Moonlight scenery  "Fight!"
 

 
          



 それは、とある日の昼下がり。夏場に乾いているその代わり、冬場から春にかけてに雨天が多いこの辺りだが、ここ数日のずっと続いている麗らかな陽気の下。いつもの顔触れが特に言い合わせることもなく、陽あたりのいいテラスに集まっていての、何ということもない談笑の中でのこと。

  「そういえば、今年はオリンピック・イヤーよね。」

 発端は"今年は閏年だったなぁ"だったのだが、そこから話がいきなり力技でそっちへと持って行かれてしまい。うふふんとどこか意味深に笑った書記官嬢に"それがどうした?"と訊こうとした護衛官殿だったが、
「あ〜〜〜〜っ、そうだった。オリンピックがある年だっ!」
 こんどは王子様が奇声を発した。それも…何故だかわざわざ 緑髪の護衛官殿をビシッと指差して怒鳴ったものだから、

  「何なんだよ、お前ら。」

 とんと話が見えない護衛官殿。名前をロロノア=ゾロという。自毛なら珍しい淡い緑という髪を短く刈った、屈強精悍な警備担当官で、武道と武器のエキスパートにして、この王宮の"翡翠の宮"にて、第二王子であらせられるモンキィ=D=ルフィ殿下をお守り奉りあげている雄々しき武人。いつぞやなどは、10人以上はいた、しかもバリバリに武装していた誘拐団の一味を、丸腰の単身にてオートバイを駆り、あっさりと追い詰めて投降させてしまったという、とんでもない武勇伝もあるほどで。そんな凄腕の護衛官殿を、恐れげもなく指差したまま、

  「武道大会が済むまでは敵なんだからな、ゾロ。覚えとけよっ!」
  「…だから、理由
ワケを話せ、理由を。」

 まったくである。
(笑)





            ◇



 何だかいきなりお話が動き出しておりますが、このシリーズのシチュエーションは…もうそろそろ説明しなくても良いですかね。
(こらこら/笑)地中海に面した温暖な半島を領土とする、小さな小さな王国の王宮に、それは愛らしい王子様がいらっしゃり。とても平和で豊かなお国だから、王子様もいつまでも無邪気でお元気。周囲の方々も…国王から皇太子から、重心の方々、国民の皆からまで、愛称を"太陽の王子"と呼ばれてそれはそれは愛されてすくすくとお育ちになった王子様。でもね、実は…最近ちょっとだけ、その周辺がバタバタしていた。無邪気で愛らしい王子様が、是非にと傍に居てもらっていた素晴らしい腕っ節の護衛官さんが、とある事件の収拾に自分の身を濡れ衣で覆って差し出して、そのまま行方をくらました。後日になって、ルフィ王子を守るためにとかぶった濡れ衣だったという事態の真相が判明して、さあ…それから。側近の皆様が頑張った。ルフィ王子のためにと、行方をくらました仲間を捜し出すのに頑張った。ルフィ王子も頑張った。嫌いなお勉強も苦手なお澄ましを強いられる外交のお仕事も、文句言わずにきっちりとこなして、側近の方々の手を煩わせないようにと一所懸命に打ち込んだ。そうやって立派になられてく王子様のお姿を励みに、所謂"地下組織"とかいう、世間からは知られていない暗部へと、慣れない探査の手を伸ばし、そうしてやっと見つけ出した彼を、首に縄かけて連れ戻したのが…一昨年の暮れも間近い頃のこと。よって、


  「…そうか。ゾロは知らないんだ。」


 生ハムとチーズとレタスを挟んだおやつのベーグルサンドにぱくつきながら、今頃になってようようそれに気づいた王子様。
「ゾロは、前の大会が済んでから兄ちゃんが連れて来たんだものな。」
 この護衛官殿、砂漠の国の傭兵部隊にいた人物であり、ルフィの兄上にして皇太子であらせられるポートガス=D=エース殿下が、目をつけ、口説いて連れて来た御仁。それが、今から4年前の話であり、それからほんの3カ月ほどにてこの王宮から姿を消したものだから。今だに何やかやと、此処なりの行事やしきたりの中に知らないことが多々、なくもない彼であり。

  「此処では4年に一回"王宮武道大会"っていうのがあってな。」

 ややもすれば興奮気味に、手を振り回し、立ち上がってまでしてのルフィ王子の熱血説明を…かい摘まんで要約するとこうなる。

 この王宮には随分と前の代に力自慢の王様がいたらしく、その方が始めたのが王族たちの力比べ。国王やらその子息たちやら、近しい親類の方々やらが、格闘大会で取っ組み合って一等賞を競い合うという単純なもので、優勝した人物は、その年の護衛隊長との決戦をこなして。そこで勝って見せて"はい、おめでとう"どんな強敵が襲い来ても大丈夫だよと結ぶのだとか。それが開催されるのが、オリンピックが催されるのと同じ年なのだそうで、それで"今年だ"と騒いでいるルフィだったのだ。
「なんだ、お祭りごとなのか。」
 真剣勝負や御前試合ではなく、神様に捧げる相撲のようなもの…らしいなと。正体が判ってやれやれと安堵の息をついたゾロだったが、

