蜜月まで何マイル? "漆黒の帳 闇夜の扉"
 

 

          



 さてさて。一体、何のどういうお話なんだか。背景説明のないままな皆様には、さっぱり判らなかったことでしょうね、ごめんなさいです。いよいよ食費が危なくなって、船長さんが自給自足を目指して町角に立つことに決めた訳でもなければ、剣豪さんと組んで美人局
つつもたせを始めた訳でもありませんで。

  「似たようなもんだ。」

 おや? そうなんですか?
「色香で番人の気を引いて持ち場から引き離して、その隙にお宝に手を掛けようってんだからな。」
「あら、だってしょうがないじゃないのよ。」
 憤懣やるかたなしといういかにも不機嫌そうなお顔をし続けている剣豪さんの、短く刈られた淡い緑の髪がマリモのような、丸ぁるい頭を…恐れもなく ぱこんと叩いて、
「普通の蔵だったなら、あたしとロビンとで何とでも出来たのに、選りにも選って海楼石仕込みの蔵なんですもの。」
 それに出来れば人の目には触れたくなかったしと続け、ふんっと荒々しい鼻息をついた航海士さんであり、
「手っ取り早く方
カタをつけたかった、ただそれだけを念頭に置いての作戦だったんだから。今更グダグダ文句言わないの。」
 時間が惜しかったから突貫工事っぽい策になったのよと、立案者ご本人様も不本意そうなお顔を隠し切れてなく。
「…何で殴る。」
「勢いよっ。」
 むんっと胸を張って八つ当たりを威張りつつも、つい数時間ほど前に離れたばかりの島を肩越しに振り返ると…こっそり"はぁあ"と溜息をついて見せた。破天荒さでは誰の追随も許さない、あのルフィが呆れるほど"無茶"には定評のあるナミさんでも、今回の騒動に関しては色々と複雑だったからに他ならない。弾けんばかりの陽光に照らされた甲板では、まだどこかしらちょこっと元気のない小さな船医さんへ、ご陽気な船長さんと狙撃手さんとが"遊ぼうよう"とちょっかいを出しており。そこへと割り込んだのが、

  「おらおら、どきな。」

 そのトナカイさんが大好きな、イチゴのシュートケーキとマンゴープリンとをトレイに載せて、スタイリッシュなシェフ殿が華やかに登場。
「あ〜、俺もおやつっ。」
「俺も俺もっ。」
「てぇ〜い、判っとるわっ。ちょっと待ちなっ。」
 美味しそうなケーキを前に、まるで幼子のように躍起になってしまったお友達の食いしん坊な様子にあって。ようやっと…トナカイドクターさんが"うくくvv"と楽しげに笑って見せてくれたから。

  「………良かったこと。」

 こちらは"大人組"の面々が集っていたキッチン前のデッキにて。風になぶられる黒髪を指先で払いつつ、ロビンが柔らかに笑って見せる。何だかんだでゴチャゴチャしたが、あの笑顔さえ見られれば一番救われるなというのは、クルーの誰しもが感じた共通の想いだったから………。






            ◇





 事の初めは、うっかりの積み重ね。トナカイドクターのチョッパーが、ここいらを根城にしている海賊に攫われてしまったのが昨日の正午あたりのこと。ログが溜まるまでに2日かかるため、こっそりと着岸していた入り江にて。留守番がてらに散歩をしていたら怪我をしていた住人を見かけ、それへと手当てをしてやったところが、他にも怪我人がいるんだと掻き口説かれたチョッパーさん。ついついほだされてしまったその時に、せめてナミやらサンジやらが傍らにいれば良かったのだが。他のクルーたちは港町まで買い出しに出ていたし、一緒にお留守番をしていた剣豪さんは例によって爆睡していたものだから。すぐに戻れば良いよねと、お医者様としての使命感に燃えてしまって一人でお出掛けしたは良かったが、辿り着いた古ぼけた人家には…なんと海賊の一団が待ち構えており、

