ちゅく・ちゅく 〜蜜月まで何マイル?
             *ちょっと調子づいてみました。『
ぐりぐり』の続きですvv


 透明感に満ちた青空がどこまでも高く高く突き抜けて見える。からりと晴れた秋の上天気は数日続いた。さすがは秋島海域で、真夏の陽射しとはやはり違って、じっと陽溜まりにいても蒸し焼きになるような灼熱感はさすがにない。それでなくとも水際で、しかも朝晩は少しばかり冷え込む。それをじんわりとほどいてくれるような、どこか人懐っこいこの暖かさには、クルーたちも皆、ついつい空を仰いでは頬をほころばせてしまうほど。今日は昼前に風が緩
ゆるんだのに合わせてか、船足も少々緩んでいて。優しい潮風に頬をなぶられながら、ゆったりと上下するそのリズムへ背中を預けていると、自然、体中の全てのリズムがそのおおらかさへと同調(シンクロ)してゆき、心地良い眠りにあっさりと誘いざなわれる。


   Z・Z・Z・Z・Z・Z………


 三刀流の使い手にして天下無双の力持ち。怖いものなしな剣豪殿であれ、この誘惑には勝てないらしく、このところいつにも増しての昼寝三昧を決め込んでいる様子。結構用心深くて気配にも敏感で、油断なく構えているのが常な、まるで臨戦態勢にある"野武士"のような男なのに、実はたいそうな昼寝好き。こんなささやかなことにあっさりと丸め込まれている辺り、余裕なんだか、それともこんな間抜けたところ…もとえ
(笑) 意外性を持つことで突出した部分とのバランスが取れているのか。はてさて、どっちなんでしょうかしら。(笑)

   「……………。」

 雄々しい腕は頭の後ろに引き込まれ。そこへと組んだ手枕に乗せた、短く刈られた緑の髪を乾いた陽光に温めて。鍛え抜かれた分厚い胸板を、穏やかに繰り返される深い呼吸に合わせてゆったりと上下させて。まるで成熟期に入ったばかりの若き黒豹が、その撓やかにバランスのとれた、それでいて強靭なバネを蓄えた強かそうな肢体を悠然と晒して、余裕で午睡を堪能しているような趣きさえある、それはそれは安らかな眠りを貪っている最中の、平和な平和な昼下がり。

   「………。」

 そんな剣豪殿の寝顔をじぃっと見やっている一対の眸がある。肘を上げる格好で手枕をし、胴の部分もがら空きのままに伸び伸びと。こちらもまた無造作に延ばしたままで放り出された、張りのある長い脚…までの全身を隈無く視野に入れたければ、も少し下がった方がいいかも知れない間近に。両のかかとにお尻を乗せて、顎の近くに来たお膝を細っこい腕で抱え込んで。丸ぁくなって屈み込んでいたのは、誰あろう…

   「…ルフィ、か?」
   「当たり。」

 薄目を開けたゾロに麦ワラ帽子の下から"にひゃっ"と笑って見せたのは、このゴーイングメリー号の船長さんであり、麦ワラ海賊団の小さくて幼い頭目殿だ。
「どうしたよ。」
 ただ黙ってゾロの眠る傍らにじっとしていた彼だと、気がついたから目を覚ましたゾロではあったが、彼には珍しいほどじっと無言で大人しかったため、そこに来た途端というすぐさまにその気配を拾えたとは思えない。くうくう・すうすうと、それは気持ち良さそうにお昼寝中のゾロだったので、声を掛けるには気が引けた…のだろうか。
"…それはないと思うが。"
 だよねぇ。今更、遠慮なんてもんをするような人だとは思えない。天真爛漫で屈託がなく、ゾロとは同じ意味でも違った意味でも怖いものなし。誇りを懸けた勝負に挑む時の闘志や信念も半端じゃなければ、大好きなゾロに甘える時の大胆不敵さ…もとえ
(笑)、衒てらいなく振る舞える素直さも半端じゃないと来て。その上、相手は…本人同士の自覚自認に加えて、この船のクルーたちからさえも公認とされている"恋人"さんだ。遠慮を挟む余地などどこにある。
"いや、そうと断言されるのも…。"
 何を照れてる、このこのぉvv 筆者とのMCはとりあえず置いといて。
「あんな。」
 立てて抱え込んでいた膝を板張りの上へ"とすん"と下ろして。見様によっては"正座"のような格好で、ルフィはもじもじと俯いた。
「ホントは寝てる間にって思ってたんだけどな。」
 ちょろっと眸を上げて、えへへ…と照れたように笑う。その言いようを辿ると、彼が何事かへ逡巡している間に気配を嗅ぎ取られて、ゾロが目を覚ましてしまったという順番であるらしく、
「…どうしたよ。」
 いつもだったら、人が寝てようが、滅多にないけど考えごとに没頭していようが
(笑) お構いなしに、どーんと腹の上へダイビングしてくるような、およそ"遠慮"とか"躊躇"とかいう言葉には縁もゆかりもない筈の船長さんなのに。そうと思えば、その順番は確かに訝おかしい。
「…失敬だぞ、お前。」
 あ、これは失礼しました。
(笑)
「そいつに構うな。
(いやん/笑) それよか、どうしたんだ?」
 ゾロが重ねて訊くと、ひょこっと上げられたお顔が…妙にわくわくと輝いている。

