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「………あっ。」
降りそそがれる口づけが、甘く匂いたつ柔らかな肌を埋めつくし、か細い睦声が上がるごと、撓やかな体が朱に染まってゆく。がっちりと逞しい身体の下に組み敷かれた、いたいけない肢体。薄闇の中、白く浮かぶ肌とその輪郭が何とも脆そうで愛惜しい。焦らすように少しずつ与えられる熱き官能に追い上げられて、耐え切れぬ身じろぎに合わせてシーツが擦れ、髪の先がぱさんとシーツを叩く。
「んや…、や…ぁ……あっ、あ。」
すがるように伸ばされて来た小さな手をそっと掴み取り、身を起こして見下ろしたお顔が、熱を帯びて何とも頼りない。そんな小さな愛しい人に微笑いかけ、
「…んう。」
深く唇を重ね合いつつ、あらためて覆いかぶさってゆく。どこも余さず手に入れたい。声や温み、甘い匂いに柔らかなしぐさ、視線の先までも、だ。
"…ルフィ。"
妙に照れて何も手につかないらしい少年を軽々と抱えて寝室まで連れ込み、恥じらいから深く俯いた顔を覗き込んで、頬にまぶたにとやわらかなキスを。くすぐったがって上がったお顔へ、雨のように触れるだけのキスを降りそそいで。
『や、…んん、なぁ、ぞろ…って。あ…、』
ついばむようなキスの雨に、少しずつ緊張がほぐれてゆく。小さくくすくすと笑いながら、小さな身体の強ばりもなめらかに蕩けてゆき、やがては安んじてその身をゆだねて来た。シャツやジーンズを剥ぎ取る手間に、呼吸を合わせて身を浮かすまでの仕草を見せるほどともなれば、そこに彼の側からの"求め"を感じも出来るというもので。
「…ん、ぅン、ン…っ。」
こうして身体を重ねるようになって、まだ1年にもならないし、最後まで至るようになってからも半年にもならない初心者同士。その拙さが恐る恐るという接し方となり、柄にないほどおいおい 優しく、壊れもの相手のように"そぉっ"と触れていたゾロだったのだが、それを受け止めるルフィの側からすれば。最初こそそれだけでドキドキしていたものが、今では焦らすような…そうやって苛めるようなくすぐったさへと感じているらしくて。
「…っん。や…ん。」
感じやすい箇所のすぐ傍らを掠めるような手指の動きには、わざとに焦らされているとでも思うのか、抗議の気配を含んだような切なげな眸を上げて来る。だからといって大胆にも"もっと"とも言えない、それだと はしたないかなと感じてしまう、微妙な過渡期。一方で、
「…どした?」
ゾロの側とて、余裕がある訳では決してない。薄く灯したサイドライトのぼんやりした明るさの中に、潤みを帯びて見開かれる…ルフィからのそんな風な眼差しが、どれほど蠱惑に満ちたものであることか。そのままのめり込み、荒々しく食いつきたくなる獣性を何とか宥めつつ、そうまで余裕のない自分を悟られまいと、敏感な胸元の小さな突起へゆるりとばかり、手のひら全部を使って撫で上げてやれば、
「あっ、ん…や…。」
頬をシーツに擦りつけた少年の、小さな顎の先が淫蕩にわななく。それを追うように顔を寄せて、か細いおとがいの線から首条、鎖骨の辺りまでを唇の先でくすぐれば、
「…ぞろ。」
滑舌の曖昧な声で呟きながら、力ない腕を伸ばして来て。小さな手でこちらの肩から背へと精一杯にしがみついてくる愛しい人。彼の側からも"欲しい"のだと。求めているのだと、そう言いたいことを偲ばせるほどに懸命で。合わせた視線に物言いたげな揺らめきが浮かぶ。独占を示すように腕をぎゅうっと回したくとも、相手は屈強で大きくて。頼もしいまでに広い胸元が、大好きだけれど…焦れったい。
「…全部。」
「んん?」
「全部…ちょうだい。」
舌っ足らずな甘い声が、こちらの意識を搦め捕る。
「ぞろ、ぜんぶ…。」
「…ああ。全部やるさ。」
愛らしい"求め"が嬉しくて堪らない。代わりのようにこちらから、小さな愛しい身体を全部、くるみ込むように抱きすくめて。うっすらと滲んできた汗に甘く匂い立つ柔らかな肌を、その温みと熱さをこちらの全身で感じ取る。切ないくらいに愛しくて、手を離せば別々な身体であることが狂おしくなるほど、いくらでも欲してやまない、小さな…されど大きな存在。
「…ルフィ。」
熱を孕んで存在を主張し始めている雄芯へと手を回す。指をからめて動かすと、
「あっ、ああっ…。」
短く切れ切れに声を上げ、悩ましげに首を振る。胸元の肌にやさしく触れてくれる唇からの刺激とは、まるきり違う直接的な官能へ、逃げたいのか…それにしては甘い睦声を上げて。かすかに身をよじって見せる媚態が幼(いと)けなくて。
「…ぅん…、あ…っ。ああっ。」
武骨な親指の腹でもって、先の最も敏感な部分を捏ねるように弄られると。悲鳴にも似た声を上げ、細い眉をきつく寄せる。
「あ…く、んん…っ。」
堪らないほどの快楽のうねりと、だが、大好きな人の前で淫蕩に乱れることへの羞恥とに苛(さいな)まれ、辛そうな声を上げるルフィであり、
「ひ…ゃ、あン…んっ。」
そんな様子がますますと男の嗜虐心を煽るのだとは知る由もなく、あふれ出した先走りに濡れて、あからさまな水音がし出すのへ、
「…や。」