 《 麦ワラ海賊団に告ぐ。
   仲間を返してほしかったなら、この島の秘宝を取って来な。》

 いかにも不遜な投げ文が、甲板にてまだ寝ていた剣豪さんのおでこにヒットして。丁度町から帰宅したばかりの皆さんが"これは何たる事っ"と大混乱したのが、そろそろおやつ時という昼下がり頃のこと。チョッパーだって海賊団の一員。あれで箍が外れれば、そこいらの雑魚なんざ幾らでもあっさり平らげられる身なんだから、自分のことは自分で何とか出来るんじゃないかと。これまでの波瀾万丈だった冒険の数々という経緯を振り返り、自信満々なご意見を放った剣豪さんへは、

 《 なお、こちらには海楼石の拘束具がある。
   お仲間の悪魔の実の能力は封じてあるので念のため。》

 そんな付け足しが読み上げられていた。………手錠だかロープだかは知らないけれど、装着するのに手古摺らなかったのかなぁ。それもまた、うっかりとかまされたチョッパーだったのか。そして、

  『ああ、それなら聞いたわ。』

 いつものように別行動をし、島の遺跡や遺物を見聞して回っていたロビンが言うには、この島には海神様を祠った社があって、海神様に感謝の舞いを奉納する神事の時にだけ持ち出されるお道具の中に、この島の人間にしか知られてはいない…ルビーだかサファイアだかの秘宝があること。武装組織が存在して入るようには思えない、いかにも鄙びた静かな島だけれど、どういう奇跡かその宝物、これまでにも一度たりとも盗まれたことがないそうで、

  『他所者が滅多に来ないような土地だからとか、
   それは恐ろしい"天罰"が下るからだとか諸説紛々なんだけれど。』

 くすすと笑ったロビンが言うには、
『腕に自信の者ほど失敗したっていうのはね、その蔵にはたまたまながら"海楼石"が使われているからなの。』
 どうやらこの海域は"海楼石"の宝庫でもあるらしく、壁やらクギの飾りやらにふんだんに使われてあるそうで。そんなところにうっかり近づけば、腕の覚えのある"能力者"たちは…成程 堪
たまったもんではなかったことだろう。となると、
『じゃあ、ロビンがハナハナで腕だけ入って探してくるってのも…。』
 無理な相談だということになる。
『そんなもん、この俺が叩き斬って開けてやる。』
 一緒に留守番していたのになんて事と、さんざん管理不行き届きを詰
なじられた剣豪さんが名誉挽回にと意気盛んに言い放ったものの、
『そうはいかないのよ。』
『なんで?』
『一体どこに収められてるか、分からないのよ? あんたの剣って、石壁や鋼まで斬ってしまうのでしょう? 扉と一緒にお宝まで真っ二つにでもなったらどうすんの。』
『う…。』
 ナミさんからの鋭いご指摘へ、それは素直に言葉に詰まった剣豪さんの広い背中を眺めつつ、

  "…秘宝なら奥にしまってると思うんだけど。"

 ロビンさん、それ、きっちりと言ってあげたら?
(笑)
『それにっ。』
 ナミさんとしては。出来ればコトを荒立てたくはないとのご所望で。そのお宝、知らない間に勝手にお出掛けしてて、こっそりと戻って来てたって形にしたいのよ。なに、返す時は窓から放り込めば良いんだから。
『だって…。』
 善良な人々が神事に使う、先祖伝来の大切な宝珠。そんな由緒正しい宝物を、得体の知れない奴らのお先棒かつぎで奪って来るなんて、それこそどんな罰が当たるやら。

  『何から何までそんな奴らの言いなりになるなんて、癪だしね。』

 そこでと、大急ぎで色々調べて作戦を立てた。問題の宝物殿に直接のアタックを仕掛ける組にルフィとロビンは入れられないことから、奇抜な手は打てないということで、見張りを引きはがしてその隙に…という策になったのだが、問題なのはその"見張り役"であり、

  『…何でそんなややこしい奴が見張りなんだ。』
  『宗教上、女の人との接触を禁じられてるからじゃないの?』
  『それにしたって…。』
  『きっと、よっぽど禁忌に強い、頑迷な人なのでしょうよ。』
  『? どういう意味だ?』

 ちょいとロマンチックな言い方をしたロビンお姉さまの説明は、だが、少々繊細が過ぎたので、ナミさんが分かりやすく言い足した。

  『だから。相手のいる同性愛者には身持ちが堅い人が多いっていうし、
   逆に女好きは誰でも良いってほど だらし無い奴が多いからねぇ。』
  『具体的で分かりやすい説明ねvv

