月下星群 ~孤高の昴・異聞

  天上の海・掌中の星 ~破邪翠眼




  「お前に俺の真
まことの名前を教えといてやる。」
  「真の名前?」
  「ああ。それを呼ばれると、どこにいても聞こえて、無視出来なくなる。
   お前の居るところまで俺を導いてくれる。」
  「えと…。」
  「ロロノア=ゾロ。それが俺の真の名前だ。
   言っておくが、俺の口からでなければ伝わらない代物だからな。
   だから、周りに誰が居ても気にしないでいい。
   何を口にしたのか、何と呼んだのかは、お前と俺にしか判らない。
   声を出さなくても、心の中で念じて呼んでもいい。
   いいな? 忘れるなよ?
   名前をってだけじゃなく、いざって時には俺を呼ぶんだってこともだ。」
  「うんっ。」




 おまけ・夏夜風





 相変わらずクーラーは嫌い、そんでもやっぱり暑いようと駄々を捏ねるので、小さな体を胸元へ抱えて屋根の上。夜空にぷかりと身を浮かべれば、
「わぁ~、涼しい。」
「…あのな。」
 小さな歓声を上げて思い切り抱き着いてくるやわらかな温みへ、人をエアーベッドの代わりにするんじゃないと思った辺り、破邪精霊サマ、夜中の通販番組、さては観てたりしますね?
(笑)
「あ、虫よけ持って来れば良かったな。」
 このままでは蚊に刺されてしまうと感じた少年へ、
「蚊も蛾も虫も、寄っては来ねぇよ。」
 言ったその同時、ぽわんと真珠色の光が二人ごと包んで、一瞬の後に消えた。
「これでお前の姿も外からは見えてねぇ。」
「ふ~ん。便利なんだ。」
 ごちゃごちゃ言いつつも、さしてかからず"くうくう"と寝付いてしまったルフィである。この暑いのに連日のように"プールだ""部活だ""なあ、ゾロもついて来いよ"と昼間もお元気な少年であり、宵には宵で、時々遊びに来るウソップくんたちクラスメイトと花火に興じたり、翠眼の精霊と二人きり、野球中継を観たりテレビゲームで戦ったり、夕涼みがてら月夜の空を散歩したりと、宿題に手が回らないほどの忙しさであるらしい。
おいおい そこへ、
「よぉ。」
 ゾロ同様に夜陰と同じ闇色の、小粋なスーツ姿を現したのがサンジである。頼もしい胸元へすっかり凭れかかって寝入る少年に気がついて、
「おうおう、すっかり懐かれてまあ。」
 ふわふわな頬にちょいちょいと触れれば、
「止めとけよ。」
 やんわりとだが、手を退けられて。ご執心な様子に苦笑をしつつ、
「ナミさんからの伝言だ。」
「んん?」
「お前が見失った"天聖の門"を開ける法が見つかった。」
「………。」
 そうと言われてハッとしたのは、今の今まですっかりと忘れていたからだ。そもそもは、このルフィに出会った瞬間から"天聖の門"を見失い、天聖界へ戻れなくなった身を何とかせねばと、そればかりを考えていた自分だった筈なのに。
「どうしたよ。」
 何だかにやにやと意地悪く笑うサンジに、ゾロの眸が眇められる。
「そんだけじゃあねぇんだろ?」
「おお、鋭いね。」
 何がそんなに愉快なんだと、こちらはますます不機嫌になる。いやな方向の話でなければ良いのだが。場合によっては自分もまた、身勝手をした罪
かどで"お尋ね者"に成り下がるのかも。そうなると事はまたまたややこしくなるなと、先回りしてうんざりしている彼へ、
「こないだ、この子に手ぇ出した奴が居たろ?」
 サンジはそうと切り出した。
「…ああ。」
 実はその前の、目を傷めたというアレも似たようなちょっかいを出されての怪我であったらしい。後から聞いて、だから引っ掛かった自分だったのだと納得しつつ、きちんと気づけなかったことへも無性に腹立たしくなったゾロだったのだが、
「当面はその子に集まって来る"お客さん"を退治しろとよ。無論、他の厄介な輩への対処へって仕事も従来通りこなしてもらう。」
「な…っ。」
「嫌だってんなら、この子からこの特別な能力を剥ぎ取るってよ。」

   「………っ!」

 顔色が変わったのではなかろうかと自分でも判るほど、それは衝撃的な一言だった。ルフィからその…陰の者たちを感知出来る能力を、彼らと関わり合うことが出来る強い強い能力を奪い去ったらどうなるか。
「判るだろう? 一番手っ取り早いことだ。能力のない者にあの輩たちは寄っては来ない。利用価値がないからな。それに、陰へ過敏な部分を剥ぎ取れば、これだけの生気がある子だ、今度は陽の気で満たされるだろうから尚のこと、奴らは眩しさに敵わず、近寄れなくなるってもんだ。」
 そう。それが一番の策だろう。何も…彼のことを何も知らないままでいたなら。もっと早く気がつけば。だが、今のゾロにはそれはもう選べない。彼から"能力"を剥ぎ取れば、他の輩たちと同様に自分の姿も存在も、彼の側からは感知出来なくなる。
「こういう子が現にいるって知っちまった以上、放り出す訳にはいかんからな。ナミさんご本人が降臨したまいての、結構大仰な騒ぎになりはするが、それは仕方がないとの仰せでね。」
 サンジは滔々とまくし立て、
「それはそれとして、お前さんの馬鹿力、単なる専属オンリーなんていう生ぬるい部署で楽させるには勿体ない。両方を請け負うか、専属は諦めるか。どっちか自分で選べってのが、ナミさんからの有り難い温情だ。」
「…どこが。」
 どうやって気がついたのか。それとも彼女ほどの彗眼には、今度の騒動の流れ着いた先くらい、推理するまでもないほど明らさますぎるのか。ゾロは珍しくも隠し切れない苦笑を口許に滲ませた。もう答えは出ていること。それを"自由意志"で決めさせてやったという形にして、ゾロに恩を売りたい彼女であるのだろう。とはいえ…無いよなものには違いない"選択肢"でも、わざわざ作って提示してくれた茶目っ気は、何だか嬉しい心遣いでもある。
「判ったよ。俺は欲が深いから両方だ。」
「了解。」
 サンジは、彼もまた共謀者なのか、そして…かれがそう選ぶだろうと予測がついていたためか、どこか愉快そうににんまりと頷いて、
「じゃあ"天聖の門"の開け方を教えてやる。お前が門を見失ったのは、確かに…この子に強く惹かれたせいらしいんだがな。凄まじく古い資料に前例がやっと見つかった。」
 ここでコホンとわざとらしく咳払いを一つ。
「そっちは人間の美少女に惚れた精霊の話なんだが、ま、そういう詳細はともかくだ。お前が心惹かれたその対象へ"真
まことの名前"を教えてやること、だそうだ。」

