Moonlight scenery  "Fight!" A
 

 
          



 今回の武道大会は、ルフィ王子が17歳になったということもあって、なかなかの見ものとなるだろうという評を集めていた。これまではまだお子様だからと、王子が参加する方のブロックの試合は形式的なものと見なされており、直々のご教授を下さっている様々な武道の師匠のお弟子さんの中から選ばれた人を相手に"型"をご披露し、様々な武術にどれほど鍛練を重ねられたのかを国民の皆様に見ていただく発表の場…のようなものだったのだが、

  『そうさな。今回からは、同じ年頃の子たちをエントリーさせよう。』

 王族の子供たちだけでなく一般からも参加を募り、勿論、わざと負けというのもなし。自信のある者は容赦なく、王子を薙ぎ倒してやっておくれと、寛大な皇太子様が仰せになられた。国王が口を挟むとどうしても…どこかで"ルフィに勝つだとぉ〜?"なんていう、いかにも ややこしい顔つきをしかねないので引っ込んでてもらってのことだったらしいが。
(笑) そしてそして、そんな催しが間近いと判明した時に、

  『武道大会が済むまでは敵なんだからな、ゾロ。覚えとけよっ!』

 あんな言いようをしておきながら、言った当の本人がまずは忘れたのか。
(笑) 日中は相変わらず護衛官殿にゴロゴロvvとまとわりついて、どっちが"傍らに付いている"のだか判らない懐きようを見せている、相変わらずのルフィ王子であり。そんな彼らのすぐ間近にいて、日頃の懐きようを良く良く知っている顔触れにとっても、問題の"最終決戦"が一体どう運ぶのやらという予測はなかなか立てにくくなっていた模様。
「一応の"運び"は説明してあるのよ。だから、ゾロは自分が負けるように持ってく構えではいると思うんだけど。」
「ええ。問題はその"負け方"ですよね。」
 自分たちは完全に"外野"だという安堵感からだろう、同僚の皆様、遠慮のない予想を忌憚なくそれぞれに立てていらっしゃるご様子で、
「奴は根っからの戦闘人間で、しかも傭兵部隊でノウハウを身につけている。故意に負けなきゃならないような、人前での"演技"が要るような戦い方は身につけてはいない筈ですよ。」
「それに、大雑把に見せといて、実は結構…どっかで堅物だかんな。」
 融通が利かないもんな、そうそう、でもそれだとどうやって負けるのかしらね、何となりゃ俺様が自然に気を失う薬を薬師のチョッパーからもらって来て、時限装置つきでマスクに仕込んでやるのによと、なかなか物騒なことまで言って下さる皆様方であり、

  "勝手なことを…。"

 たまたま耳に入った無責任極まりないご意見へ眉を顰めた当のご本人。とはいえ、どうしたものかと考えながらも、これと言った妙案は浮かばず。そうこうするうちにも…問題の武道大会の当日がやって来てしまったのである。







            ◇



 その日は朝早くからお天気にも恵まれて、気温の方も暖かく。王宮内の執務棟や来賓向けの施設のある辺りの奥向きに聳え立つ、なかなか凝った作りの広々とした体育館風の競技場は、日頃は離れた各地にて生活なさっておいでの遠縁の王族の方々やら、気の置けないお友達関係にある海外からの来賓の方々、国内向けのTV中継をする国営放送局のスタッフの人たち、進行役の執務官の方々などなど、結構な数の人たちでもって、高い吹き抜け構造の館内の、一階フロアや二階にあたる部分から張り出した観客席などを、華やかに埋めていた。
「お祭りっぽいものとはいえ、一応は国事だからな。」
 最初と最後に神官様の祝詞や国王様の宣誓のご挨拶がある程度で、そうそうお堅い代物ではないが、それでも国事は国事。競技内容は勿論のこと、態度にも不謹慎なことはご法度だし、審判係を務める国技師範は"神様の代理人"なのでどんなクレームも受けつけない。今日ばかりは国王でさえ彼には逆らえないのだとかで…いえ、ジャッジに関してだけの話ですがね。王族の祖先であられる神々へのご挨拶を兼ねた祝詞が上げられ、さあそれから。早速にもそれぞれのブロックにての戦いが手際よく始められた。国王様と皇太子殿下がその頂上にてぶつかるようにという配置をなされたAブロックは、序盤戦からなかなかの熱戦が続いていて。格闘技の世界では有名な選手たちも数多く参戦しているところといい、もしかしてこれは…例え"お祭りモード"の催しであれルフィ王子にあまりに迫力ある猛者をぶつけないがため、国王と皇太子が頑張った結果がこんな割り振りとなったのではなかろうかと、今になって緑髪の護衛官殿に事の順番を悟らせたほど。

  "いくら国事や神事としての段取りがあるったって…。"