 何たって典型例が両方揃ってますからねぇ、この船って。

  『どういう意味かな? Morlin.ちゃん。』
  『……………。』
  『なあなあ、どういう意味なんだ? ゾロ。』

 あははのはvv まま、そんな 気になさらずに。
(笑)
『でも、こういう立場のそういう人に、ちゃんと言い寄れる男の子を仕立てるのは難しいわ。』
『なんの。任せなさいvv』
 腕まくりしたナミが船長に何をどう耳打ちしたのかは謎だが、さあ頑張ってらっしゃいと…チョコボンボンを2つほど、景気づけにと食べさせたので、とろんと蠱惑的な眼差しの、意味深な微笑みを口許に浮かべた妖冶な男の子が"一丁上がり"したのらしく。………どんな嗜好であっても個人の勝手ですが、張り番という責務を放り出したのはおじさんが悪い。目をつけて来た相手との巡り合わせが悪かったということで。夜明けまでの間、人事不省になってもらうことにして。



  ――― で。



「ブツぁ持って来たんだろうな。」
 威嚇の効果も考えてかわざわざ全員でやって来たのは、結構年嵩な顔触れ揃いの連中で。それは居丈高になって言い放ったダミ声の頭目さんが指定した取り引きの場は、明け方間近い入り江の砂浜。町からは遠いため、こんな大声でやり取りをしていても怪しまれはしないのだろう。白々と夜が明けかかっていた空の黎明の気配も何とも爽やかなその中に、こちらからはウソップとナミ、サンジという顔触れが足を運んだ。
「これ、でしょ?」
 傷をつけないようにと拵えられたものだろう、そこへと仕舞われてあった革の袋の中からナミが掴み出して見せたのは、ソフトボールほどというとんでもない大きさの真っ赤なルビーで、大きさもさることながら色味の上品さや巧みなカットの美しさも大したものだ。成程、欲しがる奴も多かろうとナミも納得した正に絶品。それを目の前にかざされて、
「おお、それだそれ。」
 ほくそ笑んだ相手に向かい、
「先にその子を離しなさい。」
 黒っぽいロープでぐるぐると縛られて、ふにゃんと萎えて元気のないトナカイさんを指差したナミだったが、
「甘いなお嬢ちゃん。」
「まずはそっちから渡しなよ。」
 へらへらと嘲笑混じりに言ってのけるダミ声頭目であり、周囲のお仲間たちも似たような態度。大方、こっちがたったの3人だということへ余裕を覚えてでもいるのだろう。あからさまに軽んじられて、さすがにチッと舌打ちしたナミは、だが、まずはチョッパーの、仲間の無事が優先よねと思い直したか、

  「判ったわ。」

 言ったが早いか、なんと…そのルビーを中空へ放り投げたから。

  「なっ。」

 これにはさすがに相手陣営が焦って見せた。ガラスじゃないんだし、ここは砂浜。そう簡単に割れはしなかろうけれど、それでも貴重なお宝だ。山なりに放られたルビー目指して、慌てて頭目と何人かとが身を乗り出したその刹那、

  「ゾロっ!」

 ナミが良く通る声で呼んだのは。浜辺の外れ、丁度彼らが向き合っていたその横手に連なっていた、小さな木立ちから飛び出した黒い人影の名前。砂地という悪い足場であるにもかかわらず、疾風のような相当な勢いで駆けて来て、

  「チョッパーっ!」

 こちらさんもまた、それは良く通るお声で名前を一喝。しゅぱっと弾けたは、眸にも留まらぬ白銀の一閃。素人目には何か黒っぽい塊が飛び出して来て通り過ぎてったようにしか見えなかったかもしれないが、

  「…うおおぉぉおおぉっっっ!」

 そのほんの刹那に駆け抜けた疾風さんの手になる"良いお仕事"にて、しっかりと就縛されていた問題のロープが両断されたため、くたりと萎えていたトナカイ船医さんが、何とか力を振り絞り、一気に青年型へと変化する。雄叫びつきにていきなり嵩が増した雄々しき肉体。すぐ傍らに居合わせた雑魚どもが勢いに撒かれてころころと背後へ転げたほどであり、
「げぇっ! なんだ、こいつっ!」
「人の言葉を喋るってだけじゃなかったのか!」
 大きくなったチョッパーにぎょっとした輩たちの視野の中、係留していた場所から沖合へと移動しかけていたゴーイングメリー号の姿が収まる。ルフィとロビンの二人で操船して来たものであり、このまま全員を回収し、一旦勢い良く離岸するという段取りだったのだが、
「あ…。」
「あの海賊旗は…。」
 一気にざわざわと落ち着きをなくした連中だと気がついた。何を見てだか、妙にざわついており、浮足立ってさえいるような…?