  ……………はい?

「…おい。」
「何だ。」
「なんだそりゃ。」
「だから。見失った"天聖の門"を開く法だ。」
 どうだ、その子とこういう状況下にあるお前になら案外と簡単だろうがとニヤニヤ笑っているサンジへ、少し広めの額を大きめの手のひらで覆ったゾロは、それはそれは深々とした溜息を一つついた。あんまりにも大きな溜息だったものだから、
「? どした?」
 今度はサンジの方が怪訝そうに訊いて来る。
「もう良い。」
「何が。」
「もう教えたから良いんだ。」
「…え?」
「だから………。」






   ―――所謂"自由"というものは、

 決して"奔放"や"無制御"や"我儘勝手"と同義ではない。"自らに由
よしとす"と書くのは、自身へその原因・理由をおくことを認めるという意味で。つまり、自分の言動への責任をきっちり取れるという但し書きが必ずついて回るということを忘れてはならない。言ったことや行動の責任が取れないようでは"お子ちゃまの好き勝手"の域を出ないただの我儘だ。よって、本当の自由とは、その人に帰る場所があって、その人の足元が固まっていて初めて成り立つ強い強い"自負"の下に、ようやっと高らかに発動されるものである。




 そこで生じた身だからという、故郷の天聖世界を離れた遠く。小さな小さな少年の傍らに、自分の居るべき場所を、居たい場所を認めてしまい、その鍵を預けた翠眼の破邪精霊は。苦笑混じりに、時にはそんな自分へと怒ったような顔になりつつも、それでも満ち足りた至福を感じることだろう。小さな小さな少年の、屈託のない明るい笑顔と、それを守ると決めた強い強い自負の下に…。








  ◇◆ おまけのオマケ ◇◆◇


「ふっふっふ。やっぱりね、そう言い出すと思ってたのよ。」
「冴えてるナミさん、ステキだvv」
「大体、あたしが直々に降り立ってみたところで、そんな子の能力、剥ぎ取れる筈がないじゃない。」
「………はい?」
「上級の破邪精霊さえ手なづけるほどの魅力と対になってるほどの能力よ。しかも"陽体"なのに破綻なくこの年齢まで保っていられてる。…あの子、まだ"清童"なのかしら?」
「さ、さあ…。」
「普通は"性交渉"持つことで失われるって言うけれど、もしかしたらそんなレベルじゃあないのかもね。」
「過激なこと、仰有るナミさんもステキだvv」
「それに、不思議なことには、攻撃オンリーなバカ剣士だったのが、護壁能力を付け出してるのよね、あいつ。」
「それって…。」
「やれば出来る子なのよ、うん。それをまたズボラしてサボってさ。剣術バカも良いけど、尻に火がつかなきゃやんないってのにも程があると思わない?」
「…お母さんみたいですね、今の仰有りよう。」
「何ですって。誰があんな老け顔剣士の母親ですってっ?!」
「あ、いやいや、あのその…っ。」



  ~Fine~  02.7.7.~7.27.


  *ラストの"真の名前"に関しては、
   ファンタジーではよくある設定なのですが。
   まさか原作でも"呼べば助けに来てくれる騎士"が現れようとは。
   本誌読んでなくても情報は入るんですよね。
   だから知らんぷりも出来ない…。困ったもんです、はい。
(笑)

  *何だかご大層なタイトルがついておりますが、
   実はこの題、別な設定のパラレルを考えていたそれにつけてたものなんです。
   あの『蒼夏の螺旋』よりも前に考えていたのですが、
   今は中途で止まっております。
   結構気に入ってまして、でもなんか時間がかかりそうな筋立てなんですよね。
   そんなこんなしているところへ、今回のリクがありまして。
   こっちのお話も、何だか気に入ってしまったんで、
   お蔵入りになりかけてる、せめてタイトルだけでも使いたくなりましたの。

  *リク下さったかずとさんも、そして読んでくださった皆様も。
   ここまでのお付き合い、どうもありがとうございました。
   シャーマン王というよりヒカ碁というより“うしおととら”ですが。
(笑)
   何だか新しいシリーズを思わせるような構成というか骨組みで。
   今のところは白紙のまんまでございますが、
   まあ、気が向いたらまた何か書くやも知れません。
   その時はどうか宜しくです。ではではvv

  *ところで、いつもおステキなイラストをお送り下さる岸本サマから、
   またまた素晴らしい作品のを頂いてしまいましたvv 観たい方は
こちらvv


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