  「あのなあのな。
   サンジにな、匂いつけよりもっと効果のある"印つけ"教わったんだvv」

  「…あのな。」

 こっちの"あのな"は当然の事ながら、トーンも意味合いも全く違う。ほんの先日、今日と同んなじほど ぬくとい昼下がりに、やはり"印つけだ"と言ってすりすりと顔や身を寄せ"マーキング"して来たルフィであり。そんなややこしいことを彼へと入れ知恵したのもやはり、あのスケコマシ…じゃなくて
(笑) フェミニストなシェフ殿であったのだ。
"ったく。"
 魂胆は見え見えだ。ルフィの無知さ加減をからかいたいのではなくて、それを上手くいなしたり執り成せたりが出来ない自分の焦りようや慌てようを見て、日頃の偉そうな不遜な態度も形無しだなとからかいたいのだろうと。
"大体、何でこいつは、エロコックの言うことなんかをいちいち鵜呑みにするんだよ。"
 おやおや。そっちにもムッとしてらっしゃるらしい。寡欲で淡白。男の、そして剣士の、命と誇りを懸けた戦い以外には何事へも執着が薄い彼だのに。唯一の例外として、このちょぉっと危なっかしい船長さんは、何よりも愛惜しいし大切な存在。出来ることなら鍵のかかる箱にでも閉じ込めて、彼の意志さえ封じ込め、自分だけの存在にしたいほどと来ているから半端じゃあない。
"………。"
 違うの?
"………さてな。"
(ふふん?/笑)
 そもそもはただ"危なっかしくて放っておけない奴"だったものが、いつの間にやら…その心根や信念の"正論上等"なところに引き込まれていた。むしろ"卑怯結構"な筈の荒海の男に必要な、笑って死ねる覚悟をきっちり理解していた彼の、果てしない夢さえ地続きにしてしまえる度量の広い心意気に、いつの間にやらすっかり呑まれていて。気がつけば…破天荒で向こう見ずで途方もない奴な筈の彼と、なのに呼吸が合うのが、十まで聞かずとも百くらい分かってしまう相性が、けったくそ悪いが小気味良い、そんな感覚になっていて。

