Back Yard Bお留守番U 〜蜜月まで何マイル?



    
◇◆ おまけ ◇◆◇



 船端から"おかえり〜"と手を振って見下ろせば、向こうからも"お〜い"と笑顔で手を振り返してくれる仲間たち。予想通りに"勝利の凱旋"であるらしく、大きな荷車には、賞品だろう様々な包みがてんこ盛り。
「凄かったんだぜぇ? 全部の試合、5秒とかからないで勝っちまってさ。最後の決勝戦なんか相手が刀を抜く間もないくらい早く終わっちゃった。」
 チョッパーが興奮気味に、腕を振り回しながらそう言って、
「いやホント。これは後世に語り継ぐべき戦いの記録になるな、うんうん。」
 ウソップも、まるで我がことのように感銘深く頷いて見せる。
「じゃあ優勝したんか?」
「そうよ〜。賞金も賞品も全部いただきvv」
 一行の中、一番嬉しそうなナミが飛びきりの笑顔でそう言って、だが、当の本人、栄えある優勝者殿は、

  「………。」

 どこかむっつりした様子なままでいるばかり。最初にちらっとこちらを…船上を見上げたその時に、いつもながら深いしわが刻まれた眉間に、尚の不機嫌そうなしわが深く刻まれて。それからのずっと、そっぽを向いたままでいる彼だ。
「さ。積み込んでちょうだいな。あ、ゾロは免除ね。今日の英雄ですもんね。」
 にっこにことご機嫌そうなナミの一言に、だが、

  「「「「…え?」」」」

 ウソップやチョッパーのみならず、ルフィにサンジまでもがギョッとした。たとえ貢献したものであれ、それはそれで、使うべきところではきっちり使う。そういう血も涙もないのが彼女ではなかったか?
"そこまで言うか?"
 あ、あ、ごめんなさいですっ。(あははのは/汗)
「……………。」
 そんな具合に愕然とした皆とは違って、もしかして…使われることと運んでも頭から無視したんじゃないかと思われたほど、ゾロ当人は素知らぬ顔のまま縄ばしごに手をかけるとするすると昇って来た。そうして、
「凄げぇな、ゾロ………? え?」
 嬉しそうに寄って来た船長殿の腰辺りを受け止めるや否や、ひょいっと片腕で抱え上げると、そのまま軽々と肩の上。荷物扱いで抱えたそのまま、いつもの上甲板へと向かうから、
「…やっぱ不本意だったんだなぁ。」
「ってか、ルフィが居なかったからな。それが不満だったってやつじゃねぇのか?」
 尊大とか居丈高とかの"等身大見本"と化した大きな背中が大股に去って行くのを見送って、ただでもらった特上ブドウ酒や最高級の絹、小麦に砂糖に燃料1年分。その他いろいろの荷揚げ作業は、他のクルーたちの手によって続いたのだった。


            ◇


 そして、上甲板では。
「どしたんだよ、ゾロ。勝ったんだろ? 楽勝だったんだろ?」
「…まぁな。」
 やっとこルフィを分厚い肩の上から降ろして。上甲板の縁の手摺りに凭れる定位置。そこにどっかと腰を下ろした剣豪殿は、口許・眉間をお揃いで捻じ曲げた、どこか不機嫌そうな雰囲気のまま、むっつりと黙りこくっているばかり。すぐ傍へこちらもぺたんと座ると"なあなあ"と寄って来て顔を覗き込む、屈託のない船長殿の肩を引き寄せて、無言のままにきゅうと抱き締めるあたり、やっぱり様子が訝
おかしくて。
「ゾロ?」
 せっかく我慢して待ってたのに、半日ぶりなのに。無事な再会を喜びもせず、良い子でお留守番してたことを訊いてもくれず、自分の活躍を語ってもくれない。…まあ、後半のお喋りは、そういうのが得意な彼ではないから仕方がないとして。何でこんなに、憮然としたままな彼なのか。懐ろの中、居心地は良いが何だか様子が変だなぁと怪訝そうな顔をしているルフィの耳元で、

