そういや子供の日でもあるのでと、
   ウチのサイトの“子ゾロルもの”を集めてみました。


      大川の向こう  〜Web拍手7話目


    小さな町の小さな学校。
    校庭や正門に植えられた桜は、とうに葉桜になり始めていて、
    次はというと、昇降口までの斜面
    (なぞえ)に居並ぶ、
    白や赤紫のツツジが順々にほころび始める頃合いだろか。
    ちょっぴりぐずついた天気が続いたものの、
    今日はやっとの晴れ間になって、
    連休はどうするなんてな話題が弾む。
    そういう時間帯なのか、
    ランドセルより肩下げ型やスポーツバッグを提げた、
    ちょっぴり大きいお兄さんお姉さんたちが連れ立ってやって来る小道の傍に、
    ちんまい男の子が一人、ちょこりと立っており。
    Tシャツとその上へ重ね着た、
    まだそんなにも洗いざらされてはない木綿のパーカーはどちらも大きめで。
    この春に買ったばかりの新しいものらしく。
    逆に履き慣らしていてお気に入りらしい半ズボンからは、
    ひょろりとしたあんよが伸びており、
    お膝がかろうじて判るほど寸が足りないバランスなところが、
    西洋のビスクとかいうお人形さんのよう。
    真っ黒な髪はまとまりが悪そうながら、ふわふかと柔らかそうでもあって。
    黒みが強くて潤みがかった大きな眸が いかにもあどけなく、
    まだ幼稚園生くらいだろうか、あまりに幼いものの、
    迷子ではないのか、不安そうにおどおどとはしておらず。
    むしろ 誰か待ってでもいるものか、
    時折つま先立ちまでしては通りの向こうを眺めやっているのが、
    何とも かあいらしい。
    待ち人はなかなか来ないのか、時々羽二重餅みたいな頬を膨らますと、
    小さいあんよに履いた、仮面ライダーのプリントがされた運動靴の先っぽを、
    傍らの縁石にこつこつとぶつけたりして、
    不貞腐れておりますという仕草を見せるのさえ、何とも言えず愛らしく。
    ここが都会であったなら、危ないから誰かついててやれと、
    ご町内の大人が見るに見かねてハラハラしてしまうところだが、

     「あら、ルフィちゃんじゃないか。」
     「どした? お使いか?」

    通りすがりのおばさんたちが気さくにお声をかけてくださる。
    ご町内やご近所界隈の子供の顔は全部知っているのが常識という、
    昔はそれで当たり前だった気風がまだ何とか残っている町であるらしく、
    それでなくとも愛らしい坊やだから、それで有名でもあるらしいのだが、

     「一人で川越えして来るなんて、ガッコでいけないって言われてないかい?」

    ちょっぴりお叱りめいたお言葉が降って来たのへは、

     「…おねいちゃんと来た。」

    禁止されてるいけないことだってのは判ってるけど、
    でも決まりを破ってはいないもの、と。
    一丁前にもそんな屁理屈を持ち出しかかり、そしてそして、

     「…っ!」

    やっとのこと、お目当てが来たのだろう。
    おばさんたちには目もくれず、
    あっと言う間にそちらへ向かって駆け出す近眼さが何ともお子様らしくって。
    これと叱るより、そんな坊やの駆けてく先へ、
    ああ成程という苦笑が洩れたお母さんたちだったのは、
    それへ合点が行くところまで知れ渡ってる、
    彼の“相棒”の姿がやって来たからに他ならない。

     「ぞろっ!」
     「………ルフィ?」

    いが栗頭…とまではいかないが、随分と短く刈られた髪形の、
    こちらさんはずんと背丈もある上級生が、
    お友達だろうか、同じくらいの年頃の男の子とやって来ており、
    「どした、お前。」

      「ゾロのひきょーもんっ!」

    彼にしてみても意外なところで出会った相手だったから、
    何事だと訊きかけたその声を遮って、
    坊やの金切り声が周囲に鳴り響く。

     「ひきょーもん?」
     「おお、ひきょーもんだっ。」

    罵倒句を口にしていながら大威張りで胸を張る坊やだが、
    それに対して…向かい合う男の子もまた、
    腐された割には、言われのないことをと焦るでなし怒るでなし。
    飄然としているところが、何とも大物然として見えて。