 日頃、観客たちを前にしてのパフォーマンス性の高い格闘を繰り広げているプロの顔触れが、もしも直接 幼い王子と向かい合うこととなったとして。そこで何が起こるか…となると。ご当人でなければ判らない"アドリブ的な要素"を使われる可能性があまりに高すぎる。本人としてはちょっとした茶目っ気から、技をかける振りなんて部類の"おふざけ"をされたなら…おおう、ぶるぶる、何てこったい。ルフィ王子がふにゃんと泣き出したりしたらだなんて、想像するだに恐ろしい。どんなことがあっても王子に触れさせてはなるまいぞと…。
"発端はそんなところなんだろうな。"
 過保護なくらいにルフィ王子を守り奉っている当代の関係者の皆々様としては、そこまで案じてこの催しをセッティングして来たのであろうなという配慮の痕跡みたいなものが、あちこちで顕著に感じられるし、また、そんな采配を敷かれてあることが見え見えであっても。国民の皆様も、そして格闘関係の参加者の方々も、十分に納得して、このお祭りを楽しんで来られたのでもあろう。だからこそ、
"今日ばかりは、主軸の観光事業の方をお休みにしてまでというノリに、なってもいるのだろうしな。"
 なんと税関業務さえお休みなので、今日ばかりは…飛行機や船、列車の交通機関もその海外との往来が、実質上差し止められているほどだとか。規模こそ"身内のみ"というささやかなものらしいけれど、背景というか運営にはそんな大それたものまで繰り出されている武道大会は、さて。大人の部と子供の部というきっちりと傾向の分かれた感の強いそれぞれのトーナメントが、それでも着々と消化されてゆき。片やでは…まだまだ元気なシャンクス国王が、空手の達人を組み手で鮮やかに"タタミ敷き"のマットへと叩き伏せれば、棒術を使う同い年くらいの男の子を、こちらもまるで舞いのように鮮やかに棒を駆使して叩き伏せたルフィ王子。会場内は勿論のこと、各家庭のテレビの前でも、観客たちが大いに沸いた。
「おおう。今年からはルフィ王子の戦いの方も、なかなか本格的なものとなっているのだな。」
「そりゃあお前、王子も17歳になっておいでだ。一端
いっぱしの鍛練もなさっていようよ。」
「皇太子殿下などは、もっとお小さい頃に、国王様を初めて負かして沸いたものだったじゃないですか。」
「いやいや、エース殿下は特別なお方だからねぇ。海外へ出れば必ず、何かしらの免許を皆伝なされてお帰りなほどだ。」
「ああ、そうだね。それもあったね。」
 四年毎のものとは思えないほどにお詳しい、このお祭りへの"通"の方々もいらっしゃるようで。…やっぱ平和だわ、この国。
(笑) 型通りの段取りになっている段階に至るまでは、大人たちの部もそして子供たちの部の方も、なかなか目を離せない、好カードの試合が次々に消化されてゆき、そして…とうとう、

  「赤コーナーっ、シャンクス国王陛下っっ!」

 キックボクシングの元世界チャンピオンを、余裕の剛腕一閃の"瞬殺"で伸した国王様と、

  「青コーナーっ、ポートガス=D=エース皇太子殿下っっ!」

 ムエタイの師範を薙ぎ倒して勝ち上がって来た皇太子殿下との"準決勝"にまで、大人たちの部の対決は進んでいた。

  「悪いが今年の決勝戦は いただくからな。」
  「無理をなさっちゃあいけませんよ、父上。」

 なにを言うか、この小生意気な坊主が、年寄りの冷や水だって心配して言ってんですよ、などなどと。まずは…双方ともに不敵な笑みを口許に張り付けての威嚇を見せる。何しろ、この試合での勝者が、あの可愛いルフィとの決勝戦に進める訳で。形式的な事として"あれあれ、参ったぁ"と最後には負けることになってはいるが、それでもね。きっと一生懸命に向かって来るのだろう可愛らしい坊やの奮戦ぶりを、そのまま肌身で感じることが出来るのだ。それに、
『も〜〜〜、またわざと負けただろー。いけないんだぞー。』
 試合の後で、ぷんぷくりんと拗ねて"ぽかぽかぽかっ"と小さな拳で叩いて来る愛らしさや、
『罰として明日、おやつを一緒に食べないと許してやんねぇ。』
 そんな可愛らしいことを"命令"して来る坊やであるのへお付き合いせねばならず…って、もしもし?
(笑) 秒刻みという勢いにての政務に追われて忙しい彼らだが、これらには"国事の延長"として付き合う義務が認められるため、そんな格別な"優遇"を得られるまたとない機会なのだからと、結構真剣になってしまいもする…困った王族首長の方々で。

  「いくぞっ!」
  「おうさっ!」

 十分な火花の散らし合いから始まった父子対決は、白熱したままになんと30分近い熱戦となり、あわや"ドクターストップ"の水入りとなりかかったものの、国王様のギャラクティカマグナムが鮮やかに決まって(なんなんだ、そりゃ)死闘の幕は下ろされた。



  ………で。肝心な決勝戦は、あまりに酷い疲弊が見受けられるということで、今度こその"ドクターストップ"がかかり、前代未聞の"不戦勝"ということで、Bブロックを順当に勝ち上がって来たルフィ王子が優勝という結果にて幕を下ろしたのであった。

  「もうもうもうっ! 父ちゃんもエースもだらしないぞっ!
   罰として、明日は一緒におやつだかんな。説教してやるから忘れんなよ?」

   お後がよろしいようで………。
(笑)







←BACKTOPNEXT→***