  「俺は見世物になるために刀を振って来た訳じゃあないからな。」

 ゾロの声がぼそりと、そんな一言を紡いだから……。

「…うん。そだよな。」
 それはさすがに。その理屈はルフィにも良っく判る。いくらナミが考えた"必要経費を稼ぐため"のことであれ、日々真剣に鍛練に挑み、精神集中なども欠かさぬようにして精進している、彼にとっては神聖で大切なことだのに。それを"金儲けの道具"にすべきではないだろう。
「ごめんな、ゾロ。これからこういうこと無いように、俺も気ィつける。」
 神妙に肩を落とすルフィに、
「………。」
 ゾロは、だが、どこか複雑そうな顔をするばかり。彼を困らせたくはないのにと、そう思ってますます苦々しい気分が涌いて来たらしい。
"…ガキみてぇだよな、これって。"
 実際問題、昨日話を振られた時こそ、いろいろと難癖をつけもしたものの、一応は納得した上での参加だった。確かに"見世物扱い"は御免だが、こういう形で貢献するのも、まま悪くはないかもなと。納得してはいたのだ、彼も。…ただ。そんな場に肝心な人物が同行しなかったのは、やはり何だか詰まらなくって。聞き分けのない子供のようだと言いたきゃどうぞと、重ね重ねに拗ねて不貞腐れるほど、面白くなかった彼であったらしい。ぶすっとむくれたままに相手を見もせず薙ぎ倒しまくって。昼食の際には、
『ルフィも飯喰ってる頃かな』
『そうね。何しろサンジくんと二人きりだから、特別にデザート多めに作ってもらったりして、大いに甘やかされてることでしょね』
 ボソッと囁いた策士の策にまんまと嵌まり、
『………っ!』
 判りやすいほど頭に血が昇ったせいか、午後の立ち合いはほぼ瞬殺続き。この展開に、
『悪魔のような奴だ』
『ホント、凄げぇ…』
 ウソップとチョッパーが青ざめたのは言うまでもなかったりする。…いや、ゾロが、じゃなくって。
(笑) しかもしかも。戻って来たそのお船の上では、何となく癇に障る存在の、そのコックと仲良く並んでのお出迎えをしてくれたものだから。
『………。』
 やはり判りやすく"かっちぃ〜ん☆"と来てしまった剣豪なのである。ルフィにしてみれば、言いつけを守って大人しく留守番してたぞと言いたくてのことだろうが、そして、そういう簡単な、何でもないことなのだという理屈くらいちゃんと判っている筈が、やはりどこかしらで納得に至らず、
"…ガキだよな、実際。"
 恋をすれば、どんなに"鈍感どんがらがった"な人間でも、繊細複雑・奇々怪々な心理変調を来
きたすものです。一日三回、食前食後、大好きなあの人の顔を姿を眺めていなくちゃ落ち着かない。そのくせ、愛しい人の言動は…時に不安を呼びもするから厄介で。恋ってまるで、心臓発作用の頓服でありながら健康な人には劇薬でもある"ニトログリセリン"のようなものなのかも。おいおい
"………。"
 さっきからずっと。この腕の中でそれは大人しく、身じろぎ一つしないでいる、柔らかで温かな小さな存在。奇跡的に帽子の中へと捕まえた蝶々を確かめるかのように、そぉっとそぉっと覗き込めば。無垢な光を凝縮させたような大きな眸が、何の衒いもなく、真っ直ぐに見つめ返してくれるから。

   「……………悪りぃ。」

「んん? 何がだ?」
「ちょっと、な。」
 自分の値を落としそうなので、これ以上はくだくだ言いたくなくて。第一、うまく言い尽くせる端的な言葉というのを思いつけなくて。何とも言わなくなったゾロに、う〜ぬと小首を傾げるルフィであったが………。


AへBACK**


   〜Fine〜  02.6.4.〜6.13.


   *ちょっと久々にシェフ殿とルフィのお話をと思いましてね。
    でも、考えてみたらそんなに久々でもないのかも?
おいおい

   *で…やっぱ、ゾロのお話も書いておかなきゃと思った辺り、
    やっぱり Morlin.って"ゾロル"なんだなぁ。
しみじみ

   *とゆわけで、ゾロル編『来訪者』へ続きます。
    (近日UPだ、しばし待たれいvv)


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