     「もしかしてお前、トロくね?」

    こんなおチビさんに怒鳴られてもその反応ってナニと、
    連れの子が呆れたのへは…がつっと裏拳をお鼻へお見舞いした素早さが、
    そうではないことを鮮やかに物語っており、

     「〜〜〜〜〜ってぇーーーーっっ!」

    痛い痛いと呻いているのをも意に介さず、
    ご当人はその、
    むんと胸張って仁王立ちしているおチビさんの方へと向かい合う。

     「で? ひきょーもんってのは何でなんだ?」

    いきなり“何いちゃもんつけてやがるっ”という種類のお怒りが沸かなかったのは、
    坊やのお言いようの意味が判らなかったからでもあって。
    これで結構、あれで良く通じてるわねぇと坊やの家族からまで感心されるほど、
    言葉要らずな二人だったが、
    さすがに…半日以上会わない間合いが挟まったその上で、
    いきなり“ひきょーもんっ”と来られても。
    心当たりがないから尚のこと、何が何やら判らないというところ。
    お膝に手を置き、んん?と真っ正面からお顔を覗き込んできたお兄ちゃんへ、

     「う〜〜。///////

    坊やが大きなドングリ眸をますます潤ませたのは、
    自分の言葉足らずが悔しかったか、それとも…

     「ばかゾロっ!」

    わぁんっと泣き出しながら、それでも小さなお手々を伸ばして来、
    相手だってさほど頼もしい体格ではないその首っ玉へ、
    えーいと飛びついたのは、あのね?

      ―― ホントの気持ちが、正直なところが、
          押さえ切れなくて出ちゃったってところかと。

    「だってさ、だってさ、
     オレやっと しょーがっこに上がったのによ。
     ゾロはガッコにいねぇんじゃんかよ。」
    「ああ、それか。」
    「どして5年になったらちがうガッコなんだ?」
    「さあな、どしてだろうな。」

    二人が住んでる小さな村は、広い広い川の向こう。
    小学校もあるにはあるけど分校で、
    しかも年々生徒数が減って来たものだから、
    数年ほど前からのこと、
    五年生になったら隣町の本校へ通うようにという決まりが出来た。
    毎朝通勤客に混じって渡し舟に乗って隣の町へ、
    時間にすればほんの数分だが、
    間に横たわる大きな川は、船に乗らなきゃ渡れぬ絶対の障壁で。
    しかも小さな子供は大人と一緒じゃなきゃ乗ってはいけないのが、これも決まり。

      せっかくサ、
      朝からはガッコに行ってるゾロと
      やっといっぱい いっしょにいれるよになったって思ったのによ。
      オレも一年せーになったぞって、
      ビックリさせよーと思ってナイショにしてたのによ。

      そか、内緒にしてたんか。

    そんなくらいは五年生には判ろうものだろに、
    小さな坊やなり、頑張ってサプライズにしようって企んでたらしいのが、
    幼い思いつきだからこそ、何とも言えず かあいらしくて。
    それへと、

     「ビックリしたか?」
     「…ああ、びっくりしたさ。」

    しがみつかせたまんまの小さなまんまる頭を、
    こちらさんは…竹刀を握り続けているそのせいで、
    早くも少ぉし骨張って来た気配のある手で、わしわし撫でてやり、
    そんな風に応じてやるところが何とも大人じゃああないですか。
    途端に坊やのお顔が ぱぁっとほころび、

     「そか。ならいいvv」

    喜色満面、音がしそうなほどの笑みに満たされる。

     ―― さあ、帰ろうか。
         おお。あ、あの人いいのか?
         あ? ああ、ウソップ、また明日な。
         お〜…。

    お手々つないで桟橋まで、そりゃあ仲良く歩き出す二人連れを、
    誰がどうやったら止められましょうや。
    夕焼けこやけにはまだちょっと時間があるので、
    お家にカバンを置いて来たら遊ぼうね?
    大きな川の瀬の音にも負けず、
    坊やの声が弾んだ昼下がりのひとこまでした。




      〜Fine〜 08.4.19.


      ● まだまだあるぞの 子ゾロル作品 ●

       サ〜クラ咲いたら一年生♪・サ〜クラ咲いたら一年生♪
       
      平成のジュリエット・平成のジュリエット
       世界が君の名を呼ぶ朝までは・世界が君の名を呼ぶ朝までは
       
      もう幾つ寝ると?・もう幾つ寝ると?
       

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