、
"………。"
 あれで腹なんかは一応鍛えた腹筋がきっちり盛り上がっているのになと、判っているのにうろたえる自分に、少々複雑な想いを抱いている剣豪だったりするのだが。………そこへ、
「だぁあっ! 何で取れないんだよう、この布はっ!」
 当の船長さんがいきなり、何やら駄々でも捏ねているような声を出す。それに反応して、ちらちらとではなくちゃんと見てやれば、
「ああ、こらこら。そこを引っ張ったら袖が破れる。まずはリボンをほどけ。」
「だぁ〜、ほらじっとしてな。ここの腕輪とイヤリングを先に外さねぇと首が抜けねぇんだって。」
 慣れない形の装束やら思わぬ所に付けられてあった豪華な装飾品に、腕やら髪やら搦め捕られている様は、じゃれて遊んでいた毛糸玉のほつれた毛糸が絡まって、逆にくるまれかかった仔猫のよう。ある程度を二人掛かりで外してやり、
「ほれ、後は判るな。」
「おおう、サンキューvv」
 何をやらせてもすんなり運ばない不器用船長であるのはいつものこと。一通り、出口近くまで手を貸してやり、さて、と。話を元に戻す双璧さんたちで。
「胡散臭いって気づいてて、話に乗ったのかよ。」
 話に乗って、こんな仮装までさせて。しかも、相手が用意した柩に縁起でもなく放り込んだのかと、不快の塊りと化して、ただでさえ鋭角的な目許を思いっきり眇めている剣豪へ、
「そう怒るな。ログが溜まるのを待ってて暇だったし、どうせお前が戻ってくるまで船は出せないからな。チョッパーに探しに出てもらおうかって相談しかかってた時に話を振られて、後はまあ、なし崩し。」
 サンジは煙草に火を点けつつ、その口許をかすかにほころばせ、
「ま、ちょっとした金稼ぎだそうだ。」
 主犯格のレイディの"お茶目さ"へと微笑んで見せる。口も達者で、裏読み・洞察にかけてもあの航海士に敵う者は…いないこともないが止めるようなロビンではなさそうだし。
(笑) そういった裏書きがわざわざ説明を受けなくともあっさり分かる自分の身をこそ嘆くように、忌ま忌ましげに眉を顰めて、
「で。何が胡散臭いんだって。」
 改めて訊いたゾロへ、
「人身御供云々って話が、だ。」
 夜陰の中へと紫煙をくゆらせ、シェフ殿は応じた。
「どこの誰サマのお告げか知らんが、人ひとりを丸ごと差し出させてどうすんだよ。海王類じゃああるまいに、人を食っちまうよな凶暴な生き物がいるとも思えんしな。」
 そですよね。そんなもんが出るようなら、もっと大きく話題になっていようし、誰かがこっそり"餌付け"をしているのだとしても、自分と同族、人間を食わせてどうするね。味を占めたら餌付けしている本人までもが食われかねんぞ。
「かと言って、今時"人身売買"ってのも妙な話だ。全く例が無いとは言わねぇが、こんなややこしい、芝居がかったお膳立ての必要があるか? たった一人を狙っての計画なんかならともかく、数カ月もこんなことを繰り返してりゃあ、却って証拠になる足やらボロやら出ちまうだけだ。」
 ナミの言った受け売りか、それとも彼もまた同じ不審を感じたのか、サンジの説明はなかなか流暢で、
「ふ〜ん、一応は気づいてた訳か。」
 さすがに全てを真に受けてルフィに身代わりをさせた訳でもないと判って、ゾロもそこへは感心する。しかも、今回にだけこの連中が乗じたのではなく、生贄そのものが怪しいと勘ぐったらしいと聞いて、
“頭と舌は回る奴だからなぁ。”
 感嘆はするが、それだけ油断も隙もないナミであると、改めて感じ入ったものもある剣豪殿であるらしい。そんな彼の内心はともかく、
「それに、どうも何だかおかしな村だし。」
 煙草の灰を足元に落としながらのサンジの付け足しへは、ややこしい装束をやっとこさ着替え終えたルフィもこくこくと頷いて見せ、
「変な村だ、うん。子供がいないし、活気がない。」
「それは、人身御供なんて騒ぎのせいじゃないのか?」
 ゾロの見解に、サンジももっともだと頷いたが、
「でもな、おむつ干してる家もあったのによ、赤ん坊の泣き声ひとつしねぇ。丸々2日もってのは、やっぱ変だ。」