  「麦ワラ帽子のジョリーロジャーだとっ?!」
  「それって…もしかして…。」

 舳先の羊には麦ワラ帽子をかぶった船長さんがちょこりと乗ってる。おーいおーいと大きく手を振る屈託のなさに、
「暢気なもんだよな〜。」
「そだな〜。」
 ちょいと毒気を抜かれて立ち尽くしてしまったサンジやウソップの様子とは裏腹、

  ――― どっひゃあぁぁああぁ………っ、と。

 それはもう唐突に。口々に悲鳴を上げて、もんどり打って逃げ惑う敵陣営であり。泡を食って右往左往する様は、出来の悪いコメディ映画のよう。この様子から察するに、
「…なんだ? あのあわてっぷりは。」
 そですよね、確か“麦わら海賊団へ”って名指ししてなかったか?
「…もしかして、そういう呼び名の別の海賊だと思われていたとか?」
 ………そ、それは。
「直立トナカイが仲間にいるっていう情報は流れてなかったのね。」
「そうみたいっスね。」
 恐らくは、チョッパーを"珍しいペット"くらいに思っていたに違いない。
「それで"返して欲しくば…"と構えた訳ですか。」
 呆れたように呟いたサンジのお隣り。ベルトから発射出来るあのロープをちょこっと改良し、マジックアームを先っちょに装備して、ナミが山なりに放り投げたドでかいルビーをナイスキャッチで回収したウソップが"あはは…"とどこか力なくも笑って見せる。だって…ねぇ。もしかして、こっちの素性をもっと早くに明らかにしとけば、こんなややこしい段取りを急ごしらえする必要もなかったのかもと、ある意味、こちらさんも自分たちの外からの評価というものをよくよく把握していなかった、1億ベリーの賞金首を頭目に掲げた海賊団さんたちであり、

  「ま、まあ。チョッパーも無事だったことですし。」
  「そ、そうね。そうよね、ほほほほほ…vv

 これをその筋の専門用語で“結果オーライ”といいます。
(笑)






            ◇



 お宝は無事に宝物殿へと返しておいた。まだ伸びてた張り番のおじさんもちゃんと扉前に運んでおいたので、まずは蔵の中を確認することだろうし、床に落ちてる宝石を見つけても、この蔵の中にあるんならと安心して、元の収納場所へと戻してくれるに違いない。何だか随分とバタバタしてしまった船出となったが、

  「ま、目的の買い出しも出来たことですし。」
  「そうね。それで良しとしときましょうかね。」

 ログを溜めるということと、もう一つ。あの島に上陸した目的。もう数日後に迫っていた誰かさんのお誕生日を祝うための特別なお買い物を、どうしても済ませたかったので、殆どの顔触れが出払うようなお出掛けになってしまったのが事の発端。相変わらずにドタバタと落ち着きがないこと この上ない彼らだけれど、いっそその方が"らしい"のかもねと、主甲板にてはしゃぐお子様たちを見下ろしながら、くすすと笑ったナミさんとお兄さんお姉さんたちであったのだった。





  heart2.gif おまけ
heart2.gif


  ――― ところで、ゾロ。

       なんだよっ。

  ――― ルフィ連れて船へ戻ってくるの、
       ちょっとばかり遅かったのは何故なのかしら?

       う………。////////







  〜Fine〜  04.5.7.


  *なんだか異様に長い話になってしまいましたな。
   その割に、中途半端にバタバタしていて、申し訳ありませんです。

  *えと、それでですね。
   このお話には本当に久々の"裏"があります。
(ホンマにな。)
   R-15と制限をつけさせていただきますので、どかよろしく。
   入り口は…甘いの甘いのvv

back.gif