   …そして。

 幼いところや拙いところがくすぐったくて愛らしい…とか、小さな動物のような黒々とした大きな眸でじっと、まるでこちらの内心深くまで覗き込むように見つめてくるのが何とも愛しい…だとかいうのが、いやホントにそっちは後からついて来たことなんだけれど。今では何だか、そっちの感情の方が先に胸に灯ってしまい、
「???」
 邪気のない顔で小首を傾げて真下から覗き込まれたりすると、頭の中でくらっと何かが揺らいで。
"…やべぇ。"
 ここが昼間の甲板だという状況把握が、ふわっと霞んでしまいそうになるから怖い。そしてそして、先にも述べたが彼らのそんな、ちょこっと不器用な間柄は既
とうに公認、バレバレで。だというのに…本来なら"女性へ"マメなサンジの、淑女相手に準備された様々な知識だの気配りだのが、どういう弾みかお遊びか、ルフィへも向けられることがたまぁにあるにつけ、コンプレックスがつつかれでもするのか悠然とは構えていられず、ついつい過敏になりもする剣豪殿であるらしい。それでなくとも自分は何かと不器用だという自覚があるから始末に負えず、
"そのうち、本気で血ぃ見せんといかんのかもな、あいつにはよ。"
 こらこら物騒なことを。
(笑) ついつい長い小説明が挟まってしまったが、ゾロさんが脱力気味に、
『…あのな。』
と応じてから、そんなに間合いが挟まった訳ではなくて、
「…で? その"印つけ"ってのはどんななんだ?」
 期待にわくわくしたその弾み、ついでに小刻みに身体が動いているほどの"早く試したい"という態度には逆らえないのが惚れた弱み。どう遠回りをしたってどうせ結局は折れざるを得なくなるに決まっている。それを見越して…話がややこしくなる前に、やれやれと諦めて聞いてやることにする。何しろ"自分のものだという印"だそうなのだから、まあその…そんなに悪い気は、しない訳で。
(ヒューヒューvv)
「…っ、いいの? やたっ♪」
 但し。忘れちゃいけないのが、この船長さんの恐ろしいところは、一言で言えば何につけ"天然"だという点で。両手の拳を胸元に引き寄せて"くふんvv"と小さく笑うと、
「…?」
 寝転んだままの剣豪殿の、腕は最初から手枕に使っていて文字通りの"お手上げ"状態だった、たいそう無防備なままだった腹へと躊躇なくまたがるルフィであったため、
"えっと…。"
 …随分とかなり言い遅れたが、此処はいつもの上甲板で。そぉ〜っと頭上の方向、主甲板やらキッチンキャビン前のデッキやらを透かし見たゾロは、そこに誰の姿もないのを一応確認。それから、空の方の頭上、見張り台に気がついて、
"…いや、今は誰もいない筈だよな。"
 そこでふと、何を過敏になっているのだろうかと、剣豪殿が苦笑混じりに我に返ったその時だった。

   「………え。」

 ぱさっと。まるで今から匍匐前進に入るぞと言うよなノリで、ゾロの広い胸板の上へその身を伏せたかと思ったその直後に。

   ――― ちゅく・ちゅうちゅく

 丁度ルフィが顔を伏せた辺りの、首の付け根がいきなりじわっと熱くなったからちょっとびっくり。麦ワラ帽子が邪魔で何をしているやらはまるきり見えないものの、この音と、首条に触れているしっとり柔らかな感触は紛うことなく…。

   "あ、まさか…。"

 ほほお。この段階で気がついたかね、珍しい。
(笑)
「…あれ? つかない。」
 変だなぁとか何とか呟きながら、再度のトライとばかり、吸血鬼ルフィが食らいついたゾロの首条は、乙女の柔肌ほどそうそうすぐには降伏しない。その下の筋肉を鍛えるほど、自然と肌だって強度を増しているというもので。よって、たかだか数秒ほど吸いついたくらいでは、簡単には残せないのだ。

 キスマークはねvv

"…ばっ、なんてこと言い出すんだよっ!/////"
 違わないでしょうが。実際の話、あんただって気がついてるんでしょうに。
(笑)
「ん〜〜〜〜〜。」
 鍛え上げられているがため、無駄な贅肉がほとんど削がれた部分の肌は、軽く吸いつくくらいでは引き上げることさえ出来ないのだと気づいたらしく、ならばと、