   「…っ!」×2

 そこにはサンジも気づいてはいなかったらしくて。はっと双璧同士が顔を見合わせる。さすがは船長、相変わらず見ているところがいつもいつも常人とはどこか違う少年である。
(笑) そんなこんなと話していたところへ、


  「せっかく良い手でぼろ儲け出来ると思ってたのによ。」

  「…っ?!」


 そんな野太い声と共に、夜陰の中を一直線に飛んで来たのは長い鎖。3本あった内の2本までは、素晴らしい反射でゾロが叩き切ったが、惜しいかな、1本だけは逃してしまった。しかも、

   「あ。」

 その先に重し分銅の代わりのように付いていた、幅の広い腕輪のような戒めが…選りにも選ってルフィの手首の、しかもご丁寧にも両方へとがっちり嵌まっていたから。
「何してんだ、お前はよっ!」
「避けんかっ!」
 両側から二人掛かりで怒鳴りつけられた船長殿だったが、
「…はにゃん。」
 何だか様子がおかしい。さほど重そうな代物でも無いのに、そのままがっくりと膝をついてしまうルフィであり、
「? ルフィ?」
 あわてて、そこへとつながっていた鎖をこれもやはりゾロが叩き切ったが、くったりとその場に崩れ落ちたルフィの様子に、
「…海楼石かっ?!」
 固形化された海だと思えばいいと、いつぞや某海軍少佐から聞いた不思議な鉱石。人知を越えた能力を得る代わり、海に嫌われてしまう"悪魔の実の能力者"のその能力を封じるためにと用いられている特殊なもので、主には海軍にて捕縛・収監用に利用されている希少なものだが、蛇の道はへび、公安関係者以外の手に入らない訳ではない。それを使った手枷であったらしく、ということは。


   「こいつら、端
(はな)から俺らが狙いかよ。」
   「どうやらそうらしいな。」


 巧妙に仕立てられた大掛かりな芝居。そして、能力者であるルフィへの準備。恐らくは村人たちにも脅しをかけるか、それとも宿とその周辺にだけ囲う罠を張ったかしての、結構大掛かりな仕立てであるらしくて、
"…となると、数カ月に渡る人身御供って話も嘘だな。"
 どうやらそのようだ。それにしても、よくも巡り合わせたもんで、もしもゾロが隣村まで迷い出てなくて、その結果として此処に居合わせなかったならばどうなっていたことか。………あ、そんなに代わりはないかな? 用心深い彼のこと、心配してこっそりと、ルフィの入れられた柩を追ったに違いないしね。
(笑)
「ちっ!」
 ルフィの手枷から伸びていた鎖は、既
とうに刀の一閃でそれは手早く叩き切った剣豪ではあったものの、これで船長さんは"戦力外"と化したも同然。へたり込む小さめの体をひょいっと小脇に抱え上げ、
「港の方に居残ってる連中は大丈夫なのか?」
 ゾロは金髪のシェフ殿へと訊いた。彼らのメンバーは全部で7人。そのうちの戦闘班である頼もしき"船長プラス双璧"が此処に顔を揃えてしまっている。あちらにも魔手は伸びている恐れがあって、だが、
「ああ、大丈夫だろうよ。胡散臭いって目星はつけてたくらいだ、俺が出て来ると同時に船へこっそり戻るって言ってたし、この程度の雑魚どもならチョッパーもロビンちゃんもいる。」
 そうだと認めるのが少々情けないのか、サンジは小さく苦笑して見せたが、その心境はゾロにも判らんでもない。新しく加わった女考古学者は、悪魔の実"ハナハナ"の能力を得た、それは腕の立つ達人で、下手すりゃ自分たちと同等かも知れないくらい頼りになる。自ら"フェミニスト"を任じているサンジにしてみれば、そういう方向での頼り甲斐を女性に認めるのは痛し痒しであるらしく、ゾロにしても…元は敵対勢力の幹部だったせいで今でもどこかで信用していない節があるものの、強い者にはつい嗅ぎ取れてしまうこととして、彼女の腕っ節、認めざるを得ないという判断もしていて。
「それにこいつらも、女性ばかりの向こうより、こっちに手古摺りそうだっていう配置になってるだろから、何とかなってんじゃねぇか?」
「成程な。」
 さっきゾロが現れたことで逃げた連中が呼んだ加勢であるらしく、結構な数がいる。
「何たって1億ベリーだ。用意も周到だったってことだろうさ。」
「あと、同志を募りもしたんだろうな。」
 塵も積もれば何とやら、枯れ木も山のにぎわいという奴だろうか。どっちにしたって"烏合の衆"だ、蹴散らしゃあ良いさとにんまり笑った二人の男へ、