  「何言ってんだ。
   俺が"ゆーしょー"したら、絶対ゾロを指名するからな。
   だから今から覚悟しとけよ。」

  「…………はい?」






 何だかどうも、話がキチンと通じていない部分があるみたいで。お勉強の時間になったからと、家庭教師の先生と向かい合うルフィがよく見える、少し離れたテラスに出つつも、怪訝そうに眉を寄せているゾロへ、
「そうなの。最後の決戦で戦う相手は、別に護衛隊長でなくても良いのよ。」
 何となく察してだろう、ナミがくつくつと楽しそうに笑いつつも、護衛官殿への尚の説明を買って出てくれた。
「決勝に勝ち残った人はネ、好きな相手を選べるの。それこそ、人気レスラーを王宮まで呼び立てたって構わないのよ?」
 まあ、そこまで大人げない大ふざけなことをした人は、さすがにいないけれどと付け足して、
「ちなみに、此処何回かのいつものセオリーを教えてあげましょうか?」
「セオリー?」
「お祭りごとだからって言っても、お膳立てがあってシャンクス陛下が勝ち残ると思ってたら大間違いよ? エース殿下だって結構本気で立ち向かうから、この二人がぶつかる準決勝は、事実上の決勝戦と見なされてて、テレビでの中継が入るほど。」
「………。」
 やっぱり暢気な王国である。
「待てよ。準決勝はって、誰とどう当たるのかまで最初から決まっているのか?」
「なんとなくね。」
 だから"セオリー"なんじゃない と、ナミは唄うように言って、
「Aブロックは国王を始めとする"本気で戦いますよ"って構えの、腕っ節の強げな人たちのトーナメント。…で、Bブロックの方は、ルフィが体を温めるのにって程度のお相手を連ねたトーナメント。」
「…なんだ、そりゃ。」
 ゾロが怪訝そうなお顔になったのも無理はない。いくら皆様から愛されているルフィ王子だとはいえ、そこまで優遇するのは…却って彼を馬鹿にしていることへ通じないか?と思った護衛官殿だったらしい。
「あら、でも結構強い人たちが集まっててよ。護身術の師範代とかね。ルフィもあれで、体術は得意だし。」
「まあな。」
 時々、遊びの延長で取っ組み合ったりじゃれかかって来たりする王子様の相手になるゾロだから、その辺りは知っている。あの年齢にしては小柄な王子様なので腕力の方は少々覚束無いが、それを補って余りあるほどに、格闘への勘がよく、瞬発力もある。力ではなく関節責めや体のバランスを突くことで、相手をあっけなく叩き伏せる合気道には至極向いている。
「で。決勝戦では、国王様か皇太子殿下が適当にじゃらした後でルフィが優勝するように持ってって。」
「………ちょっと待て。」
 何だか矛盾したものを感じて、解説への一時停止を求めた護衛官殿。
「国王が勝つんじゃねぇのかよ。」
「昔はね。でも、当代ではルフィが勝つの。」
 勝つのって。
(笑) あっけらかんと笑っているナミに歯咬みしつつ、
「それで…最後に護衛隊長とやり合うのか。」
 成程、お祭り仕様の芝居がかった代物って訳かと、全容へ納得がいったものの。
「…けど、指名出来るって…ことは。」
「そうよ?」
 相変わらず、回転が遅いわよねとナミがクスクス笑ったが、ゾロにとってはそれどころじゃない。そこまでの成り行きはこの際どうでもいいこと。問題はその"最終戦"だ。これは困ったことよと、由々しき事態へ眉を寄せるゾロに、
「なによ。負ければ良いだけよ。難しいことじゃないでしょう?」
 それとも、面子が大事だから負けられないとでも言うのと、初めて眉を顰めて見せたナミだったが、
「そうじゃなくて、大勢の面前で俺が顔出せる訳がなかろうよ。」
 そう。この護衛官殿には、とある事情から国際手配がかかったままだ。テレビの中継とやらは国内オンリーのものであろうが、それでも、どこで誰が観るかの限定は出来ない代物。たまたま訪れていた公安関係の人間が観ていたら? 面白い祭りだと、録画されたテープが持ち出されたら? たちまち"国際手配犯を王宮に召し抱えている けしからん国だ"という良からぬ噂が千里を駆けて、外国からの政治介入なんて事態へだって発展しかねないのではなかろうか。切れ者のナミがそれに気づかぬ筈はなかろうに、何を暢気なと憤慨して見せれば、
「何だ、そんなこと。仮面でもお面でも何だって良いから かぶんなさいな。」
「おいおい。」
 そ、そんなあっさりと。
(笑) 覆面の剣士ですかい。何か、それってどっかで使った設定なような気もするんですが…。おいおい
"あら。武器は使わないのよ? あくまでも取っ組み合いの格闘勝負。"
 う〜ん、それにしたって…。
「………。」
 これはなかなか、どうしたもんかなと、いかつい眉の間に深い溝を刻んで、雄々しき護衛官殿、思案に暮れた。


  「とにかく。上手に負けてあげなきゃダメよ?
   ルフィは いかにもな八百長は大嫌いな子なんだからね。」




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  *カウンター 118,000hit リクエスト
    tsukasa様 『Moonlight scenery 設定で、お祭り風味の武道大会』

  *さあさ、一体どんな武道大会になりますことやら。
   続きは…もうちょこっとお待ちをです。