ますますきつく眉を寄せつつも、恥ずかしそうに頬を染め、口許へと手を上げる。声を押さえようと指や甲を咬む癖がある彼で、
「こら。」
すかさずのように大きな手に捕まえられた。
「や…ぁ。」
「やじゃないだろ。跡が残るほど咬むくせに。」
耳元に低く甘く響く男の声。それだけで"ふるる…"と身が震える。いつの間に、こんなに感じやすくなったのだろうか。
"…昼間は…平気、なのに…な…。"
ふざけてじゃれついて、暖かい懐ろに頬をうずめて。そのまますやすやと安んじて眠れるほどなのに。今の今はそんなことを同じ相手に出来る筈がないほど、ちょっと肌が擦れることへ、ちょっと吐息が髪にかかることへ、過敏に反応して追い上げられてしまう自分がいる。
「あ、アゥ…んんっ、や…。」
段々と、痛いほど張り詰めて来た雄芯。いつまでも撫でるばかりで、決定的なものは与えてくれない大きな手へ、知らず自分の手を伸ばしていて、
「?」
判っていて白々しくも物問いたげな顔をするゾロへ、
「ん、なあ…。」
切羽詰まった甘え声をみぃみぃと投げかける。今にも泣き出しそうなお顔で見上げられると、もうちょっと…と思っていたものがあっさり挫けるから、まあそこはまだ初心者なればこそ。
「………あっ。」
くいと。一番の先端をやや強く擦り上げると、一瞬強ばった身体がしゃにむにしがみついてきて。それから"ふわり"とほどけて萎え始める。
「ん、んん、…んぅ…。」
やさしい温み。頼もしい腕や胸。包み込んでくれるそれらを確認出来るまで意識が戻ってくると、お顔を上げて、
「…ん、なぁ。」
今度はまた別な声音で囁くルフィである。その、濡れた声音にぞくっとしつつ、
"余裕あるじゃねぇか、こいつはよ。"
こんな風に少しずつ。可憐なばかりでもなくなってゆくのだろうか。だとするなら少し惜しいかなと、頭のどこかでそんなことを思いつつ。実はこちらも切羽詰まって来つつある想いを遂げようと、その掌に受け止めた彼の熱を、奥まった秘裂へ塗りつけてやるゾロである。
こちらもまだまだ…夜ごとに手のかかるほど頑なな蜜口を、少しずつ、他の肌への愛撫も取り混ぜてほぐしてやると、このごろでは縁先に擦れて抜き差しされる指の感触だけでも感じるようになったらしい。
「あ…や…ゥ。」
甘い息を弾ませて、覆いかぶさった胸板へおでこをすりすりと擦り寄せてくる。身体を割り入らせることで大きく開かれた脚の、小さな膝頭が時折"くっ"と、震えとも強ばりとも釈とれるような反射的な動きでこちらの胴を締めつけるのは、
「ん、んぅ…ん…。」
もう何度か勃ち上がっては快楽の蜜をあふれさせている雄芯が、またぞろ感じ始めたせいだろう。
「元気だな。」
「ん、馬鹿。/////」
からかうような言い方に、泣きそうな声で反駁する。だが、
「…あ…やん…。」
すぐにこ込み上げてくる悦楽に飲み込まれ、訳が判らなくなるらしい。
「ん…ん、ふ…あ、ああっ。」
甘く濡れそぼった声が高まって。いつしか淫らな水音を立て始めている蜜口へ、熱いものが当てがわれた。
「あっ、ああっ! ひぃ…ァう…っ。」
捩じ込まれる最初。雁口が収まり切るまでの一瞬がどうしてもきつい。だがその後は、
「あ…はぁ…あ、ああ…。」
ずるずると狭い腔道を広げながら押し入ってくる強引な感触が、今では堪らなく気持ちいい。熱くて大きな存在感。それが秘筒の壁を擦ってゆく刺激。最奥へと打ちつけられる力強さ。そのどれもが、肌が血が泡立つほどの快感になっている自分。
「…あう、は、あ…。」
何をされてもゾロしか感じない。気持ちいいって、身体中が言ってる。勝手に喘ぎ声があふれ出る。腰が揺らめく。なのに、腕や足、体中の力が入らない。ぎゅうってしたいのに。抱きついて一緒に、もっと一つになりたいのに。
「うっく…ひく…。」
それが焦れったくて、泣きそうになってたら、ゾロの腕が背中に回ってて、思ってたそのまま、きゅうって抱き締めてくれた。ゆさゆさと揺さぶられ、段々と燃え立ちそうになる体と意識と。もうもう何にも判らない。目の前が、頭の中が真っ白になって、
「っあ…ああっ!」
下腹に、身体の奥に。熱い迸りを感じながら、意識が飛び立つ。どこにも行くなと、力強い腕に抱き締められながら。それでも気が遠くなって、後のことは覚えていないルフィだった。
「…ゾロ。」
「んん?」
「一昨日サ、俺が飛び出してってサ。理由もあんなことでサ。」
「うん。」
「………少しは怒ったか?」
「いや。」
「ホント?」
「ただな、気が狂うかと思ったぞ。」
「? …え?」
「もう二度と会えないのかなって。
そう考えたらな、居ても立ってもいられなくなった。」
「そんな筈ないじゃん。大好きだもの。」
「俺もだよ。もう離さんからな。」
「うんっ。」
〜Fine〜 02.11.1.〜11.6.
*お待たせしました。(ぜいぜい/笑)
これで一通り書き上げましたよん♪
夏の間、間が空いた分を取り戻すみたいに、
ちょっと続いた"これ"ですが、
相変わらずに色っぽさがないのが悔しいです。
*ところで結局、
ナミさんへの"事後報告"はしたのだろうか、ロロノアさん。
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