  「ここに集まった面子は五百人。」

 先程から代表して声をかけてくる、恰幅の良い…ダルマみたいな男がそうと言い放った。…って、五百人?
「…1億をその人数で分けるのか?」
 一人あたま20万ベリーでしょうか。まま、ロロノア=ゾロとニコ=ロビンも込みなら2億4千万だから…48万。他の面子にだって多少は懸かっているのでしょうから、それも計上して50万強…ってな計算になっているのかも知れませんが。…あ、必要経費をまずは引かないとね。
(笑)
「捕らぬ狸の何とやらってか?」
「人を馬鹿にするにも程があるよな。」
 呆れたか、それともムッとしたのか。麦ワラ海賊団の双璧、何だか機嫌がお悪いです。そんな様子に気づいているやらいないやら、
「いくらお前たちが腕の立つ海賊でも、蟻にたかられた象が負ける例えもある。この数を全て叩き伏せることが出来るのかな?」
 おいおい、自分で言うかい。尚もって呆れかかったところへ、


  「その麦ワラの船長が海楼石に体力に全てを吸い取られる前に、
   大人しく降伏する方が利口だと思うが。」

  「………っ!」


 さすがは"人身御供"などという段取りを考えた手合い。これもまた、一応は計算した作戦の一部だったらしい。
"そんなもんに まんまと嵌まったのは、ルフィのドジのせいだがな。"
 …まあね。
「どうするよ。」
「強行突破あるのみだ。」
「けどな、いくら俺らが強いったって、一瞬で全部は無理だ。その間にルフィが…。」
 眉をしかめたサンジへ、剣豪殿の表情はあくまでも不敵だ。
「一瞬は無理でも、あっと言う間になら可能だろう? 出来る出来ねぇじゃねぇ、やるんだよ。」
 …いつもならルフィが言いそうな屁理屈だ。作戦も何もあったもんじゃなく、斬り込むぞが口癖の彼だとはいえ、こうまでの無茶を言うのは珍しくて、
「おい。」
 やや呆れて声をかけたサンジだったが、相手の陣営をきつく睨み据えている相棒の横顔に、
"………。"
 何やら鬼気迫るものを感じた。こんな程度の小者の集まりが相手。日頃のゾロなら…今のサンジがそうであるように、一歩ほど高みから見下ろしての余裕の構えで物を言う筈。そんなゆとりが感じられないということは…もしかして。不敵そうに笑って見せてはいるものの、実は彼なりに物凄く怒っているのかもしれない。
「…判ったよ。」
 短くなった煙草を足元へと落とし、靴の爪先で踏みにじる。
"こういう時のこいつを唯一制
(と)められる船長が、そもそもの引き金なんだしな。"
 まるで1匹そのままのキツネのマフのように、腹辺りで下げるような格好で剣豪の大きな手で小脇に抱えられている小さな船長さんの様子をちろりんと盗み見て、何とも言えない苦笑に口角を吊り上げたシェフ殿であった。


   「行くぜっ!」



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  *長丁場です。
   しかも、どういう訳だか、双璧による大殺陣回りとなりそうです。
   ショウ様、ますます“???”かも知れません。
   リクエストいただきました展開へは、もちっとお待ちくださいませです。(泣)