   「………っ☆」

 唇を薄く開いて幼い歯の先で甘く噛みついて、そうすることで皮膚をすくい上げる作戦に出たルフィなものだから、
"えと…えっとだな。"
 何だか…やってることも体勢もいつもと逆で、視界の中にはすこ〜んと抜けるように青い空しか見えないのが、妙に不安で落ち着けない。こんな体勢で自分より大きな身体にのしかかられて、それでも素直に身をゆだねてくれる、受け入れてくれているルフィって、
『…健気なんだなぁ。』
などと、呑気なことを思っていられるような余裕は、はっきり言って全然ない。
(笑) 早く終わらないかなと、ややもすると罰当たりなことを思っていたらば。その内、首元がちりちりとかすかな痛みを帯びて疼き出し、
「…ルフィ。ルフィ、痛いぞ。」
 小さな背中をポンポンと叩いて催促すると、その途端に"ちゅぱっ"という派手な音。そして、
「ぷふう。」
 勢いよく上体を起こしたルフィは、まるで素潜りから上がって来た人のように肩を上下させ、やや大仰な吐息を1つついた。
「…ついたのか? お望みの"印"とやらは。」
 あいにくとゾロ本人からは見えない場所だが、相当にむずむずと痛かったから、結構濃く鬱血している筈である。まったく次から次へと下らんことを吹き込んでくれよってからにと、今夜中にも血の雨を降らす決意を腹の裡
うちにてしっかと固めた剣豪殿だったが、
「?? ルフィ?」
 どうせ意味など分からない彼だろうと、無邪気に笑って終しまいとなる筈が、
「………。」
 うんともすんとも反応がない。怪訝に思ったゾロは、顎を少し引くようにして、
「ルフィ?」
 自分にまたがったままな船長さんの顔を見やったが、

   「……………/////。」

 恐らくは鮮紅色の花びらみたいなそれだろう痣…自分が付けたキスマークを見て、何故だか"ポッ"と赤くなっている彼であるらしい。とはいえ、何故"そう"なるのかがゾロには一向に判らない。
「どうしたよ。」
 改めて声を掛けると、
「ずりぃぞ、ゾロっ!」
 思い詰めたような、どこか勢いづいた声が投げられて来て、
「はあ?」
 ますます何が何だか判らない。何ともしまりのない声を返した剣豪へ、
「知ってたんだろ。この印のことっ!」
 真っ赤になったルフィさん、何だか妙な剣幕である。
「だってさ、俺、この印、見たことあるもん。昨夜だって…っ。」
 言うが早いか、たくさん余ったシャツの裾に手をかけて、腹の辺りをガバッとめくり上げようとする彼であり。その下には…。
「わっ、よせって…。」
 そんなルフィの手を押さえながら慌てて身を起こしたゾロの勢いに、
「あやや。」
 腹の上へと乗っかっていたルフィが、バランスを崩してころんと足元の側へ転げてしまう。二人分の両手で…片やは引っ張り上げようとし、片やは引き下ろそうとした裾が、揉みしだかれて丸まっていて。一瞬、二人の動きが止まったその刹那へ、

   「こらこら、そこのオオカミ剣士。真っ昼間から何やってんだ。」

 いつの間に出て来たのやら。キッチン前のデッキから、柔らかな光沢のある金の髪を弱い潮風に散らしながら、両手を口の前でメガホンのようにしたシェフ殿がそんな声を飛ばして来た。笑いを含んだ冗談口調ではあるものの、

   「………う。」

 確かにこの体勢。実は逆なのだが、どう見ても。押し倒した少年が咄嗟に押さえたシャツの裾を、めくろうとしているのがゾロの方だと見えてしまう構図ではなかろうか。

   「…くっ、あのやろーがっ!」



 ぴきぴきとこめかみに血管の浮き出した剣豪殿が、二の腕の黒バンダナをぎゅうっと頭に巻きつけて、問答無用の"鬼斬り"でサンジに切りかかったのは言うまでもないことであった。


   ……………合掌。



  〜Fine〜  02.10.4.


  *今回は忘れなかったけれど、
   ウチのルフィさんはあまり麦ワラ帽子をかぶってないみたいですね。
   いつもうっかり、描写を忘れてしまいます。
   文章書きのネックかな、これ。気をつけないと。
   それはともかく。
   前作『ぐりぐり』で図に乗っての続きです。
   もちょっとラブラブでも良いんじゃなかろうかと思って進めてみました。
   でも失速。(爆笑)
   狙うとダメみたいですね、やっぱり。
   要らんことばっかりルフィに吹き込むコックさん、
   真剣に叩き斬られる日も間近なのかも知れません。
(笑)
   こちらも"DLF"と致します。
   こんなで良ろしかったなら、どうぞお持ち下さいませですvv

   私信;
   ○AMI様、キリリクサボってごめんなさい。あと 1/3ですので頑張ります。


back.gif